さまざまな立場の方のゼロウェイストな暮らしを見せてもらう連載。第3回目は、東京・港区に住むペオ・エクベリさんと聡子・エクベリさん夫妻の「“地上のもの”マンション」を紹介する。
Sonomi Takeo
フリーランスエディター&ライター
東京生まれ・東京育ちだけど自然が好き。現在は鎌倉在住。某出版社でファッション誌、ハワイ専門誌、料理雑誌などの編集を経たのちフリーランスエディター&ライターに。独立後は動画メディアサイトの…
わたしたちの買い物が未来をつくる|NOMAが「ソラルナオイル」を選ぶワケ
長年にわたり、サステナビリティに関する企業コンサルティングや講演活動、本の執筆、スウェーデン視察ツアー企画などを行っているペオ・エクベリさんと聡子・エクベリさん夫妻。
2012年にはふたりでサステナビリティコンサル企業である、株式会社ワンプラネットカフェを立ち上げ、「持続可能な暮らし方とビジネス」を提案している。
活動は、バナナペーパー事業、企業研修、サステナブル事業開発支援など幅広い。
Photo by ワンプラネットカフェ
左からペオ・エクベリさん、聡子・エクベリさん
バナナペーパーは日本初のフェアトレード認証の紙だ。通常は破棄されてしまうバナナの茎の繊維に古紙やFSC認証パルプを加え、日本の和紙の技術を用いてつくられる。
バナナの茎を繊維に加工するのは、アフリカ・ザンビア。エクベリ夫妻は現地で生産体制を築くことで、雇用を生み出した。地球環境にやさしい製品であることと同時に、アフリカ・ザンビアでの貧困問題と象などの野生動物の保護にもつながっているのだ。
Photo by ワンプラネットカフェ
アフリカで建てた「バナナペーパー工場のオフィス」も環境循環に合わせている
現在23社のパートナー企業と連携し、名刺や包装紙、学校の卒業証書はじめ幅広い商品に使われていて、世界15カ国で展開する。
1年で再生するバナナペーパーを使ったフェアトレード包装紙。使い終わったら土に還る。LUSHなど大手の企業でも取り入れられている
さまざまなアプローチで、環境活動に従事しているふたり。夫妻ならではのゼロウェイスト・スイートホームを、さっそく紹介していこう。
今回うかがったのは、東京・港区にあるマンションの一室。聞けば、まるごとゼロウェイストなマンションだという。
ゼロウェイストを目指すとなると、「レジ袋」や「包装」に注目することがの事例が多いが、「家具」や「家自体」を根本的に替えてしまおうという取り組みだ。
ふたりはこの部屋を10年前に購入し、壁から床にいたるまでを大改装。なんと100近くのエコリフォームを行なった。電力はグリーン電力会社と契約し、風力とソーラーを使っている。
東京都内にあるエクベリさん夫妻の自宅兼事務所
「僕が生まれたスウェーデンは、SDGsへの取り組みが進んでいて、世界でもトップクラス*。『スウェーデンだからできるのでは?』と思われがちだけれど、東京のマンションでも十分取り組めることを僕ら自身で証明したかった」(ペオさん)
*スウェーデンは、世界各国を対象とした「SDGs達成度ランキング SDG INDEX」で2016年〜18年、2020年に1位を獲得。
リフォームが完成して半年後、環境省が提示する一般的な家庭の数値と比べてみると、全体の環境負担は7割以上削減した。
CO2やごみはほぼ9割減、水は7割減ってエネルギー使用量は5割程度と、非常に大きな成果が算出された。
「しかも一般的なリフォームより安く仕上がったんですよ。それならば、『みんなエコリフォームを選んでもいいんじゃない?』と言えるのかな」(聡子さん)
Photo by ワンプラネットカフェ
リフォーム前(左)と後(右)
木材のぬくもりを感じる部屋には、彩りも豊かで北欧のカフェのようなインテリアが置かれる。窓を開けると風が通り抜け、明るい光が射し込む心地いい空間だ。
「グリーン電力を契約してはいますが、できるだけ自然光が入るように、天井にゆるやかなカーブをつくり、隣の部屋の間仕切りにも開口部を設けているんですよ。風通しもよくなるので気持ちいいんです」(ペオさん)
陽の光が広がるように天井をリフォーム。必要以上に電気を使わなくなり、電気代の節約につながった
Photo by ワンプラネットカフェ
本体は10Lのものを4Lの節水型に変更。トイレのドアもリサイクル板にした
