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山から降りて街に出没する「アーバンベア」が、日本で問題視されている。この記事ではアーバンベアについてあらためて解説し、増え続ける理由についてひも解いていく。また、アーバンベアに対する課題や解決策についても紹介する。
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近年日本で激増し問題視される「アーバンベア」とは、山から下りて市街地周辺に生息・出没するクマのことだ。アーバンベアは繰り返し市街地周辺を訪れ、出くわした際には人に襲いかかる恐れがあり、被害件数も増加している。
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ここでは、アーバンベアの特徴と従来のクマとの違いについて解説する。
日本では北海道にヒグマ、本州と四国にツキノワグマがおり、基本的に森の中で生活している。しかし「アーバンベア」と呼ばれるクマは、人の住む市街地周辺に生息する。そのため、市街地周辺の畑やときには住宅地に出没することがあるのだ。アーバンベアと従来のクマでは、生息地と行動範囲が異なる。
一般的にクマは警戒心の強い動物であるとされ、人の気配がある場合は薮に隠れるかその場から逃げるケースが多い。一方、アーバンベアは生息地が市街地周辺であることから人や人が立てる生活音に慣れており、警戒心が薄い傾向にある。日中など明るい時間帯に市街地に出没することがあり、住宅街や農地などで人と接触する危険性が高い。
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近年増加し続けるアーバンベア。ここではその被害について、過去と比較してどの程度増加しているのか、どのような地域で深刻化しているのかといった実態を解説していく。
環境省のデータによると、アーバンベアによる人身被害は、2016~2020年度の過去5年間で人が日常的に滞在する場所(住宅地や市街地、農地など)の被害が2020年度で37.6%であった。この数値は、山林地帯の34.8%を上回っている。(※1)
また全国のクマ類による人身被害の発生状況を見ると、9月から12月の発生場所は約3割から6割が人家周辺で起きている。(※2)以上のデータから、アーバンベアの存在と被害の大きさがうかがえる。
全国の人的被害数は過去最高を更新している。2023年は過去最多で、クマ類による人身被害の発生件数は198件、219人だった。なかでも東北において過去最多を記録した。発生場所は秋田県の62件、岩手県の46件をはじめ、北海道6件、中部20件、北陸21件、関東でも5件起きるなど、全国に広がっている。(※2)
本州では東北地方を中心にツキノワグマ、北海道ではヒグマの出没が増えている。なかでもとくに被害の多い地域は秋田県と岩手県である。また、秋田県では人の生活圏において、アーバンベアによる人身被害が多いという特徴がある。県内で被害の多かった地域では「いつでもどこでもクマに遭遇するリスクがある」として、住民に注意を呼びかけている。(※3)
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なぜ、近年アーバンベアが増加傾向にあるのか。ここではアーバンベアが増加する背景について解説する。
アーバンベアが増加する理由の一つに、山中の餌不足が挙げられる。近年、猛暑などの影響によりクマの餌となるどんぐりなどの木の実が凶作の傾向にある。山中で餌が得られず、腹を空かせたクマが餌を求めて市街地に紛れ込んできているのだ。
里山の管理不足も、原因の一つとして挙げられる。少子高齢化により地方の過疎化が進み、後継者のいない畑や土地が管理不足のまま放置される状態が増えた。これらの耕作放棄地は草が伸びて茂みをつくり出し、クマが身を潜められる場所となる。また、山と民家の中間に耕作放棄地があることで境目が不明瞭になり、クマが知らぬうちに人の生活域に進入してしまうケースが発生する。
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ここでは、個人ができるアーバンベア対策について紹介する。
クマは嗅覚が鋭いため、生ごみの臭いに寄ってきやすい。したがって、生ごみを適切に処理することが大切だ。臭い対策をしっかりと実施し、長時間外で生ごみを放置するのを避けることで対策につながる。
山に入るときだけでなく、畑に行くときにもクマよけの鈴を身に付けていくといい。音が出るものを身につけることにより、人間の存在を気づかせて警戒を促す効果がある。鈴以外にも、スマートフォンで音楽やラジオをかけるものひとつの有効な方法だ。このようにして、まずはクマと遭遇しないことを心がけることが大切だ。
庭の柿や栗の木に実が残っていると、餌を求めてクマが寄ってきてしまう。庭木の果実はいつまでも放置せず、すみやかに収穫することで対策できる。
休耕地や畑、庭の茂みは定期的に刈り払いを行い、クマが身を隠す場所をつくらないことも大切だ。人間とクマが住宅地と山で住み分けるためのゾーニングは有効的な手段のひとつ。
たとえば山と人の生活圏の間に、間伐や草刈りで見通しをよくした帯状の緩衝地帯を設ける。そうすることでクマが人の生活圏へ侵入することをためらう心理的障壁となり、侵入を防ぐ効果が期待できる。
クマと遭遇した場合は、こちらに気づかれていなければゆっくりと後ずさりしてその場を立ち去るといい。クマは本能的に追いかける習性があるため、絶対に背を向けて走って逃げてはいけない。走って逃げたとしても、クマは時速約50キロで走れるためすぐに追いつかれてしまう。
クマがこちらに気づいたら絶対に背は向けず、落ち着いて両手を挙げてゆっくり手を振りつつ、穏やかな声で話しかける。もしくは近くに木があればその背後へ隠れ、クマの突進に備える。そしてクマと目を離さずにゆっくりと後退りして距離を取るのが効果的だ。(※4)
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自然による影響と人的な要因、アーバンベアが増加している原因は複数あり、対策には時間がかかることが予想される。アーバンベアが増えつつある昨今、人間の生活圏のなかでクマと遭遇する可能性を常に意識し、可能な限り対策をしておくことが求められる。
※1日本にもいる「アーバンベア」…市街地周辺に恒常的に生息、突然遭遇したときの対処法とは|読売新聞オンライン
※2令和6年度第1回クマ被害対策等に関する関係省庁連絡会議|環境省
※3【解説】クマ被害過去最悪 街なかに現れるアーバンベア対策|NHK
※4クマ被害過去最悪!"アーバンベア"対策は?いざという時身を守るには?|NHK
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