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長時間の残業や休日出勤などが原因で労働者の身体・精神に大きな負荷がある働き方を指す、過重労働。本記事では、過重労働の基準や時間、原因や影響を解説していく。また、2019年に改正された労働基準法についても触れながら、過重労働を防止する方法や対策、相談窓口についても言及していこう。
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過重労働とは、長時間の残業や休日出勤、不規則な勤務などが原因で労働者の身体・精神に大きな負荷がある働き方のこと。
具体的には、時間外・休日労働が「月100時間を超える」もしくは「2~6ヶ月平均で月80時間を超える」ことを指している(※1)。
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2019年4月に働き方改革関連法案が施行されたが、それでも過重労働問題はまだまだ日本で深刻な問題だ。
そもそも、日本人が長時間働くようになった要因は、バブル期にあると考えられている。1986年に始まったバブル期により、ほとんどすべての業種に好景気が訪れ、労働者の賃金が上昇。そのため、労働者は朝から夜遅くまで働くことを嫌がらなくなったそうだ。“企業のために尽くすこと”が美徳とされる風潮さえあったというが、そんななか1991年にバブルが崩壊。
苦しい状況となった企業は、リストラや新規雇用の抑制といった人員削減対策を取らざるを得なくなり、その結果、1人あたりの仕事量や労働時間が激増した。
過重労働と長時間労働は同義のように使われることもあるが、何が違うのだろうか。
過重労働は先述のように、時間外・休日労働が「月100時間を超える」もしくは「2~6ヶ月平均で月80時間を超える」ことを指すが、長時間労働には明確な基準や定義はない。しかし、一般的に長時間労働というと、1日8時間、1週間で40時間という法定労働時間を超えて働く時間(時間外労働)を指すことが多い(※2)。
36(サブロク)協定とは、労働者に法定労働時間を超えて労働させる場合や、休日労働をさせる場合に、労働者と結ぶ取り決めのこと。36協定では、月45時間・年360時間という時間外労働時間の上限が設けられており、臨時的な特別の事情がなければ、これを超えることはできない。
また、臨時的な特別の事情があって労使が合意する場合でも、年720時間、複数月平均80時間以内(休日労働を含む)、月100時間未満(休日労働を含む)を超えることはできないと定められている(※3)。
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過重労働が問題であると多くの人が認識していながら、起こってしまうのには、さまざまな原因が考えられる。
直接的な原因としてまず挙げられるのは、業務量の多さや人員不足。何らかの理由で人手が足りず、1人あたりの業務量が恒常的に増えてしまっているケースだ。
そのほか、上司が残業しているため先に帰りづらい、過剰なノルマがある、職務範囲の不明瞭さ、経済的・社会的プレッシャー、同調圧力など、職場環境や職場風土に起因するものなどが考えられる。
過剰労働は、身体面・精神面・社会的に負の影響をもたらし、最悪の場合「過労死」として死に至る場合もある。具体的にどのような影響があるのか見ていこう。
長時間労働および過重労働と関連する健康問題には、脳・心臓疾患、胃十二指腸潰瘍、過敏性大腸炎、腰痛、月経障害などが挙げられる(※4)。
脳出血や脳梗塞、心筋梗塞などの疾患は、動脈硬化などの血管の異変が、加齢や生活習慣の影響で徐々に悪化して、突然発症するものだが、過重労働によって身体に負荷がかかると、血管の状態が急激に悪化して、脳や心臓の疾患に至ることがあるのだ。
仕事の負荷が原因で発症した脳や心臓の疾患は、業務上の疾病とされて、労働災害の対象となる(※5)。
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過重労働は、身体だけでなくうつ病や適応障害、統合失調症などの精神疾患の発症にも影響する。
令和5年の過労死白書では、労働時間が長くなるほど翌朝に疲労を持ち越す頻度が増え、うつ病の疑いや不安を感じる人の割合も高くなるとする分析結果が示された(※6)。
精神疾患は、通常の認識や行動の選択をする能力が低下し、自死につながる可能性も高くなる。過重労働による精神疾患も、身体の疾患と同様に、労働災害の対象である。
