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人口減少や高齢化が進むなか、持続可能な都市モデルとして「コンパクトシティ」化が目指されている。生活の利便性向上や行政サービスの充実、効率化など、さまざまなメリットが考えられる。ここでは、コンパクトシティの概要と推進の背景、世界や国内における成功例を解説する。
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コンパクトシティとは、住まい・交通・公共サービス・商業施設などの生活機能をコンパクトに集約し、効率的な土地利用と持続可能な開発を行う都市、または政策のこと。脱車社会を目指し、公共交通機関や徒歩で移動できる範囲に都市機能をまとめることで、生活の利便性向上や行政サービスの充実、経済の活性化などを図る取り組みだ。
日本でコンパクトシティが推進されたのは、人口減少や高齢化などの社会課題が顕在化し始めたことが背景にある。日本の人口は2008年にピークを迎えて以降、毎年減少している。生産年齢人口は大幅に減少している一方で、高齢化が急速に進んでおり、このままいくと2050年の高齢化率は38%を上回ると予測されている。急速に進む少子高齢化によって、地域産業の停滞や社会保険料の増加、車の運転が難しくなった高齢者の移動手段問題など、さまざまな問題が起きている。
また、居住コストが安い郊外に人々が移住することによって都市部の居住人口が減少し空洞化する「ドーナツ化現象」も社会問題となっている。これからさらに人口の減少が進むと、中心部が過疎化するだけでなく、行政コストも増加し、将来的に公共サービスが地域全体に行き届かなくなってしまう可能性が懸念される。
行政サービスや生活拠点を集約し、効率化するコンパクトシティは、これらの課題を解決し、持続可能な都市社会をつくるための有効な手段だとされている。そのため、ヨーロッパやアメリカに続き、日本でもコンパクトシティが推進されるようになった。
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コンパクトシティが上手く機能すれば、人々の生活の利便性が向上するだけでなく、経済や環境などの面においてさまざまなメリットがある。
市街地が集約され、居住と生活サービス施設との距離が短縮されることにより、住民の生活利便性が向上するというメリットがある。また、交通アクセスの改善により、多くの人々が徒歩や自転車、公共交通機関を利用するようになり、交通渋滞や高齢者の自動車事故などの問題が解消される。
コンパクトシティには、公共施設や商業施設、住宅が集中するという特徴がある。分散した状態よりもアクセスが容易になり、人々の消費活動の増加が見込めるため、地域経済の活性化が期待できる。
また、住民の行動範囲が狭まることで地域のコミュニティが形成されやすくなることが期待される。個人間のつながりや人間関係のポジティブな変化、仕事面で選択の自由が増えるなどのメリットもある。空き家や空き店舗を活用した地域コミュニティ団体の活動なども目指される。
都市機能が集約されアクセスが容易になることで、徒歩や自転車、公共交通機関を利用する人が増える。その結果、自家用車の利用が減り、排気ガスやCO2の排出を削減できる。そのほか、都市全体でエネルギーやインフラ設備を効率的に利用することができる。また、市街地の拡散を抑えることで、郊外の緑地や農地の保全にもつながる。
コンパクトシティには、子育てや教育、医療、福祉といった生活に必要なサービスがまとまっており、容易にアクセスできる点もメリットだ。そのため、多くの住民が必要な時に地域の支援を得ながら生活することができ、高齢者や子育て世代にとって住みやすい町づくりが可能となる。
人口減少で税収が減る一方、居住区が分散していると管理コストがかかるという問題が発生する。集約することでごみ収集などの行政サービス、インフラ設備の運用が効率化するため、行政コストの削減につながる。その結果、子育ての支援や高齢者支援、公共施設の充実など、必要とされる行政サービスへ充当できる。
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コンパクトシティの実現によるメリットが多い一方で、当然デメリットも存在する。
コンパクトシティが成功すれば、都市によっては中心部の地価が高まり、家賃や食費などの居住コストが高くなる可能性がある。経済的に余裕のない人が中心部に移動することが難しくなるというデメリットがある。
居住地やあらゆる施設・設備が集合しているため、災害時に被害が広がりやすい、かつ甚大になることが懸念される。そのため、災害の危険性が低い地域に都市機能をまとめるといった、災害を想定した街づくりを行うことも重要なポイントだろう。
人口密度が高くなるにつれ、近隣の人との距離も近くなる。騒音などのトラブルや、プライバシー侵害などの問題が出てくることが懸念される。
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ここでは、日本におけるコンパクトシティの例を3つ紹介する。
