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日本では「昆虫」を使った食品が登場すると人々の話題をさらう。しかし「昆虫食」はただの"奇をてらった食べ物"ではない。近年、「昆虫食」が注目を集めている理由は何か。その背景や昆虫食の歴史を紐とくとともに、昆虫食のメリット・デメリットを解説する。
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昆虫食とは、食べられる状態にした昆虫を栄養源として摂取すること。昆虫食に利用される昆虫には、コオロギ、カイコ、イナゴ、ハチノコ、ゲンゴロウ、セミなどがあり、炒めたり、佃煮にしたり、パウダーにして調理に用いられたりする。
2013年5月に国連食糧農業機関(FAO)が発表した報告書によると、全世界で約20億人が1900種類を超える昆虫を食べている。もっとも多く食されている昆虫は、甲虫類(コガネムシ目、31%)だ。ほかには毛虫・イモムシ類(チョウ目、18%)、ハチ(アリ目、14%)で、その次はバッタ類(直翅目、 13%)、セミ(カメムシ目、10%)、シロアリ(シロアリ目、3%)、トンボ(トンボ目、3%)、ハエ(ハエ目、2%)や他の昆虫類(5%)なども食されている。昆虫食がさかんな地域はアジア、アフリカ、南アメリカなどで、日本でも昆虫を食べる習慣がある。(※1)
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近年、「昆虫食」という言葉を耳にするようになった人も少なくないのではないだろうか。昆虫食が注目を浴びるようになったきっかけは2つある。ひとつは、FAOが「食料問題の解決策として、昆虫食が有用である」と前述した報告書で発表したことだ。もうひとつが、2015年9月に開催された国連サミットで「昆虫は貴重なタンパク源である」と推奨されたことだ。
その背景には、地球規模の人口増加と、それにともなう食糧不足問題がある。2030年には世界の人口は約85億人に達すると考えられており、十分な食糧を確保できない人が増加する可能性がある。その食糧不足問題の対策のひとつとして、安価で入手でき栄養価の高い昆虫食が注目されているのだ。
また昆虫食は、生産時における温室効果ガス排出量が少なく、えさに生活廃棄物を活用できるなどといった、環境負担が少ない点でも注目されている。
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昆虫食はどのようにはじまり現在に至るのか、その歴史を紐解いていこう。
昆虫食がはじまった正確な記録は残されていないが、いまから3500年~2500年前の古代ギリシャ・ローマ時代には昆虫を食べていたことがわかっている。その例は、バッタ、セミ、カミキリムシなどだ。中国では、約3000年前の周の時代からセミやハチ、アリなどが食べられていた。またオーストラリア・ニューギニアでは、先住民のアボリジニーが貴重な栄養源として昆虫を食べていたといわれている。
20世紀初頭には、食用昆虫の養殖が組織的に始まったとされている。なかでもタイやベトナムなどではコオロギやバッタの養殖がさかんで、世界中で昆虫食を扱う企業が増加傾向にある。
このように古代から世界各地で昆虫食が行われており、現在でも日常的に食されている。
日本では、奈良時代や平安時代にはイナゴやカイコのさなぎを食べていたと考えられている。平安時代に書かれた日本現存最古の薬物辞典「本草和名(ほんぞうわみょう)」には、イナゴを食べていたことを示す記述が残っている。
江戸時代になると、昆虫食は地方の農村部で一般的に行われ、イナゴやハチノコは貴重なタンパク源として重宝されていたようだ。昭和30年代にはイナゴが東京などの食料品店で販売され、昆虫食の文化がない地域にも広く知られるようになった。
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昆虫食にはどのようなメリットがあるのか、解説していこう。
昆虫は、鶏・豚・牛肉、海洋魚と比較しても栄養価が高いことで知られている。なかでもタンパク質を多くふくんでいることが特徴だ。たとえばイナゴなら乾燥重量の60%、コオロギなら乾燥重量の65%がタンパク質だ。昔から昆虫食は、貴重なタンパク源を摂取するために行われていたのだ。
そのほか、必須アミノ酸やオメガ3脂肪酸やオメガ6脂肪酸といった不飽和脂肪酸、食物繊維、カルシウム、鉄、亜鉛も多く含んでいるため、健康的な食物と言える。
食用の昆虫を生産する場合、省スペースで飼育できる、家畜ほど水を必要としない、餌に食品ロスや生ごみなどの食品廃棄物を活用できる、1週間から1か月ほどで出荷できるなどのメリットがある。
また加工する場合、パウダー状やペースト状にしやすい。そのため、簡単に食品に練り込んだりふりかけたりできるのもよい点だ。
生産時に排出される温室効果ガスの排出量が、食用の豚や牛の飼育にくらべてかなり少ないのもメリットといえる。FAOの報告書によれば、ミルワームの生産時に排出される温室効果ガスは、豚などのおよそ10~100分の1であると記載されている。(※2)
よって、肉の代わりに昆虫を食べることが地球温暖化対策につながる可能性が高い。
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昆虫食にはメリットがある一方、デメリットもある。どのようなデメリットがあるか解説する。
昆虫食に使われる虫は、エビやカニといった甲殻類や貝類、ダニやゴキブリと同じアレルゲン性タンパク質を持っているからだ。そのため甲殻類アレルギーやダニアレルギーの人が昆虫を食べると、蕁麻疹や呼吸困難、まぶたの腫れ、嘔吐、喉のかゆみといったアレルギー症状が出る可能性がある。
昆虫食は、まだ研究・開発段階である。昆虫を食べることにより、病気や寄生虫が人間に伝染するといった公衆衛生上のリスクがある。また昆虫自体に毒があったり、毒のある植物の花の蜜を吸う昆虫などを食べたりすることで、健康被害を起こす可能性がないとはいえない。ただしFAOによれば、昆虫が衛生的な環境で扱われる限り、病気や寄生虫が人間に伝染された事例は知られていない。
昆虫食を行うときには、自分で採集した昆虫を食べたり、生で食べたりすることは避けたほうがよいだろう。
野生の昆虫を捕獲して食用利用する場合には、農薬に注意する必要がある。昆虫のなかには農薬を使った植物をえさにするものがおり、そうした植物を食べた昆虫には、農薬が残留、蓄積している可能性がある。そういった可能性から、FAOは野生の昆虫を捕獲して食用利用する場合は農薬の規制が必要だと考えている。(※1)
ただし農薬を規制すると農作物の収穫量が減ることも考えられるため、農薬の規制については昆虫食の課題となっている。
昆虫食には、昆虫の姿そのままのものもある。昆虫が苦手な人は、見た目に抵抗感があり、なかなか口にできないこともあるだろう。また、においや味が苦手という人もいるかもしれない。
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昆虫食を購入できる場所は増えてきている。日本国内には、コンビニやスーパーといった身近なお店で買える商品もある。また昆虫食の自動販売機、昆虫食の通販ショップ、オンラインショップなどでも購入可能だ。
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昆虫食は、高タンパク質で生産面や環境面で多くのメリットがあり、将来の食糧問題を解決する食品となる可能性を秘めている。見た目に抵抗があるかもしれないが、パウダー状やペースト状のもの、食品に混ぜ込まれたものなら抵抗なく食べられる可能性がある。昆虫食を日常的に食べる日も、そう遠くないかもしれない。
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