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再生可能エネルギーの普及を目的に、政府が定めた制度がFIT制度とFIP制度だ。それぞれの制度が生まれた背景や仕組み、両者の違いを解説する。
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エレミニスト編集部
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FIT制度とは、経済産業省が2012年7月に開始した制度である。「FIT」は「Feed-in Tariff(フィード・イン・タリフ)」の略で、日本語では「固定価格買取制度」を意味する。この制度は、再生可能エネルギーで発電した電気を、電力会社が一定価格で一定期間買い取ることを国が保証する制度だ。対象となる再生可能エネルギーには太陽光発電、風力発電、水力発電、地熱発電、バイオマス発電がある。
FIT制度が導入された背景には、日本のエネルギー自給率の低さと、再生可能エネルギーの普及促進がある。日本のエネルギー自給率は、2021年度では13.3%であった。これは、他のOECD(経済協力開発機構)諸国とくらべて低い水準であり、38カ国中37位だ。(※1)
また日本のおもなエネルギー源は石油、石炭、天然ガス(LNG)であるが、そのほとんどが輸入に依存している。国際情勢の影響を大きく受け、場合によっては電力の供給が不安定になる懸念がある。
そこで政府はエネルギーの自給率アップのために、再生可能エネルギーに着目した。2021年10月に閣議決定した「第6次エネルギー基本計画」には、2030年には再生可能エネルギーの比率として36〜38%を目指すとしている。(※2)
しかし、再生可能エネルギーによる発電にはコストがかかる。一般家庭や事業者が再生可能エネルギーによる発電に参画しやすくするために、政府はFIT制度を導入した。
FIT制度の仕組みは、一般家庭や事業者が再生可能エネルギーで発電した電気を、電力会社が買い取るというものだ。買い取る費用の一部は、電気を利用する人から「再エネ賦課金」という形で追加料金として徴収する。この再エネ賦課金によって、コストの高い再生可能エネルギーの導入を支え、普及を進めている。
FIT制度により、再生可能エネルギー導入は大幅に増加した。制度開始前の2011年度の再エネ電源構成比は10.4%であったが、2022年度には21.7%に増加している。なかでも太陽光発電は大幅に増加し、一定の成果をあげている。(※3)
FIT制度は一定の成果をあげているものの、いくつか課題も浮き彫りとなった。とりわけ、太陽光発電のFIT制度における課題は次の3つがある。
1つ目は、売電価格の低下だ。FIT制度を開始した2012年は、売電価格が1kWhあたり40円であった。しかし2024年の産業用太陽光発電の売電価格は9.2〜12円/kWh、住宅用太陽光発電の売電価格は16円/kWhとなっている。
2つ目は、再エネ賦課金による国民負担が増えていることだ。FIT制度を開始した2012年の再エネ賦課金は1kWhあたり0.22円であったが、じわじわと金額が上がり、2024年には1kWhあたり3.49円となっている。標準家庭の負担(300kWh/月想定)に換算すると、年額792円から12564円の増額だ。(※4)これは国民負担が約15倍にも増えてしまったことになる。再エネ賦課金が値上がりしているのは、電気の買取量が増えていることが理由のひとつだ。
3つ目は、FIT制度の対象となっている再生可能エネルギーのなかで、太陽光発電に偏っていることが挙げられる。太陽光発電は参画しやすいが、発電出力が天候によって左右される点や、廃棄の際の太陽光パネルの処理なども懸念材料となっている。
2009年11月、FIT制度の前身である「余剰電力買取制度」が始まった。この制度では、住宅用太陽光発電の固定価格買取の期間が10年と定められており、2019年11月以降、順次満了(卒FIT)する。買取期間が終了した後、どのような選択肢があるのか紹介しよう。
FIT終了後の選択肢のひとつに、蓄電池を導入することで余剰電力を蓄電し、自家消費を行う「電力の自給自足」がある。太陽光発電と蓄電池を組み合わせれば、電力を無駄にすることがなく、夜間や天候が悪いとき、災害時でも電気が使える。また電力会社からの電力購入を減らせるため、電気代の節約にもつながる。