ペオさん・聡子さん夫妻宅のなかは、サステナブルな素材で埋め尽くされている。どうしても代替の効かないディスプレイなどを除き、トイレだろうと、床だろうと、例外はない。
たとえば床の無垢フローリングは、「FSC®」認証**のついた木材を使用。
**FSC®とは、国際的に統一された10の原則と70の基準に基づいて認定された環境ラベル。環境への悪影響を抑制し、森林管理を適切に計画されているかなどが基準に挙げられる。参考:https://eleminist.com/article/416
「環境ラベルはサステナビリティのための運転免許証のようなもの。テストを通過している証になるわけです。免許も持っていない人の車は、乗りたくないでしょう?(笑) そう考えると、判断基準になるので、迷うことなく選びやすいですよね。
スウェーデンではコンビニでもスーパーでも、環境ラベルが付いている商品が多いんです。でも、日本はまだまだ少ない。もっと選択肢が増えれば、サステナブルな未来づくりに参加しやすいと思います」(ペオさん)
Photo by ワンプラネットカフェ
FSC認証の床材
さらに、多くの建材は日本産だ。
「日本には豊かな資源がたくさんあります。竹なんかも素晴らしい資材。驚くほど成長が早く繰り返し収穫できるし、まだまだ大きな可能性のある植物なんです。
なるべくその土地の環境配慮型の資源を使うことも、サステナビリティにつながります。
日本では、鎖国時代にも豊かな文化が生まれていますよね。伝統技術や素材を現代の暮らしでどう使うか、と考えるとおもしろいアイデアがたくさん見つかります」(聡子さん)
アルミ製だった窓枠は木、窓レールは竹製に変更した。
窓は二重サッシのため、断熱性が高く冷暖房を必要以上に使わなくて済む
一般的なアルミサッシは断熱性が低いため、外部の気温が伝わりやすく暑さや寒さが増してしまう。窓枠を木材にすれば、暑さや寒さが和らいで快適だ。
木製のランプシェード
リビングの壁には漆喰や珪藻土を使った。珪藻土はプランクトンや珪藻殻の堆積物でできた自然素材。耐久性や消臭性、保湿など優れた性質を持つ。
静電気の発生を抑え、ほこりも出づらくなる。 リビングの壁には珪藻土を塗った。植物のカゴも脱プラの自然素材。洗面所の壁紙はおがくずと古新聞でできている。おがくずの壁紙は、カビも生えにくい。
呼吸性があるといわれるおがくずを使用した洗面所の壁
「自然素材には、調湿効果やカビ防止などいろんなメリットもあるんですよ。いまはさまざまな種類、幅広い選択肢があるので好みや用途によって使い分けてもらえたら」(ペオさん)
この家はさまざまな生き物にとっても居心地のよい場所のようだ。高低差がある草木により自然に近い形になっているベランダには、スズメやツミ(タカの一種)など野鳥たちが多く集まるようになった。
(左)さまざまな植物も並ぶベランダ。(右)自然を求め毎日のように訪問してくるスズメたちのエサ置き場も
「ベランダに遊びにきた鳥が種を運んできたりして、見たこともない野草が生えていることもあります(笑)」(聡子さん)
環境に配慮されているだけでなく、快適で楽しく、気に入ったものを使うというのも、夫妻のこだわりだ。たとえばコーヒーを淹れるときに使うのは、1000回使えるポリプロピレン製の『MilleCafe(ミルカフェ)』のフィルター。
さまざまな布製のフィルターを使ってみたが、好みには合わなかったそうだ。繰り返し使えて味もおいしいメーカーのものを使用中。これからもオーガニック素材でできた再利用フィルタでおいしく飲めるものを探し続けるという。
ペーパーフィルターと同じ速度でコーヒーを落とせる『MilleCafe(ミルカフェ)』のコーヒーフィルター。右上のコーヒーを保温するポットウォーマーはアンティークショップで購入した
「オーガニックの布でできているものであれば自然にはやさしいかもしれません。でも、我慢せずにおいしく飲むことと、バランスをとるのも大切。
1000回ほど繰り返し使えるならば、使い捨てのペーパーフィルターに比べて、ごみの量は減るし、これはとても洗いやすく手入れもラクチンなんですよ。楽しくHappyに続けられるということも大切にしています」(聡子さん)
「リビングのテーブルは、結婚したばかりのころに福岡の雑貨店で見つけたもの。テーブルの脚には、タイの牧場で使われていた飼い葉桶とエサ用をすくうためのカップが使われているんです。
