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従来の詰め込み型の教育とは異なった、リベラルアーツ教育が注目されている。学生は幅広い分野を横断的に学ぶことで、さまざまな視点からあらゆる課題に対応可能となる。この記事ではリベラルアーツ教育の定義や起源、代表的なカリキュラム内容を紹介する。
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リベラルアーツ教育とは、特定の専門分野にとどまらず、幅広い学問領域を横断的に学ぶ教育のことである。横断的な学びの方法は古代ギリシア・ローマの時代から存在するが、現代では多様な知識と柔軟な思考力を育てる教育システムとして注目されている。リベラルアーツ教育は、学生が単に知識を得るだけでなく、自己を発見し自らの将来に向けて能動的に学ぶことを促す教育だ。(※1)
リベラルアーツの起源は古代ギリシャにさかのぼり、体系化されたのはローマ時代。この時代、自由市民にふさわしい学問とされていたのがリベラルアーツであり、「自由な人間(liber)のための技芸(artes)」という意味を持つ。
当時は言語、論理、数学、音楽、天文学、倫理といった分野の学びがリベラルアーツとして位置づけられ、後の時代にもその理念が受け継がれた。中世ヨーロッパでは七つの自由学芸(文法、修辞学、論理学、算術、幾何学、音楽、天文学)が体系化され、現代のリベラルアーツ教育の基礎となっている。(※2)
リベラルアーツ教育の特徴は、学ぶ範囲の大きさと柔軟な思考力にある。他の教育では一般的に一つの専門分野に特化して深く学ぶのに対し、リベラルアーツ教育では幅広い分野を学ぶことが重視される。あらゆる分野の知識を統合し、異なる視点から物事を考える力が培われるため、特定の職業やスキルに縛られず、さまざまな分野での活躍が期待される人材を育成するのが大きな特徴だ。
現代社会において、リベラルアーツ教育が再び注目されている。その理由は、柔軟で多面的な学びが急速に変化する社会に対応できる力を養うためである。いまやテクノロジーやグローバル化の進展により、問題が複雑化し、常に新しい発想や解決策が求められる時代となった。リベラルアーツ教育は、単なる知識の習得にとどまらず、幅広い視点から物事をとらえる柔軟な思考力や批判的な判断力を育成し、未知の課題にも積極的に取り組める人材の育成を目指している。(※1)(※2)
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リベラルアーツ教育の特徴は、学生が自らの興味に基づいて幅広い分野に触れ、多様な視点を身につけながら学びを深めていける点にある。また知識の習得を超えて思考力や創造力を育み、自己発見を促進することも重視される。この章では、リベラルアーツ教育が持つ具体的な特徴について詳しく見ていく。(※2、※3)
リベラルアーツ教育では、人文学、社会科学、自然科学、芸術、哲学など、多岐にわたる分野を学ぶ機会が与えられる。学生はこれらの中から自身の関心に応じて複数分野を選び、知識の幅を広げることができる。文学を学びながら同時に科学技術の基礎を理解したり、社会問題を哲学的視点で考察したりと、特定の課題に対しさまざまな視点でアプローチする。横断的に学ぶことで知識を統合的にとらえ、異なる視点から物事を分析する力が養われる。
リベラルアーツ教育では、単に事実や情報を学ぶだけでなく、批判的な思考力や創造力を重視する。例えば哲学や歴史などの分野で深い思索や議論を通じて、自分の考えを論理的に展開する力が求められる。学生は講師から情報をただ受け取るのではなく、自ら問いを立て、根本から物事を考える習慣を身につけることができる。
リベラルアーツ教育では、学生が自らの興味や関心に基づいて学ぶことが大切である。決められたカリキュラムに沿って学ぶだけでなく、学びのなかで自分の興味の方向性を見出し、将来の目標や価値観を発見していくプロセスが重要だ。その過程において、当初と学びたい分野が変わることも認められる。多様な分野に触れる中で、自分の強みや興味を発見し、それに基づいた学びを進めることで、より自己理解が深まり、将来のキャリア形成にもつながる。
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リベラルアーツ教育は、単なる知識の習得ではなく、多面的な視点を育て複雑な社会課題にも対応できる人材を育成することに価値がある。この章ではリベラルアーツ教育がもたらす具体的なメリットを挙げ、どのように社会や個人に貢献するかを考える。
リベラルアーツは哲学、心理学、歴史、物理学、芸術など多様な分野を横断的に学ぶことが可能で、幅広い知見と教養を得ることが可能だ。また、何を重視するかは、自分の興味や適性に合わせて入学後にゆっくり見極めらる。(※4)
リベラルアーツ教育では、クリオティカルシンキングが重視されるため、学生は他者と意見を交わしながら自分の考えを明確に伝える力を磨くことができる。話す力や聞く力などのコミュニケーション能力が育まれることで、チームでの協働や国際的な場での対話など、さまざまな場面で活かされる。(※4)
