2040年問題は、日本にとって深刻な問題だ。少子高齢化が進むことで労働力不足や経済成長の鈍化を引き起こし、社会保障制度の逼迫をもたらす。政府や企業は2040年問題に向けてどのような対策を講じているのか。また、私たちには何ができるのだろうか。
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2040年問題とは、1970年代前半生まれの「団塊ジュニア」世代が65歳以上の高齢者となることによって引き起こされる、日本のさまざまな社会問題のこと。
2040年問題への対応は、現役世代減少と高齢者増加に備えた就労環境の整備、健康寿命の延伸、医療・福祉サービスの改革、社会保障の持続可能性確保など多岐にわたる。
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2040年問題が起こる背景には、団塊ジュニア世代の高齢化や労働人口の減少、出生率の低さなどがある。日本人口は2020年時点で1億2,615万人だったが、2040年には1億1,284万人まで落ち込むとされている。団塊ジュニアが65歳になる2040年には、65歳以上が全人口の35%を占める予想だ。さらに、2070年には9,000万人を割り込み、高齢化率は39%前後になると推測されている。(※1)
また出生率は8年連続で低下しており、2023年度の出生数は72万7277人で、前年の77万759人より4万3482人減少した。(※2)2024年には70万人を下回るとのデータも発表されている。世界的にも少子高齢化は問題視されているが、日本はとくに深刻な国のひとつといわれている。
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日本には、2040年問題以外にも2025年問題や2030年問題などの社会課題が存在する。その他の○○年問題と2040年問題の違いを見ていこう。
2025年には「団塊の世代」全員が75歳以上の後期高齢者になり、日本は超高齢社会に突入する。これによって医療介護費などの社会保障費の増加や介護分野における労働人材の不足などの問題が顕在化するのが2025年問題だ。
2025年問題は超高齢化社会によって発生するさまざまな問題が顕在化する、その序章ともいえる。
2030年問題は2025年問題の延長線上にあり、顕在化した問題がさらに深刻化する。2030年には国内人口の約3割が65歳以上になると予想されている。
2030年問題でとくに問題視されるのが生産年齢人口(15歳以上65歳未満)の減少だ。パーソル総合研究所の調査によると、2030年の労働需要が7,073万人であるのに対し、供給される労働人口は6,429万人と、644万人もの人材不足が発生する見通しだ。
2035年問題では、2025年問題から10年が経ち、さらに深刻化した諸問題に直面する。団塊の世代が85歳以上になり、段階ジュニア世代も65歳になりはじめ、全人口の3人に1人が高齢者となる。
2035年には85歳以上の高齢者が1000万人を超すとされ、介護医療費の逼迫や医療制度の崩壊などが懸念されている。(※3)
2040年問題は、2025年以降年々進む高齢化と人口減少の問題に、さらに団塊ジュニア世代が高齢者となり、高齢者人口がピークに達することで起きる。社会保証費の負担増や経済活動の鈍化が日本社会を直撃することに加え、高度経済成長期以降に整備されたインフラや公共施設がこぞって老朽化する問題も立ちはだかる。社会機能を維持していくためには、それらの修繕や再構築が必要となり、さらに費用負担が増えるとされている。
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先に述べたように、2040年に向けてさまざまな問題が深刻化していく。では具体的に社会へどのような影響をもたらすのだろうか。
2030年までに現役世代(20〜64歳)が約1,400万人減少し、2040年には現役世代が人口の半分に減少すると予測されている。(※4)少子化に伴い、生産性や労働市場の活性化に影響がおよぶことが予想される。
2040年問題では、団塊ジュニア世代が高齢者となり高齢化率が高まるため、社会保障制度が逼迫する。そのため医療・介護制度の維持が困難になり、資金や人材不足が深刻化する。これにより国や地方自治体は財政的な圧力に直面し、適切な医療・介護サービスの提供が困難になる恐れがある。
少子化による人口減少は、地方の地域経済や社会インフラに打撃を与える恐れがある。資金や人材が不足することで持続不可能な状況に陥ると、消滅の危機に直面する自治体も出てくるだろう。これにより地域社会の維持やサービスの提供が困難になり、そこに住む住民の生活にも影響をおよぼす。
