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中国において石油は重要なエネルギー源だが、それゆえに問題になっていることもある。どのような問題があるのか、そして中国の今後のエネルギーの動向についても解説する。
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中国の石油産業の現状はどうなっているのか。世界と比較して解説する。
2022年の中国の石油消費量は、15,009千バレル/日量であった。この消費量はアメリカに次ぐ世界2位という結果だ。2003年から世界2位に位置づけている。
石油消費量上位5位は、1位がアメリカで20,340千バレル/日量、2位が中国、3位がインドで5,153千バレル/日量、4位がロシアで3,760千バレル/日量、5位がサウジアラビアで3,701千バレル/日量となっている。(※1、※2)
中国で石油消費量が多い理由には、経済成長により工業化・都市化が進むなかで、交通輸送の増加、化学産業の原料として使われていることが考えられる。
2023年の中国の原油輸入量は5億6399万トンで、過去最高量となった。その背景には、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によって落ち込んだ燃料需要が回復したことがある。(※3)
輸入先の国は、ロシア、サウジアラビア、イラク、マレーシアなどだ。(※4)
2019年のデータによると、世界の原油貿易のうち中国が占める割合は23%で、石油消費量の7割を輸入している。(※5)
中国は、原油生産国でもある。2022年の中国の原油生産量は日量411バレルで、世界シェア4.4%となっている。これは、世界で6位である。
原油生産国の1位はアメリカで日量1,777万バレル、2位がサウジアラビアで日量1,214万バレル、3位がロシアで日量1,120万バレル、4位がカナダで日量558万バレル、5位がイラクで日量452万バレルとなっている。(※6)
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中国の石油エネルギーの、今後の動向を解説していこう。
アメリカの世界的金融グループであるモルガン・スタンレーのアナリストは、中国の石油消費は2025年にピークを迎えると予想している。その要因は、EVの普及と高速鉄道の利用者が増えているためという見解を示した。また中国の石油需要が減速すれば、石油市場や価格に影響を及ぼすだろうと述べている。(※7)
中国ではEV促進策、燃費規制、天然ガス自動車や高速鉄道の普及などにより、石油需要の伸びは2010年代にくらべて鈍化している。しかし自動車の保有台数やガソリンスタンドの数、石化需要などといった状況を踏まえると、需要が急速に減少するとは考えにくく、石油消費けん引はしばらく続くだろう。(※5)
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中国の石油消費により、さまざまなエネルギー問題が発生している。どのような問題があるか解説しよう。
中国では、大気汚染が深刻化している。とくに問題となっているのが、PM2.5と光化学スモッグだ。PM2.5は粒子状物質で、工場のばい煙、自動車の排気ガス、黄砂、森林火災などにより発生する。人間が吸引すると肺の奥に入り込み、呼吸器や循環器への健康被害を起こす。
光化学スモッグは、自動車の排気ガスに含まれている汚染物質などが原因で発生する。人間への健康被害や、植物の成長を抑制するといった被害をもたらす。2024年現在では空気の質は改善傾向にあるが、今後も大気汚染問題に対する対策は必要である。
2023年の中国のCO2排出量は、前年より5億6,500万トン増加して126億トンとなっている。これは世界一の排出量で、中国だけで世界の二酸化炭素排出量の35%を占めている。(※8、※9)
世界各国では、地球温暖化防止に向けてCO2排出量削減の取り組みを進めている。CO2排出量世界一の中国でも、CO2排出量の大幅な削減対策が求められる。
中国は石油消費の7割を輸入に頼っており、制裁対象国となっているロシアやイランからの輸入が多い。制裁により資機材提供が止まれば、これらの国では生産ができなくなる可能性があり、市場に混乱をきたしてしまうだろう。よって、輸入に頼らないエネルギーを開拓する必要がある。
エネルギーの輸入依存は、国際情勢の影響を大きく受ける。場合によっては電力の供給が不安定になる懸念がある。
中国で行われているエネルギー対策にはどんなものがあるのか紹介しよう。
中国では近年、風力や太陽光といった再生可能エネルギーの導入が拡大している。なかでも注目されているエネルギーが水素だ。国有企業であるシノペックは、2025年までに水素ステーションおよびガソリン・水素一体型ステーション 1,000か所、分散型太陽光発電所 7,000か所の設置を計画している。(※10)
