Photo by Joel Muniz on Unsplash
SDGsの目標を踏まえ、政府が食品ロスの削減を推進するなか、多くの企業が独自の取り組みを行っている。いまや企業における食品ロス削減の取り組みは必須であり、目標達成に向けて一層の努力が求められている。本記事では、取り組み事例とともに、食品ロスの現状やSDGsとの関係性も解説する。
ELEMINIST Editor
エレミニスト編集部
日本をはじめ、世界中から厳選された最新のサステナブルな情報をエレミニスト独自の目線からお届けします。エシカル&ミニマルな暮らしと消費、サステナブルな生き方をガイドします。
わたしたちの買い物が未来をつくる|NOMAが「ソラルナオイル」を選ぶワケ
Photo by Matthew Moloney on Unsplash
食品ロスとは、食べられるにも関わらず捨てられてしまう食品のこと。食品ロスは社会問題や環境問題と深くつながっており、影響は多岐にわたる。
食品ロスの発生による直接的な問題は、食品の浪費。世界的に深刻化している食料不足問題に直結していることは想像に難くない。また、食品ロスによって無駄になるのは、食品だけではない。生産者や製造者の労力やさまざまなコストも無駄になっている。
さらには、環境にも負荷を与える。食品を廃棄する際に温室効果ガスが排出され、焼却後には灰を埋め立てる必要がある。焼却時に多くのエネルギーを必要とするのも問題だ。
食品ロスが多く発生している現在は、持続可能な社会とはいい難い。いま、世界一丸となって取り組みを進めることが求められている。
Photo by John Schnobrich on Unsplash
令和3年度推計値によると、日本の食品ロス量は年間で約523万トンだった。この数値を国民1人当たりの食品ロス量として換算すると年間約42kg。さらに細かく計算すると、1日当たり約114g。国民全員が毎日おにぎり1個分の食品を捨てていることになる。
食品ロス量の内訳は、食品事業者から発生する事業系食品ロスが約279万トンで、家庭から発生する家庭系食品ロスが約244万トン。事業系食品ロスが約53%、家庭系食品ロスが約47%なので、両者の比率は半々である。政府は、2030年度の食品ロスを2000年度と比べて半減させることを目標として、食品ロス削減のための取り組みを推進している(※1)。
一方で、FAO(国際連合食糧農業機関)の報告書による世界の食品ロス量は年間約13億トン。これは、世界の食糧生産量の3分の1の量に相当する。世界では、9人に1人が栄養不足とされている。そんな状況下で大量に食品が捨てられている現状があるのだ(※2)。
Photo by Conscious Design on Unsplash
世界的にみると、食品ロスの原因にはさまざまなものがある。発展途上国では、収穫技術が不足していたり、保存や加工にかかわる施設が整っていなかったりという理由でやむを得ず食品ロスが発生することが多い。一方で、先進国では過剰生産や厳しい品質基準が原因となることが多い。以下では、日本における食品ロスの主な原因を紹介する。
食品の流通における商慣習のひとつに「3分の1ルール」がある。3分の1ルールでは、製造日から賞味期限日までの期間をメーカー・小売・消費者で3等分する。納品・販売期限が設けられ、それぞれの期限を過ぎると商品は廃棄対象となってしまう。近年は、食品ロスの視点から問題視されており、見直しが求められている。
規格外品は、市場に出る前に廃棄の対象となってしまう。規格外品とは、形や大きさが規格からはずれている農産物やパッケージにミスがある商品などを指す。規格外品は見た目こそ規格を満たしていないが、品質には問題のないものが多い。食べられるにも関わらず、規格外というだけで処分されてしまうのだ。
小売店における売れ残りも、食品ロスが発生する原因のひとつである。メーカーが欠品を防ぐために食品を過剰に生産すると、売れ残りにつながってしまう。また、小売店は、陳列棚を充実させるために多くの在庫を抱えている。需要と供給がずれて商品が期限内に売れない場合、商品は廃棄されてしまう。
外食産業でも食品ロスが発生している。レストランでの客の食べ残しがわかりやすい例だろう。私たちが食べきれない分を注文してしまうことで、料理が廃棄されてしまう。また、つくりすぎた惣菜の売れ残りも食品ロスとなる。
家庭系食品ロスの原因は、直接廃棄・食べ残し・過剰除去の3つとされる。使いきれずに期限切れを迎えた食品が廃棄されるほか、つくりすぎや好き嫌いによる食べ残しも要因のひとつだ。調理時に食べられる部分を捨ててしまう過剰除去も、食品ロス量に大きくかかわっている。
Photo by Roman Kraft on Unsplash
政府が食品ロスの削減を推進するなか、取り組みを行う企業は多い。以下では、フードサプライチェーンにおけるさまざまな業種から代表的な事例を紹介する。
Glicoグループでは、「Glicoグループ環境ビジョン2050」のなかで食品廃棄物削減を重要なテーマと位置づけ、さまざまな取り組みを行っている。需給予測に力を入れ、過剰在庫を持たないようにしているほか、「ふぞろい品」の販売を実施。微細な欠けなどが発生した品質に問題のない商品をアウトレット価格で販売することで、食品ロスを削減している。場所や時期は不定だが、「ジャイアントカプリコ」やポッキーなどが対象だ(※3)。
セブンイレブンは、豊かな地球環境を未来へつなぐために、さまざまな課題に取り組んでいる。2021年6月からは全国の自治体と協力して、販売期限が迫った商品を選ぶ「てまえどり」の啓発をスタート。オリジナルPOPを設置し、消費者に食品ロスの削減を呼びかけている。食品小売業における食品ロスの削減に大きく貢献する取り組みである(※4)。