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身体や精神への影響以外に、過重労働は社会的な影響ももたらす。
過重労働により家族との時間が取れない、友人と過ごすことができない、地域の行事に参加できないなど、コミュニティへの影響もあるのだ。
労働者自身がストレスに感じるだけでなく、実際に周囲の人との関係にも影響が出てしまうケースもあるだろう。
ここからは、過重労働の現状と統計について紹介していく。
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「日本人は働きすぎている」とはよく耳にするが、実際にどれくらい過重労働をしているのだろうか。
OECD(経済協力開発機構)発表の統計データによると、2021年の世界の労働時間ランキングで日本は、世界28位の1,607時間であった。しかし、この年間実労働時間には、短時間労働者や非正規雇用なども含まれているほか、サービス残業は計上されていないため、フルタイム労働者だけかつ、サービス残業も含めて統計を算出すれば、もっと労働時間は長くなるだろう。
厚生労働省では、毎年11月を過重労働解消キャンペーン月間としており、その一環として令和5年11月3日(金・祝日)に特別労働相談受付日を実施。その結果によると、相談件数509件のうち、もっとも多かった80件(15.7%)の相談内容が「長時間労働・過重労働」であった(※7)。このことから、日本ではまだ過重労働が深刻な問題であることがわかる。
しかし、2012 年から 2020 年までにかけての5人以上規模事業所における月間総実労働時間の推移をみた厚生労働省「毎月勤労統計調査」によると、月間総実労働時間は、減少傾向で推移。2019年には前年差3.1時間減(前年比2.2%減)、感染拡大防止のための経済活動の抑制の影響もあると考えられるが、2020年には前年差3.9 時間減(前年比2.8%減)と大幅に減少した。
年間平日日数と年間出勤日数の推移を見ると、2017年以降、年間平日日数と年間出勤日数の差が顕著に広がっており、出勤日数の減少には、働き方改革による年次有給休暇の取得促進等も影響していると考えられている(※8)。
厚生労働省が公表した「令和5年度『過労死等の労災補償状況』」によると、脳・心臓疾患に関する事案の労災補償状況は、請求件数は1,023件で、前年度比220件の増加。うち死亡件数は、前年度比29件増の247件。支給決定件数は216件で、前年度比22件の増加。うち死亡件数は前年度比4件増の58件であった。
また、精神障害に関する事案の労災補償状況は、請求件数は3,575件で前年度比892件の増加。うち未遂を含む自殺の件数は、前年度比29件増の212件。支給決定件数は883件で前年度比173件の増加。うち未遂を含む自殺の件数は、前年度比12件増の79件であった(※9)。
日本の平均年間総実労働時間(就業者)を中期的にみると、1988年の改正労働基準法の施行を契機に、労働時間は減少を続け、1988年時点の2,092時間から、2022年には1,607時間まで減少。
そのほかの先進国の2022年のデータを見てみると、アメリカ1,811時間、イタリア1,694時間、イギリス1,532時間、フランス1,511時間などとなっており、コロナ禍で大幅に減少した2020年に比べて増加しているものの、2019年と比較すると減少しており、おおむね減少傾向を示している(※10)。
日本には、深刻な問題である過重労働を規制する法律がある。ここからは、労働基準法の基本的な概要を説明した上で、上限規制や罰則について解説していく。
労働基準法とは、 労働条件の原則や決定についての最低基準を定めた法律で、 正社員はもちろん、短時間労働者(パート、アルバイト)、派遣労働者、外国人労働者 などに対しても適用される。
昭和22年に公布された労働基準法だが、時代に合わせて細かな改正が行われてきた。2019年にも改正労働基準法が施行され、「時間外労働の上限規制」と「年5日の年次有給休暇(年休)の取得の義務づけ」という働き方に関する新ルールが盛り込まれた。
時間外労働の上限規制では、「時間外労働の上限は、 原則として月45時間・年360時間とし、臨時的な特別の事情がなければこれを超えることはできない」と定められており、上限規制に違反すると、罰則が科される(※11)。
「時間外労働の上限は、 原則として月45時間・年360時間とし、臨時的な特別の事情がなければこれを超えることはできない」という言葉の通り、「臨時的な特別の事情」があった場合は上限が異なる。
しかし、特別な事情がある場合でも、時間外労働は年間720時間以内、月100時間未満(法定休日労働含む)、複数月平均80時間以内(法定休日労働含む)、年6回を超えることはできない。
