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世界の労働時間ランキングで日本は31位に位置する。近年、休日出勤や残業といった長時間労働が問題視されるなか、世界中で労働時間改革が行われている。この記事では、世界の労働時間や過重労働を防止するための対策や取り組みについて言及していく。
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順位 | 国名 | 労働時間/年 |
---|---|---|
1 | コロンビア | 2,297 |
2 | ペルー | 2,248 |
3 | メキシコ | 2,207 |
4 | コスタリカ | 2,171 |
5 | チリ | 1,953 |
6 | ギリシャ | 1,897 |
7 | イスラエル | 1,880 |
8 | ロシア | 1,874 |
9 | 韓国 | 1,872 |
10 | カナダ | 1,865 |
11 | クロアチア | 1,837 |
12 | マルタ | 1,835 |
13 | ルーマニア | 1,826 |
14 | キプロス | 1,810 |
15 | ポーランド | 1,803 |
16 | 米国 | 1,799 |
17 | チェコ | 1,766 |
18 | ニュージーランド | 1,751 |
19 | エストニア | 1,742 |
20 | イタリア | 1,734 |
21 | トルコ | 1,732 |
22 | ハンガリー | 1,679 |
23 | オーストラリア | 1,651 |
24 | リトアニア | 1,641 |
25 | アイルランド | 1,633 |
26 | スペイン | 1,632 |
27 | ポルトガル | 1,631 |
27 | スロバキア | 1,631 |
29 | ブルガリア | 1,618 |
30 | スロベニア | 1,616 |
31 | 日本 | 1,611 |
2023年の「世界の労働時間 国別ランキング・推移(OECD)」によると、日本の順位は31位で労働時間は1,611時間であった。G7で比較すると、日本は4番目で中位に位置する。日本は労働時間が多い印象だが、G7ではカナダ・アメリカ・イタリアに次ぐ労働時間であった。
一方、2023年の「世界の一人当たりの労働生産性 国別ランキング・推移(OECD)」によると、日本は34位でG7のなかでは最下位に位置している。これらのデータから考察すると、日本は他国に比べて労働時間と労働生産性がやや見合っていないようだ。(※1)(※2)
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順位 | 国名 | 労働時間/年 |
---|---|---|
1 | ドイツ | 1,343 |
2 | デンマーク | 1,380 |
3 | オランダ | 1,413 |
4 | ノルウェー | 1,418 |
5 | オーストリア | 1,435 |
6 | スウェーデン | 1,437 |
7 | アイスランド | 1,448 |
8 | ルクセンブルク | 1,462 |
9 | フィンランド | 1,499 |
10 | フランス | 1,500 |
2023年の労働時間がもっとも短い国はドイツで1,343時間であった。労働時間が短い国では、労働時間改革に向けてさまざまな取り組みを積極的に行っている。
たとえば10位のフランスでは、一人当たりの労働時間を制限することで就労者数を増やし、国の失業率を下げる取り組みを実施。また労働時間を減らして人々の生活の質を上げることにより、労働生産性が改善されることも意図している。
フランスでは1週間の労働時間は35時間と法律で定められており、1年間の有給休暇も5週間取得できる。このように、法律でしっかりと取り締まることが有効的に働いた結果といえるだろう。(※1)(※3)
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残業や休日出勤など、労働時間が長そうな印象を持つ日本だが、世界平均よりもやや短い結果となった。その理由のひとつに、短時間労働者の割合が多い点が挙げられる。日本は他国に比べて短時間労働者の割合が多い傾向にあり、2020年度の就業者に占める割合は25.8%であった。
そのほかの国と比較すると、イギリス22.4%・ドイツ22.0%、デンマーク18.6%・カナダ18.0%・韓国15.4%・スウェーデ ン14.1%より上回っている。
一方、厚生労働省が提示した「パートタイム労働者比率の推移データ」によると、日本は平成7年から令和元年まで、一般労働者の労働時間は年間2000時間前後で高止まりしたままだ。パート労働者は1000時間前後で推移しており、日本は国民一人当たりの労働時間に大きな開きがあると推測される。
パート労働者の割合は年々増え続けていることから、世界平均よりもやや短い労働時間という結果になった背景には、短時間労働者の多さが影響していることが考えられる。(※1)(※4)(※5)
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先述したとおり、日本は国民一人当たりの労働時間に大きな開きがある。短時間労働者の割合が多い一方で、厚生労働省が提示した「令和4年版 過労死等防止対策白書」によると、週労働時間が49時間以上の日本人労働者の割合は15.1%と高かった。
国際的に比較したデータでも、週50時間以上働く雇用者の割合は日本21.9%、イギリス12.8%、アメリカ11.7%、フランス7.8%となっており、欧米諸国より高いことがうかがえる。(※6)(※7)
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ここでは長時間労働が健康に与える影響について言及する。