FIT期間が満了したあとでも、引き続き大手電力会社に電力を買い取ってもらうことができる。ただし買取価格が下がることや、契約が自動継続されないこともあるため注意が必要だ。
2016年4月の電力全面自由化を受け、さまざまな電力小売事業者が参入してきた。こうした電力会社のことを「新電力」と呼ぶ。新電力の多くは余剰電力の買い取りを行っているため、少しでも高く買い取ってくれる電力会社を探し、売電するのもひとつの選択肢だ。
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FIP(Feed-in Premium)制度とは、経済産業省が2022年4月に開始した制度である。この制度は、発電した再生可能エネルギーを卸電力市場や相対取引によって売り、その売電価格に対して一定のプレミアム(補助額)を上乗せする制度だ。この制度により、再生可能エネルギーをさらに普及促進することを目的としている。
FIP制度は、再生可能エネルギーを電力市場に統合する段階的な措置として定められた。固定価格で買い取りするFIT制度では、再生可能エネルギーを電力市場から切り離した状態であり、将来的に再生可能エネルギーを主力電源化するためにはベストとはいえない。FIP制度によって電力市場に統合すれば、価格競争が生まれて電力の需要と供給のバランスがとれ、再生可能エネルギーの自立化、再生可能エネルギーを主力電源化につながると考えられている。
FIT制度とFIP制度の大きな違いは、買取価格の仕組みだ。FIT制度は、再生可能エネルギーを電力会社に固定価格で一定期間買い取ってもらう制度であるのに対し、FIP制度は電力市場に合わせた変動価格で買い取られる制度だ。よってFIP制度の買取価格は電力市場の影響を受けるため、電力の需要が増加すれば買取価格も上昇することになる。
FIP制度は市場価格のほかにプレミアム(補助額)がつくため、市場価格よりも売電価格があがるのが最大のメリットだ。市場価格が高いときに売電すれば、売電価格が一定のFIT制度より高く売れる可能性がある。
またFIT制度で課題となっていた再エネ賦課金だが、FIP制度導入で市場の価格競争が促されるため、国民の負担が軽くなることも期待される。
FIP制度では、発電した電気の売り先を自分で探さなければならないのがデメリットのひとつだ。また売電価格が市場価格の影響を受けるため、収益の予測が難しい点もデメリットといえるだろう。
そのほかに、収益をいかに上げるかを考えなければならないことも挙げられる。FIP制度には発電計画値の報告義務があり、再エネ発電事業者が発電量を計画値として予測し、実際の発電量である実績値と一致させなければならず、計画値と実績値に差が生じた場合にはペナルティを支払わなければならない。また、効率よく売電するために蓄電池を設置する場合にはコストがかかる。こういった運用コストを、収益を上げつつ回収することが重要となる。
FIP制度がはじまったからといって、FIT制度が廃止されるわけではない。10kW未満の住宅用太陽光発電や、10kW以上50kW未満の事業用太陽光発電は、買取期間満期までFIT制度が継続され一定価格で電力が買い取られる。またFIP制度は住宅用太陽光発電を対象外としているため、FIP制度に移行する必要はない。
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FIT制度やFIP制度は、政府が進める再生可能エネルギー普及の政策である。これらの制度を通じて、輸入に頼らないエネルギーや地球にやさしいクリーンなエネルギーについて考えよう。そして、地球温暖化を防ぐアクションを起こしていきたい。
※1 2023―日本が抱えているエネルギー問題(前編)|資源エネルギー庁
※2 再生可能エネルギー FIT・FIP制度ガイドブック2023年度版|資源エネルギー庁
※3 日本の多様な再エネ拡大策で、世界の「3倍」目標にも貢献|資源エネルギー庁
※4 再生可能エネルギー発電促進賦課金の推移|新電力ネット
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