廃棄物になるはずだったものがこんなすてきなテーブルに変身するなんてすごいですよね。ひと目で気に入りました」(聡子さん)
(左)雑貨店で見つけた「廃棄物」から生まれ変わった木材テーブル。(右)テーブルの脚となっているのは、牧場で使われていた飼料用のコップ
洋服も世界中のごみ問題のひとつ。ふたりの服は主にオーガニック素材。でもそれだけではない。取材した日にふたりが着ていたTシャツは、フェアトレードのものだった。
そして、聡子さんが履いていたオーガニック綿のデニムはスウェーデン発のブランド「ヌーディージーンズ」。購入後は何度でも無料で修理してくれて長く愛用できる。
国内でも原宿や新宿に店舗がある「ヌーディージーンズ」のデニム
オーガニックな服は、生産時も使い終わってもゼロウェイストにつながるだけでなく、野生のゾウや魚も守る。
「アフリカで活動しながら発見した問題のひとつは、コットンを生産する農家は殺虫剤を使うが、畑だけでなくゾウや魚の密猟にも使うということ。オーガニックTシャツを選ぶことは、ゾウを守ることにもつながる」とふたりは話す。
使い心地や外見、機能性、環境的・人道的に“正しい”かどうか……。あらゆる視点から判断し、満足するものをチョイスしているのだ。
こうして暮らしながら働くこの場所で、ふたりが1カ月に出すごみの量はわずかサッカーボール1個分ずつ。驚くほどに少ないが、どうやって実現しているのだろうか。
「やっていることは、とてもシンプルです。いずれ、ごみになるようなものをなるべく買わないことや、リユース、リサイクル、リターンできる(環境循環に還せる)ものを買う。そして過剰梱包された商品は避けたり、レジ袋はもらわないなどです。それだけでも、かなりの量のごみを減らせます」(聡子さん)
「ごみを必要以上に出さないためにも、バルクストアのような量り売りのお店を選ぶとか、リサイクルできるものを買うとか、“燃やさない”“埋め立てにまわさない”ことができるような買い物ができるとベストですよね」(ペオさん)
台所で発生した生ごみやコーヒーの粉などは、ベランダにあるミミズコンポストへ。そうすれば生ごみが土に還って資源に変身。肥料となりちょっとした野菜やハーブを自家栽培できる。
「スウェーデンでは、小さなころから環境に関する教育を受けます。その一環で、保育園にはミミズコンポストがあるんですよ。
たとえばリンゴの芯とプラスチック片を入れると、数週間後には芯はなくなるのに、プラスチックは元のまま。自然に還るものなのか分解されないものなのかを、目で見て、体験して学べるのです。環境循環を感じられることも、いいことですよね」(ペオさん)
Photo by ワンプラネットカフェ
ベランダに設置されているミミズコンポスト
「ごみを減らすことで、時間もお金も節約できるんです」とペオさん。紙類や瓶、缶、トレイ類などはすべてキッチンシンク下の1カ所で管理して、ごみそのものが減れば分別の時間も短縮できる。
ごみの量が減った分だけ、ごみ袋を買わずに済むし、マイボトルを持てばペットボトルも買わずに済む……など、時間もお金も、買い物をする時間さえも、トータルで節約できるというわけだ。
「知り合いがペットボトルを1年間完全にやめ、年間16万円以上節約したという報告を聞きました」(ペオさん)
ごみ箱はすべてシンク下に集約。分類したごみは資源回収へ
ふたりが大事にしているのは、快適さや楽しさ。いろんなことを我慢したり、無理に努力したり、お金をかける必要はない。
「ゼロウェイストやサステナビリティを達成するには、「環境循環」に合わせることが大切。人がつくるサイクル (リデュース、リユース、リサイクル) と自然がつくるサイクル (リカバー、リターン) のふたつの循環を合わせることができると、素晴らしい結果が出せます。
これがまさにスウェーデンが成功した鍵であり、この東京のエコマンションが成功した理由です。つまり、次の3つのルールが守られていれば、あとは自由。お気に入りのものを見つけて長く使えば、それがサステナビリティにつながります」(ペオさん)
1つ目は、「自然に還せる以上に資源をとらないこと」。
たとえば日常で使うペンがプラスチック製の場合、ごみとして捨てたならば自然に還るのに200〜300年はかかる。しかし成長の早いバナナの茎、竹などでつくられたペンなら一年ほどで済む。