キユーピーグループでは、食品メーカーの重要な責任として食品ロスの削減に努めている。さまざまなアプローチを行っているが、商品における対応として、賞味期限の延長と表示の切り替えを進めている。「キユーピー マヨネーズ」は、2016年に、賞味期限を10カ月から12カ月に延長した。また、「キユーピーあえるパスタソース」シリーズは、賞味期限を延長し、「年月日表示」から「年月表示」に表記を変更。ほかにも多数商品で製法や包装の改良による同様の取り組みを行っている。いずれも企業努力の賜物といえる(※5)。
ニッスイグループは、サステナビリティ委員会のなかにフードロス部会を設け、食品ロスの削減と従業員の意識向上に取り組んでいる。2008年度からは、フードバンクである「セカンドハーベスト・ジャパン」へ冷凍食品を寄贈している。2022年度の寄贈実績は7.9トン。同活動を通して、本来なら食べられる食品の廃棄の削減につなげている(※6)。
さまざまな環境負荷軽減施策を実施している吉野家。2023年2月からは、規格外食材の有効活用として、玉ねぎの端材をアップサイクルする取り組みを行っている。東京工場では、1日に約10トンの玉ねぎを加工するなかで、芯の部分を規格外箇所として取り除いている。その端材を「ASTRA FOOD PLAN株式会社」に発送。同社で粉末化し、パン製造業者に供給している。2024年2月以降は、東京工場で粉末化までを行えるように準備中だ(※7)。
クラダシは、期限が近い商品や規格外品を販売するショッピングサイト「Kuradashi」の運営を通して、食品ロスの削減に貢献している。企業はさまざまな理由により市場に出せない食品を販売でき、利用者は商品をお得に購入できる。また、購入金額の一部は、社会貢献活動の支援に充てられる。買い物というアクションで、社会をよくする仕組みをつくり出しているといえる(※8)。
キッコーマングループでは、2008年に「容器に関する指針」を明文化。環境負荷が少なく、消費者にとって使いやすい容器包装を目指し、開発・商品化を行っている。「キッコーマン いつでも新鮮 しぼりたて生しょうゆ」には、しょうゆが空気に触れない二重構造のボトルを採用。開栓後の中身の酸化を防ぐことで、高い保存性を実現している。また、しょうゆを最後まで注ぎ出せるように工夫が施されている。消費者は、おいしい状態で長く保管できるうえに、最後まできっちり使い切りやすいというわけだ(※9)。
コークッキングは、フードシェアリングアプリ「TABETE」を通して、食品ロスをおいしく解消する仕組みをつくっている。「TABETE」は、食品ロスの危機に面している食品をユーザーとマッチングするアプリ。ユーザーは、パン店・ケーキ店・ホテル・飲食店・スーパーなどで売れ残っている商品や料理を探し、購入できる。多数の自治体と協定を締結し、食品ロスの削減に努めている(※10)。
味の素グループでは製品にあわせた最適な容器包装を開発し、食品ロスの削減や資源保全につなげている。「鍋キューブ」は小分け・個包装化の好例だ。鍋つゆの素がキューブ状で個包装されていることによって、調理時に人数によってつくる量を調整することが可能。家庭での食べ残しの削減に貢献している(※11)。
スーパーマーケットを運営するヤオコーグループでは、食品を扱う会社としての社会的責任を果たすべく、3分の1ルールから2分の1ルールへと鮮度管理基準の見直しを行った。メーカーから店頭への納品期限を延長することで、物流センター内での廃棄食品が削減された(※12)。
地球から得る量よりも還元する量を増やすことを目指すスターバックスでは、2021年8月から「フードロス削減プログラム」を行っている。店舗の在庫状況に応じて、閉店前にフード商品を20%オフで販売するというものだ。実施の有無は、各店舗が日ごとに判断する。売上の一部はこども食堂支援センターに寄付している(※13)。
SDGsの目標12に「つくる責任 つかう責任」があるが、このゴールは、食品ロスと深く関わっている。なかでも、目標12.3では以下の通り、食品ロスについて明記されている。
2030 年までに、小売・消費者レベルにおける世界全体の一人あたり食品廃棄を半分にし、収穫後の損失を含めて生産・サプライチェーンにおける食品ロスを減らす。
食品ロス削減への取り組みは、SDGsの達成につながっている。現に、日本政府が掲げている食品ロスの半減目標は、SDGsを踏まえて検討されたものである。
食品ロス問題はさまざまな課題と関わりが深いため、SDGsの目標12以外にも、複数の目標と関連している。持続可能な社会を実現するためには、食品ロスの削減が必須なのだ。
食品ロスの削減やSDGsの達成は、政府の包括的な取り組みだけでは実現し得ない。企業や自治体、個人がそれぞれの立場からそれぞれの方法でアクションを起こすことが必要だ。
なかでも事業系食品ロスを削減するためには、食品に関連する企業の取り組みが欠かせない。私たちは個人でできることを行いながら、消費者として企業の取り組みに関わる姿勢を持っておきたい。
参考
※1 食品ロスって何が問題なの?|農林水産省
※2 食品ロスの現状を知る|農林水産省
※3 食品廃棄物削減に向けて|Glico
※4 地球環境 食品ロス・食品リサイクル対策|セブン‐イレブン
※5 食品ロスの削減・有効活用|kewpie
※6 フードロス|nissui
※7 環境保全活動|吉野家
※8 Kuradashi
※9 食品ロスを減らしてみよう 実践編 事業者・団体 P128〜129|消費者庁
※10 TABETE
※11 容器包装の環境配慮設計の事例紹介|味の素
※12 環境|YAOKO MARKETPLACE
※13 現場の声から生まれたフードロス削減プログラム|STARBUCKS STORIES JAPAN
ELEMINIST Recommends