さまざまな立場の方のゼロウェイストな暮らしをのぞかせてもらう連載。第2回目となる今回は、神奈川県の葉山に住む主婦・木村静佳さんのご自宅をご紹介する。
Sonomi Takeo
フリーランスエディター&ライター
東京生まれ・東京育ちだけど自然が好き。現在は鎌倉在住。某出版社でファッション誌、ハワイ専門誌、料理雑誌などの編集を経たのちフリーランスエディター&ライターに。独立後は動画メディアサイトの…
神奈川県・葉山町在住の主婦 木村静佳さん(@shii.44)は、旦那さん、娘さん、息子さんとの4人暮らし。以前はインテリアコーディネーターの仕事をしていたが、娘さんの妊娠出産を機に専業主婦になった。
昨今の異常な暑さや大型台風などがきっかけで環境問題に興味を持つようになり、現在は地球にやさしいことと、大好きなインテリアを生活に取り入れている。
ミニマルでありながらエシカルを意識し、いかにすてきに見えたり、かわいいと感じられたりするかを日々考えているという。
そんな木村さんが住むマイスイートホームをのぞいてみよう。
葉山といえば、豊かな自然に囲まれた風光明媚な街だ。
景色をさえぎるような高い建物が少なく、太平洋からの潮風が街を吹き抜けていく。市街地から少し車を走らせれば、「にほんの里100選」にも選出された里山の田園風景が広がる。
昔から人と自然が共生する街として知られ、住民たちのサステナブルやエシカルへの関心度は高い。
木村さん宅のテラスからみた風景
木村さんは葉山内で数回引っ越ししているものの、葉山在住歴は約20年。ご自宅は海の近くで夏はクーラーいらずで快適に過ごしていたが、近年の気候変動に戸惑いを感じているという。
「真夏でも風通しを良くすればクーラーなしで過ごせていたんです。つけたとしても、ほんの2〜3時間。それがここ数年、朝起きたらすぐにつけないと、家事もままならないくらい暑さを感じています。
子どもたちも昨年の夏、学校のプールへ遊びに行ったら、水温が高くて入れなかったと帰ってきた日もありました。このままだと子どもたちの遊ぶ場所すらなくなってしまうんじゃないかと、子どもの未来にも不安を感じ始めたんです」
そして、木村さんがより深く環境問題について調べるようになったきっかけが、昨年直撃した大型台風。葉山付近でも土砂崩れなどの被害があり、近所の方々とも環境について話すことが増えていった。
「ご近所の方とは会えば挨拶はしていましたが、ちょっと立ち話をする程度でした。でも昨年の台風がきっかけで、環境問題について話すようになり、いまでは環境に関するお話会やワークショップへ一緒に出かけたりするようにもなりました。お互いに情報交換ができてとても刺激になっています」
そこから徐々にプラなし生活や、ごみを増やさないゼロウェイストを目指した暮らしに変化していったという。ご自宅の中で工夫していること、そしていまご自身が考えていることを教えてもらった。
窓から光が差し込む、開放感のあるキッチン。食材の保存用容器はプラスチックゼロを目指し、ガラス瓶に移行中。
ウッド調に統一したリビングは、余計なものを置かずスッキリとしている。壁に飾られているマクラメは木村さんが編んだもの。
スッキリと片付けられたように見える部屋だが、「ゴチャゴチャして見えないように、中にしまっているだけで物は多いほうだと思います」と木村さん。「ただ数回引っ越すうちに、徐々に物は減っていきました。新たに買い足すときはほんとうに必要かどうか、慎重に悩んでから買うようにしています」
ノスタルジーを感じる古いものが好きで、インテリアのほとんどが古道具屋や骨董品屋で購入した中古のものだという。古着も好きで学生時代に買った服をいまも大切に手入れをしながら着ている。
古いキッチン台は、子どものおもちゃに使っていた。「いずれは孫にあげたいと思っています」(木村さん)
20年以上前に購入した古い冷蔵庫は、乾物類や麺類、缶詰を入れるパントリーとして利用。
「物は長く使って楽しむ」という考えはもともとあったが、とくにその意識が高まったのは、“プラスチックごみが中国に輸出されている”という事実を知ってからだった。
「とてもショックでした。葉山はごみの分別が厳しいので、自分ではちゃんとしていたつもりだったのに......それからは自分自身でいろんな知識を得て、ごみ自体増やさないように心がけようと思うようになりました」
