就職氷河期が生まれた原因とは? 社会にもたらした影響や支援策も紹介

Difficulty finding employment

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「就職氷河期」とは、バブル崩壊の影響によりほかの年代にくらべて新卒採用が厳しかった時期である。この就職氷河期が生まれた原因や背景、社会にもたらした影響はどのようなものだろうか。また政府やNPO団体、企業などが行っている支援策についても紹介する。

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2025.01.29
SOCIETY
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就職氷河期とは

job hunting

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就職氷河期とは、バブル崩壊後の、新規の学卒採用が他の年代とくらべてとくに厳しかった時期のこと。具体的な時期は1993〜2004年ごろで、景気の冷え込みが長く続いたことを「氷河」にたとえている。(※1)

就職氷河期世代とは

就職氷河期世代とはバブル崩壊後の、新規の学卒採用が他の年代とくらべてとくに厳しかった時期に就職活動を行った世代のこと。具体的には昭和50年(1975年)〜昭和59年(1984年)ごろに生まれた世代が「就職氷河期コア世代」と呼ばれている。(※2)

就職氷河期が生まれた原因と社会的背景

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就職氷河期が生まれた原因と社会的背景は、おもに次のような要因が重なったことによるものと考えられている。

バブル経済崩壊による企業の業績悪化

1980年代後半のバブル経済期には土地や株式価格が急騰し、企業は積極的に採用を行っていた。しかし、1990年代初頭にバブルが崩壊。すると経済成長が鈍化し、企業の業績が悪化していき、その結果多くの企業が新卒採用を大幅に抑制した。(※3)

人件費削減を目的とした新卒採用の縮小

バブル崩壊後の「失われた10年」と呼ばれる長期不況のなかで、日本経済は慢性的なデフレに苦しむことになった。この期間には企業のコスト削減圧力が強まり、それは人件費にもおよび新規採用はますます控えられる傾向にあった。(※4)

終身雇用と年功序列の影響

日本企業の多くは、終身雇用、年功序列という日本型雇用で、年齢や勤続年数に応じて賃金を決めていた。1990年代初頭のバブル崩壊後、企業の業績は悪化した。しかし終身雇用や年功序列といった日本型雇用システムを重んじる企業は、既存社員の雇用を守るために新卒の採用人数を調整した。

雇用の非正規化

不況に対応するため、多くの企業がコスト削減策として非正規雇用を増やしていった。非正規雇用が増えることで、氷河期世代はますます正規雇用の機会を得るのが難しくなった。(※4)

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就職氷河期世代が抱える主な課題

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就職氷河期世代が直面している主な問題点を解説する。

非正規雇用や低賃金の問題

就職氷河期に正規雇用の機会を逃した多くの人々は、非正規雇用として働くこととなった。非正規雇用は賃金が低く、雇用の安定性に欠けており、生活基盤を築くのが困難だ。(※5)

キャリア形成の遅れ

若年期に十分な経験を積めなかったことにより、スキル不足や実績不足が生じ、キャリアアップが難しいのも問題のひとつだ。このため、正社員への転換や昇進の機会を得にくい状況が続いてしまう。(※6)

結婚や子育てへの影響

低収入や雇用の不安定さにより、結婚や子育てを躊躇する人も。これが少子化の一因ともなっている。また既婚者でも、経済的な負担から家庭生活が圧迫されるケースがある。(※2)

経済的困難

非正規雇用や低賃金労働の影響で、住宅ローンの取得や老後資金の確保が難しくなり、貧困に直面するリスクが高まる。とくに中年期に差しかかった現在、老後の生活への不安が深刻化してしまう。(※7)

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就職氷河期が社会にもたらした影響

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就職氷河期が日本の経済や社会に与えた影響を解説する。

労働力不足と経済成長への影響

就職氷河期世代は非正規雇用に留まる人が多くいたため、社会全体として効率的に労働力が活用されていない。また安定した収入を得られない人が多くなると、所得が低く消費活動が抑制されることにつながる。これが国内需要の低迷を招き、経済成長を鈍化させる一因となる。

格差の拡大と貧困問題

正規雇用と非正規雇用の格差が拡大し、安定した職を得られない人々の貧困問題も生まれた。また氷河期世代の多くが正規雇用に就けなかったことで、キャリア形成が遅れて貯蓄が十分にできない人が増加。その結果、老後の生活資金不足や高齢者貧困の問題が深刻化する懸念がある。(※8)