長時間労働は疲労回復に必要な睡眠や休養の時間を減少させる。したがって、長時間労働による過重な労働負荷は肉体疲労の蓄積につながる。このような状態が続くと、脳や心臓疾患の病気、過労性の病気(胃十二指腸潰瘍、月経障害など)、過労死などを引き起こすおそれがある。(※8)
長時間労働が原因で家庭や余暇の時間が減少すると、精神的ストレスも蓄積される。また業務量が多い状態は精神的負担が大きく、 精神的疲労の蓄積や過度なプレッシャーにつながなる。このような状態が続くと、精神障害やうつ、自殺などを引き起こすおそれがある。(※8)
長時間労働が原因で睡眠不足が続くと、通勤中の眠けや疲労による居眠り運転、または注意力が散漫になり交通事故やケガを引き起こすおそれがある。(※8)
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ここでは世界の労働時間改革の事例について紹介する。
イギリスではフレキシブルワークが浸透しつつある。「フレキシブルワーク」とは、勤務時間や場所、休暇の取り方などを柔軟に選べる働き方という意味だ。
フレキシブルワークの一例として、パートタイム・フレックスタイム・コンプレッションタイム(1日の勤務時間を延ばし、少ない労働日数で労働条件を満たす)・計画的代休(繁忙期に長時間勤務した場合は閑散期に同等分の有給休暇を取得できる)・ジョブシェアリング(複数のパートタイム労働者が、 フルタイム労働者1人分の業務と責任を分担する)といった自由な労働形態がある。
また2014年には、児童家庭法および雇用権法が改正された。フレキシブルワークを申請する際の要件から育児や介護の必要性が撤廃され、26週間継続して雇用されているすべての労働者に権利が与えられた。(※9)
ニュージーランドでは、ワークライフバランスを重視した取り組みを行っている。「ワークライフバランス」とは、仕事と私生活のバランスを取り、両方を充実させる働き方・生き方という意味だ。仕事が原因で家族や余暇、自己啓発などにあてる時間を奪ってしまわないよう、柔軟な働き方を目指してさまざまな雇用形態を設けている。
たとえば、在宅勤務・フレックス制(個人で労働時間が決められる)・パートタイム・スーパーフレックス制(1日の勤務時間を増やして出勤日数を減らす)・ワークシェアリング(一人当たりの作業量を2人に分担する形態)など、個人の状態や環境に合わせて働ける取り組みを積極的に行っている。(※9)
フランスでは改正労働法に盛り込まれた、つながらない権利が存在する。「つながらない権利」とは、業務時間外における会社からの連絡に対し、労働者側がそれを拒否できる権利だ。フランス人はプライベートを重視する傾向にあるため、仕事とプライベートを明確に分けるための措置が取られている。
さらに「オブリ法」と呼ばれる法律において、労働時間は週35時間と定められている。これは、日本の法定労働時間である週40時間より5時間も少ない。また、残業はどうしても仕事が終わらないときの最終手段と考えているため、やむを得ない場合を除いて基本は行わない。(※9)
ドイツでは6カ月以上在職している従業員には労働時間を短縮できる権利が与えられており、いくつかの条件を満たすことで、短時間労働者への転換も可能だ。さらに、フルタイム労働者と比較して短時間労働者の労働条件が著しく劣ることのないよう、パートタイム労働者を保護するための規定も設けている。
そのほか、ドイツでは多彩なフレキシブルワークのための取り組みを実施している。たとえば、労働時間の短縮/短期交代労働・フレックスタイム・ジョブシェアリング・部分退職(段階的定年退職)・無定形労働(働く場所や期間を選択)・労働時間口座(時間外労働に対して割増賃金ではなく休暇を与える制度)・サバティカル(長期休暇を取得する制度)・セレクト休暇(有給とは別に取得しなければならない休暇)などだ。(※10)
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日本が長時間労働である原因として、労働人口の減少・業務過多・人件費削減による人手不足・労働生産性の低さが挙げられる。
長時間労働の問題解決にともない、時間外労働の限度時間の措置・深夜業の回数の制限 ・勤務間インターバル制度(前日の終業時間から翌日の始業時間までの間に一定時間の休息を確保する)・年5日の有給休暇の取得義務化・同一労働/同一賃金の原則の導入・フレックスタイム制の柔軟性拡大などの取り組みをとおして改善対策を実施している。(※11)
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長時間の過重労働は、精神および健康に大きな悪影響を及ぼす。長時間労働が続くとストレスや疲労は蓄積され、身体や精神の病気または事故・自殺・過労死などを引き起こす原因になりかねない。
仕事は大事だが、休息・家族・趣味といったプライベートの時間も人生には必要だ。世界の働き方を見習いながら、日本においても改革や改善が進んでいくことが期待される。
※1 世界の労働時間 国別ランキング・推移(OECD)|GLOBAL NOTE
※2 世界の1人当たり労働生産性 国別ランキング・推移(OECD)|GLOBAL NOTE
※3 諸外国の労働時間制度の概要|厚生労働省
※4 就業者に占める短時間労働者の割合|労働政策研究・研修機構(JILPT)
※5 労働時間の状況|厚生労働省
※6 令和3年度 我が国における過労死等の概要及び政府が 過労死等の防止のために講じた施策の状況(案)|厚生労働省
※7 付3-(1)-1図 週50時間以上働いている雇用者割合(国際比較)|厚生労働省
※8 長時間労働者の健康ガイド|独立行政法人労働安全衛生総合研究所
※9 世界の働き方改革|自治体国際化フォーラム
※10 ドイツの「フレキシブル・ワーク」|リクルートワークス研究所
※11 「労働時間等見直しガイドライン」|厚生労働省
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