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近年、日本でも注目を集めるようになった「つながらない権利」。これはどのような権利なのだろうか?日本や世界各国の現状、導入している企業を紹介する。
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「つながらない権利」とは、労働者が勤務時間外に、仕事上のメールや電話などへの対応を拒否できる権利のことを指す。
フランスでは、情報通信技術の急速な発達により、プライベートの侵害や精神的・肉体的影響が問題視されていたことから、2016年の改正労働法に「つながらない権利」がもりこまれた。しかし、この権利の定義は明確に定められていない。
「つながらない権利」が注目されている理由は、情報通信技術の急速な発達と普及、働き方の変化にあると考えられる。
パソコンやタブレット、スマートフォンが普及したことで、いつでもメールや電話で仕事の連絡ができる状況にある。「いつでも」ということは、休みの日でもプライベートの時間でも連絡できるということだ。このような勤務時間外に仕事の連絡をされると、心身ともに休める時間がなくなることが懸念される。
また新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行により、働き方が大きく変わった。その代表的なものにテレワーク、リモートワークがある。これらの働き方には、仕事と家庭生活の境界が曖昧になりオンオフの切り替えが困難になるといった課題があり、労働者にストレスがかかることが危惧された。
こうした背景から「つながらない権利」が注目されており、フランスをはじめとする世界各国で導入・検討が進められている。
「つながらない権利」は労働者にとってメリットのある権利だが、問題点や課題もある。
「つながらない権利」が法律で定められた場合、緊急性の高いトラブルが発生した場合であっても、勤務時間外であれば連絡できないことや、業務スピードや業務効率が低下するなどの問題が出るだろう。
また建設業、医療・福祉、宿泊業、飲食サービス業、ドライバーなどにおいては、緊急時の連絡への即座の対応が求められることから「つながらない権利」の導入が難しい。
「つながらない権利」は、フランスをはじめ、各国で法制化が進んでいる。
フランス
フランスでは、2016年に労働基準法のなかに「つながらない権利」が組み込まれ、2017年に法制化された。具体的な内容としては、従業員が50名を超える企業に対し、つながらない権利について労使で協議し、労働協約を締結することを義務付けている。
ポルトガル
ポルトガルでは、2021年に企業が就業時間外の従業員に連絡することを原則として禁じている。違反した企業は、売上高に応じた罰金が科せられる。(※1)
イタリア
イタリアでは、2017年にスマートワーカー(時間的・場所的拘束を受けない労働者)保護のため、「つながらない権利」を雇⽤契約に明記する義務を設ける法令を制定した。(※2)
アメリカ
アメリカでは、ニューヨーク州で勤務時間外のメール等への返信を労働者に強制することを禁止する法制化を目指す法案が提出された。雇用主は、法の遵守を証明するための行動計画を明示し、労働時間と非労働時間を明確に切り分けることが義務づけられる。返信しないことによる懲罰的な扱いも禁⽌だ。市当局が従業員による違反の訴えを認めた場合、1回につき250ドル(約2万8千円)などの罰⾦を企業に科す。(※2)
オーストラリア
オーストラリアでは、2024年に労働者の「連絡遮断権」を定めた法律が制定された。この規則を破った雇用主には、罰金が科せられる。(※3)
フィリピン
フィリピンでは、2017年に従業員が時間外に業務関連の連絡を受けても対応しなくてもよい法令を制定。勤務時間外に受信したメールを無視しても、懲罰の対象にならない。(※2)
日本では、厚生労働省が2021年に「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」 を発表した。このガイドラインは、使用者が適切に労務管理を行い、労働者が安心して働くことができる良質なテレワークを推進することを目的にしており、労使双方にとって留意すべき点、望ましい取り組みを明示したものである。
ガイドラインには「つながらない権利」に関連する次のような記載がある。
・テレワークを実施している者に対し、時間外、休日または所定外深夜のメールなどに対応しなかったことを理由として不利益な人事評価を行うことは適切ではない。
また、テレワークにおける長時間労働の対策として、以下のことが例示されている。
・業務時間外にメールを送付することを抑制する。
・所定外深夜・休日は社内システムのアクセス制限を設定する。(※4)
今後も厚生労働省が主体となり「つながらない権利」について推進していくことが期待される。
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日本労働組合総連合会は「“つながらない権利”に関する調査2023」を実施した(※5)。その調査結果をもとに「つながらない」権利の必要性やニーズを紹介する。
調査結果によると「勤務時間外に部下・同僚・上司から業務上の連絡がくるとストレスを感じる」と回答した雇用者は62.2%、「勤務時間外に部下・同僚・上司からきた業務上の連絡の内容を確認しないと、内容が気になってストレスを感じる」と回答した雇用者は60.7%という結果であった。
6割以上の人が、勤務時間外に連絡がくること自体や、連絡の内容を確認しないままでいることがストレスになっていることがわかる。こうしたストレスを軽減するためにも「つながらない権利」は必要だと考えられる。
同調査では「“働くこと”と“休むこと”の境界を明確にするために、勤務時間外の部下・同僚・上司からの連絡を制限する必要があると思う」と回答した雇用者は66.7%、「勤務時間外の取引先からの連絡を制限する必要があると思う」と回答した人は67.7%であった。
「つながらない権利」を導入すれば、オンオフが切り替えられワークライフバランスの改善につながるだろう。
同調査で「自身の職場では“勤務時間外の職場内の連絡(業務上の連絡)”についてルールがある」と回答した雇用者は25.8%、「自身の職場では“勤務時間外の取引先との連絡(業務上の連絡)”についてルールがある」と回答した雇用者は19.9%であった。
また「“つながらない権利”によって勤務時間外の連絡を拒否できるのであれば、そうしたいと思う」と回答した労働者は72.6%という結果であった。
社内で「つながらない権利」に関するルールが整備されていれば、労働者の負担が軽くなり、柔軟な働き方ができる。また7割以上の人が「つながらない権利」を行使したいと考えており、ニーズがあることがうかがえる。
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日本や世界で「つながらない権利」を社内ルールに導入している企業を紹介する。
三菱ふそうトラック・バス株式会社では、2014年から長期休暇中にメールを受信拒否、自動削除できるシステムを導入している。これは、親会社のドイツ・ダイムラー社の施策を受けたものである。メールを送信した相手には、自動的に「いただいたメールは削除されます」というメールが送信される。(※2)
フォルクスワーゲンでは、2013年から⼣⽅6時15分から翌⽇朝7時まで、従業員の仕事⽤の携帯電話にメールが転送されないシステムを導⼊している。これは「勤務時間外に送られてくるメールによって私⽣活が乱される」という従業員からの声によって導入された。(※2)
ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社は、2016年から勤務日の22時以降と、休日にメールを自粛することを推奨している。これは社員のワークライフバランスを推進することを目的にしており、緊急時は対象外となっている。(※2)
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「つながらない権利」は、労働者の健康やワークライフバランスを保つために重要な権利である。法制化を待たずとも、社内でルールを整備して進めることができる。できることからスタートし、柔軟な働き方ができる環境、企業が増えていくことが望まれる。
※1 勤務時間外の電話、罰金最大126万円 ポルトガルが新法|日本経済新聞
※2 先⾏事例ー働き⽅改⾰とつながらない権利についてー|NTTデータ経営研究所
※3 勤務時間外の連絡無視OK、オーストラリアで法制化|日本経済新聞
※4 テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン|厚生労働省
※5 “つながらない権利”に関する調査2023|日本労働組合総連合会
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