資源が自然に還り再生できる時間のサイクルが短くなればなるほど、サステナビリティに近づく。例えばプラスチックはそのサイクルが数千万年であるのに対し、バナナや竹は数年で再生する。
脱プラ日用品。竹製の歯ブラシやシェイバー、バナナペーパー製のハンガーや、ガラスやリサイクルされたアルミのタンブラー、オーガニックの石けんなど
2つ目は、「できるだけ地上の資源を使うこと」。
世界を「地上」と「地下」のふたつに分けて考える。例えば、植物など「地上」にある資源が排出するCO2は、もともと自然に行われていた循環から発生するもの。ひとつ目のルールに従う限り気候変動への影響はない。
しかし、「地下」の資源である石油を原料とするプラスチックをつくる際に出るCO2は、もともと地上になかったもの。環境循環からは外れてしまっているので、大きく影響が出てしまう。
最後の3つ目は、「生物多様性を守ること」。
地球上には人間だけでなく、動物や植物、昆虫などいろいろな生きものが生息し、さまざまな形でつながっている。
動植物の種類と数が多いほど、環境循環の「エンジン」は強くなる。生きもの同士がつながり、保っている豊かな生態系は、伐採や採掘、採取、狩猟などによる自然資源の過剰な消費によってバランスがくずれてしまう。
だからこそ、森林やサンゴ礁など生きものの生息地をまもることが重要だ。さらに、農薬の使用は動植物に害がおよぶ。そういったものを使わない製品を選ぶことも大切になる。
3つのルールを説明してくれるペオさん
「エコと聞くと難しいと思うかもしれませんが、この自然の原理・原則さえわかっていれば、あとは自分が好きなものを買って、好きな暮らしをすればいいんです。
材料があってもレシピがわからないと料理ができないのと同じ。環境活動のレシピを知れば、ゼロウェイストな暮らしはきっと実現できます!」(ペオさん)
ペオさんは「楽しみながら続けることが大切です」と言葉を結ぶ。
「あまりストイックにやってしまうと息切れしてしまって、続かないですよね。サステナブルな社会を実現するためには完璧な10人より、ちょっと頑張る100人、1000人と増えるほうが世界は早く変われると思います」(聡子さん)
都会の中心地に住んでいてもゼロウェイストな暮らしは実現できる。環境問題に対するアプローチや意識改革を行うには、言葉だけではなくアクションが重要だ。
地上にある資源からつくられたものがほとんどの、サステナブルでないものを探すのが困難な「“地上のもの”マンション」で、エクベリ夫妻はその可能性を示してくれた。
決して何かを我慢しているわけではなく、毎日をHappyに過ごしている姿が印象的だった。それぞれのライフスタイルに合わせて、自分ならどんな選択ができるのか。
サステナビリティとは、自分自身としっかり向き合うことから始まるのかもしれない。
ペオ・エクベリさん
株式会社ワンプラネット・カフェ取締役。サステナビリティ・プロデューサー。スウェーデン出身。国内での講演、ワークショップ、スウェーデン視察ツアーの実施、企業や団体の環境コンサルティングなど、サステナビリティ推進を支援している。現在は日本を拠点にスウェーデンやザンビアを行き来している。
聡子・エクベリさん
株式会社ワンプラネット・カフェ代表取締役。サステナビリティ関連のコンサルティング、講演、ワークショップを企業、団体向けに行う。ペオさんとともに、アフリカのザンビア、インド、欧州でのバナナペーパー事業を推進。持続可能な発展に向けた事業開発支援を行う。
〜バナナペーパープロジェクトとは〜
エクベリ夫妻が立ち上げたワンプラネット・カフェではオーガニックのバナナ茎から採った「バナナ繊維」を使用したフェアトレード紙を使い、バナナ名刺、シール、卒業証書、カードセットなどを提供。一般の紙の原料となる森林は育つのに10年から30年かかるのに比べて、バナナの茎は1年で育つ。また、バナナの茎は通常ごみとして捨てられているため、再利用できる。アフリカ女性の自立支援、貧困を引き起こす野生動物の密猟や違法の森林伐採などの問題解決も目指している。
https://oneplanetcafe.com
撮影/田上大輝 編集/松本麻美
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