地方創生とは? 必要とされる背景や課題、自治体の具体的な取り組みを紹介

昔ながらの風景が広がる住宅街

Photo by Emil Karlsson on Unsplash

地方創生とは、地域活性化のための施策や取り組みを通して、地方の課題を解決し、暮らしやすいまちをつくっていくこと。人口減少や地方の衰退に直面している現状を打破し、持続可能な社会を実現するためには、地方創生が欠かせない。本記事では、地方創生とは何か、課題やポイントを踏まえて解説する。

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2024.08.30
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地方創生とは

寺院と自然と街の美しい風景

Photo by Su San Lee on Unsplash

地方創生とは、各地域が自律的で持続的な社会を創生できるような一連の取り組みを指す。それぞれの地域を住みやすく整えることで、「活力ある日本社会」を維持していくのが目的だ。地方創生という言葉は、2014年に「まち・ひと・しごと創生法」が施行されたことによって、広く知られるようになった。

まち・ひと・しごと創生における基本目標には、以下の4つが掲げられている。

・稼ぐ地域をつくるとともに、安心して働けるようにする
・地方とのつながりを築き、地方への新しいひとの流れをつくる
・結婚・出産・子育ての希望をかなえる
・ひとが集う、安心して暮らすことができる魅力的な地域をつくる

また、横断的な目標として掲げられているのは以下。

・多様な人材の活躍を推進する
・新しい時代の流れを力にする

これらの目標を達成すべく、さまざまな政策や取り組みが推進されている。(※1)

地域創生との違い

地方創生と似た言葉に「地域創生」がある。両者の意味は似ているが、指しているエリアが異なっている。

地方は、主として行政区を指す。大都市以外の場所として捉えられることも多い。一方で、地域は、人が集まるエリアのこと。独自の区切りが用いられるケースが多い。地方創生と地域創生は、取り組みの単位が異なるが、目指すべき方向は同じといえる。

地方創生が求められる背景

民家のなかから見える里山の風景

Photo by Takafumi Yamashita on Unsplash

地方創生が求められる背景には、人口減少の深刻化がある。「まち・ひと・しごと創生法」の目的として、「少子高齢化の進展への対応」「人口減少に歯止めをかける」「東京圏への人口の過度の集中を是正」などが明記されている。(※2)

政府はこれまでも、上記の問題を解決するための地方振興策をたびたび打ち出してきた。地方の活性化は日本社会を維持するための重要課題として捉えられているが、成果が上がっていないのが現状だ。

国土交通省の「国土のグランドデザイン2050」によると、2050年には、現在の居住地域の6割以上の地点において人口が半分以下に減少することが予想されている。さらに、うち2割が無居住化。多くの地域が消滅することが指摘されている。(※3)

日本政府は、地方創生を打ち出した2014年に、人口維持の中長期目標として「2060年代に人口1億人程度を維持する」ことを掲げた。(※4)しかし、国立社会保障・人口問題研究所が発表した「日本の将来推計人口(令和5年推計)」によると、2070年の日本の総人口は8,700万人。高齢化率は約4割という結果だ。(※5)

人口流出や高齢化がいまのまま進めば、地方における社会インフラの維持は困難になり、経済的な活性化は見込めない。そこで求められているのが、地方創生に関連する取り組みなのだ。

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地方創生とSDGsの関係

空から撮影した街並み

Photo by Matt Donders on Unsplash

SDGsとは、「Sustainable Development Goals」の略称。「持続可能な開発目標」と訳される。現在直面しているさまざまな社会課題を解決するための17の目標と169のターゲットがまとめられており、2015年9月に国連加盟国の全会一致で採択された。SDGsの前文には、「誰一人取り残さない」ことが記されている。

持続可能な社会を目指すためのSDGsと、持続可能なまちづくりを目指す地方創生。両者は目指す方向が同じであり、深い関わりがある。現に、政府はSDGsを原動力とした地方創生を「地方創生SDGs」とし、推進している。地方創生のなかにSDGsの考え方を取り入れることで、政策を最適化し、課題解決の加速化を期待しているのだ。(※6)

