万が一の災害時にも事業と従業員を守る「企業防災」とは

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災害が頻発する中で近年とくに注目を浴びている企業防災。その背景や法的根拠、具体的なリスク、求められる対策について解説。またBCP(事業継続計画)の観点からもリスク対応を紹介する。内閣府による「企業の事業継続及び防災に関する実態調査」の結果から企業の防災対策の現状を解説する。

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2025.01.18
SOCIETY
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企業防災とは

デスクの上にある黄色いカップ

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昨今、災害が頻発するなかで企業が努めるべき「企業防災」が重要視されている。企業防災とはその名の通り、企業が災害に備えて準備すること、および被災時の行動計画をあらかじめ策定しておくことである。住民や地域においても公的扶助だけに頼らず自主的な防災・減災が求められるなか、企業もまた災害に備えることが社会的責務とされる。(※1)

企業が防災対策を求められる理由

災害時において企業が守るべきものは何か。まず第一に挙げられるのは利用者・従業員の安全確保だ。とくに人的被害を防ぐことが何よりも優先される。当然従業員も例外でなく、その安全を守ることは企業の責務だ。

次に企業としての事業継続が求められる。被災によって事業活動が長期にわたって停止すると、取引先のみならず雇用不安や地域経済への悪影響が懸念される。そのため各企業で災害後の早期復旧・事業継続を行うための指針を策定することが求められている。また上記のような災害対策を行うことが企業の社会的責任のひとつであり、これを明確にすることでブランドイメージの維持にもつながる。(※2)

企業防災の主な対象となるリスク

火災

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地震や台風といった自然災害に限らず、企業として対応しなければならないリスクは多様である。(※3)昨今の情勢も踏まえて主な災害リスクを解説する。

自然災害

地震や台風・大雨を含む自然災害は日本中どこでも発生しうる。なかでも地震については突発的な災害であるため、人的被害の発生、建物等の物的被害の可能性が高い。また広域的に社会インフラ機能が破壊され回復に時間もかかるため、企業もその影響を受けて長期的な回復策が必要である。

風水害については天気予報により事前の警戒が可能であるため、適切な対応を実施することで被害の可能性を低減できる。近年は線状降水帯による短時間での大規模豪雨なども発生しているため、気象警報の際にはいち早く防災対応を行うことが求められる。(※4)

火災や爆発事故

故意・過失を問わず火災や爆発を伴う事故は起こり得る。企業で発生した場合には死傷者の発生や建物の損壊・全焼の恐れがあるうえ、近隣への延焼可能性もあり致命的なダメージが懸念される。発生時の自己解決は困難と認識し、直ちに消防署に通報することが重要な初動だ。原因としては放火など外部要因とともに内部での火の不始末なども挙げられ、火災検知設備や予防対策の充実が求められる。

サイバー攻撃や情報漏洩

企業活動においてICTは切っても切り離せない関係にあり、外部ネットワークに接続しない事業所はごくわずかといえるだろう。そのなかでサイバー攻撃や情報漏洩の件数は増加傾向にあり、影響範囲も大きくなっている。(※5)攻撃を受けた企業は被害者でもあるが、顧客や情報漏洩被害者に対しても賠償等の責任が発生する可能性がある。常時から適切な対策を行ってこれを防ぐべきであり、それが不十分であった場合は業務としても、企業イメージの点からも重大なダメージを受けることになるだろう。

また知らない間に自社を踏み台として他社への攻撃に悪用される可能性もあり、さほどネットワークを利用していない・重要なデータがないからといって措置を怠ることは認められない。

パンデミックや感染症の流行

感染症の流行も企業においてのリスクである。(※6)いまだ記憶に新しい新型コロナ感染症をはじめ、食中毒やインフルエンザによって業務に支障をきたす例がある。このような場合は多くの従業員が一定期間就業できなくなること、社内から外部への二次感染リスクなども懸念される。企業の責務としては、従業員の感染予防、および感染者・パンデミック発生時の事業継続策が求められる。

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企業の負う防災の法的責任

植物

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企業における防災管理は法によって定められたものもあり、その整備には法的責任が伴う。ここでは関連法規について解説する。

労働基準法

労働基準法には、災害発生時の臨時的な時間外労働について記されている。《労働基準法 第32条》において労働者は1日8時間以内かつ週40時間以内の法定労働時間が定められており、それを超えて労働させる場合は労使協定を締結して届け出る必要がある。しかし災害その他避けることができない事由に該当する場合、《労働基準法 第33条》の適用により時間外労働を行わせる・要請することができる。(※7)

