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オーストラリア政府は、国土の多くが水没すると言われているツバルの国民を対象に、世界で初めてとなる「気候ビザ」を導入。ツバル国民は、この移住支援制度により、オーストラリアでの就労や教育の権利が正式に認められる。
Ouchi_Seiko
ライター
フランス在住。美容職を経て2019年よりライターに。居住地フランスのサステナブルな暮らしを手本に、地球と人にやさしい読みものを発信。
南太平洋に位置するツバルは、サンゴ礁でできた9つの島からなる、人口約11,000人の小さな国だ。しかし、2050年には国土の多くが海面上昇によって水没する可能性がNASAによって指摘されており、現在では、すでに2つの島が沈みかけている。加えて、台風の激しさが増しているほか、サンゴの白化、飲料水への塩水混入といった、気候変動のさまざまな影響も受けている。
このような現実を踏まえ、ツバルとオーストラリアの間で歴史的な移住制度が始動した。両国が2023年に署名した「ファレピリ連合条約(Falepili Union)」により、希望するツバル国民には、オーストラリア政府から気候ビザが発給されるのだ。ビザを取得すれば、移住後に現地での生活と就労の権利が与えられるほか、教育や医療の支援を受けられる。
このビザは、気候変動を正式な移住理由として認めた世界初の制度だ。「逃避」ではなく「尊厳のある移住制度」として、国際的にも注目を集めている。ビザの取得は年間280人までで、抽選により発給される。
2025年6月下旬に第一弾となる申請の受付を開始。ツバルの住民のおよそ3分の1以上にあたる4,000人以上が応募したことが報じられている。
ファレピリ連合条約の「ファレピリ」とは、ツバル語で「隣人」を意味する。
この条約は単なる移住支援にとどまっておらず、自分たちのコミュニティや文化を失う危険にさらされているツバルの人々の「できる限り自国で暮らしたい」という思いに配慮。ツバル国民の適応支援や、文化・アイデンティティの継承もサポートする。
COP27に参加したツバルの若者代表、カリタ・“ティティ”・ホマシ氏は、「この制度は、ツバルの人々がこれまで手にできなかった機会とつながる“かけ橋”になると思う」と語っている。
そんなツバルの経済は、世界でも最小規模だ。2023年のGDPは約6,300万ドルにとどまり、国内の雇用機会も限られている。
だが、今後ツバルの人々には、海外で働いて得た収入を送金というかたちで母国に還元する、新たな道が開かれる。太平洋地域では、送金がGDPの15〜40%を占める国も少なくない。ツバルにとっては、こうした流れがふるさとの経済の新しい循環を生む可能性がある。
ツバルとオーストラリア間で定められた気候ビザは、これまでに例のない制度だ。現地の生活や文化を主体に考える従来のビザ制度の方針とは異なり、移り住んだ人々と現地の人々がともに生きることを目指している。
こうしたオーストラリアの支援は、安全で尊厳ある移動を実現するだけでなく、気候変動による移住の新しい枠組みを示した。将来的には、同じ気候変動リスクを抱える他国にも広がっていく可能性がある。二国間の取り組みは、国際社会における協力モデルの先駆けとなるのではないだろうか。
ただその影には、気候変動によって自国を失うというツバルの悲しい現実があることも忘れてはいけない。
※参考
A solidarity success and a climate failure: Thousands of Tuvaluans seek new visa to Australia|euro news
ツバル|外務省
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