過去最低を更新した日本の出生率とは? 世界との比較や低迷する理由や影響も

笑顔の赤ちゃん

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2023年の国内平均出生率は6.0であり、合計特殊出生率(女性1人が一生のうちに産むであろう子どもの数を予測した数値)は1.20で、過去最低を更新した。この記事では、日本の出生率低下の原因と出生率が低いことで起こる影響について解説する。

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2025.01.11
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出生率・合計特殊出生率とは

赤ちゃんの足と人の手

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「出生率(しゅっしょうりつ)」とひとえにいっても、「出生率」と「合計特殊出生率」の2種類があるのをご存知だろうか。

まず「出生率」とは、一定期間の出生数の人口に対する割合のことだ。基本的にパーミル(‰)で表示され、人口1,000人当たりの1年間の出生児数の割合を指している。日本の場合は、毎年10月1日時点の日本人人口が基準だ。

次に「合計特殊出生率」とは、15〜49歳までの女性の年齢別出生率を合計したものだ。これは一生涯で1人の女性が産むであろう子どもの数を推測した指標であり、合計特殊出生率は人口動態の出生傾向をみる際の主要な指標として使用される。(※1、※2)

日本の平均出生率は6.0(人口千対)

赤ちゃんとお母さん

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厚生労働省が発表している「令和5年(2023) 人口動態統計月報年計(概数)の概況」によると、日本の平均出生率(人口千対)は6.0であり、合計特殊出生率は1.20であった。この数値は前年の1.26よりさらに低下している。

また、CIAが発行する「世界合計特殊出生率ランキング」によると、日本は合計特殊出生率において227カ国中212位にランクインしており、決して高いとはいえない順位となっている。

一方、合計特殊出生率1位のニジェールは6.64であり、日本よりも約5倍近く多い。さらに1〜10位の国(地域)をすべてアフリカ地域が占めていることからも、国や地域の社会情勢が出生率に大きく関わっていると考えられる。(※3、※4)

これまでの日本の出生率の推移と理由

第1次ベビーブーム(1947〜1949年)は、終戦により男性が戦争を終え帰国した戦後のときであり、合計特殊出生率が4.3であった。次の第2次ベビーブーム (1971〜1974年)は、経済状況や雇用情勢の好転により、合計特殊出生率は2.1台を推移していた。

この流れで第3次ベビーブームの訪れも予想されたが、1990年代前半にバブル経済の崩壊が起きる。これがきっかけで非正規労働者が急増し、経済不況の影響も受けベビーブームの到来はなかった。その後も出生率は低下し続け、2023年の合計特殊出生率は1.20と過去最低水準を更新した。(※3、※5、※6)

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都道府県別 合計特殊出生率ランキング

赤ちゃん

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ここでは、都道府県別の合計特殊出生率ランキング(2023年)を紹介する。(※7)

順位都道府県合計特殊出生率
沖縄県1.6
宮崎県1.49
長崎県1.49
鹿児島県1.48
熊本県1.47
佐賀県1.46
島根県1.46
福井県1.46
鳥取県1.44
10香川県1.4
11山口県1.4
12大分県1.39
13滋賀県1.38
14徳島県1.36
15富山県1.35
16長野県1.34
17石川県1.34
18広島県1.33
19和歌山県1.33
20岡山県1.32
21山梨県1.32
22愛媛県1.31
23岐阜県1.31
24高知県1.3
25兵庫県1.29
26三重県1.29
27愛知県1.29
28福岡県1.26
29静岡県1.25
30群馬県1.25
31新潟県1.23
32青森県1.23
33茨城県1.22
34山形県1.22
35奈良県1.21
36福島県1.21
37大阪府1.19
38栃木県1.19
39岩手県1.16
40千葉県1.14
41埼玉県1.14
42神奈川県1.13
43京都府1.11
44秋田県1.1
45宮城県1.07
46北海道1.06
47東京都0.99

各都道府県の傾向や特徴をみると、1位の沖縄は1.6であるのに対し、もっとも低い東京は0.99とひらきがあるのがわかる。上位には九州地方や中国地方が多く、下位には北海道や東北地方、関東地方の割合が多い傾向にある。このことから、温暖・寒冷といった地域の差も関係してくるといえそうだ。

もちろん、気候・気温だけが原因とはいいがたい。たとえば出生率が全国で2番目に低い北海道は非正規雇用者が多く、経済面に対しての不安が大きい。子育てにはお金がかかるため、経済・収入面の不安は出生率にも少なからず影響してくるといえるだろう。(※4、※6、※7、※8)

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日本の出生率低下の要因とは

パソコンを見る女性

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日本の出生率低下の要因として「経済的要因(子育てコストの高さ)」や「社会的要因(働き方やライフスタイルの変化)」などが挙げられる。

