SOCIETY
『Weの市民革命』書影

消費行動で社会を変えよう 「消費アクティビズム」が生み出すオルテナティブな価値観

環境や経済、社会、あらゆる場面で持続可能性が問われる時代。地球の未来について警鐘が鳴らされるいま、消費行動のなかから、変革を起こすことができるのではないか。アメリカで起こる「消費アクティビズム」を追った『Weの市民革命』著者、佐久間裕美子氏に伺った。

2021.02.03

2021年も続くコロナ禍で、多くの課題が浮き彫りになっている。格差の広がる社会、分断と対立が深まる情勢、資本主義の限界…。この世界の持続性について“危機感”を強くした人も増えたのではないだろうか。

政治や経済、環境などさまざまな側面で持続可能性の低さが明らかになっているいま、日々の消費行動のなかで変えられることがある。『Weの市民革命』は、そんなテーマをレポートしている。

アメリカで湧き上がる「消費」を通じた新たなムーブメントを追った本書著者の佐久間裕美子氏に、執筆の背景や消費における可能性についてうかがった。

破綻が迫る社会と希望への予感

──今回出版された『Weの市民革命』は、どのような背景のもと執筆されたのでしょうか。

2014年に『ヒップな生活革命』という本を出版し、自分の身の回りから生活革命を起こすという考え方を提唱しましたが、その後、所得格差や貧困問題、気候変動への危機感が強まる中「より小さな経済に」という考え方は焼け石に水だと考えるようになりました。社会が無限の成長を求め、このままの勢いで進んでいくと破綻してしまう。持続的な社会に変えていくためにはどうすればいいのか?『ヒップな生活革命」の続編として本書の執筆に取りかかったのです。

「Newsphere」という媒体でやった連載をもとに、2019年の後半から書き進めていました。「消費アクティビズム」および「ステイクホルダー・キャピタリズム(後述)」など、環境的・経済的持続性を高めるための最先端を凝縮した内容にしたいと考え執筆をしていましたが、最先端は常に更新されます。どこまで追い続けるべきか、難しい問題がつきまとう本でしたね。

一通り執筆を終えて原稿を編集者に送ったところで、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)がパンデミックとなり「これは書き直さねば…」と考えて、大きく加筆・修正を経て出版に至っています。

──佐久間さんはニューヨークにお住まいですが、感染拡大の影響によって、どのような変化があったと感じていますか?

パンデミックの発生をきっかけにニューヨークでも、レストランが廃業したり、職を失ったりと大変な思いをされている方々がいます。こうしたことはパンデミックの直接的な影響ですが、それ以前から起きていた「この経済のあり方は持続性が低い」という議論の正しさを証明することになったとも感じています。

このような困難な局面が起きたことで、多くの人が経済や社会、環境の持続性について、現実味のある“危機感”を持つようになったし、行政もそれに合わせてシステムを更新しなければいけなくなった。無保険の人を減らし、無料のPCR検査や失業保険、給付金の整備を行いました。以前から議論されていた富裕税(スーパーリッチ税)の導入も本格的に検討されています。

つまり、ニューヨークの政策は、プログレッシブ(進歩的)が求めてきた方向にシフトしたんですね。 なかなか動かなかった政治も、コロナ禍によって動いた側面がある。問題はたくさんありますが、社会変革への希望を持ち続けています。

「消費アクティビズム」が変えていくもの

──本書において大きなテーマである「消費アクティビズム」について教えてください。

本書では、消費を使ったアクションを、購買による投票行為「バイコット」と、不買による投票行為「ボイコット」を通して、社会の変革を起こさせようとする動きと定義しています。

日本でも最近「買い物は投票である」という考え方が浸透し始めていると思います。たとえば環境負荷の少ない商品を購入したり、差別に加担していない企業の商品を選んだり。購入することだけでなく、「買わない」という行為もその一つです。

──消費アクティビズムは、世の中をどのように変えてきたのでしょうか。

アメリカでは、消費者が企業文化を動かしてきた長い歴史があります。私のニューヨークでの暮らしのなかには、常にこの手のアクティビズムというものが常に存在してきました。たとえば2005年、大手スーパーの「ウォルマート」がニューヨーク出店を計画しましたが、労働環境や低賃金の問題などで批判され、市民からの激しい反対運動が起きて、当時同社はニューヨーク出店を断念しました。

一方、ウォルマートの競合である「ターゲット」は、いち早くジェンダーレスのトイレを設置するなど、プログレッシブな価値観に寄り添うことでウォルマートに対するカウンターとして「ターゲットで買おう」という流れをつくりました。消費アクティビズムが巻き起こるなかで競争原理が働き、企業文化が変化していくのです。「ウォルマート」も経営者が変わって、オーガニックの商品を増やしたり、労働条件を改善したりと、進化しています。

最近、日本では「ナイキ」のCMが「炎上」しましたが、反レイシズムのような大義をマーケティングに取り込むことを「コーズマーケティング*」と呼びます。トランプ時代には、ナイキや「パタゴニア」「ベン&ジェリーズ」といったプログレッシブ企業によるメッセージが社会性・政治性を強めるなど、大企業と世論は密接に関係してきました。

*コーズマーケティング…特定の商品・サービスの購入が寄付などを通じて環境保護や社会貢献に結びつくことを消費者に訴求し、販売促進やブランディングにつなげる手法

──トランプ政権以降では、政治とも密接になってきたのではないでしょうか。

もともとアメリカでは企業からの献金が政治に大きく作用するので、選挙以外のときに市民が企業に働きかけるのは、ある意味当然の流れなのですが、トランプ大統領は、オバマ政権時代に進んだプログレッシプな施策を“巻き戻す”ことを標榜して当選した。

環境規制が次々と撤廃されたり、LGBTQ+に一度は与えられた権利が再び取り上げられる危機が迫ったりするなか、それに反対・阻止する動きとして消費アクティビズムが盛り上がりました。

──消費アクティビズムは、既存の資本主義から「ステイクホルダー資本主義」への動きも促進しています。これについても教えてください。

所得格差が社会の不安定要素とみなされるようになるなか、企業は従来の株主第一の資本主義ではなく、従業員を含めた全ステイクホルダーを保護し、自分が属する社会への貢献を目指すべきという考え方です。

企業が利益を出しているのに、株主に還元する配当金を最大限にするためにリストラを敢行したり、給与を上げ渋ったりするとしたら、それは社会全体を安定させることにはなりません。低賃金によって低所得者層が拡大することは、経済界全体にとっても いいことではないはずなのです。とすると、社会の一員として「企業も考え方を変えていきましょうよ」ということです。

株主側も、配当金がもらえればいいという考え方ではなく、企業の持続性に評価をシフトするなど、考え方を変わなければなりません。そういった意味では、消費者、企業、株主、国…すべての人が変わっていかなくてはならないのです。

※掲載している情報は、2021年2月3日時点のものです。

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