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「てまえどり」とは、商品棚の手前にある商品を積極的に選ぶ購買行動のこと。本記事では、「てまえどり」を行う効果やメリット、必要とされる背景について、日本の食品ロス問題の現状について触れながら解説していく。そのほか、簡単にできる食品ロス対策についても紹介しよう。
ELEMINIST Editor
エレミニスト編集部
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「てまえどり」とは、その名の通り「てまえ(手前)」から「とる」ことを意味する言葉。食品を購入する際、すぐ食べる場合には、商品棚の手前にある商品(販売期限が迫っているもの)を積極的に選ぶ購買行動のことだ(※1)。
たとえば、比較的期限が気になりやすい牛乳や卵などは、手前のものではなく「念のため……」と期限が長い奥の商品から選んで購入することもあるかもしれない。しかし、期限内に消費できそうであれば、手前に並んでいる期限が早いものから取って購入することがのぞましい。
「てまえどり」を行なうことで、食品ロスを削減する効果が期待されている(※2)。
食品ロスとは、まだ食べられるのに廃棄される食品のことだ。スーパーやコンビニエンスストアなどでは、賞味期限や消費期限の前に販売期限が設けられており、これをすぎると販売できないルールがある。販売期限を過ぎた商品は、消費期限前でも廃棄する必要があるため、食品ロスが発生してしまう。
そこで、消費者が購入してすぐに食べる場合には「てまえどり」を行うことで、商品が廃棄されずにすむというメリットがある。
「てまえどり」が必要とされる背景には、先進国の食品ロス問題がある。ここからは、日本における食品ロス問題の現状や問題点について説明しよう。
農林水産省の発表によると、令和3年度の食品ロス量は523万トン(※3)。このうち、食品関連事業者から発生する事業系食品ロス量は279万トン、家庭から発生する家庭系食品ロス量は244万トンだという。国民一人あたりに換算すると、お茶碗約1杯分(約114g)のまだ食べられる食品が、毎日捨てられていることになる。
また、世界中で食べるものがなく飢餓に苦しむ人々に向けた食糧支援量は、2021年で年間約440万トン。日本の年間食品ロスはこの1.2倍に相当する(※4)。このデータからも、どれほど多くの食品を食べずに捨てているかがわかるだろう。
日本では、2030年度までに事業系の食品ロス量を273万トン(2000年度比で半減)に削減することを目標に掲げている。
この目標を設定した背景には、2015年に国連総会において採択されたSDGsの目標12「つくる責任 つかう責任」が関連している。このなかには、「2030年までに小売・消費レベルにおける世界全体の一人あたりの食料の廃棄を半減させ、収穫後損失などの生産・サプライチェーンにおける食料の損失を減少させる」ことがターゲットとし設定されており、国際的な共通の目標として認識されているのだ(※5)。
本サイトで行った「食品ロスと賞味期限に関するアンケート」の結果、商品を購入する際に「てまえどり」を行なっているか調査したところ、「よく行なっている」人が72.5%、「ときどき行なっている」人が21.6%と、合計で9割以上の人が「てまえどり」を行なっていることがわかった。
また、どのくらいの頻度で、まだ食べられるのに食品や食材を捨てることがあるのか調査したところ、「ほとんどない」「数ヶ月に1回」「年に1〜2回」と、頻繁に捨てていない人が7割以上。しかし、27.4%の人が「月に1回以上」という高頻度で、まだ食べられる食品や食材を捨てていることがわかったのだ。
捨てられてしまう食品の中で、もっとも多かったのが「野菜」。次いで「調味料」「米・パン・シリアル等」「惣菜」があげられた。捨てる理由としては「傷んでしまった」「使いきれなかった」「忘れてしまった」というケースが多かった。
京都市が実施した、「てまえどり」の食品ロス削減効果を検証する取り組みによると、市民モニターに「てまえどり」を呼びかけたところ、家庭での食品ロス量が減少するとともに、店舗の食品廃棄量も減少したそうだ。
この効果検証では、公募した100名以上の市民モニターに、3ヶ月間食品ロス量を記録してもらい、はじめの1ヶ月は「てまえどり」を意識せずに、残りの2ヶ月は「てまえどり」を意識して買い物をしてもらった。
モニター活動前のアンケートによると、食品を使いきれず期限切れになってしまうことを懸念して、できるだけ期限の長いものを購入していた人も多かったそうだが、「てまえどり」をおこなった方が、食品ロス量が減少する結果となったのだ。
また、店舗では「てまえどり」のPRを重点的に行った品目の合計廃棄率が、前年比で約6割と大幅な減少が見られた。食料品全体でも前年比で減少し、廃棄量削減の効果が確認できたのだ(※6)。
「てまえどり」以外では取り組みやすい食品ロス対策には、どのようなものがあるのだろうか。簡単にできるものを5つ紹介しよう。
3010(さんまるいちまる)運動とは、宴会時の食品ロスを減らすことを目指した運動のこと。乾杯から30分間と、終了前の10 分は自分の席で料理を楽しみ、食べ残しを減らそうという呼びかけである(※7)。宴会の場であっても、一人ひとりが無駄を出さないことを意識しながら、料理もおいしく楽しむことが大切だ。
フードドライブとは、家庭で余っている食べ物を学校や職場などに集めて、食品を必要としている地域のフードバンクなどの生活困窮者支援団体、子ども食堂、福祉施設などに寄付する活動のこと(※8)。
自治体施設や、スーパーマーケットの店頭に回収ボックスを常設し食品を回収する方法や、環境関連のイベントに合わせて単発で回収する方法など、さまざまな方法で実施されている。まとめ買いしすぎてしまったものや、もらったけれど食べないものなど、フードドライブを活用してみてはいかがだろうか。
外食時には、食べ切れるだけの量を注文するように心がけることが大切だ。自分に適した量を把握し、最初からハーフサイズや少量のメニューを活用したり、万が一食べきれなかった時には持ち帰りができるお店を選んだりするのも、ひとつの食品ロス対策になる。
意外と多いのが、家にあるのを忘れて同じ食品を再び買ってしまい、余らせてしまうケース。そんな「無駄買い」をなくすために、買い物前に冷蔵庫や調味料などのストックを確認しておくことが大切だ。食品ロス削減につながるとともに、無駄な買い物をなくし出費を抑えることができるメリットもある。
食品を適切に保存することも、食品ロスにつながる。たとえば、野菜は種類によって冷蔵か常温か、保存袋に入れたほうがいい、新聞紙に包んだほうがいい、など適した保存方法がある。
傷んでしまったというの理由で捨てられてしまうことが多いが、ひと手間かけるだけで傷みにくくなり、無駄を減らすことができるのだ。保存方法はインターネットで検索すると簡単に調べられるので、買ってすぐに使わないときには調べて実践してみるといいだろう。
「食品ロス削減」と聞くと、少しハードルが高く感じるかもしれない。しかし、「てまえどり」をはじめとした簡単に取り組める食品ロス対策もある。まずはむずかしく考えず、“もったいない精神”を大切に行動していくと、自然と食品ロス削減にもつながっていくだろう。
※1 環境再生・資源循環|環境省
※2 「てまえどり」が今年の新語・流行語大賞トップ10に選出されました!|農林水産省
※3 最新の食品ロス量は523万トン、事業系では279万トンに|農林水産省
※4 食品ロスについて知る・学ぶ|消費者庁
※5 食品ロスとは|消費者庁
※6 「てまえどり」の食品ロス削減効果について|京都市情報館
※7 3010運動って?|環境省_エコジン
※8 フードドライブ実施の手引き(1ページ目)|環境省
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