この条件として地震、津波、風水害、雪害、爆発、火災等の災害への対応、および急病への対応その他の人命または公益を保護するためとし、とくに災害に関しては差し迫った恐れがある場合における事前の対応を含む。(※8)これは例えば被災時の電気、ガス、水道等のライフラインや重要な社会インフラの早期復旧のために認められるものだ。またやむを得ず長時間にわたる労働を行わせた場合には従業員の健康に配慮し、医師の面談等適切な事後措置を行わなければならない。

建築基準法

建築基準法は建築物の敷地、構造、設備および用途に関する最低の基準を定めて、国民の生命、健康および財産の保護を図り、公共の福祉の増進に資することを目的とする。(※9)当然企業における事業所等の建築物についても例外でなく、従業員・利用者をはじめとする付近の人々の生命を第一に、耐震基準等を満たして建築・改築しなければならない。

消防法

消防法は建築物の敷地、構造、設備および用途に関する最低の基準を定めて、国民の生命、健康および財産の保護を図り、公共の福祉の増進に資することを目的とする。(※10)企業の事業所等建築物においてもまず耐火基準・耐震基準など最低限の安全を満たすことが定められる。

また《消防法 第8条》により建築物の所有者、管理者または占有者は、その建築物の敷地、構造および建築設備を常時適法な状態に維持するように努めなければならない。その建築物の種類と規模によっては防火管理者を置くこと、統括防火管理者を置くこと、防火対象物点検資格者による点検・報告を行うこと、さらに大規模なものでは自衛消防組織をおかねばならない。(※11)また火災時の避難に際して支障となるものが置かれたり放置されないよう管理しなければならない。

労働契約法

《労働契約法 第5条》において使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をすることが定められている。(※12)これは通常の就業時に限らず自然災害や火事の際にも適用され、適切な災害防止措置を講じなかったために従業員が被災した場合は安全配慮義務違反とされる。具体的には災害発生時に備えて行動指針を策定し、災害やそれが予見される場合において従業員の安全のために避難を促すことなどが含まれる。

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企業が災害対策を強化する方法

有刺鉄線

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企業における災害対策について、具体例を紹介する。

ハード面の対策

ハード面の対策として、耐震設備の強化、備品・機器の転倒・落下防止対策,避難路の確保などが挙げられる。(※13)建物の耐震化・耐震検査といった大掛かりなものから、什器の固定(転倒防止)、窓ガラスへの飛散防止、避難経路の確保のためにオフィスの配置を見直すといったところも大切だ。また火災や落雷に備えて火災報知器の設置や雷サージ対策機器の導入も効果的である。

ソフト面の対策

ソフト面の対策として、防災計画・マニュアル・チェックリストの作成および周知徹底、従業員への防災教育の実施、防災訓練の実施などが挙げられる。(※13)防災マニュアル作成に当たっては人命の安全を最優先し、企業としての基本的な行動指針を盛り込みかつ簡潔・明瞭であることが求められる。(※14)これを用いた従業員への周知、および定期的な訓練を行うことで防災教育を繰り返すことも大切だ。

デジタル対策

パソコン・サーバを含むデジタル機器の防災対策にも注目が高まっている。とくに業務データを保管するサーバは企業において重要な財産であり、物理的安全かつサイバー攻撃からの防御を意識しなければならない。データバックアップに関しては日頃からインターネットを通じて遠隔地のサーバにバックアップを取っておくクラウドサービスなどの利用が勧められる。(※15)また事業所に物理的に立ち入れなくなった場合を想定して、非常時に端末の遠隔操作が可能なよう準備しておくことも効果的だ。

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災害時でも事業を継続させるためには?

海に浮いたボール

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災害が発生した後、人的安全が確保された状態において企業は事業の継続もしくは復旧を行う必要がある。ここでは事業継続性の観点からの災害対策について説明する。(※17)

BCPを策定する

BCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)とは企業が災害等緊急事態に遭遇した場合において損害を最小限にとどめつつ、中核となる事業の継続もしくは早期復旧を可能とするための計画である。(※16)この計画は平常時から十分に取り決めておくべきことであり、突然発生する緊急事態に対して有効な行動をとれなければ倒産・事業縮小の恐れも考えられる。

BCPは自社の事業活動が担う役割や想定される災害と被害、被災時の初動として人命救助を含めた緊急対応、その後安全を確保できてからの行動指針を明確にし周知する役目を持っている。(※17)このBCP策定により、顧客からの信用を保ち企業価値の維持・向上に繋げることができる。