中国では石炭を生産しているが、大気汚染改善と排出抑制の観点から2016年には石炭消費抑制のために炭鉱操業規制がしかれた。この規制により需要と供給のバランスが崩れてしまい、規制を解除。2021年には炭鉱事故頻発による安全検査の強化や、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)からの経済復調などにより、需要の逼迫と価格高騰を招いた。
こうしたことを受け、政府は石油・天然ガスの探鉱開発強化し、シェールガスや炭層ガス(CBM)などの非在来型資源を積極的に開発し、石油と天然ガスの国際協力(対外投資、輸入)を多角化すること、石炭、石油、天然ガスの備蓄(在庫)を増強することを指示した。(※11)
中国政府は石油・ガス産業の事業活動に伴う低炭素化・排出削減を実現するために、再生可能エネルギー電源との統合開発、自家消費抑制、EOR、CCUSなどによる増産とメタン抑制政策を実施している。またPetroChina、Sinopec、CNOOCの国有石油企業3社は、低炭素事業方針を表明し、それぞれの強みであるクリーンエネルギーを活用した「新エネルギー事業」を展開している。
なお、国としては2020年9月に2030年のCO2排出ピークアウト、2060年のカーボンニュートラルを宣言した。翌21年10月には「2030年排出ピークアウトに向けたアクションプラン」を公表している。(※12)
中国は、購入者側、製造者側それぞれに、新エネルギー自動車普及への政策を行っている。購入者側の政策には、新エネルギー車購入時の補助金の支給がある。製造者側の政策には、NEV関連の税制優遇の実施や、バッテリー交換車両の開発促進、農村部へのBEV普及などの方針を示している。(※13)
大気汚染が深刻な中国では、空気の質を改善するための政策もある。2023年に発表された「空気の質を継続的に改善するための行動計画に関する通知」では、2025年までに大気中の微小粒子状物質(PM2.5)濃度を2020年時点から10%削減すること、また、年間の重度汚染の発生日数を1%未満に抑制することを目標に掲げ、新たなクリーンエネルギー開発、天然ガス生産の拡大、交通分野の低炭素でグリーンな方式への転換・発展などの内容が盛り込まれている。(※14)
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石油は世界の主要なエネルギー源である。しかし石油はエネルギーをつくり出すときに二酸化炭素が発生し、それが地球温暖化の原因のひとつとなっている。
この二酸化炭素を減らすために、世界各国で注力しているのが再生可能エネルギーだ。SDGsの目標7には「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」がある。再生可能エネルギーなら、二酸化炭素の排出が少なく済み、資源が枯渇する心配もない。持続可能な未来を築くためには、石油依存を減らしクリーンエネルギーへの転換を進めることが不可欠である。
中国は石油の消費、輸入ともに世界トップクラスであるものの、脱炭素社会を目指し、さまざまなエネルギー政策を導入している。中国のエネルギー政策を見守りつつ、日本においても持続可能な未来を築くために、石油依存を減らしていくことが求められる。
※1 石油はいま2014年度版|石油情報センター
※2 2022年の石油市場を振り返る(3)|エネルギー・金属鉱物資源機構
※3 中国原油輸入、2023年は過去最高 燃料需要回復で11%増|ロイター
※4 中国の原油輸入量、2023年は「ロシア産」が最大に|東洋経済
※5 中国の石油における存在感|エネルギー・金属鉱物資源機構
※6 2022年の中東での石油生産は前年比9.2%増の日量3,074万バレル|日本貿易振興機構
※7 中国の石油需給|石油天然ガス・金属鉱物資源機構
※8 エネルギー集約型の経済成長と悪天候が重なり、中国とインドの排出量が増加した。|IEA
※9 世界の排出量の変化|IEA
※10 中国における水素に関する動向|新エネルギー・産業技術総合開発機構
※11 中国のエネルギー需給・調達の現状と今後の方向性|エネルギー・金属鉱物資源機構
※12 中国国有石油企業の上流投資と低炭素化戦略 ―増産と低炭素化の両立に腐心する政策遂行者―|エネルギー・金属鉱物資源機構
※13 経済低迷下のNEV補助金策、生産過剰と市場の歪み是正が政策課題|JETRO
※14 国務院、空気の質を継続的に改善させるための行動計画を発表|JETRO
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