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過剰な地下水の汲み上げによって生じる問題は多い。地下水を大量に汲み上げることで地盤沈下を引き起こした場合、その地域は半永久的に洪水や建物の損壊リスクを抱えることになる。この記事では、地下水の過剰な汲み上げによって生じる問題と、現状の課題を解説する。
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ここでは、地下水とは何か、その定義と特徴について説明する。
地下水とは、雪や雨が地表面から地中へと浸透し、土の中の隙間部分に溜まった水のこと。土中の隙間をすべて地下水で満たした状態を「飽和状態」と呼び、地表近くにある土中の隙間に空気と水の両方がある状態を「不飽和状態」と呼ぶ。(※1)
地下水には以下の特徴が挙げられる。
・夏は冷たく、冬は温かい恒温性の特性がある
・生活用水や農業用水、工業用水といった多様な用途に利用可能である
・他の水資源に比べて安価である
このような利点があるため、国内では多くの場所で地下水が用いられている。(※2)
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地下水汲み上げ問題とは、地下水を過剰に汲み上げることによって地下水使用に支障が生じることを指す。具体的な問題は以下のとおりだ。
・地盤沈下
地下水の過剰な汲み上げによって地下水位が下がり、地層の収縮を引き起こして地表面が沈下する現象。一度でも地盤沈下を引き起こした場合、その地域は半永久的に洪水や高潮による被災リスクを抱えることになる。
・塩水化
沿岸部での過剰な汲み上げにより、海水が帯水槽中を遡上して地下水に塩水が混ざって塩分濃度が高くなり、飲み水や農業用に使用できなくなる現象。
・地下水汚染
人の健康に有害な物質が地中を移動し、帯水層に達して地下水が汚染される現象。
・湧水消失/減少
雨水浸透面の減少によるかん養量の変化や、過剰な汲み上げなどによって周辺環境が変化して湧出量が消失(減少)する現象。
・井戸枯れ
地下水の過剰な汲み上げや掘削工事などによって地下水位が低下し、井戸内へ流れる地下水が少なくなり井戸が干上がる現象。(※2)
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ここでは、地下水汲み上げ問題の現状について説明する。
アメリカでは地下水の利用が増加してきたため、地下水汲み上げ問題に対してさまざまな規制がなされている。諸州では制定法により地下水に関する水利権を定めており、地下水利用に対して一定の規制を加えるといった対策を行っている。(※3)
地下水の過剰な汲み上げによる地盤沈下は1890年代前半の明治から確認されており、1955年以降に全国各地へと拡大していった。現在は、表流水への水源転換措置や地下水への採取規制などを実施したことで沈静化傾向にある。
一方で、沈下が続いている地域は未だ多数存在しており、渇水時の過剰な地下水採取による地盤沈下の進行も懸念材料となっている。臨海部の一部では、地下水の過剰な汲み上げによって帯水層に海水が浸入して塩水化が生じており、水道水や工業用水などへの被害が出ている。したがって、地下水の過剰な汲み上げをいかに抑えていけるのかが今後の課題といえるだろう。(※4)
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ここでは、地下水の汲み上げによって生じる環境問題について説明する。
地下水の過剰な汲み上げによって生じる環境問題のひとつに、地盤沈下のリスクが挙げられる。一度でも地盤沈下を引き起こすと元の状態には戻せない。したがって地下水の適度な使用を意識して、地盤沈下を未然に防ぐことが重要となってくる。(※2)
地下水の過剰な汲み上げによって生じる環境問題のひとつに、水不足が挙げられる。地下水の過剰な汲み上げを無秩序に続けることで水の供給量が不足し、その地域における地下水の持続的利用を阻害するおそれがある。(※2)
地下水の過剰な汲み上げによって生じる環境問題のひとつに、生態系への影響が挙げられる。地下水の過剰な汲み上げによる水の減少は、水生生物の生息に悪影響を及ぼすおそれがある。したがって、水生生物の環境保全に配慮することも大切だ。(※5)
