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国外での避難生活を余儀なくされているシリア難民。2011年に武力衝突が本格化したことで急増し、その数は640万人以上にのぼる。本記事では、シリア難民を取り巻く現状や各国の受け入れ状況のほか、支援策について紹介する。
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シリア難民とは、シリア国外での避難生活を強いられている人々を指す。国際連合難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、難民とは「自国にいると迫害を受けるおそれがあるために他国に逃れ、国際的保護を必要とする人々」のこと。(※1)
シリアにおいては、2011年に、中東諸国で起きた民主化運動「アラブの春」の影響が国内におよんだ。シリアでは40年にわたって独裁政権が続いていたが、抗議運動が活発化したことで、政府が平和的デモを武力で鎮圧した。しだいに政府軍と反体制派にわかれ、それぞれが武装化。シリア内戦に発展した。世界各国が異なる目的で介入したことで長期化し、いまなお内戦が続いている。(※2)
10年以上内戦が続くシリアでは国内が荒れ果て、多くの人が国内外での避難生活を余儀なくされている。そのうち、国外での避難生活を送っている人がシリア難民だ。シリア難民は2023年時点では、難民全体のなかで、もっとも多くの割合を占めている。(※3)
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ここでは、シリア難民を取り巻く現状を見ていこう。シリア難民の直近の人数について紹介する。
UNHCRの「UNHCRグローバル・トレンズ・レポート2022」によると、シリア難民の数は約650万人。(※4)2023年末のデータでは、約640万人とされており、前年度より微減傾向にある。(※5)直近はわずかに減少しているものの、シリア難民は2012年から2018年にかけて急増。いまや世界最大の難民危機ともいわれている。
シリア内戦だけでなく、2020年の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大や2023年3月のシリア北西部大地震など、さまざまな状況が重なり、多くの人が長期にわたって苦しい状況に追い込まれている。(※6)
国外に逃れている人をシリア難民というが、国内で避難生活を送る人のことを「国内避難民」という。シリア内の国内避難民は2024年2月時点で720万人で、難民の数を上回る。さらに、国内で人道援助を必要としている人は、1670万人にのぼる。(※6)
シリアの隣国であるレバノンで暮らすシリア難民のうち、約90%が貧困ライン以下の生活を送っていることがわかっている。一方、シリア国内で暮らす国内避難民の生活も最低限に満たないと考えられている。(※7)いずれの形を選択しても、困難に直面するケースが多いのだ。途切れることのない、手厚い支援が必要とされている。
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シリアから避難した多くのシリア難民は、どこで生活を送っているのだろうか。以下では、各国と日本の受け入れ状況を見てみよう。
現在、世界の多くの国がシリア難民を受け入れている。しかし、大多数のシリア難民が、国境を接している近隣国や周辺国にとどまっている。具体的には、トルコ・レバノン・ヨルダン・イラク・エジプトだ。現在、周辺国でUNHCRの支援対象となっているシリア難民は505万437人で、そのうちもっとも多いトルコでの受け入れ人数は約315万人にのぼる。(※8)
法務省によると、日本における近年のシリアの難民認定者は、以下の通り。
2019年:3人
2020年:4人
2021年:0人
2022年:0人
2023年:1人
このほか、難民認定には至らなかったものの、人道配慮者として在留を認められた人が若干名存在するが、世界的に見ても少ない傾向だ。(※9)
また、日本では「独立行政法人 国際協力機構(JICA)」が主体となって、難民認定以外にシリア難民を受け入れる取り組み「シリア平和への架け橋・人材育成プログラム(JISR)」を行っている。受け入れ期間は、2017年から5年間。シリア難民の若者を留学生として受け入れ、教育の機会を提供するという内容。難民支援として、家族への支援を行ったり、帰国できないケースを考慮して就職支援を行ったりと、サポート内容は多岐にわたる。実際に、修了後は、日本で就職するケースが多い。(※10)
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シリア難民に対し、世界各国やさまざまな団体が多様な支援を行っている。以下では、代表的なものを紹介する。
困難を強いられている家庭に対して、食料の配布をはじめ、さまざまな形での食料支援が行われている。近年は、必要な食品を購入できるクーポンの配布や現金での支援も広がっている。
また、栄養強化食品やできたての食事の提供など、学校給食支援も実施。食料支援と同時に、雇用機会を創出するような支援も複数検討されている。(※11)
シリア難民のなかには、医療サービスを受けるために借金を抱えている人が多い。2016年には、日本政府がUNHCRに276万米ドルの資金協力を行った。それにより、約4,000人の難民の入院医療のサポートが可能となった。(※12)このほかにも、世界各国の公的資金によって、ワクチンや小児医療サービスなどが提供されている。
シリア難民に対する教育機会の確保も急務。避難生活が長期化するなかで、難民たちの自活を促す支援が重要視されている。なかでも代表的なのが、教育支援だ。
シリア難民が生活を続けていくには基礎教育が必須とされるが、教育の場や機会が不足しているのが現状。シリア難民を受け入れることにより、周辺国のキャパシティが不足することも課題のひとつとされている。(※13)
難民キャンプでの教育の質の向上や難民児童への補講授業を通して教育支援を行う団体は複数存在するが、まだまだ課題が多いのが現状だ。
最後に、シリア難民問題に対して、個人でできるアクションを紹介する。
1つ目は、シリア難民への支援活動のための資金を寄付することだ。シリア難民や国内避難民に対しては、さまざまな支援が必要。資金が不足すると、支援の中断や撤退につながってしまう。より多くの資金があることで、支援の幅が広がるだろう。
UNHCRだけでなく、日本ユニセフ協会や国際協力NGOなど、多くの機関・団体が寄付を募っている。シリア難民を支援したいと思ったら、ぜひチェックしてみてほしい。
2つ目は、シリア難民について知り、広めることだ。一見支援とは関係のないことに思えるかもしれないが、これは支援の第一歩。シリア難民について、日本国内で報道される機会が少なくなっている現在、シリア難民のことをよく知らない人もいるだろう。
まずは、シリア難民について正しく把握することが重要。そして、周囲と話し、SNSでシェアしてみよう。まだ知らない人たちへ伝えていくことで、少しずつ支援の輪が広がるかもしれない。
シリア難民問題は決して他人事ではなく、同じ地球上で起きている。シリア難民といわれる人々は、自国で暮らすという当たり前のことが困難になった結果、シリア難民にならざるを得なくなったのだ。
日本にいると、シリア難民について直接的に知る機会は少ないかもしれない。シリア難民がシリア難民になったのはなぜなのか。シリア難民が存在しない社会を実現するには、何が必要なのか。また、難民を含むすべての人たちが取り残されない社会とは、どんな社会なのか。まずはシリア難民について知り、改めて考えてみよう。
※1 難民とは?|UNHCR
※210年終わらぬシリア内戦 避難1300万人の危機|国境なき医師団
※3・4 数字で見る難民情勢(2022年)|UNHCR
※5 難民の出身国・受入国|UNHCR
※6・7 シリア|UNHCR
※8 シリア難民・国内避難民をご支援ください|UNHCR
※9 令和5年における難民認定者数等について P10|法務省
※10 シリア平和への架け橋・人材育成プログラム(JISR)|JICA
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