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天ぷらやフライなどの調理で使われて残った油。この廃食油が資源として注目されている。廃食油の回収を行う自治体は増えており、「廃食油はリサイクル」するのが当たり前の時代がやってきた。本記事では、廃食油がリサイクルされて何に活用されるのか、家庭での処理方法なども紹介する。

ELEMINIST Editor
エレミニスト編集部
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廃食油(UCO:Used Cooking Oil)とは、一般家庭や飲食店、食品加工工場などで調理に使用された後の「使い終わった油」を指す。サラダ油、オリーブオイル、ごま油など、油の種類は問わない。ただし、マッサージ用のオリーブオイルやミネラルオイルなど、食べられない油は廃食油の対象ではない。
廃食油は、どこで生まれたものかによって大きく2つに分類される。
飲食店、ホテル、食品工場などから排出されるもの。回収ルートが確立されており、産業廃棄物として適切に管理される。
一般家庭のキッチンから排出されるもの。依然として可燃ごみとして処分される割合が少なくない。
従来、これらの廃食油は下水への流出による環境負荷や、廃棄物処理コストの対象としてネガティブに捉えられる側面が強かった。しかし、脱炭素社会(カーボンニュートラル)への移行が加速するいま、廃食油の定義は「使い終えたもの」から、新しい「資源」へと劇的な変化を遂げている。
廃食油が世界中で争奪戦となるほど注目されている理由は、バイオマスエネルギーとしての効率性にある。
とくに、航空業界の脱炭素化に不可欠なSAF(サフ、持続可能な航空燃料)の原料として、植物油脂由来の廃食油は極めて高い価値を持つ。廃食油を再利用することで、化石燃料を使用した場合と比較し、ライフサイクル全体でのCO2排出量を大幅に削減することが可能となる。
現代における廃食油は、単なるリサイクルの対象ではない。 「回収→精製→燃料化→輸送・航空への利用」という循環(サーキュラーエコノミー)を構築する核となる存在である。これからのビジネスシーンにおいては、廃食油の排出量を可視化し、それをいかに資源として社会に還元しているかが、企業のESG評価を左右する重要な指標となっている。
廃食油は、精製技術の向上により、今や石油代替エネルギーの主役へと進化を遂げた。とくに脱炭素化が急務とされる運輸・エネルギー部門において、廃食油を原料とするバイオ燃料の需要は世界的に爆発している。回収された廃食油は、主に次の4つのものにリサイクルされる。
現在、廃食油の用途としてもっとも注目を集めているのがSAF(Sustainable Aviation Fuel、持続可能な航空燃料)。航空業界は排出されるCO2の削減がとても困難な分野とされており、廃食油を原料としたSAFの導入は、排出量を従来のジェット燃料比で最大80%削減できる切り札となっている。
日本では、「Fry to Fly Project」が立ち上げられ、多くの企業や自治体が賛同し、SAFのために使った油をリサイクルしようという取り組みが広がっている。同様に、日本航空では「すてる油で空を飛ぼう」というプロジェクトを開始。全国のスーパーなどで廃食油の回収を始めている。
海外ではSAFの使用が義務付けられるところもあり、日本でもそう遠くない将来、SAFの使用が義務化される可能性もある。だからこそ、日本国内でSAFを安定的に供給するべく、多くの業界で動きが加速している。
廃食油にメタノールを反応させて精製されるのが、バイオディーゼル燃料(BDF)だ。これは、ディーゼルエンジンの燃料として広く普及している。トラックやバスの燃料として利用されるほか、工事現場で使用される重機の燃料をBDFに切り替えることで、建設プロジェクト全体の環境負荷を低減する。
燃料以外の用途として、化学製品の原料(バイオマスプラスチックや塗料など)への転換も重要な柱である。例えば、石けんや洗剤。伝統的な再利用方法であるが、近年はエシカル消費の観点から、廃食油由来の高品質な洗浄剤が再び脚光を浴びている。また、建設機械や農業機械の油として、万が一漏洩しても土壌への影響が少ないバイオマス由来の潤滑油が選ばれている。
