省エネ法改正のポイントは? 改正の背景や必要な対応、メリットも

本とペン

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2023年4月、改正省エネ法が施行された。省エネ法は1979年に制定され、状況に応じてこれまで幾度か改正されてきた。今回の改定のポイントはどこにあるのだろうか。この記事では、そもそも省エネ法とは何かから改正の背景、企業がすべき対応、期待できるメリットまでを紹介する。

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2024.08.21

そもそも省エネ法とは

太陽光パネルと空

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省エネ法は、正式な名称を「エネルギーの使用の合理化及び非化石エネルギーへの転換等に関する法律」という。一定規模以上の(原油換算で1,500キロリットル/年以上のエネルギーを使用する)事業者に、エネルギーの使用状況等について定期的に報告を義務付け、省エネや非化石転換等に関する取り組みの見直しや計画の策定などを求める法律である。

省エネ法の目的と歴史

省エネ法は、オイルショック(第一次:1973年、第二次:1979年)が起きたのをきっかけに、1979年に制定された。当時日本では、第一次エネルギーの供給に占める石油の割合は7割を超え、その8割近くを中東の輸入に依存していた。そこに産油国の戦争による政情の不安定が起こり、石油の供給停止による物不足やインフレーションの不安が人々の間に広がった。

こうした経験により、エネルギーの使用の合理化や非化石エネルギーへの転換を図る省エネ法をはじめとした制度がつくられた。このうち省エネ法は、エネルギーの効率的な利用を促進することを目的として制定された法律である。

省エネ法が対象とする分野や企業

省エネ法が対象とする分野や企業は、工場や事業場、輸送事業者、荷主、機械器具などの製造・輸入業者、エネルギー小売事業者である。(※1)

■工場・事業場
1.特定事業者(エネルギー使用量1,500キロリットル/年以上)
・エネルギー管理者等の選任義務
・エネルギー使用状況等の定期報告義務
・中長期計画の提出義務

2.工場等の設置者・事業者の努力義務

■運輸
1.特定貨物/旅客輸送事業者(保有車両数トラック200台以上、鉄道300両以上ほか)
・計画の提出義務
・エネルギー使用状況等の定期報告義務

2.貨物/旅客輸送事業者
・事業者の努力義務

3.特定荷主(年間輸送量3,000万トンキロ以上)
・計画の提出義務
・委託輸送に係るエネルギー使用状況等の定期報告義務

4.荷主(自らの貨物を輸送事業者に輸送させる者)
・事業者の努力義務

上記はエネルギー使用者への直接規制であるが、間接規制には次のようなものがある。

●特定エネルギー消費機器等(トップランナー制度)
製造事業者等(生産量が一定以上)
・自動車や家電製品といった32品目のエネルギー消費効率の目標を設置し、製造事業者等に達成を求める

●一般消費者への情報提供
家電等の小売事業者やエネルギー小売事業者
・消費者への情報提供(努力義務)

省エネ法では、これらの分野の事業者に事業規模に応じて義務や努力義務を課している。

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2023年の省エネ法改正の背景

省エネ法は幾度か改正が重ねられてきたが、直近では2023年4月に行われている。その背景には、2つの事情がある。

「2050年カーボンニュートラル」達成に向けて

日本は、「2050年カーボンニュートラル」の実現や、2030年に野心的な温室効果ガスの削減目標の達成を目指している。これらを実現するためには、徹底した省エネと非化石エネルギーの導入を拡大することが不可欠だ。省エネ法は、これらを引き続き積極的に推進していく役割がある。

電力供給の変動への対応

太陽光発電をはじめとした非化石電気の導入が増えている。一方で、電力供給に合わせた需要制御や最適化も必要だ。これまで、省エネ法により化石エネルギー使用の合理化を進めてきた。しかし、非化石エネルギーも含めたすべてのエネルギーにその範囲を広げる必要がある。

