Photo by reynardo etenia on Unsplash
2023年の国内平均出生率は6.0であり、合計特殊出生率(女性1人が一生のうちに産むであろう子どもの数を予測した数値)は1.20で、過去最低を更新した。この記事では、日本の出生率低下の原因と出生率が低いことで起こる影響について解説する。
ELEMINIST Editor
エレミニスト編集部
日本をはじめ、世界中から厳選された最新のサステナブルな情報をエレミニスト独自の目線からお届けします。エシカル&ミニマルな暮らしと消費、サステナブルな生き方をガイドします。
豊かな生き方を「学び」、地域で「体験する」 旅アカデミー ローカル副業入門【座学プログラム編】
Photo by manuel schinner
「出生率(しゅっしょうりつ)」とひとえにいっても、「出生率」と「合計特殊出生率」の2種類があるのをご存知だろうか。
まず「出生率」とは、一定期間の出生数の人口に対する割合のことだ。基本的にパーミル(‰)で表示され、人口1,000人当たりの1年間の出生児数の割合を指している。日本の場合は、毎年10月1日時点の日本人人口が基準だ。
次に「合計特殊出生率」とは、15〜49歳までの女性の年齢別出生率を合計したものだ。これは一生涯で1人の女性が産むであろう子どもの数を推測した指標であり、合計特殊出生率は人口動態の出生傾向をみる際の主要な指標として使用される。(※1、※2)
Photo by tanaphong toochinda
厚生労働省が発表している「令和5年(2023) 人口動態統計月報年計(概数)の概況」によると、日本の平均出生率(人口千対)は6.0であり、合計特殊出生率は1.20であった。この数値は前年の1.26よりさらに低下している。
また、CIAが発行する「世界合計特殊出生率ランキング」によると、日本は合計特殊出生率において227カ国中212位にランクインしており、決して高いとはいえない順位となっている。
一方、合計特殊出生率1位のニジェールは6.64であり、日本よりも約5倍近く多い。さらに1〜10位の国(地域)をすべてアフリカ地域が占めていることからも、国や地域の社会情勢が出生率に大きく関わっていると考えられる。(※3、※4)
第1次ベビーブーム(1947〜1949年)は、終戦により男性が戦争を終え帰国した戦後のときであり、合計特殊出生率が4.3であった。次の第2次ベビーブーム (1971〜1974年)は、経済状況や雇用情勢の好転により、合計特殊出生率は2.1台を推移していた。
この流れで第3次ベビーブームの訪れも予想されたが、1990年代前半にバブル経済の崩壊が起きる。これがきっかけで非正規労働者が急増し、経済不況の影響も受けベビーブームの到来はなかった。その後も出生率は低下し続け、2023年の合計特殊出生率は1.20と過去最低水準を更新した。(※3、※5、※6)
Photo by gustavo cultivo
ここでは、都道府県別の合計特殊出生率ランキング(2023年)を紹介する。(※7)
順位 | 都道府県 | 合計特殊出生率 |
---|---|---|
1 | 沖縄県 | 1.6 |
2 | 宮崎県 | 1.49 |
3 | 長崎県 | 1.49 |
4 | 鹿児島県 | 1.48 |
5 | 熊本県 | 1.47 |
6 | 佐賀県 | 1.46 |
7 | 島根県 | 1.46 |
8 | 福井県 | 1.46 |
9 | 鳥取県 | 1.44 |
10 | 香川県 | 1.4 |
11 | 山口県 | 1.4 |
12 | 大分県 | 1.39 |
13 | 滋賀県 | 1.38 |
14 | 徳島県 | 1.36 |
15 | 富山県 | 1.35 |
16 | 長野県 | 1.34 |
17 | 石川県 | 1.34 |
18 | 広島県 | 1.33 |
19 | 和歌山県 | 1.33 |
20 | 岡山県 | 1.32 |
21 | 山梨県 | 1.32 |