安否確認システムを導入する

安否確認システムの導入も従業員の安全確保に有益である。災害発生直後の安否報告を受ける事により、人的被害の状況や即応可能な要員の確認が可能だ。従来より電話網や人力での安否確認は行われていたが、企業向け安否確認システムを利用することで電話網のひっ迫にも耐えやすく、多人数からの連絡を自動的に一覧データとして確認できる。

システムのバックアップをとっておく

電子データを含む情報機器のシステムバックアップを、日頃から取っておくことが重要だ。機器・端末が破損した場合の対応や別拠点での事業継続のため、新しい機器に移行しやすくなることが利点である。

在宅勤務体制を整える

災害で交通インフラが不安定な場合や感染症の蔓延時など、従業員の直接出社を避けるべきパターンも発生しうる。そのような場合の対策として、在宅勤務体制の整備が求められている。あらかじめ、在宅勤務可能な役職や部署を選定しておく。それに合わせて在宅勤務に必要な機材の準備やネットワーク環境の整備を行っておき、有事の際に備えることで、出社可能な人員が限られるなかでも事業の継続性を高めることが可能だ。

二次災害への対策を行う

二次災害とは、災害発生時にそれを原因として発生する副次的な災害のことを指す。例えば台風に見舞われた際の浸水被害、地震の揺れに起因する液状化現象、大雪による出社、帰宅困難者の発生などだ。まず災害発生時に状況をいち早く把握し二次災害の発生を防ぐ行動計画、および二次災害発生時の対応策もあらかじめ策定することが求められる。

リスク分散する

都市部や地震の多い地域にオフィスを構える会社では、リスク分散を行うために地方にプラネットオフィスを設置するケースもある。大規模な災害時には、本社機能を移転させることで事業継続をはかれる。

社内ルールを構築する

災害時でも連携をとって行動できるよう、社内ルールを構築しておきたい。業務の継続につながると同時に、従業員の安全を守ることにもなる。

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企業の防災対策の実態は?

霧のなかを走る車

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令和5年度に行われた「企業の事業継続及び防災に関する実態調査」のデータをもとに、企業の防災対策状況を解説する。(※18)

BCPの策定が進む大企業

BCPの策定状況については、大企業では76.4%が「策定済み」と回答している。隔年の調査でも順調な増加を見せており、これに「策定中」の回答も加えると8割を優に超える。業種別のBCP策定率に着目すると金融・保険業のBCP策定率が76.6%ともっとも高く、以下、運輸業・郵便業(66.2%)、建設業(63.4%)と続いている。下位は宿泊業・飲食サービス業(27.2%)、小売業(34.7%)であった。

リスクを想定した経営を行う企業は6割超

『リスクを具体的に想定して経営を行っているか』の設問に「行っている」と回答した割合は全体で66.3%、大規模企業に限れば88.6%と非常に高い結果である。「行っている」「現在検討中」と回答した企業に対して重視するリスクを聞いたところ、「地震」(91.4%)、「感染症(新型インフルエンザ、新型コロナ等)」(66.9%)、「火災・爆発」(53.6%)が上位を占めた。

導入が進む電子システム

被害を受けた際に有効であった取組について、全体では「社員とその家族の安全確保」(42.8%)、「安否確認や相互連絡のための電子システム(含む災害用アプリ等)導入」(37.9%)、「リスクに対する貴社の基本的な対応方針の策定」(35.9%)が上位を占めた。とくに「安否確認や相互連絡のための電子システム(含む災害用アプリ等)導入」は前回調査での4位から2位へと順位を上げ、大企業に限ればこの回答が57.5%と突出した1位であり、電子システムの普及が目立つ結果となった。

企業規模によって開く防災格差

企業防災の実施状況として、企業規模による格差の目立つものが「事業所の設備機器・オフィス機器の転倒防止」の実施であった。「行っている」の回答割合は全体では56.3%であるが、企業規模別に見ると大企業では72.9%となり、中堅企業(52.5%)およびその他企業(53.6%)と大きな開きがあることが明らかとなった。

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社会的責任としての企業防災

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自然災害が頻発する日本において、企業の防災計画は年々注目が高まっている。民間企業が大規模な社会的なインフラを担う昨今において、法律に定められた防災対策のみならず、自発的な企業防災対策が求められている。とくに事業の停止による社会的損失、およびそれに伴うブランドイメージの低下を懸念してBCP(事業継続計画)の策定が盛んに進んでいる。企業人においても、社会・地域の一員として、防災について日頃から意識したい。

※掲載している情報は、2025年1月18日時点のものです。

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