日常にひそむパーム油問題とは 消費の現状や世界の取り組みなどを解説

かごのなかに入っているパームやしの実

Photo by Eva Blue on Unsplash

パーム油は人々の生活で利用される機会が多い。パーム油の生産のために起こる環境破壊や人権侵害は、いまや世界が注目し、解決するべき問題としてとらえられている。パーム油問題の概要や、解決のために進められている取り組みなどを解説していく。

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2023.02.07
EARTH
編集部オリジナル

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パーム油とは

パーム油とはアブラヤシの果実からつくられた植物油である。生産性が高く、ほかの植物油よりもリーズナブルな価格で提供できる。現在、世界でもっとも多く消費されている植物油だ。その多くがインドネシアとマレーシアで生産されている。

アブラヤシの果肉からパーム油(Crude Palm Oil)、果実からパーム核油(Palm Kernel Oil)が生産される。なお「アブラヤシ」という名称から「ヤシ油」と混同されることもあるが、パーム油とヤシ油はまったく別のものである。

栄養面では飽和脂肪酸(パルチミン酸)と不飽和脂肪酸(オレイン酸)が多く、ほかにリノール酸、ステアリン酸、ビタミンEが含まれている。また、酸化や加熱に対して高い安定性を持つ。

植物油のなかで目立つ特徴のひとつとして、製品にしたときの状態が2種類あることがあげられる。大豆油や菜種油などの植物油が常温で液状を保つことに対し、パーム油は液状と固形の中間だが、工法によって液状と固形のいずれかの生産が可能である。

パーム油に含まれるパルミチン酸の融点は 57.6~62.5℃、オレイン酸の融点は13~14℃だ。この違いを利用し、2種類の脂肪酸の割合をコントロールすれば、製品の状態を液状と固形に振り分けられるのである。

この性質はほかの植物油と大きく異なる特徴だ。その性質がパーム油の用途を広げている。

何に使われているのか

パーム油の用途はとても広い。リーズナブルな価格であるということ、前述のパーム油の性質が、利用するシーンのバリエーションを広げている。従来の植物油ではコスト面や性質が理由で難しかった用途でも、パーム油なら対応できるケースが多い。

実際のところ、「成分表でパーム油という表記を見た覚えがない」という人もいるかもしれない。しかしパーム油は身近な製品にも使われている。パーム油由来の成分は別の名称で表記されることが多く、一見しただけでは気付かないことがあるのだ。

たとえば「植物油」「植物油脂」「ショートニング」「マーガリン」「香料」「乳化剤」「グリセリン」「界面活性剤」。これらのすべてがパーム油のみで構成されているわけではないが、パーム油が利用されるのはたしかである。

具体的な商品の例としては、食品ならラクトアイスチョコレートフライタイプの即席麺などが代表的だ。食品以外なら洗剤やシャンプー、口紅、歯磨きペーストなどの日用品にも使われている。

ラクトアイスやチョコレートは口のなかでほろりととろける食感がおいしさのひとつだろう。この食感に、融点が比較的低いオレイン酸の性質を活かした固形のパーム油が使われている。

フライタイプの即席麺に使われる揚げ油は液体のパーム油が多い。前述のとおり、酸化や加熱に対して高い安定性を持つためだ。この安定性は賞味期限が長い油性食品の品質保持に役立っている。同様の理由で揚げ菓子にもよく使われる。

パーム油は、2016年頃にはバイオマス燃料として注目された。しかし生産過程において環境破壊が確認され(後述)、欧州では規制が進んでいるアメリカでは使用すら認められていない

日本ではいまだバイオマス燃料として使用が可能だが、環境団体からの批判やESG投資でネガティブな印象をまねく事態が懸念される。

パーム油の問題点

コスト面や独自の性質で利便性が高いパーム油は、世界でもっとも多く消費されるようになった一方、生産にともなう問題を生み出してしまっている。

とくに環境への影響が顕著である。また、人権問題も確認されている。利便性の裏には看過しがたい問題があることも意識しておくべきだろう。

熱帯林への影響

パーム油の生産量増加は熱帯雨林の減少を引き起こした。

パーム油の原料・アブラヤシは熱帯雨林で育つ植物だ。とくにインドネシア、マレーシアはパーム油の二大生産国としてつねにトップをマークしている。

アブラヤシの生産に適したエリアと熱帯雨林のエリアは重なっている。パーム油の生産国は増産のため熱帯雨林を伐採し、アブラヤシのプランテーションを開発した。結果として熱帯雨林が大幅に減少したのである。