22 | 愛媛県 | 1.31 |
23 | 岐阜県 | 1.31 |
24 | 高知県 | 1.3 |
25 | 兵庫県 | 1.29 |
26 | 三重県 | 1.29 |
27 | 愛知県 | 1.29 |
28 | 福岡県 | 1.26 |
29 | 静岡県 | 1.25 |
30 | 群馬県 | 1.25 |
31 | 新潟県 | 1.23 |
32 | 青森県 | 1.23 |
33 | 茨城県 | 1.22 |
34 | 山形県 | 1.22 |
35 | 奈良県 | 1.21 |
36 | 福島県 | 1.21 |
37 | 大阪府 | 1.19 |
38 | 栃木県 | 1.19 |
39 | 岩手県 | 1.16 |
40 | 千葉県 | 1.14 |
41 | 埼玉県 | 1.14 |
42 | 神奈川県 | 1.13 |
43 | 京都府 | 1.11 |
44 | 秋田県 | 1.1 |
45 | 宮城県 | 1.07 |
46 | 北海道 | 1.06 |
47 | 東京都 | 0.99 |
各都道府県の傾向や特徴をみると、1位の沖縄は1.6であるのに対し、もっとも低い東京は0.99とひらきがあるのがわかる。上位には九州地方や中国地方が多く、下位には北海道や東北地方、関東地方の割合が多い傾向にある。このことから、温暖・寒冷といった地域の差も関係してくるといえそうだ。
もちろん、気候・気温だけが原因とはいいがたい。たとえば出生率が全国で2番目に低い北海道は非正規雇用者が多く、経済面に対しての不安が大きい。子育てにはお金がかかるため、経済・収入面の不安は出生率にも少なからず影響してくるといえるだろう。(※4、※6、※7、※8)
Photo by dai ke GkraTrCYA
日本の出生率低下の要因として「経済的要因(子育てコストの高さ)」や「社会的要因(働き方やライフスタイルの変化)」などが挙げられる。
日本は1991年〜2022年にかけて先進国のなかで唯一賃金が上がっておらず、30年近く経済不況が続いている。そのうえ物価や税金は上がる一方のため、一昔前のように男性の稼ぎだけで家族を養っていくのは難しく、女性も長時間労働することで育児に時間を割けなくなっている。また育児の負担が女性に偏っていることや、子育てにお金(コスト)がかかることなども少子化に拍車をかけている。
女性の社会進出が進んだことで、望む仕事を続けるためには独身でいた方が都合がいいと考える女性も少なくない。最近は結婚に対するこだわりが薄くなり、都市部を中心に結婚しない・急がない選択をする人が増えた。お見合いが減少している一方で、さまざまなサービス・利便性の向上により、独身を楽しむ人が増えてきているのだ。(※9、※10、※11)
Photo by piron guillaume
ここでは、出生率が低下することによる影響について解説する。
出生率が低下し少子高齢化が進めば、いまの現役世代やこれからの若者たちの社会保険料や年金負担は多くなる一方だ。1950年には65歳以上の高齢者1人を支える現役世代の人数は12.1人であったが、2020年には2.1人にまで減っており、事態は深刻だ。今後も少子高齢化が進めば、2065年ごろには65歳以上の高齢者1人を支える現役世代の人数は1.3人にまで減少すると予想されている。(※6、※12)
高齢化が進む日本では福祉や医療の需要増加は増え続ける一方だが、少子化で労働人口は不足しており、人材不足が深刻な問題となっている。福祉の面においても、介護職は賃金の低さや体力面の負担が大きいことから人材を確保しにくくなっている。
医療従事者の人材不足も深刻だ。厚生労働省が報告した「看護師等(看護職員)の確保を巡る状況」によると、医療従事者のなかでもとくに看護職員が不足しており、政府はさまざまな対策を行い確保を進めている。これにより、1990年には83.4万人だった看護職員就業者数は、2020年には173.4万人にまで増加した。
