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現在日本は、他国が経験したことのない少子化や高齢化が起因となる社会問題と直面している。環境や人権問題、貧困や教育問題など、世界共通の課題に加えて、日本独自のニッチで興味深い問題を取り上げる。ふだんは深くふれる機会のない社会問題の面白いテーマから、日本の現状が浮き彫りになるだろう。
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エレミニスト編集部
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社会において問題となっている事柄のことを総じて、「社会問題」という。
たとえば貧困、犯罪、教育、健康、環境、人権、ジェンダー平等など、世界には多岐にわたる種類の問題があり、各国で独自の社会問題も存在する。
社会問題は複雑であり、容易に解決できないため、政府や市民団体などが協力し合い取り組むことでソリューションにつなげていかねばならない。
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世界中にある解決すべき課題の代表例としては、「水問題」「食糧問題」「貧困問題」などがある。それぞれの問題点や解決への取り組みを見てみよう。
水問題は、水の質や量に関するさまざまなことで、人々の生活や健康に直結するもっとも重要な課題のひとつだ。
気候変動や人口増加、インフラ不足などによる水不足に悩む人は世界で30億人。また、農業や工業排水、生活排水やごみの不法投棄による水質汚染、国境を越えた河川や湖沼の利用権をめぐる水紛争が起きている。
海に囲まれた日本では、洪水や干ばつ、土砂崩れや地滑り、津波や海面上昇などによる水災害がたびたび起こり、人命や財産に大きな被害を及ぼしている。
水道水から目標値を超える有機フッ素化合物(PFAS=ピーファス)検出という報道を目にする機会が増えたが、環境問題に大きな影響を与える水質汚染事件は、これまでにも起こっている。
・水俣病
1950年代に熊本県水俣市で発生した、水銀による公害病。化学工場から排出された水銀が、周辺の海や川に流れ込み、魚介類を中心に食物連鎖を通じて人々に被害をもたらした。
・四日市ぜんそく
1960年代から1970年代にかけて三重県四日市市で発生した、硫黄酸化物による公害病。工場から排出された硫黄酸化物が原因で、多くの人々が呼吸器系の疾患を発症した。
私たちがすぐにできることは、排水の際に洗剤を使い過ぎないことや、プラスチック製品を減らす、食べ残しやごみを減らすことが挙げられる。
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水問題と同じく、人間の生活に直結するのが「食糧問題」だ。
・飢餓や栄養不足
食べ物が十分に食べられず、健康や生命を脅かす状態のこと。世界では約7億6,000万人が飢餓に苦しんでいるとされる。また、世界では約14億9,200万人の乳幼児が栄養不足に陥っている。
・食料ロス
食品の生産から消費までの過程で発生する廃棄や損失のこと。世界では約13億トンもの食品がロスが報告されている。
・食の不均衡
食料が十分にあるにもかかわらず、貧困や紛争、気候変動などの要因で一部の地域や人々に行き渡らないこと。世界では約20億人が適切な食事を得られていない。
SDGsの目標2「飢餓をゼロに」は、2030年までにあらゆる形態の飢餓や食料不安、栄養不良をなくすことを目指している。
食糧問題の解決には、食料ロス削減や持続可能な農業の推進、食料生産の安定化や地域経済の活性化を図ること、貧困層の生活水準を向上させることなど、総合的に取り組むことが望まれる。
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食料や水、住居、医療、教育などの基本的なニーズを満たすことができない状態を貧困と呼ぶ。とくに発展途上国では、深刻な問題。貧困は、健康や教育、雇用などの機会にも影響を与えるため、社会全体に悪影響を及ぼす。
発展途上国に見られる最低限の生活もできない「絶対的貧困」と、私生活などで自由に使えるお金が国内平均の半分に満たない「相対的貧困」があるが、日本では「相対的貧困」が問題に挙げられている。
厚生労働省によると、1985年には12%だったのに対し、2015年には15.7%と約6人に1人は相対的貧困に該当する状況だ。
貧困問題の解決も、食料ロス削減や持続可能な農業の推進など、複合的な取り組みが重要だ。
所得格差や少子高齢化といった社会問題が一昔前から懸念されてきた日本。マイクロプラスチックや介護離職など、新しいテーマのことがらが次々に社会問題化してきている。ここからは日本国内で顕在化してる、ニッチで興味深い問題を紹介する。
日本のビジネス文化において、契約や申請の際「押印」することが一般的だが、この習慣は、日本の歴史や文化に根ざすアイデンティティの一部。
世の中がペーパーレスや電子署名に急速に置き換わるなか、政府も「脱ハンコ」を掲げているが、完全には廃止することは容易ではない。
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日本では、ネットカフェで一晩中過ごす人々がいる。彼らは、何らかの事情で住む場所を持っておらず、ネットカフェを安価な宿泊先として利用し続けている。
都内では、1日あたり推計約4,000人がネットカフェのような24時間営業の店舗をオールナイトで利用している(※1)。そのうち7割以上は、「住居喪失不安定就労者」(住居喪失者の内、雇用形態が派遣労働者・契約社員・パート・アルバイトの者)が占めているという。
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総務省によれば、2018年10月時点の総住宅数は6,240万戸で、その内の848万戸が空き家(※2)。高齢者の介護施設や子ども宅への転居などが理由で、年々増加傾向にあるという。
空き家に関しては、動物の住み着きや虫の発生、ごみ問題や放火などの犯罪リスクもある。
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フラワーロスとは、まだ使えるのに廃棄される生花のこと。業界では長らくある問題だが、コロナ禍で結婚式やイベント減により需要と供給のバランスも崩れ、規格内の花までもが行き場を失うことになった。