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上限規制に違反した場合、「6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金」が科される可能性がある。
それまで、企業が法規定を詳細に理解していなかった場合でも経営に大きな影響がある場合は多くなかった。しかし、法を守らなければ罰則を受ける可能性が発生し、企業側に大きなリスクがある点も2019年改正労働基準法のポイントといえるだろう。
労働者の身体や精神の健康を守るためにも、企業側はもちろん労働者側も過重労働防止に努めなければならない。では、過重労働を防止する方法や対策にはどのようなものがあるか、確認していこう。
過重労働によって、労働者の身体や精神の健康を損なわないためには、時間外・休日労働時間の削減や年次有給休暇の取得促進等、事業場における健康管理体制の整備、健康診断の実施等の労働者の健康管理に係る措置の徹底が重要だ。
年次有給休暇については、労働基準法改正によって、年5日の年次有給休暇を確実に取得させることが必要となっている。しかしこれは、あくまで最低基準であり、労働者が年次有給休暇を取得しやすい職場環境づくりや年休の計画的付与制度の活用などに取り組む必要があるだろう。
企業の対策だけでなく、労働者本人も身を守るためにできることがある。まずは、自分が働いた時間数を把握することが大切だ。業務を終わらせることに必死になり、労働時間を意識しないでいると、知らぬ間に過重労働してしまっている場合もある。
また、自身の体調やメンタルの変化に敏感でいることも大切だ。頭で過重労働だと自覚する前に、身体や心がSOSを出していることも。忙しい日々のなかでも、睡眠時や休日にはメリハリをつけてしっかり休むなど、自分に意識を向けてみよう。
厚生労働省の長時間労働削減推進本部では、長時間労働の削減は喫緊の課題として、これに取り組むため、「働き方の見直し」に向けた企業への働きかけや、長時間労働が疑われる事業場に対する監督指導の徹底等を行っている。
政府だけでなく、働く人の過重労働やハラスメント、仕事を原因とした病気・ケガ・障害などの相談を受け付けているNPO法人も複数存在している。
自身の不調や異変に気がついたら、早めに周囲の人や、医師などの専門家に相談することが大切だ。
たとえば、労働条件等に関する相談は、近くの都道府県労働局労働基準部監督課、労働基準監督署、総合労働相談コーナーで相談することができる。
また、こころの不調や不安に悩む働く方、職場のメンタルヘルス対策に取り組む事業者の方、ご家族の方、部下を持つ方、支援者の方など、さまざまな立場の方に役立つ情報やコンテンツを掲載している、「こころの耳(ポータルサイト)」を活用して情報を得ることもできる。
「こころの耳電話相談」、「こころの耳メール相談」、「こころの耳SNS相談」のような、メンタルヘルス不調や過重労働による健康障害に関することについて無料で相談に応じてくれる窓口や、電話やSNSを使って匿名で気軽に相談ができる「まもろうよこころ」のような窓口を利用するのもいいだろう。
健康にも精神にも、そして家族や友人など自分以外の人にも影響をもたらす過重労働。長時間働くことが当たり前になってしまうと、自身の異変や不調に気づくことができず、取り返しのつかないことになってしまう場合もある。仕事ももちろん大切だが、何より命。いま一度、過重労働が“よくないもの”であることを認識し、自身の労働時間や働き方を見直してみてはいかがだろうか。
※1 過重労働による健康障害を防ぐために(1ページ目)|厚生労働省
※2 労働基準法 第4章 労働時間、休憩、休日及び年次有給休暇|安全衛生情報センター
※3 36協定で定める時間外労働及び休日労働について留意すべき事項に関する指針(1ページ目)|厚生労働省
※4 長時間労働による健康障害|新潟ウェルネス
※5 脳・心臓疾患の労災認定(2ページ目)|厚生労働省
※6 「令和5年版 過労死等防止対策白書」を公表します|厚生労働省
※7 特別労働相談受付日における相談結果を公表します|厚生労働省
※8 労働時間・賃金等の動向|厚生労働省
※9 令和5年度「過労死等の労災補償状況」を公表します|厚生労働省
※10 データブック国際労働比較2024(203ページ目)|労働政策研究・研修機構(JILPT)
※11 2019年4月施行 改正労基法のポイントと労働組合の取り組み | 連合ダイジェスト
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