エシカルに関心がある人は、すでにヘチマをキッチンスポンジとして使っている人も多いのではないだろうか。一般的なスポンジは使っていくうちに破片が川へ流れてマイクロプラスチックになってしまう。ヘチマは土に還るため、地球に負荷をかけることなく使える。
「ネットで大量に買ってご近所の方と分けているので、送料がシェアできて、配送にかかる二酸化炭素も減らせます。使いやすい大きさに輪切りにして、いろんなシーンで活用しています。基本的に食器やキッチン用具は食洗機で洗いますが、洗えないものはヘチマと固形石鹸で手洗いしています。ヘチマは申し分ない使い心地です」
シンク周りに置いているのはヘチマと固形石鹸のみとシンプル。徐々にほつれて細かくなったヘチマは、ソープバッグに入れて使っている。ソープバッグは「minimal living tokyo」で購入したもの。
キッチンや洗面所、バスルームの石鹸の下にはカットしたヘチマを置いている。「ヘチマの上に石鹸を置くことで、石鹸が湿ってヌメヌメせず手に取りやすくなるんです」(木村さん)
スキンケアやボディケアは、身体にも環境にもやさしいものを選ぶようにしている。シャンプーや洗顔、ボディソープはすべて固形石鹸を使うという徹底ぶり。いままでプラスチックだったさまざまなものをプラスチックフリーや木製、天然素材のものに買い替えている。
植物由来の固形石鹸(左)スキンケア、ボディケアは「auromere」や「KIRK’S」(右)シャンプー&コンディショナーは、ニュージーランド発のブランド「エティーク」の固形バーを愛用中。
(左)化粧水の手づくりセット (右)イタリア職人手づくりの木製のヘアブラシ「tek」は最近購入。FSC認証マーク取得の自然素材を使用し、頭皮にもやさしい。
化粧水は10年前から手づくりしている。「肌が弱くて刺激が強いものが苦手なので、もともと無添加のものを使っていました。いろいろ調べているうちに化粧水は自分でつくれることを知って、それ以来は月一ペースでつくっています。
無水エタノール、精製水、グリセリン、アロマオイルを混ぜるだけなのでとっても簡単です。容器もしっかり洗って繰り返し使っています」
歯みがきセット (右、中)スチールケースに入ったシルクフロス、(左)粒状の歯磨き粉はi herbで購入。(手前)歯ブラシはスウェーデン発「TePe GOOD®」の歯ブラシ。天然素材ではないが96%植物由来(サトウキビ)のプラスチックでつくられている。
歯磨き粉は友人からおすそ分けしてもらった手づくりのものをお試し中。ワークショップに参加して自分でもつくる予定だ。気に入ったものは手づくりにチャレンジしているという。家族にもさまざまなものを使ってもらいながら様子を見て、みんなが気に入ったケア用品を使うようにしている。
葉山の隣の横須賀市にある農家「sho farm」さんから直接配達してもらっている地産地消の無農薬野菜たち。包装はプラスチックフリー。
木村さん自身と子どもたちはアレルギー体質。昔から身体に触れるものや食べるものには気をつけていて、なるべく体に負担のかからない成分やオーガニック、無添加の食品を選んでいる。
「無農薬の野菜や果物が手に入らないときは、ホタテカルシウムの貝殻パウダーで農薬を除去して使用します。このパウダーは排水口をきれいにしたり、野菜をシャキッとさせる効果もあるので気に入っています。料理は手づくりがベストですが、外食や市販の惣菜になることも......そのときはできるだけ添加物フリーのものを選ぶように心がけています」
食材の保存もエコなものを。「(左)スタッシャー、(右)シリコンラップ、そのほかミツロウラップも使います。ジップロックを使う頻度は減りました」(木村さん)
(左)お米は玄米を購入して精米機で精米している。(右)精米してできた糠を炒ってお菓子に入れたりふりかけにしたり、夏はぬか床に使用。食器の油汚れには糠を振りかけてしばらく放置すると糠が油を吸うのでさっと洗うだけできれいになる。油を吸った糠は畑に撒くため捨てずに溜めている。