花を生産・管理するためには、多くの水と電力を使うことも忘れてはならない。ロスを減らすためには、廃棄される花のアップサイクルや、生産者から消費者へ直接販売することで需要と供給のバランスを取るなどの取り組みがすすめられている。
日本では、自転車盗難が多発している。自転車盗難防止のために、多くの駐輪場が整備されている。
個人でできる防御策として、丈夫な鍵を選び、なるべく明るい場所に駐輪することや、自宅に防犯カメラ・センサーライトなどを設置する、自治体窓口で防犯登録を行うことなどが挙げられる。
日本では昨今、大学生でもホームレスになる人々がいる。
彼らの多くは、学費や大学ローン、生活費を捻出するために、日雇い労働やアルバイトなどで働きながら学業と両立させているが、その果ての路上生活を余儀なくされている者もいる。
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日本では、不登校児童・生徒が珍しくない。彼らは、学校内でのいじめや、家庭不安など、何らかの理由で学校へ行くことができず、社会から孤立してしまう。
最近増えている「ネットいじめ」も、大きな社会問題となっている。SNSや掲示板などを通じて行われるいじめは、被害者の心身に深刻な影響を与えることがある。
戸籍を有しない人=無国籍者が日本でも増えている。
日本では、戸籍法49条で「出生から14日以内に届出をしなければならない」ことが原則として定められているが、出生届を出す義務のある人(親や同居人など)が、何らかの理由で出さないことにより、子どもが無戸籍者になる。
日本には、約1万人の無戸籍者がいるといわれているが、この数字は推定にすぎず、実際はもっといるのではないかと考えられている。
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アニメや漫画などのサブカルチャーに傾倒する「オタク」に対する偏見や差別。1980年代から1990年代にかけて、オタク趣味を持つ人々が犯罪者や社会不適合者として描かれ、メディアや一般社会から排斥されるようになった。
しかし、インターネットの普及やアニメ、漫画、コンピューターゲーム、アイドルの社会的地位の向上により、オタクへの悪い印象は薄れた。現在では単なる「ファン」や「マニア」と同義で使われることも多い。
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パチンコは日本で非常に人気のあるギャンブルであり、多くの人々が依存症に陥ってしまう。
パチンコに熱中し過ぎて、子どもの育児を放棄したり、生活費を使いこんで家庭を崩壊させてしまう者もいる。
「パチンコ依存症」は、精神疾患の1つとして認められており、治療法としてはカウンセリングや薬物療法、入院治療などがある。また、自助グループに参加することで、他の人々と情報交換や励まし合いをすることができる。
高齢化社会が進む日本では、家族が要介護状態になり、ケアに専念するために仕事を辞めざるを得ない「介護離職」が社会問題化。 介護は、育児や病気などと同様に、仕事の継続を妨げる主な要因となっている。
厚生労働省では、介護休業制度などの周知徹底を図り、介護を行っている労働者の継続就業を促進している。
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インターネットやパソコンなど、ICT(情報通信技術)を使える人と使えない人との間に生じる格差を指すデジタルデバイド=情報格差。
デバイスの使用機会やICTリテラシーによってその差が生まれているが、年齢や年収などの違いで起こるものを「個人間・集団間デバイド」、国内の都市部と地方部の間に生じている情報格差を「地域間デバイド」と呼ぶ。
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年齢に基づく決めつけや固定観念から生まれる差別、個人や集団を一面的に捉えることをエイジズムという。
具体的な例としては、「いい年してそんな格好をして」「○○してしまうのは年のせい」など、高齢者に対する差別、老人蔑視・偏見を指す場合が多いが、若者や中年などの他の年齢層、世代に対する偏見も含む。
年齢に基づく差別的な行動や言動をとること、個人や集団に不利益を及ぼすような制度やポリシーにより、エイジズムが現れることが多い。
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離婚や死別などを理由に、母親だけで子どもを育てている=母子家庭の母親をシングルマザーという。
男女共同参加局の発表によると、日本の母子家庭の推移は年々上がっており、2016年時点で、約123万世帯にのぼる(※3)。
ひとり親世帯の平均年間収入をみると、父子家庭の場合は420万円に対して、シングルマザーの場合は243万円と圧倒的に少なく、母子家庭貧困が社会問題化している。
高齢化や単身世帯の増加、既存商店街の衰退などを理由に、 過疎地域に限らず都市部においても、食料品へのアクセス問題が浮上。食料品の購入や飲食に不便や苦労を感じる人々のことを「買い物難民」「買い物弱者」と呼ぶ。
東京を含む全国1,741市町村に対して、令和2年に農林水産省が調査した結果によると、アンケート回答市町村の1,069市町村(約86%)が、何らかの対策が必要と答えている(※4)。
世界共通の社会問題に加え、あまり知られていない日本独自の社会問題を紹介した。
こうした細かな問題にも影響がおよぶであろう、2040年問題がある。1971年~1974年の第二次ベビーブームに生まれた団塊ジュニア世代が65歳以上となり、日本の総人口に占める高齢者の割合が増える。
あらゆる業種での労働力減や人手不足、社会保障費の増大が懸念されている。さらに、新型コロナ感染症による危機やロシアによるウクライナ侵攻などが、日本の課題解決をより複雑にした。
他人事ではなく、自分ごととして身近な社会問題に向き合っていかねばならない時期に来ている。
※1 BBC NEWS JAPAN|東京や大阪、「ネットカフェ難民」の居場所確保が急務
※2 総務省|平成30年住宅・土地統計調査 住宅及び世帯に関する基本集計結果の概要
※3 男女共同参加局|I-5-9図 母子世帯数及び父子世帯数の推移
※4 農林水産省 食糧産業局|「食料品アクセス問題」に関する全国市町村アンケート調査結果
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