ユネスコスクールとは 活動内容や加盟のメリット、SDGsとの関係について解説

机に座って勉強する子どもたち

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ユネスコスクールとは、ユネスコの理念に則った教育を行う学校のこと。持続可能な開発のための教育を推進する拠点として重要視されており、世界的に広がりを見せている。本記事では、ユネスコスクールについてわかりやすく解説。具体的な活動内容や加盟のメリット、加盟方法なども紹介する。

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2024.11.29

ユネスコスクールとは

お絵描きをする子どもとクレヨン

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ユネスコスクールとは、国際的なネットワーク「ASPnet(UNESCO Associated Schools Prpject Network)」に加盟を認められた学校のことを指す。ASPnetは、ユネスコの理念を学校現場で実践・推進するために、1953年に発足した。

ユネスコスクールでは、若者が地球規模の課題に対処できるようになるために、持続可能な開発のための教育(ESD)を取り入れている。文部科学省や日本ユネスコ国内委員会は、ユネスコスクールをESDの推進に欠かせない拠点ととらえ、国内での取り組みを進めている。(※1)

日本でユネスコスクールとして承認されている学校は、2024年4月時点で1,088校。「ユネスコスクール・キャンディデート」として、承認を待っている学校も多くある。(※2)

そもそもユネスコとは

ユネスコの正式名称は、「国際連合教育科学文化機関(United Nations Educational, Scientific and Cultural Organization U.N.E.S.C.O.)。1946年に設立された国連の専門機関であり、各国の教育、科学、文化の交流を通して、国際平和や福祉を促進する役割を果たしている。加盟国は、2024年7月時点で194か国にのぼる。(※3)

ユネスコ憲章の前文には、以下の一文がある。

「戦争は人の心の中で生まれるものであるから、人の心の中に平和のとりでを築かなければならない。」

前文には、世界大戦への反省や、正義・自由・平和のための教育の重要性などが記されている。

ユネスコの活動は多岐にわたるが、主なものに、すべての人が教育を受けられる環境づくりや自然・文化遺産の保護がある。(※4)2016年からは「SDG4-Education 2030」の主導機関としての役割も担っており、SDGsの目標4「質の高い教育をみんなに」の目標達成に向けた取り組みを推進している。(※5)

ユネスコスクールの歴史と発展

ユネスコスクールは、1953年に「世界共同社会に生きるための教育における協同実験活動計画」として発足した。16か国33校が参加し、活動対象は中学校・高等学校と限定的だった。その後、プロジェクト名が「国際理解と国際協力のための教育におけるユネスコスクールプロジェクト」に変更され、活動内容や活動対象が広がっていった。(※6)

現在は、世界最大規模の学校ネットワークに成長。182か国12,000校以上がASPnetに加盟している。日本における加盟校数は、1か国あたりで世界最大である。(※7)

ユネスコスクールの学びの4本柱とは

ユネスコスクールが目指すのは、「心の中に平和のとりでを築く」こと。これは、ユネスコ憲章の理念に則っている。また、ユネスコスクールでは、ユネスコが提唱している「学びの4本柱」を重視し、活動を行っている。(※8)

「学びの4本柱」は以下の通り。

・知ることを学ぶ:世界を理解するために、学習基盤をつくる
・為すことを学ぶ:グローバル化する社会で対応するためのスキルを習得する
・人間として生きることを学ぶ:バランスの取れた情緒や身体を育む
・共に生きることを学ぶ:平和に生きるために、人権・民主主義・異文化理解と尊重・平和と人間関係に触れる

ユネスコスクールの目的と理念

上述したように、ユネスコスクールは、児童や生徒の「心の中に平和のとりでを築く」ことを目指して活動している。活動の目的はさまざまあるが、一番は、ユネスコ憲章の理念を理解し、以下のような多分野における国際連携を推進することだろう。

・基本的人権
・人間の尊厳
・ジェンダー平等
・社会的進歩
・自由
・公正
・民主主義
・多様性の尊重

国際ネットワークとして活動することで、志を同じくする世界中の人々とつながり、パートナーシップを育みやすくする目的もある。結果として、SDGsの達成に結びつく。

また、学校現場にグローバルな概念を落とし込むことで、新たな教育手法を開拓する狙いもある。(※9)ユネスコスクールは、よりよい未来のための持続可能な施策といえる。

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アカデミックキャップを投げる学生たち

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ユネスコスクールでは国際社会の一員としての意識を高めるために、「地球市民および平和と非暴力の文化」「持続可能な開発および持続可能なライフスタイル」「異文化学習および文化の多様性と文化遺産の尊重」の3つのテーマを重視している。(※10)