日本は、海外に比べて量り売りの店はまだ少ない。スーパーで買い物をすると、どうしてもプラスチックはつきもの。藤沢にあるプラスチックフリー専門店「エコストアー・パパラギ」は、食品や洗剤なども量り売りされており、商品はすべてプラスチックフリー。レジ袋やラッピングもなく、食材もすべて無農薬だ。
「パパラギさんは環境にやさしいもの、無添加、無農薬の身体にも負担が少ないものや、量り売り商品もあるので定期的に行きたいお店です。
「エコストアー・パパラギ」で買ったものたち
買い物に行くときはマイバッグは持参しますが、多くのお店は商品のパッケージがプラスチックだったりするので、海外やパパラギさんのように量り売りや野菜・果物を裸で売るお店がもっと増えたらいいなと思います。
通販も緩衝材は紙製など脱プラ化して、競って代替品が出てくるような世の中になったらうれしいです。容器がつくる側に戻るようなシステムがきちんと制度化するといいなとも思います」
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「理想の循環する暮らし」や「大切にしていること」などをご紹介
近所の土地を借りて最近始めた畑
今年になってから畑を始めたという木村さん。広々とした、緑溢れる風景だ。
「土に触れて体を動かし、少しでも自分でつくったものを食べる喜びに触れられたらと思い、畑を始めました。そしてそのうちにキッチンから出るごみのすべてを堆肥にして畑に活用できたらと。
畑で抜いた雑草と家から出た生ごみ、廃油、糠で肥料をつくり、それを使って作物を育てて食べる。そんな循環サイクルの暮らしができたらすてきだなと思っています」
「先日、オクラを収穫しました。たった1本ですが(笑)この畑での記念すべき収穫第1号です」(木村さん)
「畑では植物を摘んだり、畑の管理者から梅の実をいただいたり、収穫以外の喜びがたくさんあります。先日摘んだ紫陽花の葉っぱには虫の仕業による穴がたくさんあいていました。自然がつくるアート、レースみたいでかわいいですよね。畑からのうれしいいただきものです」
畑で摘んだ紫陽花
昨今の気候の変化を感じとり、さまざまなことに取り組んでいる木村さん。家族とも環境についてよく話すという。
「たとえば、シャンプーや石鹸、スポンジを変えるときなど、一声かける気持ちで話したり、環境問題のドキュメンタリー映画をさりげなくつけて、映像を見るきっかけをつくったり。そんなことをきっかけに、いままでにないやりとりが増えています。
何かを強要することは好きではないし、それだとお互い疲れてしまうので、私が興味を持っている姿を見せて、子どもたちも自然と関心を持つようになってくれたらと思っています。最近はスーパーに一緒に買い物へ行くと率先して『レジ袋はいりません! 』と言ってくれるようになりました(笑)」
無理をしても続かない。それでは本末転倒だ。木村さんは自分や家族、地球環境にとってやさしいかどうかや、心地良くて楽しいと感じることを大切にしている。だからこそサステナブルなライフスタイルが実現できるのだろう。
「エシカルの輪は強い勢いではなく、穏やかにやわらかく広げていくほうが最終的にはいいんじゃないかと思うんです。童話の“北風と太陽”のように、ほんわり楽しくあたたかく、という気持ちで続ければ何かが大きく変わっていく気がしています」
そんな木村さんのあたたかな人柄や暮らしぶりがゼロウェイスト スイートホームからは伝わってきた。
「私はあまり表に出るのは得意じゃないんです。Instagramでもフォロワーが一人増えるだけでドキドキしてしまうくらいで......。
でも、私の投稿が誰かのアンテナに引っかかって何かしら取り入れてもらえることがあったら、それはもう嬉しいことだし、それも立派なエシカルアクション、地球のためにつながることになるんだと考えるようになりました。それからは情報を拾ったり、仲間とつながることがとても心地良く感じられています」
まずは家族に友人に……だれか一人に話すだけでもいい。身近な人とシェアをしたり、それをきっかけにどんな小さなことでも「地球にやさしいこと」を意識して行動することで、もしかしたら知らない誰かに影響を与えているかもしれない。
編集/大信田千尋(ELEMINIST編集部)
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