しかし看護職員が増えてもそれを上回る需要により供給が追いついておらず、結果として一人当たりの業務負担が増えてしまっているのが現状だ。これにより、病棟に勤務する看護職員の34.3%は1ヶ月の夜勤時間数が72時間以上となっており、夜勤負担の影響は大きい。今後もこのような業務量や夜勤負担が軽減されなければ、ますます医療や福祉の労働力は不足していくだろう。(※6、※13)
人口が減少すれば国内の需要も下がるため、産業やサービスが維持できず、経済規模もおのずと縮小方向に向かう。これにより企業は発展が見込めない国内事業への資金援助や投資を控え、従業員の雇用も減少していくだろう。また人手不足により長時間労働が慢性化し、ワーク・ライフ・バランスが乱れ、家族の時間がつくれず、さらに少子化が進む悪循環へとつながるおそれがある。(※14)
Photo by aditya romansa
2023年の出生数は約75万人で過去最少を更新し、8年連続で減少し続けている。また、結婚件数も前年を50万組近く下回っていることから、今後も出生率低下は続くだろう。この事態に政府は子育ての経済的支援として「児童手当の抜本的拡充」や「出産等の経済的負担の軽減」などを講じているが、結果は見てのとおりだ。
しかし、最近では出生率が平均を上回った自治体を参考にするケースも増えてきている。たとえば人口およそ4万3000の静岡県長泉町では子育て支援に力を入れており、合計特殊出生率は2017年までの5年間で1.80と全国平均より高い水準を維持するのに成功している。
この地域はもともと工業地帯で子育て世帯も多かったが、財政的な余裕があるうちに未来の人口減少に備えて子育て支援政策をベースにまちづくりを進めてきたことが功を奏した。このように成功した自治体の例ををうまく取り入れていくことも、少子化対策のヒントにつながるだろう。(※15、※16、※17)
Photo by picsea
日本の出生率は過去最低を更新し、少子高齢化は深刻化し続けている。しかしこれは子どもを産み育てる現役世代のみならず、私たち国民一人ひとりの責任でもある。現役世代が子どもを産み育てたいと思えるような政策・環境を整え、私たち一人ひとりが子どもたちを「国の宝」として見守っていく必要があるのだ。育休制度や育児手当、福祉の充実などをより強化し、出生率が平均を上回った自治体を参考にすることで、日本の未来を明るくしていけるだろう。
※1 6 用語の解説|厚生労働省
※2 【合計特殊出生率とは】|茨城県
※3 令和5年(2023) 人口動態統計月報年計(概数)の概況|厚生労働省
※4 国別比較合計特殊出生率|CIA(.gov)
※5 個人の希望を実現できる社会が少子化の流れを変える!|みずほリサーチ&テクノロジーズ
※6 【2023年最新】日本の出生率 これまでの推移と今後への影響・対策は?|ELEMINIST
※7 データセット一覧(都道府県別にみた年次別合計特殊出生率の2023年のデータを参照)|e-stat
※8 北海道の出生率1.06、全国2番目の低さ|日本経済新聞
※9 日本共産党の経済再生プラン 30年におよぶ経済停滞・暮らしの困難を打開するために――三つの改革で暮らしに希望を|日本共産党
※10 合計特殊出生率2023 低い理由は?少子化と男性の長時間労働 日本 韓国 欧米諸国では|NHK
※11 少子化に関する基本的考え方について-人口減少社会、未来への責任と選択-人口問題審議会(平成9年10月)|厚生労働省
※12 第1章 高齢化の状況(第1節1)|内閣府
※13 看護師等(看護職員)の確保を巡る状況|厚生労働省
※14 日本における少子高齢化の原因と問題点とは?社会的な影響や今後の対策について解説します|三菱東京UFJ銀行
※15 こども・子育て政策|岸田内閣主要政策|内閣府
※16 去年の出生数75万人余で過去最少を更新 「今後さらに減少か」|NHK
※17 出生数や出生率の 向上に関する事例集|地方創生推進事務局
ELEMINIST Recommends