2040年問題では、高齢化社会で需要が高まると予想される医療施設や介護施設、交通機関などの公共インフラが老朽化し、需要に対応できなくなる恐れがある。労働人口減少による税収減や経済活動の鈍化により、主要な施設や設備の改修や更新が追いつかず、サービスの質や安全性が低下する恐れがある。また社会の機能性や生活の質が低下し、経済や生活に深刻な影響を及ぼすことが懸念される。
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2040年問題に向け、国や企業はどのような対策を講じているのだろうか。
日本政府は、国民が個々の事情に応じた柔軟な働き方を選択できる社会を目指す「働き方改革」を推進している。残業時間上限の規制や勤務間インターバル制度導入の推奨、働き方改革推進支援助成金の給付、副業の推奨などがある。働き方改革の推進により、労働力不足が緩和され、2040年問題に対応できる持続可能な社会の実現が期待される。
経済産業省は、2025年までの間に既存システムを刷新しつつ、DXにより2030年実質GDPの130兆円超の押上げを実現させようとしている。(※5)
DXを推進するために、DX推進システムガイドラインや見える化指標の策定などさまざまな対策を講じてきた。また、技術の向上によりICTを活用する企業や自治体も増えている。DX推進とAI技術、ICTの活用は、労働力不足や高齢化による2040年問題を緩和し、持続可能な社会を実現するだろう。
日本政府は、男女共同参画社会基本法により女性が活躍しやすい環境を整えたり、高齢者再雇用給付金制度などにより高齢者の雇用継続を促進したりしている。女性や高齢者の潜在労働力を活用することで、少子高齢化に伴う労働力不足を補い、社会保障制度の持続性が向上する。
日本の医療・介護体制は、国民皆保険と介護保険制度の下で整備された。しかし高齢化に伴い疾病構造や医療・介護ニーズが変化し、提供体制の環境も大きく変わっている。
日本政府は地域医療介護総合確保基金などを通じ、医療・介護システムの見直しをサポートしている。医療・介護システムを見直すことで、高齢化社会における医療費の増加や介護労働力の不足を緩和し、持続可能性を高める。
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2040年問題がもたらす影響は深刻だ。社会保障制度の崩壊や公的サービスを受けられなくなることは、私たち個人にとっても大問題である。2040年問題に向けて、ひとりひとりがいまからできることをいくつか挙げてみよう。
健康寿命とは、健康で自立した生活が送れる期間のことである。健康寿命を延ばすためには、日々の運動習慣の確立、バランスの取れた食生活、定期的な健康チェックが欠かせない。また禁煙や過度な飲酒の回避、ストレス管理も重要だ。健康寿命を延ばすことで医療や介護に対する負担を軽減し、持続可能な社会を実現できる。
2040年問題に向けて、時代にマッチしたスキルの向上とキャリア形成が欠かせない。寿命が延び、長くなる老後生活においては、働くという選択肢も増えていくだろう。高齢化社会においては労働力の減少が予想されるため、高齢者の労働力にも期待される。各自が多様なスキルを習得し、キャリアを柔軟に形成することが求められる。
また終身学習の姿勢を持ち、変化する社会に適応する能力を高めることも重要である。スキルアップとキャリア形成により個々人の労働市場での競争力が向上し、経済の持続可能性を支えられる。
2040年問題に向けて、私たちは収入源を見直し、資産形成について考えなければならない。高齢化社会では年金制度の負担増加や支給開始の後ろ倒しなどが予想されるため、多様な収入源を持つことが重要である。副業や投資、不動産収入などを通じて収入を多角化し、リスク分散を図ってほしい。
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医療技術の進歩や衛生管理などにより平均寿命は延びる一方、出生数は年々減少し、人口問題は深刻化の一途を辿っている。これから待ち受ける日本の社会問題について、ひとりひとりの力でできることは限られている。しかしながら、日本に住んでいるからには、問題について知っておくことも大切だ。そして、各々ができる範囲で対策しておくことで将来の自分や家族を守ることにつながる。
※1 日本の人口の推移|厚生労働省
※2 令和5年(2023)人口動態統計月報年計(概数)の概況|厚生労働省
※3 図表2-1-3 85歳以上の人口の推移|厚生労働省
※4 令和4年版厚生労働白書-社会保障を支える人材の確保-(本文)|厚生労働省
※5 DXレポート~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~(サマリー)|経済産業省
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