個々の加盟校に、カリキュラムに関する細かな義務があるわけではない。持続可能な開発のための教育を推進するために、教科横断的な活動やネットワークの活用が求められている。以下では、ユネスコスクールの主要な活動を紹介する。

持続可能な開発のための教育(ESD)

ユネスコスクールはESDの推進拠点として位置付けられており、ESDを念頭に置いた活動が重視されている。ESDとは、「持続可能な開発のための教育(Education for Sustainable Development)」。環境・経済・社会の地球規模の課題を自分ごととしてとらえ、解決のために行動できるようになるための教育だ。日本が提唱した考え方であり、いまでは国際的に広がりを見せている。(※11)

ユネスコスクールにおけるESDの主要な動きとしては、サステイナブルスクールがある。2016年度からは全国24校がESD重点校に指定され、支援を受けながら3年にわたる活動を行った。他校や地域との連携を取りながら、各校らしい実践的な取り組みを進めた。(※12)

グローバル・シチズンシップ教育

グローバル・シチズンシップ教育(Global Citizenship Education)は、「地球市民教育」とも呼ばれる枠組みだ。2012年に国連によって発表された「グローバル教育最優先イニシアティブ(Global Education First Initiative)」の優先分野として挙げられたことで注目され、以来ユネスコでも取り組みを進めている。

グローバル・シチズンシップ教育が目指すのは、人々が国際的な問題に向き合う際に、国際的な視野で平和的に解決に向けて動き、持続可能な世界の実現に貢献できるようになることだ。具体的には、包括的な視野で物事をとらえられるようになること、さまざまな人を巻き込んで課題を解決することなどが理想とされる。上述したESDと並列でとらえられることが多い。(※13)

これはまさに、ユネスコスクールが大事にしている「学びの4本柱」と共通する。ユネスコスクールを通して提供されるプログラムへの参加や加盟校同士の連携によって、育まれる部分だろう。実際に、グローバル・シチズンシップ教育に関するプロジェクトも行われている。(※14)

平和と人権教育

2023年11月に開催されたユネスコ総会で、加盟国によって「平和、人権、持続可能な開発のための教育に関する勧告」が採択された。世界に永続的な平和をもたらすための、指導原則が記された基準書だ。(※15)

ユネスコ設立背景からもわかる通り、平和と人権は、ユネスコがもっとも重要視するテーマのひとつだ。ユネスコスクールでも、平和と人権教育を軸に活動を行う学校が多数ある。(※16)国際理解を深めることで、平和や人権について学び、社会に貢献する人間になることを目指す。

国際交流プログラム

ユネスコスクールでは、世界各国に広がるネットワークを生かして、国内外問わずさまざまな交流ができる。実際に、学校訪問を通しての異文化交流やオンラインでのコミュニケーションなどが多く行われている。(※17)ユネスコスクールを通して提供される海外のプロジェクトに参加することで、国際的な視野を育てることも可能だろう。教員や関係者間での交流会も行われている。(※18)

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ユネスコスクールに加盟するメリット

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ユネスコスクールの加盟校が増加するにつれ、加盟待ちの学校も増えている。広まりの背景には、ESDが注目されていることもあるが、加盟によるメリットが得られる点も大きいだろう。以下では、ユネスコスクールに加盟するメリットを紹介する。(※19)

多様な教育機会の提供

まずは、多様な教育機会が得られる点だ。ユネスコスクールに加盟することで、国内外での交流が活性化する。ユネスコ主催のプロジェクトに参加することで、ESDに基づいた実践的な学びを得られる。ユネスコスクールサポーターズなど、関係者との接点も増えるため、自ずと子どもの視野が広がるだろう。

また、子どもだけでなく、教員としての学びを深められる点もメリットといえる。加盟校のポータルサイトで情報が得られるほか、教育を実践する際に役立つ教材や情報を入手可能。研修会や教員同士の交流も活発だ。

国際的なネットワークの活用

世界中のユネスコスクールと連携することで、これまでにない新たな視点を養うことができる。国際的なネットワークの一員として、国際社会のなかでの役割を意識することにもつながるだろう。ユネスコ主催の国際会議に参加する機会が得られる可能性があるのも、ユネスコスクールならではだ。

