ミツバチを使わないハチミツづくり 米国発の植物性ハチミツ「メロディ」

ミツバチを使わないハチミツづくり

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世界的に減少が指摘されるミツバチを守るため、ミツバチの負担をかけずにつくる「植物性ハチミツ」がある。米フードテックのメリバイオは、植物科学と発酵技術で従来のハチミツの味を再現し、欧米市場に展開。2025年にはスイスの企業に買収され、さらなる展開が期待されている。

岡島真琴|Makoto Okajima

編集者・キュレーター

ドイツ在住。フリーランスの編集者・キュレーター。変わりゆく都市ライプツィヒとそこに生きる人々の物語を記録するニュースレター「KOKO」(https://koko-de.beehiiv.c…

2025.09.08

ミツバチを使わない「本物のハチミツ」への挑戦

カリフォルニア発のフードテック企業メリバイオ(MeliBio)は、植物由来のハチミツ「メロディ(Mellody)」を開発した企業として注目を集めてきた。

同社は、2020年にセルビア出身でハチミツ業界で経験を積んだダルコ・マンディッチと、科学者で料理愛好家のアーロン・シャラー博士によって設立。独自の精密発酵と植物科学を融合させた技術により、従来のハチミツと分子レベルで同一の「植物性ハチミツ」をつくることに成功した。

同様にハチミツを使わずにつくるヴィーガンハチミツがあるが、それらはリンゴやレモン、エルダーフラワー、キャロブ(マメ科のイナゴマメ)などを使う。それに対し、「メロディ」は果糖とブドウ糖をベースに、クローバー、ジャスミン、カモミールなどの植物エキスやグルコン酸、天然香料を組み合わせることで、ハチミツの風味を再現。

業界関係者によるブラインド・テイスティングでも従来のハチミツと区別がつかないほど再現性が高く、ニューヨークの三つ星レストラン「Eleven Madison Park」での採用を皮切りに、レストランや小売市場に展開を広げていった。

ミツバチと生態系を守るために

世界のハチミツ産業は100億ドル規模に達する一方、複雑で不安定なサプライチェーン、生産量の減少、価格の変動、品質問題など多くの課題を抱えている。さらに気候変動の影響により、2万匹以上の野生・在来種の減少を引き起こし、生物多様性を脅かしていると言われる。

メリバイオは「ミツバチを守るためにミツバチを使わない」という逆説的なアプローチをとることで、米国とヨーロッパにおける商業ハチミツ生産の食料安全保障やサプライチェーンの課題に対応してきた。

2022年4月からは、生産拡大と新規顧客の受け入れを開始し、現在では世界400以上の市場で展開。食品・飲料・化粧品など幅広い分野での利用と、ヴィーガンや環境意識の高い消費者層に応えることを目指している。

共同創業者のマンディッチは「メリバイオは、サプライチェーンに安定性をもたらし、企業がよりシンプルに、かつ持続可能でおいしいハチミツを調達できるようにします。私たちのクライアントとともに、人間にもミツバチにもよりよい未来のハチミツをつくっていきます」と語る。

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ミツバチを使わないハチミツづくり

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メリバイオのハチミツは、世界の革新的な発明品を選出する「TIME誌 ベスト・インベンション」に、2021年に選ばれ、米国内で着実に販路を広げてきた。すでに、カリフォルニアやシアトルなどのレストラン、小売店で購入できる。

さらにスロベニアのNarayan Foodsとの4年間の提携を通じて、ヨーロッパでも展開。イギリスでは最終的に7万5000店舗での流通を目指すという。

こうした拡大の一方で、メリバイオもフードテックとクライメートテックの厳しい投資環境に直面。そして2025年5月、同社はスイスのFoodYoung Labsに買収されることが発表された。今回の買収には第1世代の技術および関連する知的財産(IP)が含まれ、第2世代の精密発酵技術は対象外とされている。

FoodYoung Labsは菓子、ベーカリー、スナック、バー製品などの分野で事業を展開するイノベーションハブであり、今回の買収によりメリバイオの技術を活かした新たな食品開発が進む見込みだ。

FoodYoung Labsの創業者でCEOのラフマニは「スイスのフルスタック型イノベーションラボと米国の商業ネットワークを組み合わせることで、メリバイオの“ミツバチフリー・イノベーション”を次の段階に引き上げます」と述べ、今後の展開に期待を寄せている。

※掲載している情報は、2025年9月8日時点のものです。

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