日本は1991年〜2022年にかけて先進国のなかで唯一賃金が上がっておらず、30年近く経済不況が続いている。そのうえ物価や税金は上がる一方のため、一昔前のように男性の稼ぎだけで家族を養っていくのは難しく、女性も長時間労働することで育児に時間を割けなくなっている。また育児の負担が女性に偏っていることや、子育てにお金(コスト)がかかることなども少子化に拍車をかけている。

女性の社会進出が進んだことで、望む仕事を続けるためには独身でいた方が都合がいいと考える女性も少なくない。最近は結婚に対するこだわりが薄くなり、都市部を中心に結婚しない・急がない選択をする人が増えた。お見合いが減少している一方で、さまざまなサービス・利便性の向上により、独身を楽しむ人が増えてきているのだ。(※9、※10、※11)

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出生率が低下することによる影響

オペ室

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ここでは、出生率が低下することによる影響について解説する。

社会保障制度の負担の増加

出生率が低下し少子高齢化が進めば、いまの現役世代やこれからの若者たちの社会保険料や年金負担は多くなる一方だ。1950年には65歳以上の高齢者1人を支える現役世代の人数は12.1人であったが、2020年には2.1人にまで減っており、事態は深刻だ。今後も少子高齢化が進めば、2065年ごろには65歳以上の高齢者1人を支える現役世代の人数は1.3人にまで減少すると予想されている。(※6、※12)

医療・福祉の労働力不足

高齢化が進む日本では福祉や医療の需要増加は増え続ける一方だが、少子化で労働人口は不足しており、人材不足が深刻な問題となっている。福祉の面においても、介護職は賃金の低さや体力面の負担が大きいことから人材を確保しにくくなっている。

医療従事者の人材不足も深刻だ。厚生労働省が報告した「看護師等(看護職員)の確保を巡る状況」によると、医療従事者のなかでもとくに看護職員が不足しており、政府はさまざまな対策を行い確保を進めている。これにより、1990年には83.4万人だった看護職員就業者数は、2020年には173.4万人にまで増加した。

しかし看護職員が増えてもそれを上回る需要により供給が追いついておらず、結果として一人当たりの業務負担が増えてしまっているのが現状だ。これにより、病棟に勤務する看護職員の34.3%は1ヶ月の夜勤時間数が72時間以上となっており、夜勤負担の影響は大きい。今後もこのような業務量や夜勤負担が軽減されなければ、ますます医療や福祉の労働力は不足していくだろう。(※6、※13)

経済規模の縮小による国力低下

人口が減少すれば国内の需要も下がるため、産業やサービスが維持できず、経済規模もおのずと縮小方向に向かう。これにより企業は発展が見込めない国内事業への資金援助や投資を控え、従業員の雇用も減少していくだろう。また人手不足により長時間労働が慢性化し、ワーク・ライフ・バランスが乱れ、家族の時間がつくれず、さらに少子化が進む悪循環へとつながるおそれがある。(※14)

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日本の出生率低下における今後の予測と対策

赤ちゃんの手

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2023年の出生数は約75万人で過去最少を更新し、8年連続で減少し続けている。また、結婚件数も前年を50万組近く下回っていることから、今後も出生率低下は続くだろう。この事態に政府は子育ての経済的支援として「児童手当の抜本的拡充」や「出産等の経済的負担の軽減」などを講じているが、結果は見てのとおりだ。

しかし、最近では出生率が平均を上回った自治体を参考にするケースも増えてきている。たとえば人口およそ4万3000の静岡県長泉町では子育て支援に力を入れており、合計特殊出生率は2017年までの5年間で1.80と全国平均より高い水準を維持するのに成功している。

この地域はもともと工業地帯で子育て世帯も多かったが、財政的な余裕があるうちに未来の人口減少に備えて子育て支援政策をベースにまちづくりを進めてきたことが功を奏した。このように成功した自治体の例ををうまく取り入れていくことも、少子化対策のヒントにつながるだろう。(※15、※16、※17)

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日本の出生率を上げるために私たちができること

絵本を読むお父さんと赤ちゃん

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日本の出生率は過去最低を更新し、少子高齢化は深刻化し続けている。しかしこれは子どもを産み育てる現役世代のみならず、私たち国民一人ひとりの責任でもある。現役世代が子どもを産み育てたいと思えるような政策・環境を整え、私たち一人ひとりが子どもたちを「国の宝」として見守っていく必要があるのだ。育休制度や育児手当、福祉の充実などをより強化し、出生率が平均を上回った自治体を参考にすることで、日本の未来を明るくしていけるだろう。

※掲載している情報は、2025年1月11日時点のものです。

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