高齢化社会における年金・福祉の課題

就職氷河期世代のなかには、収入が低かったり非正規雇用者であったりする人が多く、厚生年金や社会保険料の支払いが少ない。よって、もらえる年金も少なくなる。こうしたことは社会保障制度への財源が不足する一因ともなる。将来的には少子高齢化と相まって、社会保障の持続性に影響を及ぼすことが懸念される。

また就職氷河期世代で非正規雇用者や不安定就業者の場合は、親の介護が必要となった際に介護休暇が取得しづらく、労働時間を削って介護をしなければならなくなる。そうすれば、介護と自分自身の生活の両立が難しくなるのも課題だ。(※7)

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就職氷河期世代のための支援策

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ここでは、政府や企業が行っている就職氷河期世代向けの支援策を紹介する。

政府の「就職氷河期世代支援プログラム」

政府は、2019年に閣議決定した「経済財政運営と改革の基本方針2019」において「就職氷河期世代支援プログラム」を取りまとめ、3年間の集中的な支援に取り組むと発表した。このプログラムでは、就職氷河期世代の正規雇用者を30万人増やすことを目標に掲げていた。しかし2020年に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響により、施策の効果が思うようにはみられず、令和4年度までの期間を「第一ステージ」、令和5年度からの2年間を「第二ステージ」と位置づけ、さらなる支援に取り組んでいる。

就職氷河期世代支援プログラムの具体的な施策には、次のようなものがある。
・プラットフォームを核とした新たな連携の推進(全国プラットフォームの開催、都道府県・市区町村プラットフォームを活用した支援、地域における取り組みへの支援)
・相談、教育訓練から就職、定着まで切れ目ない支援(ハローワークに専門窓口を設置、リカレント教育など)
・個人の状況に合わせた、ていねいな寄り添い支援(アウトリーチ、ひきこもり支援など)
・地方における雇用機会の創出を促す施策 など(※9)

再就職支援セミナーや職業訓練

各都道府県労働局やハローワークでは、就職氷河期世代に向けた就職支援セミナーを行っている。これらのセミナーでは、求職活動対策講座や面接対策のポイント、合同企業説明会などを開催している。(※10)

また希望する仕事に就職できるよう、その仕事で必要な職業スキルや知識などを無料で習得できる「ハロートレーニング」という公的制度もある。(※11)

正規雇用促進のための助成金制度

政府は、就職氷河期世代の活躍支援のために事業者へさまざまな助成金制度を行っている。たとえば常用雇用への移行のきっかけとなることを目的に、ハローワークなどの紹介により一定期間試行雇用した場合の「トライアル雇用助成金」、就職氷河期世代で正社員経験のない方や少ない方を正社員で雇い定着につなげた場合の「特定求職者雇用開発助成金」、企業内の非正規雇用労働者を正規雇用労働者等に転換等させた場合の「キャリアアップ助成金」などがある。(※12)

地域コミュニティによる支援活動

地方自治体による、就職氷河期世代の支援活動もある。地域就職氷河期世代支援加速化交付金交付対象事業が行っている支援には、就職氷河期世代デジタル人材育成事業、おためし企業体験事業、県外キャリア人材確保応援事業、ひきこもり対策推進事業などがある。(※13)

就労支援NPOの事例

「福岡若者サポートステーション」では、福岡県、福岡労働局、関係行政機関、 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構、福岡県内の経済団体、労働団体、支援団体などで「ふくおかプラットフォーム」という就職氷河期世代活躍支援を設置。相談支援や社会人インターンシップ、関係機関のアウトリーチ型支援などを実施している。(※14)

立川市就職氷河期世代就労支援事業「シャフト・プログラム」

「シャフト・プログラム」は立川市就職氷河期世代就労支援事業で、およそ30代半ば~50代前半の方のための「働く」と「働き続ける」を実現するプログラムである。このプログラムでは専門資格や経験豊かなスタッフが話を聞き、就職活動に関わること、悩んでいることが少しでも前進するようサポートする。(※15)

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現代社会における就職氷河期世代の立場

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現在40〜50代となった就職氷河期世代は、正規雇用・非正規雇用・無業や失業を繰り返して働いているケースが見られる。そのためキャリアが揺れ動き、給与が上がっていかないことが特徴的だ。また自身の健康や親の介護への不安、家族形成や住まいといった問題も抱えている。(※16)

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いまだに解決していない就職氷河期問題

就職氷河期の世代は、いまだに個々の努力だけでは克服できない社会的・経済的な構造的問題に直面している。この就職氷河期問題が解決に至っていないことで、日本経済や少子化にも影響を及ぼしているといえる。政府による、より効果的な支援策が必要である。

※掲載している情報は、2025年1月29日時点のものです。

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