学校や地域コミュニティへの貢献

ユネスコスクールでの活動が、地域への貢献につながるケースは少なくない。ユネスコスクールでは地域との連携を大事にしている。子どもたちの主体的な活動によって、地域課題の解決に結びつく可能性もある。子どもたちの活動が、地域における持続可能な社会づくりに貢献するかもしれないのだ。

また、ユネスコスクールに加盟することで、ロゴの使用が許可される。間違いなく、学校全体の意識が向上するだろう。子どもの学びが家庭へポジティブな影響をもたらす可能性もある。

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ユネスコスクールに加盟する方法

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ユネスコスクールの加盟や継続に費用は発生しないが、気軽に参加できるわけではない。加盟には手続きや審査が必要で、決して簡単ではないうえに、継続のための条件も存在する。この点がデメリットに働き、加盟を断念している学校もあるだろう。

以下では、ユネスコスクールに加盟するための流れを簡単にまとめている。(※20)

加盟資格の確認

加盟資格は、ユネスコの理念に沿った取り組みを行っていることだ。この点をクリアしていれば、就学前教育施設から高等学校、技術学校・職業学校・教員養成系大学までが幅広く加盟できる。公立私立は問わない。

加盟手続き

ユネスコスクールの公式サイトから「加盟申請表明フォーム」に登録することで、申請がスタートする。その後、事務局の案内に沿って、支援大学と連携し、原則1年以上のチャレンジ期間をはさむ。

チャレンジ期間が終了後、国内審査に進む。チャレンジ期間中の活動を示す資料をはじめとした必要書類を提出し、審査結果を待つ。審査に通過した場合、ユネスコ本部への申請手続きを開始する。審査に通過しなかった場合は、チャレンジ期間の継続もしくは、辞退となる。

加盟後の活動・定期レビュー

加盟校になると、以下の活動が必要だ。

・年次活動計画・報告書の提出
・国連が定める「国際デー」にかかわる活動を年2回以上実施
・ユネスコ、ナショナルコーディネーターが提案する活動に参加
・ユネスコスクールの活動の発信

また、継続にあたっては、定期レビューが実施される。必要な条件を満たした場合、加盟を継続できる。実施方法は、自己評価と有識者による書面レビュー。研修会への参加や有識者からの助言もある。対象校は、中期活動改善計画の提出が必要とされる。

ユネスコスクールとSDGsの関係

集まって笑う子どもたち

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ユネスコスクールの活動の主軸には、ESD(持続可能な開発のための教育)があることからも、ユネスコスクールとSDGsの関係が密接であることがわかる。以下で、もう少し詳細を説明する。

SDGs(持続可能な開発目標)と教育

ユネスコスクールでESDを実践することで、SDGsのすべての目標の達成につながるといえる。とくに、ユネスコとのつながりが深い教育分野の目標4「質の高い教育をみんなに」の達成に貢献している。

日本ユネスコ協会連盟では、「教育を通じたSustainable Development Goalsの推進=平和な世界への貢献」を目指しているが、ユネスコスクールは大きな取り組みのひとつだ。(※21)教育を通して、グローバルな視点で物事をとらえられる若者を育むことで、さらに教育の輪を広げられる。それが平和な世界をつくることにつながる。

ほか、目標16「平和と公正をすべての人に」や、目標17「パートナーシップで目標を達成しよう」も、まさにユネスコスクールが目指しているものと同じだ。

SDGsを学ぶ実践的な教育の提供

ユネスコスクールの活動内容やメリットでも挙げた通り、ユネスコスクールの大きな特徴は、子どもたちが国際的なネットワークを生かした広い視野や実践的な行動を身につけ、国際社会の一員として生きていけるようになる点だろう。

ユネスコスクールには、地域とともに住み続けられる町づくりを実践する事例や、漫画とSDGsを結びつけて自発的にSDGsをとらえられるように学ぶ事例など、SDGsに関する事例が多く存在する。(※22)

ユネスコスクールは地球市民であることを自覚するための第一歩

ユネスコスクールとは、地球規模の課題に対処するスキルを身につける機会を提供する学校。若い世代が世界中の課題を自分ごととしてとらえ、行動できるようになれば、世界はよいほうに変わっていくだろう。

もちろん、若者に託すだけでは根本解決にならない。いまを生きる大人たちもまた、子どもたち同様に、未来のことを考える必要がある。私たちがこれからも地球で生きていくためには、地球市民全員の意識の向上が欠かせない。

※掲載している情報は、2024年11月29日時点のものです。

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