「グラスフェッド」は、乳牛が自然本来の暮らしに近い環境で自由にのびのびと牧草を食べて育つ、持続可能な酪農方法だ。酪農を含めた畜産業は環境への影響が指摘されているが、そのなかでもグラスフェッド乳製品は、エシカルな選択肢としてニーズが高まりつつある。今回は、グラスフェッドの魅力と、グラスフェッド先進国ニュージーランドで集乳シェアトップを誇る酪農協同組合「フォンテラ」の取り組みについて紹介する。【読者プレゼント・試食とお土産付きイベント参加者募集情報も紹介】
ELEMINIST Editor
エレミニスト編集部
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グラスフェッド(Grass-Fed)とは牧草飼育のことで、乳牛が牧草を食べて育つことを意味する。放牧を基本とし、乳牛は主に牧草を食べて成長する。広大な牧草地で自由に動きまわりながら好きなタイミングで草を食べられるのは、乳牛にとってストレスが少なく、自然本来の過ごし方に近い。
一方、グレインフェッド(Grain-Fed)とは、世界的に行われており、日本でも主流の酪農方法。グラスフェッドとの大きな違いは、飼料が穀物である点だ。また、乳牛は主に牛舎で過ごし、飼育される。効率よく飼育することを優先した酪農方法である。
世界のシェアでいうと、グラスフェッドは1割程度といわれる(※1)。アイルランドやオーストラリア、南米の一部の国などで行われているが、世界の主流はグレインフェッドである。日本でも北海道や九州の一部地域でグラスフェッドが行われている。2022年時点で放牧酪農頭数の全国平均は16.7%だ(※2)。
放牧酪農が世界でもっとも進んでいる国のひとつが、ニュージーランドだ。酪農におけるほぼすべてがグラスフェッドであり、期間を限定して放牧を行う国が多いなか、年間を通して放牧酪農を行っている世界でもめずらしい国である。ではなぜ、ニュージーランドで、グラスフェッドが当たり前として普及しているのだろうか。
まずは、自然環境に恵まれていることが大きい。ニュージーランドの面積は日本の約4分の3に対して、人口は約500万人と、日本のわずか4%だ。そのため農業に使用できる土地が広く、おまけに気候は年間を通じて温暖で降水量が多く、牧草が育つのに快適な環境がそろっている。
乳牛は牧草地を自由に移動して草を食べ、排泄物は土の中の微生物や虫が分解し土に還っていく。自然なサイクルで土壌が豊かになり、良い牧草がたくさん生え、それを食べて健康な乳牛が育つ。このような循環型の放牧酪農がニュージーランドのほとんどの農場で行われている。
さらに、ニュージーランドでは電力の80%以上を再生可能エネルギーで賄っており(※3)、環境や生物多様性への配慮が重視されている。酪農業においてもサステナブルやエシカルの意識がごく自然に根付いているのだ。
そんなニュージーランドで集乳シェア約80%を誇るのが「フォンテラ」。世界100以上の国や地域に、チーズ、バターなどの乳製品を輸出しており、世界でも最大規模の乳製品輸出企業だ。
日本にはフォンテラジャパン株式会社という日本法人があり、日本でのセールス・マーケティング会社としてビジネスを行っている。日本での年間販売量は約12万トン。大手乳業メーカーや製菓メーカーなど80社近くと取引があり、日本の乳製品輸入市場においても多くのシェアを占めている。
フォンテラ最大の特徴は、ニュージーランドの数千戸におよぶ酪農家による協同組合であることだ。乳製品サプライヤーとして価値ある存在となる目標を掲げ、フォンテラとそれぞれの酪農家が協力しあう体制ができている。
その代表的な例が、フォンテラでは個々の牧場から各種データを収集してそれを活用し、それぞれの牧場に適した「ファームインサイトレポート(Farm Insights Report)」を提供する仕組みを整えていることだ。
フォンテラには、「サステナブル酪農アドバイザー」と呼ばれる専門家が在籍しており、それぞれの酪農場に適した個別のプランを策定し、酪農家を支援するためのツールやサービスを提供している。
フォンテラと酪農家はともに、環境に配慮した酪農のため、酪農場および周辺の土壌、水質、生物多様性の改善、また、温室効果ガスの排出量の削減に努めている。
また、グラスフェッドには国際的な統一規格がないなかで、フォンテラでは明確な管理基準を用いて定義づけを行っている。
フォンテラがグラスフェッドの必要条件として設けているのは、2つ。「乳牛が消費する飼料のうち、牧草が平均して少なくとも80%(乾草重量ベース)を占めること*」と「乳牛が90%以上の時間(搾乳時間を除く)を牧草地で過ごすこと」。フォンテラのニュージーランド産のミルクは、独立した適合性評価機関である「AsureQuality」によって、このフォンテラの牧草飼育基準に基づいて毎年認証を受けている。
各牧場から収集したデータによると、実際の過去3年間の平均値は、牧草飼料については約96%(消費重量ベース)*、牧草地で過ごす時間は約97%と、基準を大きく上回っているそうだ。