こうした事情を受けて、2023年に省エネ法が改正された。次に、どの点が改正されたのかを確認していこう。

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2023年の省エネ法改正の3つのポイント

森林

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2023年の省エネ法改正のポイントは3つある。1.「エネルギーの使用の合理化」の対象範囲を拡大、2.非化石エネルギーへの転換、3.電気の需要の最適化だ。(※2)

1.「エネルギーの使用の合理化」の対象範囲を拡大

これまでは、石油や石炭などの化石エネルギーに対して合理化が求められていた。今回の改正省エネ法ではこの範囲が拡大され、木材や水素、廃プラスチックなどの非化石エネルギーを含むすべてのエネルギーが対象になる。

■化石エネルギー
石油
揮発油
可燃性天然ガス
石炭等

■非化石エネルギー
黒液
木材
廃タイヤ
廃プラスチック
水素
アンモニア
太陽熱
太陽光発電電気等

こうした対象範囲の拡大が1つ目のポイントだ。

2.非化石エネルギーへの転換

特定事業者等は、非化石エネルギーへの転換の目標を設定したうえで、中長期計画書と定期報告書を提出することが新たに定められた。事業者に非化石エネルギーへの積極的な転換を求める内容になったのが2つ目のポイントである。

3.電気の需要の最適化

電気の大規模な需要者に対して、需要の最適化を図ることが新たに求められるようになった。電力の需給状況に応じ、需要を抑制したり増やしたりする取り組みが必要になる。これが3つ目のポイントだ。

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省エネ法改正によって企業がすべき対応

万年筆のペン先

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省エネ改正法のポイントを押さえたうえで、企業はどのような対応をすべきなのだろうか。3つの要点をまとめていく。

非化石エネルギーを含むすべてのエネルギーの省エネの実践

省エネ法改正により、非化石エネルギーを含むすべてのエネルギーの合理化が求められるようになった。企業は、すべてのエネルギーに対して省エネを実践する必要がある。

非化石エネルギー転換への中長期計画の策定

特定事業者等は、非化石エネルギーへの転換の目標を設定した中長期計画書を策定・提出しなければならない。セメント製造業、自動車製造業、鉄鋼業、化学工業、製紙業については、国により定量目標の目安が設定されている。

電気需要最適化のための設備の導入

これまでの省エネ法では、昼間・夜間・平準化時間帯に分けて電気使用量を報告していた。改正省エネ法では、月別(1カ月単位)または時間帯別(30分または60分単位)での電気使用量と、電気の需要の最適化を実施した日数を報告する。これを行うためには、例えば電気を蓄えるための蓄電池などの設備も必要になる可能性が高い。

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省エネ法改正によって期待できるメリット

最後に、省エネ法改正によって期待できるメリットに触れていく。主な2つの点に注目して紹介しよう。

エネルギー効率の向上とコスト削減

1つ目のメリットは、エネルギー効率の向上とコスト削減である。省エネ法改正では、非化石エネルギーを含めたすべてのエネルギーの合理化が求められる。これまで対象ではなかった非化石エネルギーの対策をより積極的に進めることで、エネルギー効率の向上を見込める。その結果、エネルギーコストの削減も期待できる。

温室効果ガスの削減

もう1つは、温室効果ガスの削減である。省エネ法改正で新たに求められる非化石エネルギー転換への中長期計画書の作成に当たり、事業者は具体的な取り組みを行うことが必要だ。さらに、先に述べた5業種については、国が設定した目標の目安もある。こうした取り組みの結果、実際に温室効果ガスの削減を実現することも可能だ。

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省エネ法改正によりカーボンニュートラル達成を推進

空と雲

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省エネ法改正により、すべてのエネルギーの省エネや、非化石エネルギーへの転換に向けた中長期計画の作成、電気需要の最適化が新たに事業者に求められることになった。今回の改正により、国はカーボンニュートラルの達成や電力需要の最適化を推し進める方針だ。近い将来、ある程度の成果を見ることができるだろう。

※掲載している情報は、2024年8月21日時点のものです。

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