2018年からは、SDGsの達成に積極的に取り組んでいる自治体を選定する「SDGs未来都市」や「自治体SDGsモデル事業」がスタート。また、地方創生やSDGsを達成するために、さまざまなステークホルダーが連携できるよう「地方創生SDGs官民連携プラットフォーム」の運営を行っている。ほかにも、地域事業者と金融機関を地方公共団体がつなぐ「地方創生SDGs金融」の取り組みを推進。地方創生とSDGsを絡めた複数の施策を打ち出している。

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地方創生実現へ向けた課題

東京タワーと周辺ビル群

Photo by Jaison Lin on Unsplash

地方創生は日本における重要課題だが、さまざまな要因が絡み合っており、成果に結びつくまでにはかなりの時間がかかる。2024年は、地方創生の取り組みが本格的に開始されて10年の節目。一部地域では人口増が見られるものの、国全体の大きな流れが変わったとは言い難い。(※7)以下では、現在の主な課題を3つ紹介する。

東京圏への一極集中

一時的な動向の変化はあったものの、東京圏への一極集中の状態に大きな変化は見られていない。企業や人が都市部に集中することにより、地方からの人口流出が続いている。結果として、地方の発展が妨げられ、地域格差を拡大させる要因となっている。

東京圏への一極集中は、国が戦略的に挑戦すべき課題として位置付けられている。自然減・社会減それぞれの要因を分析し、これからも対策を講じていく方針だ。

生産年齢人口の減少

さまざまな活動の担い手が不足しているのも大きな課題だ。少子化高齢化によって、生産年齢人口が減少している。地方企業の後継者や活性化の取り組みを推進する人が不足することで、地方はさらに衰退する。

社会全体で子育て世帯を応援する社会意識の醸成や、誰もが働きやすい雇用環境の整備など、多角的な取り組みが求められている。

地方創生の取り組みに悩む自治体の支援

地方の課題は、さまざまな状況が複雑に絡み合って発生している。地方創生を実現するには、長期的な視点が必要だ。しかし、成果が目に見えにくく、成長戦略が描きづらいのが現状。課題が深刻化すると、課題の解決はさらに難しくなる。

人手不足が深刻な小規模自治体では、地方創生への取り組み方に悩むケースも多い。自治体への人材支援や伴走支援などのきめ細やかなサポートが必要だと考えられている。

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地方創生を成功させるポイント

海に浮かぶ美しい島

Photo by Hotaria N on Unsplash

地方創生の成果を上げるのは簡単なことではないが、何かしらの取り組みを行わない場合、衰退の一途を辿ってしまう。以下では、取り組みを成功に導くために実践したいポイントを3つ紹介する。

地域資源を生かした施策を行う

地方創生においては、地域の特性に合わせたアプローチを行うことが重要だ。地域によって、抱えている課題や特性は異なり、地域資源にも差がある。条件を考慮したうえで、適切な施策を検討する必要がある。

産官学の連携を図る

自治体や民間企業、教育機関などが連携することにより、政策の幅が広がるだろう。地方創生にはさまざまな要素が必要であり、自治体職員のみで施策を考えるのは限界がある。有識者の意見を取り入れたり、産官学の連携を図ったりすることで、地域のイノベーションが生まれる。

外部の視点を取り入れる

ほかの自治体の成功事例を参考にするのもひとつの方法。自治体によって特性が異なるため、まったく同一の方法で成果を上げられるとは限らないが、成功事例の視点を取り入れるのには、大きな意義があるだろう。「SDGs未来都市」や「自治体SDGsモデル事業」なども一例だ。

また、2024年6月からは、共通の課題を抱える自治体同士が連携する「連携“絆”特区」の取り組みが始まった。外部の視点を入れながら、円滑に課題を解決することを目指している。(※8)

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自治体の地方創生への取り組み

商店街のシャッターの前に置かれた自転車

Photo by Muhammad Irfan on Unsplash

ここからは、地方創生に取り組む自治体の具体例を紹介する。

福井県鯖江市|「めがねのまちさばえ」の定着

メガネフレーム生産の高いシェアを誇る福井県鯖江市。1995年に市が誕生して以降、人口増加が続いているものの、少子高齢化による人口減少を懸念し、2014年からさまざまな課題の解決に取り組んできた。