インドネシアのスマトラ島を例にしよう。スマトラ島は日本の面積の1.25倍の広さを持つ島だ。現在、世界でもっともパーム油の生産が盛んなエリアでもある。しかし1985年には島の面積の58%あった熱帯雨林が2016年にはプランテーションの開発によって24%まで減少してしまった。

従来、熱帯雨林は地球環境維持の一役をになう存在である。とくに二酸化炭素の吸収は地球温暖化をセーブする重要な役割だ。熱帯雨林の減少は地球温暖化の加速につながる。

また、熱帯雨林の伐採からプランテーション開発の過程において、温室効果ガスの排出が確認されていることも問題のひとつとして認識したい。

泥炭地への影響

アブラヤシのプランテーション開発では、泥炭地への影響も問題視されている。プランテーション開発は森林に隣接する泥炭地の水を抜き、燃やす過程があるが、その泥炭地は大量の炭素を含んでいる。

泥炭地自体は地球面積の約3%にすぎない大きさだが、含んでいる炭素は地球の全森林を合計した量よりも多い。世界の化石燃料を100年分燃焼させたときに発生する量だと言われている。「地球の火薬庫」と呼ばれるほどだ。

燃焼させれば温室効果ガスが排出される。結果として地球温暖化の加速の原因になってしまうことは想像にかたくない。

2011年と2015年には、インドネシアが泥炭地域と原生林地域を対象に、新規開発事業を凍結するモラトリアムを発効した。有効期限は2021年までとされていたが、その間もモラトリアムの抜け穴を突いて開発を続ける企業が多く、実効性が現状に追いつかないという結果に終わった。

泥炭地の無謀な開拓は後述の森林火災にも影響する。より実効性のある対策と、パーム油を必要とする人々への問題啓発が望まれるだろう。

森林火災への影響

パーム油のプランテーションは開発段階で森林・泥炭地への火入れがおこなわれる。この火入れによって引き起こされる森林火災は、パーム油にまつわる問題のなかでもとくに重要視されている

泥炭地は開発段階で水を抜き、乾燥させる。そのあとに草木を伐採して整地するのだが、このときに火がもちいられることが多い。点火されれば乾燥した地面を伝って燃え広がり、ときには火災をまねいてしまう。そもそも乾燥している時点で火災発生の危険性は高まっている状態だ。

インドネシアやマレーシアでは、とくに乾季(6~10月)の森林火災が多い。乾燥した泥炭から燃え広がった火は雨季まで完全な消火が難しく、その間、温暖化ガスを排出し続けることになる。

さらに火入れは開発手段の一種として認められておらず、法律で禁じられた方法である。しかし手っ取り早い方法としていまだにもちいられており、森林火災問題が解決しない原因だ。

このようにして引き起こされた森林火災は、煙害(ヘイズ)も引き起こす。火災によって発生した煙霧はインドネシアのみならず、近隣諸国まで流れてしまう。煙霧に含まれたPM2.5のような有害物質により、喘息をはじめとした健康被害も報告されている。(※1)

1997年、1998年にはインドネシアで大規模な森林火災が起きた。パーム油生産のための火入れが原因のひとつだと言われている。

近年では2015年に大規模な森林火災が発生した。このときの被害は約221兆円の経済的損失と、東京都の約12倍にもなる261万ヘクタールもの森林消失だった。

生物多様性への影響

熱帯雨林の減少は複数の悪影響をおよぼす。とくに生物多様性の損失は大きい。パーム油プランテーションの生物種の数は、熱帯雨林の生物種と比較すると15%しかいなくなったという報告があるほどだ。(※2)

