豊かな自然と独自の文化を大切に守り続けるハワイ。2015年にはハワイ州が米国で初めてプラスチック袋の有料化を導入し、2022年には海洋生物に影響を与える日焼け止めの流通・販売を禁止するなど、さまざまなサステナブルな取り組みを進めている。今回はそんなハワイで、日用雑貨、アパレル、スーパーマーケットの3つの分野から、環境への配慮が光る注目のストアを紹介しょう。
ELEMINIST Editor
エレミニスト編集部
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ハワイでは、プラスチック袋やプラスチック製の使い捨てカトラリーの有料化をいち早く導入するなど、プラスチックごみの規制を行ってきた。だがその一方で、海流にのって世界中から流れ着くプラスチックごみが今もビーチを脅かし続けている。
そんななか、「Keep it Simple(キープイットシンプル)」は、“ゼロウェイスト”をコンセプトに日常の中で手軽に取り入れられるサステナブルな商品を展開。ハワイではシャンプーなどの日用品の量り売りショップはまだ数少ないが、同店はそんな注目の店のひとつだ。
Keep it Simpleは、2020年12月に地元ハワイ出身の女性、ジルさんとハンターさんによって立ち上げられた。ふたりはビーチでのプラスチック汚染を目の当たりにし、「これらのごみは、私たち自身が使ったものかもしれない」という思いから、自らゼロ・ウェイストショップを始めることを決意。
そして、「サステナビリティは、罪悪感ではなく楽しく前向きに取り組めるもの」との考えから、ホノルルにカラフルで温かみのあるデザインの空間を生み出した。
店内には、植物由来のシャンプーやコンディショナー、ボディケア製品など、環境への配慮が徹底された商品が並ぶ。原料の透明性や企業の環境ポリシーを基準に厳選されており、液体製品は持参したマイボトルに詰め替えて購入することができる。また、キッチン用品やコスメ、地元のデザイナーによるアパレルなども取り扱っており、訪れる人々が楽しみながらサステナブルな選択できる工夫がされている。
「多くのお客様は、最初はゼロ・ウェイストのコンセプトに驚かれ、生活のなかでどれだけごみを減らせるかを知ると、さらに興味を持ってくれます。多くの人が小さな変化を積み重ね、サステナブルなライフスタイルに向けた第一歩を踏み出してくれるのを見ると、人々の環境への意識や願いがどんどん高まっているのを感じ、励まされます」(ジルさん、ハンターさん)
日本ではシャンプーやコンディショナーの詰め替え用が一般的だが、ハワイやアメリカではこうした商品があまり普及していない。Keep it Simpleでは、持参した容器にシャンプーやハンドソープを好きな量だけ詰め替えられる量り売りシステムを導入し、無駄のないエコなショッピングを可能にしている。
店内にはシャンプー、コンディショナー、ボディーソープからボディミスト、バスクリーナーや洗剤までさまざまな商品が揃う。さらに、歯磨き粉のタブレットやバスソルトなども大きなジャーから好きな分だけ瓶に詰めて購入できる。必要な分だけを手軽に購入でき、無駄を削減できるのが量り売りの魅力だ。
もし自宅に空き容器がない場合は、店内で販売されている再利用可能なボトルを購入できる。また、地元の人々が寄付した空き瓶やジャーなどを洗浄し、リサイクルボトルとして無償提供しているため、気軽にエコな買い物を体験できる。
左から順に、竹製スポンジ(4ドル)、キッチン用固形石けん(10ドル)、野菜ブラシ(9.99ドル)。
竹からつくられたスポンジは、長持ちする耐久性が魅力で、食器やシンクの掃除に幅広く使える。使い捨てスポンジの代わりにこれを使えば、キッチンでもサステナブルな生活が実現できる。野菜ブラシは凹凸が多い野菜もしっかりと洗える設計で、効率よく泥だけを取り除いてくれる。
また、カウアイ島産の100%天然由来のキッチン用固形石けんは、プラスチックボトル2~3本分の代替の節約につながる、ごみゼロの代替品。油汚れにも強く、キッチンや家庭のさまざまな汚れに対応できる万能クリーナー。