*牧草とは、牧草、牧草サイレージ、干し草、飼料作物を指す。乳牛の栄養補給のため、酪農家によっては少量の補助飼料を使用する場合がある。
グラスフェッドの乳製品の味わいとともに、その特徴や魅力を紹介しよう。
フォンテラによると、ニュージーランドの酪農では、1年間を通してほぼ毎日放牧を行っており、乳牛は自然に近い環境で育つ。屋外の牧草地でのびのび過ごすことができ、その環境が乳牛の健康に良い影響を与える。
牧草地は、乳牛にとってリラックスできる場所を与えてくれる。柔らかい土の上で歩き回ったり、休んだりしながら、牧草を食べて自然な栄養を取ることができる。また放牧酪農では、乳牛たちは自分の好きな牧草を食べたり、水を飲む場所や一緒に過ごす仲間を自由に選んだりできるのだ。自然に行動ができるためストレスが少なく健康的に育つ。これらのことから、グラスフェッドは乳牛にやさしい酪農方法であることが伺える。
また、フォンテラでは乳牛の健康状態のスコアや死亡率、抗生物質の使用など動物福祉に関する重要項目をカバーした「Animal Wellbeing Plan」の策定を推進している。この計画は資格を持った獣医とともに策定のうえ承認されており、フォンテラの契約酪農家の90%がこのプランを導入して自分の農場に適した計画を採用している。2025年までにすべての酪農家がこのプランを導入する予定だ。
また、酪農に携わる人にとっても、メリットが大きい。グラスフェッドでは、人の手があまりかからないため、酪農家のワークライフバランスを実現しやすい。
ニュージーランドでは、搾乳がなくなるオフシーズンに長期休暇を取得する酪農家もめずらしくなく、海外旅行に出かけることも可能だという。これは、年間を通じて毎日餌を与えて搾乳する必要のある日本の酪農家のイメージからすると、信じられないことかもしれない。ニュージーランドでは、酪農は若者にとって人気の職業なのだ。
また経営面でも、グラスフェッドにはメリットがある。乳牛に穀物飼料を与えるグレインフェッドの場合、海外から穀物飼料を輸入するケースが多く、昨今の物価高騰の影響で飼料が値上がりしており、グレインフェッドの酪農家は苦しい状況が続いている。
その点、ニュージーランドではグラスフェッドで育つことから飼料価格の変動にそれほど左右されない。グラスフェッドは、生産コストを予測しやすいといったメリットがあり、グレインフェッドよりグラスフェッドのほうが経営が安定しやすいといえる。
さらに、飼料の輸入や運搬が限定的であることから、温室効果ガスの排出量を抑えられる。ニュージーランドは酪農による温室効果ガス排出量(生乳生産1kgあたり)が世界最小レベルの国のひとつだ。(※4)
フォンテラでは、2030年までの短期目標と、2050年までに温室効果ガス排出量の実質ゼロを目指す気候ロードマップを策定している。短期目標はSBTi(Science Based Target initiative)によって検証されている。このロードマップでは、各酪農家に温室効果ガスの排出データと改善計画も提供しており、業界全体でサステナブルな酪農ビジネスの構築に努めている。
β-カロテンを含む牧草を食べて育った乳牛から採れるグラスフェッドミルクには、β-カロテンが豊富。一般的に、β-カロテンには活性酸素を減らす作用が期待されている。また、乳牛が屋外で日光を浴びて過ごすことからビタミンDも豊富であり、代謝を高めることで知られる共役リノール酸も多く含まれている。
ニュージーランドの乳牛が牧草地でのびのび過ごすことにより、ミルク本来のおいしさを味わうことができる。もちろん、加工品にも違いが出る。例えば、グラスフェッドバターはコクがありながらも軽やかな口あたりで、βカロテンが多く含まれることによって、黄味が強いゴールデンカラーが特徴だ。
ニュージーランドでは成長ホルモン剤の使用は全面的に禁止されており、遺伝子組み換え乳牛も認められていない。グラスフェッドのおいしさに加えて、そのような「食の安心」もニュージーランド産乳製品の魅力だ。
ニュージーランドで当たり前になっているグラスフェッドは、牛にも人にも環境にも貢献し、さらに味わいもいい、サステナブルな酪農の形といえる。
グラスフェッドは、日本の酪農課題の解決に寄与する可能性を秘めている。日本の酪農の主流はグレインフェッドであり、高齢化による後継者不足や輸入飼料の価格高騰などによる経営難といった課題を抱えているのが現状だ。毎日の搾乳があるため「年に数日しか休めない」というハードさも酪農離れに拍車をかけている。
そんななか、フォンテラでは2014年から、ニュージーランド政府、ファームエイジ株式会社と共同で「ニュージーランド北海道酪農協力プロジェクト」を推進している。
北海道では半世紀ほど前までは、放牧酪農が基本だった。しかし、海外から安価な穀物飼料が入るようになり、しだいに従来のグレインフェッドに置き換わった背景がある。現在では反対に、穀物飼料の価格が著しく高騰し、グラスフェッドを目指したい酪農家が増えてきている。