熱帯雨林の減少ですみかを追われた絶滅危惧種も多い。オランウータンは生息地の80%が失われた。すみかだけではなく、同様に餌場も失われている。そのため食糧を求めてプランテーションへあらわれ、害獣として扱われることも少なくない。

オランウータン以外の動物にも被害が広がっている。オランウータンと同様にすみかと餌場を追われた動物たちがプランテーションへ入り込み、結果として荒らしてしまうのだ。ゾウのような大型動物と遭遇し、住民が死傷するかなしい事故まで起きてしまったこともある。

住民は動物たちを害獣と認識し、毒入りの餌や罠での対処を選択せざるを得なくなっている。住民の命や仕事を守るために仕方がないとはいえ、生物多様性をおびやかす重大な問題であることは間違いない。

生産者への影響

パーム油の生産は生産者への影響も確認されている。パーム油の生産のにない手は、現在2種類に分けられる。プランテーションを経営する大規模な企業・業者と、2ヘクタール程度の農地で生産する小規模農家だ。意外かもしれないが、パーム油全生産量の40%は小規模農家の手によるものである。

大規模な企業や業者は資金力・技術力でさまざまな問題に対処しやすい。しかし小規模農家は資金面や人的コスト面で思うようにいかない現実がある。そのため前述の森林破壊や火入れを続けざるを得ず、結果として大規模な環境破壊を引き起こしてしまう

また、大規模なプランテーションでも問題がないわけではない。とくに雇用されて働く人々の人権をおびやかす環境が問題視されている。

移住労働者や日雇い労働者が多く、最低賃金以下の報酬で働かせるプランテーションがある。外国人労働者からはパスポートを取り上げる事例さえあるという。適切な環境を整えないまま農薬散布に従事する労働者もいる。労働者の権利が守られているとは言いがたい。

さらに児童労働も確認されている。とうてい許されない環境が存在することは間違いないだろう。アメリカではパーム油を「児童・強制労働によって生産された物品」に認定しているほどだ。(※3)

労働監査を行う国際組織VERITEの報告によると、パーム油の生産大国であるインドネシア、マレーシアをはじめ、ミャンマー、エクアドル、シエラレオネが児童・強制労働をおこなっていると見られる(※4)。一刻も早い解決が望まれる問題だろう。

パーム油を取り巻く現状

問題を抱える一方、パーム油は世界でもっとも多く消費されている油だ。それにともない生産量も増加傾向にあり、毎年約7,000万tが生産されている。日本植物油協会によると、2010年には約5,000万tだった生産量は、2019年には約7,400万tまで増加した。(※5)

2050年までに世界人口は90億人に達し、パーム油の需要もさらに増えると予測されている。(※6)

生産環境に問題が認められながらもパーム油の需要は増している。だが生産には前述のような問題がつきまとうこともたしかだ。

そこで2002年、世界自然保護基金(WWF)が呼びかけ、2004年に非営利組織「RSPO(Roundtable on Sustainable Palm Oil、持続可能なパーム油のための円卓会議)」が設立された。世界から3,000以上の組織が参加し、年に一度、世界規模の会議が開催されている。

日本における一人当たりの消費量

日本における一人当たりの消費量を見てみよう。日本植物油協会によると、日本人一人当たりの消費量は18.5kgほどだという。数字にすると多いが、国際的にはむしろ少ない部類に入る。

同じく日本植物油協会のデータでは、一人当たりの消費量が多い5カ国がわかる。マレーシアの一人当たりの消費量は113.4kg、ベルギーは73.5kg、デンマークは52.9kg、スペインは43.2 kg、アメリカは36.8kgである。

日本はパーム油以外に大豆油・菜種油・オリーブオイルなど、植物油の選択肢が豊富であることも関係しているのだろう。

パーム油問題に対する世界の取り組み・対策

パーム油問題は世界が注視し、解決のために努力するべきアジェンダとして認識されている。すでにおこなわれているいくつもの取り組みや対策を紹介する。

RSPOの発足と活動

RSPOのロゴ

前述した非営利組織「RSPO(Roundtable on Sustainable Palm Oil、持続可能なパーム油のための円卓会議)」は、パーム油問題解決のために設立された。「8つの原則」を設定し、持続可能なパーム油がスタンダードになる市場への変革を目指している。