2000年代には中国製品に押されて廃業を余儀なくされるメーカーがあり、後継者不足にも苦しんでいた。「めがねのまちさばえ」のイメージを市外に定着させるためにシティプロモーションを行い、定着に成功。現在は、「めがねの聖地さばえ」を目指し、資源に磨きをかけている。(※9)

また、市内では「つくる、さばえ」を合言葉にし、よりよい鯖江の未来をつくるためのアクションを行っている。

新潟県三条市|先端技術活用によるまちづくり

「ものづくり」のまちである新潟県三条市は、関係人口の創出を通じて、持続可能性の向上を目指している。2024年7月には、PwCコンサルティングと大日本印刷とともに「関係人口創出を通じた持続可能なまちづくりに関する連携協定」を締結した。メタバースや先端技術を活用して、地域住民の誰もが地域サービスを活用しやすい行政を目指す。地域の魅力発信、利便性の向上、生産性の向上などを図り、地域の発展を促進させる。

まずは、三条市の課題の分析から開始。結果に基づいて施策を検討する際に、企画から実施までの実現性を見極め、早期解決に導く。持続的な関係人口の創出、地域特有の魅力の創出、地域との交流機会の創出などに力を入れていく。(※10)

熊本県合志市|子育て支援、医療費助成の強化

熊本県の中北部に位置する合志市は、人口が増加している数少ない地方自治体として知られている。2006年の合併当時の人口は52,517人だったが、2024年現在は65,000人を超え、1万人以上増加した。

熊本市のベッドタウンとしての利便性や企業進出などの影響もあるが、福祉施策に力を入れてきたことが実った結果だ。18歳まで医療費無料をはじめとするさまざまな施策を展開してきたことにより、多くの子育て世帯が転入。人口増加の下支えとなっている。ファミリー世帯が増え、街の雰囲気も大きく変化した。にぎわい創出のために駅周辺の開発が行われ、商業施設やホテルの建設が進んでいる。(※11)

徳島県神山町|「神山プロジェクト」

徳島県の東部に位置する神山町は、人口5,000人ほどの小さな町。さまざまな施策を着実に実行してきたことで、人口増に成功し、「地方創生の聖地」とも呼ばれている。

なかでも、農林業だけに頼らず、町全体の価値をビジネスの場として高めた施策は政府や他自治体から多くの注目を集めた。大きな契機は、2005年にいち早く高速インターネット回線を整備したこと。2010年には名刺管理サービスを提供する「Sansan」が拠点を設置。それを皮切りに、複数の企業が神山町に拠点を置いた。サテライトオフィスの整備も進め、2023年現在、18の企業が入居している。さらに、移住者の誘致や人材育成に併せて取り組んだことで、人口増を達成した。(※12)

2023年4月には、起業家たちのもとでテクノロジーやデザイン、起業家精神を学べる「神山まるごと高専」が開校。未来をつくる学校として、注目されている。(※13)

島根県海士町|地域資源を生かした教育魅力化

島根県海士町は、隠岐の島に位置している。本土からは約60km、交通はフェリーで2〜3時間で、空港やコンビニは存在しない。「本当に大切なもので、足りないものは何もない」の意味を込め、「ないものはない」をスローガンに掲げている。

周辺自治体との合併を断念し、深刻な人口減に見舞われるなか、2008年に開始されたのが「教育魅力化プロジェクト」だ。廃校寸前の県立高校に「地域共創科」を創設し、島をまるごと学校に見立てた。都会や海外から多くの生徒が集まり、廃校どころか学級を増設するまでに。募集倍率は日本の公立高校でもっとも高い2.7倍となった。

ほか、「大人の島留学」では、関係人口の創出を狙う。以前は、町全体に永住者しか認めない雰囲気があったが、町民の意識は大きく変わった。いまでは若者に選ばれる島として、若い世代の転入が相次いでいる。(※14)

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地方創生とは持続可能な社会をつくること

地方創生の取り組みは、住みよいまちをつくること。課題から目を背けず、自治体に合った施策を根気強く続けることが大切だ。自治体や企業だけでは成し得ないため、地域住民一人ひとりが真摯に向き合うことが欠かせない。

地方創生の成果を実感できるまでには長い年月が必要で、必ずしも成果が出るとは限らない。しかし、着実な実践が、持続可能なまちや社会、未来をつくることにつながるだろう。

※掲載している情報は、2024年8月30日時点のものです。

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