Photo by Suhyeon Choi
地球温暖化問題の深刻化を受け、「フライトシェイム(飛び恥)」への注目が高まっている。フライトシェイムとは、地球温暖化の主な原因とされる温室効果ガス(二酸化炭素など)を排出する飛行機の利用は、恥ずべき行為だと主張する社会運動だ。
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航空業は気候変動、とくに地球温暖化への影響が大きい。飛行機を運行することによって温室効果ガスが大量に排出されるためだ。これに気付いた人々が飛行機利用を避け始めている。
飛行機利用を避ける活動の発端地となったスウェーデンではこの社会運動を母国語で「flygskam(フリュグスカム)」と呼び、以後、この名称は世界で翻訳されて「フライトシェイム(Flight shame/Flight shaming)」なる新語として知られるようになった。
「『飛行機に乗ること』=『環境破壊への加担となる恥ずべき行為』である」とし、鉄道や自転車をはじめとした代替の移動手段利用を勧める社会運動である。同様の意識を根底としている「反フライト運動」もフライトシェイムと呼ばれている。
日本語で「飛び恥」と名付けたメディアもある。現在の環境保護視点において、飛行機がいかにネガティブな存在に位置づけられているかがうかがい知れる命名である。
フライトシェイムは、スウェーデンの環境活動家であるグレタ・トゥーンベリさんの活動から発生した新語だと見られる。グレタさんは環境への負荷を案じ、飛行機利用を控える旨を公に発表した。
実際に彼女は2019年のニューヨークの国連サミットに参加する折、スウェーデンの自宅からニューヨークまでの大西洋4,800kmをヨットで横断した。(※1)
同じくスウェーデン出身の歌手であるスタファン・リンドバーグ氏や、冬季オリンピックの金メダリストであるビョルン・フェリー氏などの著名人がフライトシェイムを提唱したことにより、2019年頃からその意識が世界に広まったと考えられる。
飛行機の利用が環境に与える問題点として、何が取り上げられているのだろうか。もっとも大きな問題として注目されているのは、温室効果ガスの原因となるCO2の排出量である。
世界の航空機からのCO2排出量は1992年に年間0.14Pg(1,015g)をマークした。世界の人間活動における全排出量の2%にあたる。
化石燃料の全使用量での割合は2.4%となり、飛行機以外の輸送機関も含めた全体使用量においては13%にものぼる量だ。(※2)
なお、日本の人間活動におけるCO2のセクター別の排出量のランキング(2015年)は以下である。
1位:産業…4億3,221万tCO2
2位:運輸…2億1,742万tCO2
3位:業務その他…2億1,825万tCO2
4位:家庭…1億8,686万tCO2
5位:エネルギー転換…9,250万tCO2
飛行機からのCO2排出は運輸セクターに含まれる。2015年の運輸セクターの排出量は2億1,742万tCO2であり、うち5%が飛行機からの排出だ。(※3)
環境負荷を考えると、5%の割合を無視していい事実とは言いがたいだろう。「フライトシェイムやむなし」とする人々がいるのも無理からぬことである。
環境保護においてCO2排出量の削減が叫ばれて久しい。欧米をはじめ、日本を含むアジアでも重要な課題となっている。
地球温暖化の原因の一つがCO2の増加だと指摘されている。地球温暖化は異常気象の発生などの気候への悪影響をはじめ、食糧危機や水資源の枯渇など、さまざまな環境問題を引き起こすことが懸念される現象だ。
各国における地球温暖化への対策は当然であり、CO2の排出量削減はその一つである。日本でも環境省が力を入れており、今後の対策が注目されている。
フライトシェイムの提唱にあたり、代替交通手段の提案が重視されている。トゥーンベリ氏が行ったようなヨットの使用は日常生活において現実的ではない。そのほかの交通手段と飛行機のCO2排出量を比較し、少ないほうを選択するのが良策だろう。
CO2排出量削減に貢献し、かつ有効であると考えられる手段には徒歩、自転車、電車が挙げられる。いずれも飛行機と比較すると削減率が高い。
たとえば遠距離の旅行で飛行機を利用すると、そのCO2排出量は最大599gである。一方で路面電車や地下鉄では31g~35gにまで抑えられる。(※3) 適した手段を選択すれば、フライトシェイマーであっても長距離移動は可能だろう。
フライトシェイムに賛成する人々は、みずからの能力がおよぶ範囲で可能な限りポリシーを貫いている。
グラミー賞受賞経験のあるイギリスの人気ロックバンド「Cold play」は、環境への懸念にかんがみ、ワールドツアーを中止した。ツアーでの飛行機利用が環境負荷になるという理由からである。
無名の人々も自分のできる手段で環境を守ろうとしている。スウェーデン国内にある10の空港では、利用者が実に8%も減少し、それらの人々は移動手段を鉄道へ移行したと見られている。
フライトシェイムの槍玉にあげられている航空業界だが、手をこまねいて悪役に甘んじているわけではない。CO2排出量削減に注力し、数々の対策を打ち出している。
2016年には国際民間航空機関が「国際民間航空のためのカーボンオフセットおよび削減スキーム(CORSIA)」を発表し、2021年からその稼働を実現した。同時に各国政府にも対応を強く働きかけ、CO2排出量削減を推し進めている(※5)。
日本の航空業界でも対策の一環として、廃食油・木材などを原料とするバイオ燃料の導入を進めており、従来のジェット燃料よりも高いCO2排出量削減効果が期待されている。
しかし、フライトシェイマーの増加が航空業界に経済的な影響を与えている事実は否定できない。前述のスウェーデンでも、フライトシェイムによる飛行機の利用控えが航空会社の業績を低下させている。
さらに新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大防止のため、旅客は激減の一途をたどった。飛行機の需要も一気に冷え込んだのである。経営状況がかんばしくない航空会社もあるだろう。それでも環境への配慮を求める声と環境改善の必要性を無視することは難しい。
飛行機の需要はたしかに減少したが、旅行したい人がいなくなったわけではない。最近では「サステナブルな旅行をしたい」と考える人が増加傾向にある。
そのような旅客へのアプローチや新型コロナウイルス感染症(COVID-19)へのさらなる対策を含め、航空会社の今後の経営戦略には大きな変化が見られるようになるだろう。
フライトシェイムという新語には「環境問題に無関心な人への懸念」も込められている。事実、地球温暖化に無関心ではいられない段階になっている。
ただ、フライトシェイムは決して批判のために存在する言葉やポリシーではない。地球温暖化をはじめとした環境問題への人々の関心を高め、その問題に改めて向き合うためのきっかけを多くの人々に与えた新語だと言えるのではないだろうか。
※1 十代の活動家グレタ・トゥーンベリさん、ヨットでニューヨークに到着 「気候危機」に注目を集める(UN News 記事・日本語訳)|国際連合広報センター
※2 航空機の地球大気環境へ与える影響:研究の回顧と今後の課題|交易財団法人 航空機国際共同開発促進基金
※3 CO2排出量全体|環境省
※4 CORSIA (Carbon Offsetting and Reduction Scheme for International Aviation) 設立の経緯と制度の概要|公益財団法人 地球環境戦略研究機関
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