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泥炭地とは、植物が枯死したのちに土中で腐植分解が進まないまま埋もれて積み重なった土壌のこと。泥炭地は地球表面の約3%にあたる面積を占めており、森林よりも多くの炭素を固定している。この記事では、泥炭地の特徴やつくられ方、重要な役割り、世界的な保護の動きについて解説する。
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植物は基本的に枯れたあと土の中で腐植分解され、やがてはなくなってしまう。しかし気温が低いことで完全に植物分解されないことがあり、そうやってできた土を「泥炭」といい、それが積み重なってできた土地を「泥炭地(でいたんち)」という。
泥炭地の特徴として、たくさんの水分を含むため、乾燥したり重い物が乗ったりすると沈下するおそれがある。また、軟弱で崩れやすい土であるため注意が必要だ。国内では、北海道石狩川下流域の篠津原野(篠津幹線用排水路など)に存在する。(※1)
ここでは、泥炭地がどのようにして形成されるのか、その生成過程と泥炭地の種類(高層湿原、低層湿原)について説明する。
基本的に、植物は枯死したのちに土中で腐植分解が行われてなくなっていく。しかし寒冷地帯の沼地や湿地の植物は分解が進まないまま埋もれ、この状態が長きにわたることで植物遺体が堆積してできた土壌が「泥炭地」となる。(※2)形成されるのに長い時間を要するのが特徴だ。
「高層湿原」は植物遺体が分解されずに水辺に堆積し、周囲の地下水位よりも水面標高が高くなった湿原を指す。一方の「低層湿原」は地下水位が高いため、水中の泥炭層が水面までいかず、地下水や流入水によって常に水分が供給されている湿原を指す。(※3、※4)
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ここでは、泥炭地が持つ独特の特徴や、そこに生息する動植物について説明する。泥炭地がどのような生態系を支えているのか見ていこう。
泥炭地には高い炭素貯蔵能力がある。泥炭地は地球表面の約3%ほどの面積であるが、世界中の森林が貯蔵する約2倍以上の量を蓄えている。これは陸上にある炭素の約30%に相当する。泥炭地は気候変動に対応する鍵となり得る場所なのだ。(※5、※6)
泥炭地は何千年にもわたって炭素を貯えることで気候を調整し、さらに何百万人もの人々に水を供給してきた。保水性から洪水と干ばつを防ぎ、私たち人類に食糧を供給してきたのだ。同時に、独特の生物多様性も育む。(※6)
泥炭地に生息する植物には、カヤやヨシ、スゲ類の草本やミズゴケなどのコケ類が代表的だ。動物はスナヤツメなどのヤツメウナギ類と、イトウやシロザケなどの魚が生息している。一方、熱帯泥炭地にはコウモリやげっ歯類、霊長類などが多く生息している。(※7、※8、※9)
植物が完全に分解されない状態で積み重なった泥炭は繊維質が残っており、保水性や通気性がある。このことから、保肥性が高く土壌改良材としての活用の可能性があるとされる。泥炭を畑の土に混ぜるといった試みや、ガーデニングで腐植土として使用される「ピートモス」にも利用されている。(※10、※11)
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ここでは、泥炭地が環境保護や気候変動対策に果たす役割を解説し、泥炭地が持つ炭素貯蔵能力と温室効果ガスの関係について説明する。
泥炭地には炭素貯蔵庫の役割がある。泥炭地は地球表面の約3%ほどの面積だが、世界中の森林が貯蔵する量の2倍に相当する炭素を貯めている。したがって炭素貯蔵庫として重要な役割を果たしており、気候変動にも大きく関係する貴重な資源のひとつだ。(※6)
泥炭地は、世界の森林が貯蔵できる炭素量の約2倍に匹敵する550ギガトンが固定されている。したがって排水によって泥炭地から水が抜かれると、大量の二酸化炭素が放出されることになる。気候変動の観点において重要な問題になるとして、世界中で保全活動の取り組みがなされている。(※6)
現在の泥炭地は急速に減少傾向にある。主な原因には火災や排水、土地利用の転換による森林減少が挙げられる。たとえば泥炭地が排水されれば地下水面が低下して泥炭が乾き、この状態が続くことで分解や火災をうながして二酸化炭素が排出されるというわけだ。
また、泥炭地におけるパーム油農園も火災原因のひとつだ。現に、世界のパーム油生産量の約55%を占めるインドネシアでは、泥炭地域の18%が1987年〜2000年の間に300万ha以上の土地利用への転換や火災が原因で消失している。(※12)
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ここでは、泥炭地が分布している地域や、日本における泥炭地の代表的な場所について解説する。