左から順に、歯磨き用タブレット「Tooth tabs」(6.5ドル/1オンス)、マウスウォッシュタブレット「Cool mint mouthwash tabs」(6.5ドル/1オンス)、竹製歯ブラシ(5ドル)、竹製歯ブラシスタンド(3ドル)、竹製製歯ブラシケース(8.5ドル)。
竹製の歯ブラシやスタンド、ケースはKeep it Simpleのオリジナル。無駄のないシンプルなデザインで、ロゴ入りのアイテムだ。歯磨き粉とマウスウォッシュはタブレットで販売されており、こちらも量り売りが可能。このブランドはプラスチックフリーで、100%ヴィーガンかつ動物実験を行っていない点も魅力。サンプルパックもあり、手軽に試すことができる。
固形シャンプー「Kealia Shampoo & Conditioner Bars」(14ドル)。
ハワイのカウアイ島でつくられた天然素材100%のシャンプーバーは、髪に栄養を与える保湿と洗浄効果があり、香りやカラーも豊富。自然の恵みが詰まった商品だ。
Keep it simpleでは、ショップだけでなく、サステナビリティへの意識を楽しく高める体験型イベントも開催している。ビーチクリーンアップやサステナブルフェスティバル、エコキャンドルづくりなど、エコフレンドリーなイベントを企画している。
ポップで気軽に取り入れられるアイテムを展開するKeep it simpleの取り組みは、地域の人々に少しずつ浸透している。ハワイを訪れた際はもちろん、オンラインで日本からも購入可能なので、ぜひのぞいてみてほしい。小さな一歩が、環境に大きなインパクトをもたらすと信じて。
Keep it Simple
3466 Waialae Ave Suite, Honolulu, HI 96816
店内に入るとすぐに「We're in business to save our home planet(私たちは、故郷である地球を救うためにビジネスを営む)」の企業理念のメッセージ。
環境保護への先進的な取り組みで知られる「Patagonia(パタゴニア)」は、2018年に企業理念を「私たちは、故郷である地球を救うためにビジネスを営む」と再定義した。この理念のもと、ハワイのカカアコ地区に位置する「パタゴニア・ホノルル」も、地域社会や自然環境へのサポートを積極的に行っている。
アメリカ本土の店舗と同様に、地元のNPO団体への支援プログラムを通じて、地域の自然環境保護団体をサポートしている。ハワイ諸島全域の山や海でのプロジェクトをサポートしており、店内のボードには支援団体とその活動内容が紹介されている。
パタゴニア・ホノルルでは、ハワイ州でもっとも古い環境保護NPO団体「ハワイ州自然保護協議会(CCH)」と共催するディナーパーティを毎年開催している。店舗内を特別な会場に変え、ケータリングやサイレントオークションが行われるこのイベントでは、毎年100〜150人もの参加者が集まり、CCHの1年間の活動内容を映像やプレゼンテーションを通じて学び、交流を深めているという。
パタゴニア・ホノルルのマネージャー、テイラーさん。
「創業者のシュイナード夫妻の理念に基づき、パタゴニア・ホノルルは単なる小売店にとどまらず、地域社会への『贈り物』として活用できるよう、設計されています。店舗では、映画上映会やワークショップ、NPO団体の活動発表など、月に2〜3回、地域貢献をテーマにしたイベントを定期的に開催しています」(マネージャーのテイラーさん)
これらのイベントの収益はすべて寄付に充てられ、地元の活動を支援するための大切な資金源となっている。
また、パタゴニア・ホノルルでは、すべてのスタッフに年間18時間の有給ボランティアのための時間「アクティビズム・アワー」が与えられている。スタッフは月に数回、地元の団体と協働しながら、実際のプロジェクトに参加して学ぶ機会を得ることで、パタゴニアの理念を体験しているそうだ。
店内には、ハワイの豊かな自然に寄り添い、サーフィンや登山などのアウトドアにぴったりのギアを豊富に取り揃えている。すべてのアイテムは環境に配慮した素材やプロセスでつくられ、それらは環境保護にまつわるストーリーとともに紹介されている。