活動のなかで見られる大きな成果のひとつは認証制度だ。認証を受けたパーム油は非認証パーム油と異なる「認証パーム油」として消費者にアピールできる。認証は4つの種類に分けられている。

1. Identity Preserved
生産農園が特定できる。製造の最終段階まで認証事項をクリアした、もっとも高いレベルの認証。

2. Segregation
複数の農園で生産されたパーム油が混ざっている。しかし非認証パーム油は混ぜられていない。

3. Mass Balance
流通過程で認証パーム油と非認証パーム油が混ざっている。認証パーム油としては純粋ではないが、生産農園の特定と数量の確認が可能。

4. Book&Claim
認証パーム油を証券化し、生産者・最終製造者・販売者の間で台帳方式の取引をおこなう。扱われるのは非認証パーム油だが、証券を購入することによって生産者に利益を還元する。

WWFジャパン、WWFインドネシアによる小規模農家支援

パーム油の小規模農家が持続可能なパーム油の生産に取り組むための支援。スマトラ島、ボルネオ島の小規模農家が対象になっている。

大規模なプランテーションを経営する企業と異なり、小規模農家はRSPOの認証基準を満たすための環境を整えにくい。適切な環境を整えられるよう、WWFジャパン、WWFインドネシアは積極的な支援に取り組んでいる。

パナソニック 「PALM LOOP(パームループ)」技術の開発

パナソニックはアブラヤシ廃材を活用する技術「PALM LOOP(パームループ)」を開発した。(※7)

パーム油の原料であるアブラヤシは、廃材となって農園に放置され、腐敗・分解が進み温室効果ガスを発生させる。PALM LOOPはその廃材を活用した再生木質ボード化技術である。

PALM LOOPによって再生されたアブラヤシの廃材は、ベッドやソファなどの家具製品に使うことも可能だ。世界的な木材不足が懸念される現代、アブラヤシの廃材利用は見逃せない新技術だと言える。

森林破壊の抑制やアブラヤシの原産国で雇用を生み出す可能性を持つ取り組みである一面にも注目したい。

私たちにできること

一消費者として私たちにできることは何だろうか。いくつかの方法を考えてみよう。

RSPO認証を受けたパーム油を選ぶ

日本のライフスタイルでは、パーム油そのものを購入する機会はあまりないかもしれない。しかし加工食品や生活用品の多くでパーム油を消費している。RSPO認証を受けたパーム油を使った製品を選べばパーム油問題の解決に貢献できるだろう。

パーム油フリー製品を選ぶ

一般的な製品ではパーム油を使っていても、なかにはパーム油フリーのものがある。「パームフリー」と呼ばれることが多い。日常的に使用する製品を購入するとき、パームフリー製品を選ぶのも問題解決の後押しになる。身近で探しにくいときにはECサイトで検索してみるとヒットしやすい。

ドネーションプロジェクトにアクセスする

パーム油問題解決のため、NPO団体へ寄付するのも有益だ。

たとえば、認定NPO法人ボルネオ保全トラスト・ジャパンでは熱帯雨林を獲得するための寄付金をつのるドネーションプロジェクトや、特定商品の売り上げの一部を熱帯雨林保護活動に寄付するプロジェクトをプロデュースしている。このような活動を通せば、無理のない範囲でパーム油問題の解決にたずさわれるだろう。

対岸の火事ではないパーム油問題

パーム油問題は決して他人ごとではない。私たちの生活に浸透しているパーム油の多くは、深刻な環境破壊と児童労働を含めた人権侵害が関わっている。

しかし、問題解決のために多くの人々が尽力し、さまざまな取り組みが進められていることもまた事実だ。一人ひとりができることからスタートし、パーム油問題の解決を進めていこう。

※掲載している情報は、2023年2月7日時点のものです。

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