以前の富山県では、ドーナツ化現象が進行し、人口減少や高齢化が著しく進んでいた。また、市民の車への依存度が高く、その結果として公共交通の衰退やCO2排出量の増加などの課題が生じていた。これらの課題を受け、富山市は2007年に公共交通を軸にしたコンパクトなまちづくりを開始。
具体的には、鉄道やバスなど市内の公共交通網を活性化し、車がなくても歩いて暮らせる環境の実現を目指した。その結果、公共交通機関の利用者が増加し、CO2排出量が減少したことで、富山市は環境モデル都市に指定された。さらに、中心市街地の活性化などにより、住民の利便性が向上し、転入率の増加、中心部の人口増加が進んだ。
大分市は、都心の空洞化や人口減少を背景に、コンパクトシティ化を目指した取り組みを実施。市内には駅ビル「JRおおいたシティ」を開業し、大分駅では周辺市町村からの乗客数が前年比で約3割増加した。さらに、複合商業施設をオープンしたことで中心部が活気づき、周辺の市町村からも注目を集め、転入者が増加した。
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世界におけるコンパクトシティの成功例を2つ紹介する。
アメリカ西海岸にあるオレゴン州最大の都市、ポートランド。1960年代までは車社会が当たり前の都市だったポートランド。しかし、1979年に都市部と農地や森林などの土地利用を区分する「都市成長境界線」を導入し、政策を開始した。開発は都市部に集中させ、郊外では農業を盛んに行うことで農地や森林を保全する取り組みだ。農家は都市部の住民や企業に向けて農産物を届けることで共存している。
また、徒歩圏内に居住地や職場、生活に必要なスーパーなどの施設を配置し、建物は1階にレストランなどの商業施設を、上階にオフィスや住居を置く「ミックスドユース」という形態を採用。これにより、昼夜を問わず街が活気づいている。流入人口も「1週間に約500人が移住する」といわれるほど増加し、時間帯ごとのエネルギー利用が平準化されるなど、多くの効果が生まれた。
ドイツのフライブルク市は、人口約23万人の地方都市だが、戦後70年以上にわたり人口の増加傾向が続き、将来的にもその傾向が続くと予測される数少ない都市の一つだ。
1960年代には、車社会による大気汚染や慢性的な渋滞が問題視されたことを背景に、交通整備を軸としたコンパクトシティ化が進められた。具体的には、公共交通のインフラ整備、自転車専用レーンの整備、そして一つの定期券で電車やバスなどすべての公共交通機関を利用できるようにする取り組みなどが行われた。その結果、フライブルク市は中心部の活性化だけでなく、環境先進都市としても評価されている。
コンパクトシティ化の失敗例として挙げられることの多い青森市。高度経済成長期に市街地が拡大したことに伴い、郊外でのインフラ整備費や除排雪経費が増大。これを背景に、青森市は「都市のコンパクト化」を推進し、効率的で効果的な都市づくりに取り組んだ。
具体的には、街をインナーシティ、ミッドシティ、アウターシティの3つに区分し、それぞれのエリアごとに街づくりを進める計画を立てた。駅周辺に複合商業施設を設けることで活気を取り戻し、生活機能を都市部に集中させることで住民の利便性の向上を図った。開業当初は大型商業施設への集客が増えるなどの成果はでたものの、経済的には大きな赤字が続き、2017年に閉店に至った。原因には、郊外の商業施設に勝てなかったこと、ターゲット層である若者の集客が確保できなかったことなどが挙げられる。
そのほか、中心市街地のシャッター街化や、中心部の土地や住宅の価格の高さ、中型商業施設開業による郊外の住みやすさといった多様な理由から、中心部への人口の集中も進んでいるとは言い難い。コンパクトシティ化の難しさと懸念点が顕在化した例といえる。
コンパクトシティは、都市が抱えるさまざまな課題を解決し、地域の活性化や人口増加を促進する具体的な解決策となりえる。しかし、実現には人や環境、経済など多方面を巻き込んでいく必要があるため、長い道のりとなるだけでなく、開発コストなどの複雑な課題も伴う。紹介した都市の例などを参考に、長期的な目線で多角的な視点から政策を進めていく必要があるだろう。
参考URL:
・国土交通省|コンパクトシティ政策について(P.3-15)
・富山市の目指すコンパクトシティ
・大和ハウス工業|全米一住みたい都市~歩きやすいコンパクトな街づくりポートランド~|サステナブルジャーニー
・久留米工業大学|コンパクトシティとは?新しい街づくりの事例から見るコンパクトシティのメリット
・日経ビジネス|コンパクトシティ幻想から10年、大分市が大変身
・青森市|コンパクト・プラス・ネットワークの都市づくり
・ドイツのコンパクトシティはなぜ成功するのか
・ドイツ・フライブルク市の都市政策
・公共交通で成長する都市,縮小する都市̶ドイツにおけるTODの事例から
・国のチグハグに翻弄され 失敗の烙印押された青森市の「コンパクトシティー」構想|毎日新聞
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