最近では、年間売上の1%を草の根活動団体に寄付するプロジェクト「1% for the Planet」のメンバーでもあるBureo社と提携し、海洋廃棄物である廃漁網をリサイクルしたショーツを展開するなど、環境への影響を最小限に抑えつつ、持続可能なものづくりに取り組んでいる。
また、店内には、50セントでハワイ固有の植物の種を購入し、自宅で育てられる「native seed balls」マシンが設置されている。地域の森林再生をサポートするこのプロジェクトにより、来店者が森の保全活動に直接参加できる仕組みを提供している。
ローカルデザイナーとのコラボで生まれたグラフィックTシャツは、落ち着いたシンプルなデザインから、明るくポップなハワイならではのデザインが特徴だ。ストアオリジナルのTシャツが各種揃えられている。ハワイ土産にもピッタリだ。
Men's M10 Anorak(399ドル)。
登山用ジャケット「Men's M10 Anorak」は、防水性、通気性、耐候性を備えており、有機フッ素化合物(PFC/PFAS)不使用のナノポーラスシェル膜により、登山中でも蒸れにくい快適な着心地を実現。また、肩幅を広くし、胴体部分をやや細くすることで、ハーネスやバックパックの下でも快適にフィット。フェアトレード認証™工場で縫製されており、縫製工場で働く人たちへ適正な賃金が支払われている。
Roasted Garlic Mackerel(8ドル)。
責任を持って調達された大西洋産のサバを、ローストガーリックとエクストラバージンオリーブオイルで味付けされた缶詰。大西洋の野生のサバは小型で群れをなしながら数多く生息しているが、このサバを食べることで、マグロやメカジキのような数が少ない大型の魚への圧力を軽減することにつながる。缶は100%アルミニウム製でリサイクル可能。
建物は、アメリカ合衆国国家歴史登録財、およびハワイ歴史登録財に登録されている。
世界各地で環境保護活動を推進しているパタゴニアは、ハワイでも地元NPO団体との連携や助成金プログラム、ボランティア活動を通じて、製品だけでなくコミュニティとともに環境保護の意識を高めている。
「パタゴニアがすごいのは、自分たちが掲げる目標に真摯に向き合い、それを行動で証明しているところ。そして、自ら開発した技術を他社とも共有し、業界全体での持続可能な成長を目指している」と、マネージャーのテイラーさんは語る。
「実際に、パタゴニアが最初にウェットスーツに導入した『ユーレックス天然ラバー』の技術は、今では他社も採用し始めていて、持続可能な選択肢が広がってきていると感じます」(テイラーさん)
Patagonia Honolulu
535 Ward Ave. Honolulu, HI 96814
オーガニックの野菜やフルーツが豊富。
1977年、マウイ島で自然食品ストアとしてスタートした「Down to Earth(ダウン・トゥ・アース)」。創業以来、オーガニック&ナチュラル製品とベジタリアンライフスタイルを通じて、ハワイの人々の健康を支えてきた。現在、ハワイ州で6店舗を展開し、現地の多くの人々に親しまれている。
ハワイは食料などの物資の大半について、州外からの輸送に大きく依存しており、輸送コストによる食料価格の高騰や、天候や物流の混乱によるリスクが問題となっている。Down to Earthでは、地元で生産されるオーガニックかつ持続可能な食品を優先的に取り扱うことで、ハワイの食料システムの強化に貢献している。
店内には、オーガニックの食料品や家庭用品のほか、日本では手に入りにくいビタミンやサプリメント、コスメ、ボディケア製品まで、幅広い商品が揃っている。ハワイ産の商品や、数々の受賞歴のあるベジタリアンデリやブッフェも充実のラインアップ。すべての商品は、「新鮮」「地産」「自然」「オーガニック」「植物由来」という基準をもとに厳選されている。
創業以来、Down to Earthではオーガニック食品や自然食品にこだわり、持続可能な未来を目指した取り組みを続けている。オーガニック食品は、農薬や化学肥料の使用を抑えることで土壌を守ることができる、環境にやさしい選択。そして、合成成分を一切使わず、加工を最小限に抑えたナチュラルフードは、資源の消費を抑えたエコな食品だ。
