食生活の多様化で注目集める「グラスフェッド(牧草飼育)」 アニマルウェルフェア上のメリットとは

草原に寝そべる家畜

食生活の多様化が進む現代、畜産飼育方法の一つであるグラスフェッドが食生活の選択肢として取り上げられている。とくにヘルスコンシャスやアニマルウェルフェアを意識する人々の注目が著しい。グラスフェッドの意義、食生活に取り入れる影響を考える。

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2021.01.21

グラスフェッド(牧草飼育)は?

「グラスフェッド」とは畜産の飼育方法の一種である。牧草飼育という意味を持つグラスフェッド(grass-fed)は、主に牛の飼育方法として注目され、グラスフェッドビーフと称されている。

牧草飼育は文字通り、牧草のみを餌として飼育することだ。牛肉の輸出大国であるニュージーランド、オーストラリアで盛んになりつつある飼育方法である。二国ではこのグラスフェッドと従来の「グレインフェッド(穀物飼育)」の両方で飼育している。

グラスフェッドは放牧を基本とする。グラスフェッドによって飼育される牛は牧草や干し草を食べて成長する。餌を探して動き回るために運動量も多く、従来の飼育法で育った牛よりも引き締まった体になる。これはグラスフェッドビーフの特徴で、ヘルスコンシャスな人々の注目を集める理由の一つだ。

グラスフェッドビーフは餌も飼育環境も従来の飼育方法よりナチュラルだという声がある。ヘルスコンシャスとナチュラルの関係は深く、グラスフェッドを好む人が増えるのも当然と言えば当然だ。より健康的な食べ物を望む人々にとって、グラスフェッドビーフが選択肢の一つになることは何ら不自然ではない。

また、市場に流れる際には「グラスフェッド100%」と記載される。口に入れる食材が何を食べて育って来たかわかることは、消費者に安心感を与える効果がある。

なお、グラスフェッドで育った牛も出荷前に穀物を食べ、あえて太らせることがある。この牛が市場に出る時にはグラスフェッド100%の表記ができない。しかし食肉として品質が劣るわけではなく、あくまで飼育方法の一種としてとらえるべきであり、過敏に排除する必要はない。

ヘルスコンシャス観点から注目浴びるグラスフェッドバター

放牧されている牛

Photo by Ales Krivec on Unsplash

グラスフェッドが周知されるにつれ、グラスフェッドバターも同時に注目を集めるようになっている。グラスフェッドビーフから搾乳されたミルクを用いてつくられるグラスフェッドバターは、やはりヘルスコンシャス方面では人気の的だ。

従来のバターも過剰摂取さえしなければ不健康ではない。だが、グラスフェッドバター愛好家は、その魅力の一つにヘルスコンシャスを挙げることも少なくない。

従来のバターとは栄養特性が違うという報告も上がっている。不飽和脂肪酸やオメガ3といった必須脂肪酸が多く含まれているという。健康的な食生活を目指す人が魅力を感じるにはじゅうぶんな理由がある。

また、いまではダイエットのスタンダードになった糖質制限の一種として、このグラスフェッドバターが重宝される。コーヒーに入れ、バターコーヒーとして飲むことにより、無理のない糖質制限ダイエットの一助になるとのことだ。

ダイエットは美貌のためだけではなく、質の高い健康的な生活にも密接に関係する。やはりグラスフェッドとヘルスコンシャスは相性がよいようだ。

ヘルスコンシャス以外の点でも大きな魅力を持っている。グラスフェッドバターは従来のバターと比較すると、軽くてあっさりとした味わいを楽しめる。しっかりとしたバターの風味も広がるため、物足りなさを感じることはない。畜産物の風味が餌によって変わることは有名だが、グラスフェッドバターはまさにその体現だろう。

グラスフェッドとグレインフェッドの違い

放牧されている羊

Photo by George Hiles on Unsplash

グラスフェッドと異なる飼育方法として代表的なものに「グレインフェッド(grain-fed)」がある。グラスフェッドとの大きな違いは餌だ。グラスフェッドは牧草を、グレインフェッドは穀物を飼料としている。

世界的にはまだグレインフェッドでの飼育が主流だ。一般的な食肉はグレインフェッドを指している。グラスフェッドビーフは放牧と牧草、干し草が基本であり、グレインフェッドは畜舎で穀物飼育が基本である。

グラスフェッドビーフとグレインフェッドビーフの栄養特性が異なっていることにも注目したい。前述の通り、グラスフェッドビーフには不飽和脂肪酸がより多く含まれているという。対してグレインフェッドビーフはグラスフェッドビーフほどの含有量ではない。

食肉として観察すると、グラスフェッドビーフは脂肪が少なく、引き締まった赤身である。グレインフェッドビーフはグラスフェッドビーフよりも差しが多い。これは餌もさることながら、運動量の違いの影響もある。

牧草を求めて動き回るグラスフェッドビーフと、畜舎で多くの時間を過ごし、穀物を食べるグレインフェッドビーフでは圧倒的な運動量の差がある。肉質が変わって当然だ。どちらを食卓にのせるかは、手にする人が持つ食事への意識に大きく左右されることになる。

アニマルウェルフェア上のメリット

有刺鉄線越しの放牧牛

Photo by Humphrey Muleba on Unsplash

グラスフェッドは放牧畜産とも呼ばれる。餌や運動量の影響で、放牧畜産で育った家畜は栄養素が高いと言われることも多い。そのエビデンスも広がりつつある。

対義語に「工場畜産」と呼ばれる飼育方法がある。畜舎で多数の家畜を高い密度で飼育し、最新のテクノロジーを用いて効率的な生産を行う方法だ。集約畜産とも呼ばれる。放牧畜産と比較すると家畜の成長速度が速い一面もある。

アニマルウェルフェア(動物福祉)の観点では、豊かな自然環境で行われる放牧畜産に対し、工場畜産には否定的な意見がある。家畜にとって苦痛の少ない方法を選択するべきだというものだ。倫理面において重視されるべき問題だと捉える人も少なくないだろう。

工場畜産は食肉を適度な価格での安定供給に大きな貢献をしている。放牧畜産は土地の確保の問題や家畜の成長の遅さ、高価格がネックとなってしまうが、アニマルウェルフェアの観点では優秀だ。

グラスフェッドはより健康的な栄養が期待できるだけではなく、倫理面の問題を解決する可能性を秘めている。しかし、解決に至るには現実的な障壁も多い。ヘルスコンシャスやアニマルウェルフェアに関心がある人は、今後注目していくべきコンテンツだろう。

※掲載している情報は、2021年1月21日時点のものです。

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