プロジェクトでは、ニュージーランドの専門家が北海道の酪農家を訪問し、具体的にアドバイスを行う。気軽に参加できるオンラインセミナーでは、ニュージーランドの酪農家が自身の取り組みや経営のヒントをシェアしている。
プロジェクトの様々な取り組みへの参加者には、新規就農を目指す若者も少なくない。実際に、プロジェクトとの接点をきっかけに放牧酪農を始めた酪農家が複数名いるという。また、グレインフェッドからグラスフェッドに切り替えて、利益率アップにつなげた酪農家が増えてきているという。
2022年の北海道の酪農における放牧割合は、北海道以外の都府県と比べると、多いことがわかっている。冬は寒さが厳しいため、ニュージーランドのように通年を通して放牧酪農を行えないが、広大な土地がある北海道ではグラスフェッドがいま以上に広がり、日本の酪農の未来がよりよくなる可能性は大いにあるという。フォンテラはこれからも、日本の酪農をサステナブルにするために、サポートを続けていく。
現在製品に使用されているフォンテラのロゴ。今後新しいロゴも展開予定だ。
フォンテラの乳製品は、さまざまなスーパーやコンビニでも手に取れる。フォンテラの青いロゴマークは、原料にフォンテラのニュージーランド産の乳製品が使用されていることの目印だ。
だが、青いマークが付いていないものでも、フォンテラの乳原料が使用されている製品も数多く存在する。バターやチーズに限らず、アイス、お菓子、プロテインなど、知らず知らずのうちに、私たちはフォンテラのグラスフェッド乳製品を口にしている可能性が高い。
気候変動など環境問題が深刻化するなか、温室効果ガスの排出量を抑えるために、私たちにできることを行っていかなければならない。そのようななか、グラスフェッドの注目度はこれからますます上がっていくだろう。
「乳製品を選ぶなら環境に配慮したい」「チーズやバターが好きな家族や知人に教えたい」といった場合、ぜひ「フォンテラのグラスフェッド」という選択肢を思い出して、一度手にして味わってみてほしい。そして、放牧酪農から生み出される乳製品を購入することで、サステナブルな未来に貢献してみてはどうだろう?
ELEMINISTではフォンテラジャパンとコラボレーションして、ニュージーランドの「放牧酪農」と「グラスフェッド」について学ぶイベントを実施します。イベントでは、「放牧酪農」と「グラスフェッド」について、基本的な仕組みから、実際の酪農家の心あたたまるエピソードなど幅広くご紹介。牛・人・環境に貢献する「グラスフェッド」について理解を深めていただける内容です。また、当日はグラスフェッド乳製品の試食ができますので、実際に味わうことでその魅力を体感していただけます。さらに、ご参加の方にはお土産もご用意する予定です。興味のある方は、下記よりご応募ください。
日時:2025年4月23日(水)受付 13:00~/開始 13:30~ 最大2.5時間
場所:MY Shokudo Hall & Kitchen(大手町駅直結、東京駅より徒歩1分)
申込み:下記フォームよりお申込みください。応募者多数の場合は抽選となります。
申込み締切:4月6日(日)
ニュージーランド産グラスフェッドチーズを味わってみませんか?フォンテラジャパンより、ニュージーランド産「KAPITI(カピティ)」グラスフェッドチーズを12名様にプレゼントします。「KAPITI」は、ニュージーランドらしさを表現したブランドをつくりたい、そんな想いから立ち上げられました。多くのチーズにマオリ語の名前を付け、そのアイデンティティと独自性を確立し、オリジナリティ溢れるチーズをつくっています。
プレゼントキャンペーン詳細
「ニュージーランド産 KAPITI グラスフェッドチーズ」を12名様にプレゼント(1名様につき1製品)。
※プレゼントはフォンテラジャパンよりお送り致します。
※上記の「放牧・循環型酪農×乳製品を学ぶ」ELEMINIST コラボイベントとあわせて本件への応募も可能です。
●ご応募期間:2025年4月20日(日)
●ご応募方法:下記の応募フォームでアンケートにご回答、必須項目にご入力ください。
●当選連絡:当選者には、2025年5月中旬にELEMINIST編集部(edit@eleminist.com) よりメールにてご連絡させていただきます。
※1 Invited review: A 2020 perspective on pasture-based dairy systems and products|ScienceDirect
※2 公共牧場・放牧をめぐる情勢(令和7年2月)放牧編|農林水産省
※3 Energy system of New Zealand|IEA
※4 Mapping the carbon footprint of milk production from cattle: A systematic review|Dairy Science
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