地下水の過剰な汲み上げによって生じる環境問題のひとつに、農業や工業活動への打撃が挙げられる。地下水は恒温性の特性を有しているため、工業用水として冷却用や洗浄用に利用したり、農業用水として栽培用に利用したりする。したがって、地下水の過剰な汲み上げにより水不足や塩水化が進むと、これらの活動にも大きな支障をきたすといえる。(※2)
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ここでは、持続可能な地下水利用への転換について説明する。
地盤沈下は地下水採取規制が義務付けされたことにより、近年は沈静化傾向にある。しかし現在もかん養量の減少や地下水位の低下、水質汚染などの影響が懸念されており、改善が必要な状態だ。したがって、地盤沈下や水質汚染を防止しつつも地下水の有効利用を図るための方策が必要となってくる。
また現在は地球規模の気候変動の対応として、再生可能エネルギーや防災・災害用の利用といった多方面での地下水利用が高まっており、今後どのようにして持続可能な水資源管理を行っていくのかが課題となっている。(※6)
具体的な解決策として、熊本県熊本市では地下水をかん養する白川中流域において転作水田の地下水かん養を実施している。また、水源かん養林の整備や行政と市民が協力して節水市民運動や節水キャンペーンを行うなどといった、積極的な活動を行っている。(※7)
持続可能な地下水へ向けて、日本ではさまざまな取り組みがなされている。量的な側面における地下水資源のマネジメントとして、地盤沈下などの地下水障害の未然防止対策に向けた持続可能範囲での利用を意識した取り組みや、質的な側面も含めた地下水資源マネジメントとして、用途別の水質要請を踏まえた利用を促すなどを行っている。(※8)
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ここでは、地下水問題解決のために私たちができることを紹介する。
地下水問題解決のために、地下水の需要と供給バランスを維持することが大切だ。そのためにも、私たちは日ごろから節水意識を高めた生活を意識していく必要がある。具体的な行動として、歯磨きやシャワーのときに水を出しっぱなしにしない、洗濯はまとめ洗いを心がける、トイレや洗濯機を買い換える際は節水機能が付いている製品を選ぶなど、無理のない範囲で取り入れてみるといいだろう。(※9)
製造時の水使用が少ない製品を選ぶことも大切だ。衣類は原料となる植物の栽培や染色に大量の水が使われるため、水の使用量や水質汚染などの環境負荷を見直す動きが高まっている。私たちも、そういったことに配慮した製品を選ぶよう意識したい。(※10)
水源を守るためにも、生活用水を汚さない意識を持つことが大切だ。たとえば、洗剤の使いすぎに注意する、流しに排水溝ネットを付けてカスが流れないようにする、料理で使用した油は流さず紙で吸い取って可燃ごみとして捨てるなど、できることから変えていくといいだろう。また、環境に配慮した成分の洗剤や石けんを選ぶことも意識してみよう。(※11)
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地下水の汲み上げによって生じる地盤沈下や塩水化、湧水消失などは、私たちの日常生活にも大きな影響を与える。だからこそ日ごろから節水を心がけ、地下水の需要と供給のバランスを維持していくことが大切だ。
たとえば節水のために食器をため洗いする、雨水をためて花の水やりに利用するなど、日々の生活をとおして変えられることは少なからずある。だからこそ一人ひとりが「水を賢く使う」意識を持ち、行動を変えていく必要があるだろう。
※1 地下水の基礎|内閣官房
※2 地下水マネジメントとは|内閣官房
※3 アメリカ合衆国の地下水法|AgriKnowledge
※4 地下水保全と地盤沈下の現状|国土交通省
※5 中央環境審議会 水循環に関する中間まとめ|環境省
※6 「地下水保全」ガイドライン|環境省
※7 第Ⅰ編 持続可能な水利用に向けて|環境省
※8 健全な地下水の保全・利用に向けて|国土交通省
※9 ~節水生活のススメと水の啓発~1.水を賢く使う -節水生活のススメ-|愛媛県
※10 サステナブルファッション|環境省
※11 やってみよう!私たちにできること|愛知県
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