幅広い分野の知識を学ぶリベラルアーツ教育は、複雑な問題に対しても柔軟な視点で取り組むことができるよう、歴史や科学などの幅広い分野に触れる。そのため、多面的に物事を考える洞察力や、新しいアイデアを生み出す発想力が鍛えらるだろう。(※5)
リベラルアーツ教育では、多様な文化や価値観を学ぶとともに倫理や社会問題に対する姿勢を育む。ビジネスリーダーとして求められる教養が身につき、初対面の人との会話やエグゼクティブ同士の社交をスムーズに進められる素養が培われる。(※5)
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リベラルアーツ教育には幅広い視点や思考力を育むメリットがあるが、一方でいくつかの課題やデメリットも抱えている。
リベラルアーツ教育は、幅広い分野を学ぶことで総合的な知識を養うことを目的としているため、専門的な知識の習得が難しいことがある。弁護士や医者、プログラマーなど特定の職業に直結するスキルや深い専門性が求められる場合には、他の専門教育が必要となる。(※4)
リベラルアーツ学習では幅広い分野を学ぶため、学生にとっては多くの選択肢があることが利点だが、同時に自分の興味や将来の目標に合った科目を選ぶ難しさもともなう。なかでも、医者や弁護士など専門職を目指す学生は注意が必要だ。(※4)
幅広い分野を横断的に学ぶリベラルアーツ教育では、通常の専門教育に比べて学習にかかる時間が多くなることがある。卒業要件を満たすための必修科目が多く、特定分野の研究に集中する時間が限られることも念頭に入れる必要がある。(※4)
リベラルアーツ教育の成果を測る評価基準は、従来の教育と比べて曖昧になりがちである。専門性という観点から「仕事には役に立たない」と思われがちな部分があり、短期的な成果を求める人には適さないかもしれない。(※5)
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リベラルアーツ教育のカリキュラムは、学生が主体的に幅広い分野を横断的に学べるよう設計されている。ここでは代表的なカリキュラム要素を紹介する。(※2)(※6)
リベラルアーツ教育では、基礎的な知識を身につけるための必修科目と、個々の興味に応じて自由に選択できる選択科目が設定されている。必修科目には哲学、倫理学、科学基礎、コミュニケーションスキルなどが含まれることが多く、学生は基礎を学びながら自らの興味を探求できる柔軟なカリキュラム構成が可能だ。
リベラルアーツ教育では、学内の学びに加えてインターンシップやフィールドワークなどの学外活動が組み込まれることが多い。例えば企業や地域社会での活動を通じて理論と実践の融合を図るプログラムが提供され、実社会での経験を通じて学びを実践する機会を得られる。
リベラルアーツ教育では、講義形式の授業だけでなく議論や討論を重視した授業も行われる。学生が自分の意見を表現し、他者の考えを理解することでコミュニケーション能力や批判的思考が養われる。リベラルアーツ教育のなかでも重要な過程で、学生の主体性を育んでいる。
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リベラルアーツ教育はとくに欧米諸国において広く実践されているが、日本でも近年その重要性が見直され、リベラルアーツ教育を提供する大学が増えている。ここでは代表的な事例を紹介する。
アメリカには、リベラルアーツ教育を中心に据えた大学やカレッジが多数存在する。例えばウェズリアン大学やアマーストカレッジなどのリベラルアーツカレッジは、少人数制の授業を重視し、学生の総合的な知識や批判的思考を育む教育を提供している。またヨーロッパでは、ドイツやオランダなどでもリベラルアーツプログラムが普及し、各大学が独自の教育システムを取り入れている。(※7)(※8)
日本でもリベラルアーツ教育を取り入れる大学が増えつつある。代表的な例として、国際基督教大学(ICU)や上智大学が挙げられる。これらの大学は人文学や社会科学、自然科学など幅広い分野の学びを提供し、学生が自由に興味を持つ分野を探求できる環境を整えている。また京都大学も総合教育の一環としてリベラルアーツ教育を提供しており、学生が異なる分野の視点から総合的な知識を身につけられるカリキュラムが組まれている。(※3)(※9)(※10)
リベラルアーツ教育は、変化の激しい現代社会において柔軟な思考力と総合的な問題解決能力を持つ人材を育成するための手段として注目されている。学生が自らの興味や関心に基づいて学びを深め、多角的な視野を持つことは、社会に出てからの大きな力となる。幅広い分野の知識と自己発見の機会を得られるリベラルアーツ教育は、時代に必要とされる学習体系といえるだろう。
※1 リベラルアーツについて知る|夢ナビ編集部
※2 リベラルアーツとは|桜美林大学
※3 リベラルアーツ|ICU
※4 リベラルアーツカレッジとは?特徴やアメリカの大学例を紹介|KDDI株式会社
※5 リベラルアーツ「全然学ばない人、学ぶ人」の大差|東洋経済オンライン
※6 カリキュラム|広島大学
※7 Wesleyan University|Wesleyan University
※8 Amherst College|Amherst College
※9 国際教養学部|上智大学
※10 京都大学|京都大学
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