また、植物性食品を中心としたベジタリアンフードは、エネルギー消費を抑え、気候変動対策にも効果的な地球にやさしい食のスタイル。Down to Earthのベジタリアンフードは、まさに環境や健康に配慮した選択をしたい人々にぴったりなのだ。実際に、週に数回の食事をDown to Earthのヘルシーな食品に置き換えることで、減量したり、悪玉コレステロールが減ったり、血圧が下がったり、単純に気分が良くなったという声もあるそう。
デリカテッセン(テイクアウト専用の惣菜を販売する店)には、サラダバーやホットバー、テイクアウトメニューなど、60種類以上の料理やドリンクが揃う。すべて、肉類不使用の100%ベジタリアン。創業以来、徹底してベジタリアンの食材だけを提供し続けている。
「環境や健康、そして動物福祉のために個人としてできるもっとも重要なことは、植物性、ベジタリアン食を選ぶこと」だとDown to Earthはいう。100%ベジタリアンの料理や地元の農産物を取り入れれば、それらがもたらすポジティブな変化を日々の生活で実感できるだろう。
また、Down to Earthは、資源の効率的な利用にも取り組んでいる。各店舗ではエネルギー使用量を抑えるために冷蔵コーナーの温度管理システムや高効率LED照明を導入し、リサイクル可能なショッピングバッグや生分解性プラスチックを使用。また、再利用できる水筒や環境にやさしい掃除グッズなど、エコな生活用品も多く展開している。
さらに、地元の農家や生産者と協力して有機農法を奨励し、寄付金で農場をサポート。コミュニティのワークショップやクラスを通じて、地域コミュニティでの持続可能なライフスタイルの普及も進めている。
「Armored Fresh」Oat Milk Cheddar Slices(8.19ドル)。
オーツミルクでつくられたチェダーチーズ。従来のチェダーチーズと同等のクリーミーな味わいが楽しめる。1パック10枚入り。
「OATLY(オートリー)」Oat milk chocolate(5.99ドル)。
北欧スウェーデン発のオーツミルクブランド「OATLY」。植物由来で、カルシウムとビタミンD2、ビタミンB12、その他ビタミンやミネラルを配合したチョコレートオーツドリンク。使用されているカカオは、オーツココア・ホライズン財団の認証を受けたもの。カカオもオーツ麦も植物由来なので、ベジタリアンの人も安心して飲める。
Down to Earthオリジナル Vagan Banana walnut bread slice(2.99ドル)。
オーガニックのバナナやココナッツシュガーなど、100%ヴィーガンのバナナブレッド。しっとりしていて甘さもちょうどよく、朝食やおやつに人気の商品だそう。
店内にはベジタリアンやビーガンだけでなく、健康を意識したあらゆる層の人々が訪れている。1977年の創業当時、オーガニックやベジタリアンフードは一般的ではなかったものの、今ではハワイの多くの人がその価値やメリットを理解し、取り入れつつある。Down to Earthは、これからも地元の人々のライフスタイルを支える大切な存在であり続けるだろう。
Down to Earth
500 Keawe St Honolulu, HI 96813
ハワイ州では「マラマハワイ(Mālama Hawaiʻi)」というスローガンを掲げ、旅先を訪れる人々にも責任ある行動をとってもらうレスポンシブル・ツーリズムを呼びかけている。この「マラマ」とは、ハワイ語で「思いやりの心」の意味。同じ地域に暮らす人と、地球や自然を思いやる心を持とうというもので、ハワイの人々に自然と息づいてきた考えとも共通する。
ここで紹介した店の取り組みも、まさに人や自然への愛と思いやりにあふれるものばかり。日本にいる私たちにとっても、あらゆることの原点ともいえるマラマの心から、学ぶことがあるのではないだろうか。
写真/熊谷晃 取材・執筆/藤井由香里 編集/佐藤まきこ(ELEMINIST編集部)
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