世界の主な泥炭地分布地域は、ロシアを筆頭にカナダ、アメリカと続いており、この3カ国が全体の約8割を占めている。熱帯泥炭地では、インドネシアを筆頭にブラジル、ペルー、パプアニューギニア、マレーシアなどが全体の約1割を占めている。(※13)
日本の代表的な泥炭地は、北海道豊富町・幌延町にある「サロベツ原野」や、北海道釧路市・釧路町・標茶町・鶴居村にある「釧路湿原」だ。そのほか群馬県にある「尾瀬ヶ原」や、福井県敦賀市にある「中池見湿地」、鹿児島県薩摩川内市にある「藺牟田池」などが挙げられる。なお、本州では下北半島に小規模で分布している地域が南限となっている。(※14、※15)
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ここでは、各国で行われている泥炭地の保全活動について紹介する。
泥炭地は「ラムサール条約」の対象となる湿地の一種として認められている。この「ラムサール条約」とは、湿地帯を保全するために設立された国際条約だ。これにより、世界規模で協力して湿地帯を保全対象として保護する活動が行われるようになった。(※16)
「キュベット中央泥炭地」は、コンゴ民主共和国とコンゴ共和国をまたぐ世界最大の熱帯泥炭地である。この貴重な資源の保全にともない、2022年〜2027年にかけて国連環境計画(UNEP)が中心となって推進する「キュベット中央泥炭地保護プロジェクト」を、BMUV(ドイツ連邦環境・自然保護・原子力安全省)が50憶万ユーロを投じて支援することになった。
プロジェクトの主な内容は「実効性のある土地利用計画の立案」「泥炭地とその水源におけるモニタリング手法の確立」「水資源保護管理計画の策定」「地域住民による持続可能な資源管理が可能となる手法およびツールの開発」となっている。(※9)
「住友林業株式会社」は、インドネシア西カリマンタン州の産業植林資産と事業権を取得し、泥炭地管理モデルを構築して大規模な植林事業を展開した。活動内容のひとつとして、緩衝地区や植林区、保護区と用途に応じて分けることにより、経済的活動としての木材生産は維持しつつ、貴重な泥炭地とその生態系を保全する活動を行っている。(※17)
「サントリーグループ」は、スコットランドの泥炭地および水源保全活動として「Peatland Water Sanctuary」を開始した。この活動をとおして、2030年までに400万米ドル以上を投資し、1,300haの泥炭地と水源の保全活動を目指すとしている。
また、2040年までに同グループで使用する泥炭量の2倍に相当する量を生み出せると推測される面積分の泥炭地の保全を目指すと宣言した。(※18)
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泥炭地とは、植物が枯死したのちに土中で腐植分解が進まないまま埋もれて積み重なった土壌を指す。泥炭地は地球表面の約3%にあたる面積を占めており、森林よりも多くの炭素を固定していることから、地球上でもっとも炭素に富んだ資源のひとつとされている。
形成されるのに長い時間を要するが、世界各国で急速な泥炭地の減少が見受けられる。このような状況のなか、これ以上の資源を無駄にしないためにも、私たち一人ひとりが貴重な自然の恩恵について改めて認識しなおし、意識と行動を変えていく必要があるだろう。
※1 泥炭地ってなに?|国土交通省 北海道開発局 札幌開発建設部
※2 泥炭地の開発と利用|北海道立総合研究機構
※3 気候変動による高層湿原の生物群集への影響調査|A-PLAT
※4 尾瀬の成り立ち|東京電力
※5 湿地:気候変動に対応する鍵|環境省
※6 よりよい未来のために 泥炭地を乾燥化から守る|環境省
※7 燃える地層いろいろ -泥炭・亜炭-(前編)|地層科学研究所
※8 知られざる釧路湿原|釧路市
※9ドイツはコンゴに存在する世界最大の熱帯泥炭地の保全プロジェクトを支援~ラムサール条約と生物多様性条約に寄与する取り組み~|BAUM Consult Japan
※10 自治体との連携による泥炭の有効利用|国土交通省
※11 ピートモスが酸性となる理由|日本植物生理学会
※12 泥炭地とは?|国際環境NGO FoE Japan
※13 熱帯泥炭地とその乾燥化 |J-Stage
※14 日本の条約湿地|環境省
※15 泥炭|石狩市
※16 勧告 7.1 泥炭地の賢明な利用と管理のための地球的行動計画 |環境省
※17 住友林業、インドネシアのカリマンタン島で植林事業を拡充|日本経済新聞
※18 サントリーグループ、スコットランドでの泥炭地・水源保全活動「Peatland Water Sanctuary」を開始|日本経済新聞
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