香港のトップシェフ9人が考案「食品ロスを減らすレシピ本」 アジアの食品廃棄解消に向けて

まな板と野菜

Photo by Justus Menke on Unsplash

香港大学は、NGO「GREEN Hospitality」と食品ロス削減アプリ「Chomp」とのパートナーシップを通じて、食品ロスを減らすレシピ本を出版。9人のトップシェフと学生が考案したレシピで、家庭から持続可能な食の未来を目指す。

Naoko Tsutsumi

エディター/ライター

兵庫県出身。情報誌、カルチャー誌、機内誌など幅広いジャンルの媒体の編集に携わる。コロナ禍にシンガポールへ移住。「住む」と「旅」の視点の違いに興味を持ち、地域の文化の違いを楽しんでいる。

2025.07.09

“捨てられるもの”がおいしく化ける?

食品ロスを減らす香港発のレシピ本『Conscious Cooking –Asian Delights』には、レストランや家庭で廃棄されがちな食材──たとえばキュウリやレモン、ジャガイモ、玉ねぎといった野菜の皮、熟れすぎたプチトマト、冷やご飯や食べきれなかったパスタなどを、おいしく、しかも栄養価の高い料理に生まれ変わらせるレシピが紹介されている。

この本は、香港大学(HKU)生物科学部と、香港におけるホスピタリティ業界のサステナビリティを支援するNGO「GREEN Hospitality」、そして地元の食品ロス削減アプリ「Chomp」が推進するプロジェクトとして制作された。

これは、香港で食品ロスへの意識を高めるために2022年から始まった「Food Waste to Good Taste」プロジェクトの一環。セミナーや学生向けの教育活動から始まったこのプロジェクトは、その後、食品・飲料業界関係者向けの実践的なワークショップへと発展していった。

Food Waste to Good Taste 2025 - Something’s Cooking!

香港大学の学生が“生ごみ”に隠れた栄養を発見

レシピ本の主役は一般的な家庭から出る生ごみ。そんな斬新なアイデアが生まれるきっかけは、香港大学生物科学部の学生たちの消費者視点の小さな疑問だったという。

世界では全食品のおよそ3分の1が廃棄されていて、そこで排出される温室効果ガスは全排出量の最大10%を占める(航空産業のおよそ5倍に相当)といわれている。なかでもアジア圏の食品ロスは世界全体の約半数を占めるほど深刻で、香港だけでも毎日約3,400トン以上の食品が埋め立てられているといわれる。

香港市の人口は約750万人、毎日1人あたり平均2.85kgの食料を食べているため、食品ロスの量はおよそ120万人分の食料に相当。この地域で貧困に苦しむ大多数の人たちを養うほどの量の食品が廃棄されていることになる。

しかも、その大部分は家庭から出ている——。ならば、もし一般的な生ごみが健康的で価値のあるものに生まれ変わるとしたらどうなるだろう。そんな問いかけを発端に、学生たちは科学的なアプローチで、家庭からよく廃棄される9種類の生ごみを特定。

それらの生ごみに、腸の健康をサポートし炎症を抑える可能性のある栄養素を発見した。その後、食品ロス削減への情熱を持つ9人の著名な地元のシェフの手によって、“捨てられるもの”はアジア料理の伝統的な食材と置き換えられ、栄養価の高いおいしい料理に生まれ変わることとなったのだ。

家庭で捨てられる生ごみは実は栄養価が高く、それらをおいしい料理に変えるこのレシピ本は、まさに「Food Waste to Good Taste(食品ロスをおいしい料理へ)」のプロジェクトのネーミングを体現している。

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家庭からつくる持続可能な食の未来

このレシピ本の利益はすべて、低所得者や社会的弱者の飢餓撲滅と、香港のホスピタリティ業界における食品廃棄物の削減を支援する地元の慈善団体、フードリンク・ファウンデーションに寄付される。

プロジェクトを率いる香港大学生物科学部のJetty Chung-Yung LEE准教授は、「このレシピ本は、食品廃棄物に対する私たちの見方を見直し、他の人がごみだと思うところに価値観の転換を見出し、そのなかにある“おいしさ”を味わうよう促すもの」だと話している。

十分な食事を得られない人々が数多くいる一方で、先進国を中心に、大量に出ている食品ロス。その大部分は家庭から生まれており、一人ひとりの食品ロスへの認識を高めることが求められている。日本と同じくアジアの食文化圏のトップシェフ考案のレシピを参考にするもよし、とくに食品が傷みやすい梅雨時、買いすぎないようにするもよし。小さなアクションが世界の食品ロス解決の大きな一歩になるに違いない。

※掲載している情報は、2025年7月9日時点のものです。

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