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オーストリアで、ヴィーガン・ベジタリアン料理のみを扱う職業訓練校が、政府主導のもとスタートする。若者に新たなキャリアの道を開くと同時に、持続可能な食生活を公的に推進する試みだ。
Ouchi_Seiko
ライター
フランス在住。美容職を経て2019年よりライターに。居住地フランスのサステナブルな暮らしを手本に、地球と人にやさしい読みものを発信。
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環境配慮と持続可能な食のあり方が世界的に問われているなか、オーストリア政府が新たな方針を打ち出した。2025年7月1日から、植物由来の食材に特化したシェフを育成する職業訓練校がスタートする。期間は3年間で、ヴィーガン・ベジタリアン向けの調理スキルを幅広く学べる仕組みだ。
この制度は、オーストリア政府が制定した「グリーン・エコノミー」の一環として導入されるもので、未来の食文化を担う人材の育成を目指す。
職業訓練校では地域料理から国際料理まで、幅広く学べるプログラムが用意されている。さらに、生徒たちは調理技術だけでなく、在庫管理、アレルギーや食物不耐症への対応方法も習得することが可能だ。学習する料理としては、テリーヌや肉・魚の代替品、ソース類、パイ生地を使った料理など多岐にわたるという。
植物由来の食材に特化した職業訓練校の導入は、ベジタリアンレストランの経営者であり、ウィーン商工会議所の議員でもあるヨアヒム・イヴァニー氏の提案によって始まった。オーストリア・ヴィーガン協会や地元の著名シェフたちもこの提案に賛同したが、一部の委員会からは反対の声も上がっていたという。
その後、協議は一時停滞。およそ1年半にわたる交渉が続くなか、追い風となったのは1,600人以上の市民による署名活動だった。これを受けてオーストリア政府は手続きを加速させ、2024年、ついに政令として正式に成立することが決まった。
オーストリア経済会議所・飲食業協会のマリオ・プルカー会長は、「人々のニーズに応えた新たな職業訓練制度は、業界にとっても好ましい変化であり、人材不足の緩和にもつながる」と評価している。
近年、オーストリアでは若年層を中心に菜食志向が広がっている。ウィーン・ノイシュタット応用科学大学が行った調査では、30〜39歳のうち約19%がベジタリアン、5%がヴィーガンと回答。50歳以上の世代に比べ、明らかに高い傾向を示している。植物由来の代替肉への関心も高く、2024年の調査では、オーストラリア国民の約30%が今後2年以内に代替肉の消費を増やしたいと考えていることがわかった。
今回の職業訓練校が設立された背景には、オーストリア保健省による食事ガイドラインが改定されたことも大きくかかわっている。新たなガイドラインでは、野菜と果物を一皿の50%、全粒穀物を25%、残りのたんぱく源は主に植物性食品で構成することが推奨され、豆類には独立した栄養カテゴリーが設けられた。こうした国の方針も、菜食に特化した職業訓練校の設立を後押ししたかたちだ。
肉の摂取を控えるという食習慣は、ライフスタイルの一選択肢として世界的に広がりつつある。オーストリアの新制度は、持続可能な食生活が“職業”として成立する時代の到来を示しており、若者やヴィーガン志向の人々にとっても、キャリアの選択肢が確実に広がったと言える。
※参考
Austria Govt Doubles Down on Plant Protein Focus with Meat-Free Culinary Training Scheme|green queen
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