大規模な食品工場などから排出される廃食油は、そのまま、あるいは精製を経てバイオマス発電の燃料として活用される。太陽光や風力とは異なり、天候に左右されず安定した電力供給が可能な再生可能エネルギーとして、地域循環型のエネルギーシステム構築に貢献している。
そもそも、家庭で調理し終わった油をそのまま捨てることは「よくないこと」という認識は知られている。そのリスクについて、ここで改めて確認しよう。
廃食油が河川や海に流れ出したら、その影響は非常に大きい。環境省のデータによると、わずか大さじ1杯強(20ml)の油を下水に流すと、魚が生息できるレベルの水質に浄化するためには、およそ6000リットル(浴槽約30杯分)もの大量の水が必要となる(※1)。
私たちがふだんの生活のなかで出す排水(生活排水)にはさまざまなものが含まれるが、川や海をもっとも汚す存在が使用済みの調理油と言えるかもしれない。
| 生活排水の種類 | 魚がすめる水質に必要な水 |
|---|---|
| 使用済み天ぷら油20ml | 6000L |
| マヨネーズ大さじ1(15ml) | 3900L |
| ビール1杯(200ml) | 3000L |
| 中農ソース大さじ1(15ml) | 390L |
| シャンプー1回分(4.5ml) | 201L |
| 台所用洗剤1回分(4.5ml) | 201L |
下水道に流された油は、冷えて固まると石鹸のような固形物(オイルボール)へと変化する。固まった油が下水管の内部に付着・蓄積することで、排水能力が低下し、大雨の際の逆流や浸水被害を引き起こす可能性がある。また水道管内に堆積した油が腐敗・酸化することで強烈な悪臭を放ち、周辺住民の生活環境を悪化させることも考えられる。
飲食店や工場などの事業で発生した廃食油は、法律上「産業廃棄物」に分類され、適切に処理することが求められる。仮に、適切な許可を持たない業者に回収を依頼したり、不法投棄を行ったりした場合、排出事業者自身が5年以下の懲役または1,000万円以下の罰金という厳しい刑事罰の対象となる。
さらに、環境配慮を欠く姿勢がSNS等で拡散されれば、顧客離れや株価への悪影響に直結するだろう。
最後に、家庭で出た廃食油の正しいリサイクル方法を確認しよう。
廃食油の回収を行っている自治体は少なくない。まずは自分の自治体で廃食油の回収が行われていないか確認しよう。リサイクルに出す際の手順とルールは、自治体によって異なるが、基本的に次のような手順で行う。
リサイクルに出す手順
(1)使い終わった油をしっかり冷まし、天かすなどは取り除く
(2)空のペットボトル*などに1の油を流し込み、ふたをしっかり閉める
(3)回収拠点へ持っていく
*利用可能な容器は自治体によって異なるため、お住まいの自治体のルールを確認しよう。自治体によって、容器ごと回収する場合と、油だけを流しこむ場合がある。
※回収可能な油の種類は、自治体によって異なる。それぞれでルールを確認しよう。
日本航空の「すてる油で空を飛ぼう」では、イオン、東急ストア、ピーコックなどのスーパー等で、廃食油を回収するリサイクルボックスを設置している。
リサイクルに出す手順
(1)使い終わった油をしっかり冷まし、天かすなどは取り除く
(2)空のペットボトル*などの容器に1の油を流し込み、ふたをしっかり閉める
(3)「すてる油リサイクルボックス」に油を流しこむ
(4)容器を持ち帰る
本プロジェクトに参加した方には、JALオリジナルで繰り返し使える廃食油専用ボトルが進呈される。中には金網がついているため、天かすなどを除去できる。
もし近くにリサイクルの拠点がないなどで、リサイクルできない場合は、布や新聞紙に油をしみこませるほか、凝固剤で固めて、家庭ごみとして出すのが基本だ。
廃食油は、処分の手間がかかる面倒な存在と思われてきたかもしれない。しかし、いまはSAF(持続可能な航空燃料)やバイオディーゼル燃料へと姿を変え、サーキュラーエコノミーを実現させるための大切な存在となった。私たちのキッチンで生まれる一杯の油は、単なる廃棄物ではなく、地球の未来を動かす資源といえる。
牛乳パックや段ボール、ペットボトルなどは、リサイクルすることが当然という概念が人々に浸透している。そしてこれからは、それと同じように「使い終わった油はリサイクルする」のが当たり前になる時代なのだろう。
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