子どもたちを守るための制度「日本版DBS」とは

大木の下で休憩する子どもたち

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日本版DBSとは、子どもたちが活動する現場に、性犯罪者を立ち入らせないための仕組みのこと。保育所や小中学校など、子どもに近い場所で働く人の性暴力を防止し、子どもたちが性犯罪の被害に遭わないようにするために創設された。本記事では、制度の内容や導入の背景についてわかりやすく解説する。

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2024.12.20

日本版DBSとは

悲しげな目で真っ直ぐこちらを見る子ども

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日本版DBSとは、教育・保育従事者などによる子どもへの性暴力を防止するために検討されている制度。2024年6月に、日本版DBSの創設について盛り込まれた「こども性暴力防止法」が成立した。(※ 1)2026年12月までに運用が開始される予定だ。

DBSとは?イギリスの仕組みを参考にした背景

DBS(Disclosure and Barring Service)とは、「前歴開示・前歴者就業制限機構」のこと。イギリスにおける犯罪歴照会制度であり、 公的機関の名称でもある。

イギリスだけでなく、ドイツやフランスにも同様の制度があり、各国は大人が子どもに関わる現場で働く際に、犯罪歴照会を行うことを義務づけている。日本では、なかでも先行して取り組みを行っているイギリスの制度を参考に、導入に向けて動き出している。(※2)

イギリスでは1986年に、公的機関の雇用における犯罪歴チェック制度が確立された。2002年には、子どもと接する教育系の業務に就くべきではない人物をデータ化したリストの作成を開始。2012年にDBSが発足し、子どもに関わるすべての職種や活動に対して、関わる者の犯罪歴の照会を義務化した。現在、イギリスでは、職種に関わらず犯歴照会を求めることが可能になっている。子どもに限定せず、社会的弱者を守るための制度として拡充されている。(※3)

日本版DBSの特徴

日本の「こども性暴力防止法」では、学校や民間事業者などに対し、教員や教育・保育従事者による児童対象性暴力を防止することを義務づけている。その手段のひとつが日本版DBSだ。

日本版DBSでは、対象事業者に対して、雇用者の性犯罪前科の有無を確認することを義務づける。事業者が違反した場合、立入検査や公表などの対象となる。

また、日本版DBSでの再犯対策に加え、初犯対策も重要視されている。子どもが相談しやすい環境づくりや被害が疑われる場合の適切な調査、従事者の研修などを通して、子どもの安全を確保することが求められる。(※4)

日本版DBSが求められる背景と導入の経緯

草の上に座る3人の女の子たち

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教育や保育の現場における子どもへの性犯罪が後を絶たない状況を踏まえ、かねてより、子どもを性暴力から守る制度の必要性が指摘されていた。なかなか進展しない状況が続いていたが、2023年4月にこども家庭庁が発足。議論が加速したことで、法案の成立に至った経緯がある。(※5)

以下では、日本版DBSが求められる背景をもう少し詳しく見ていこう。

子どもや弱者の安全確保の必要性

上述の通り、子どもの性被害問題は長年の課題であり、新たな対策が求められていた。ここ数年、子どもや若者が被害者となる強制性交等罪の認知件数は増加傾向。0〜12歳というくくりでは、2018年と比較して2022年には1.4倍以上に増加している。(※6)

性犯罪は子どもの未熟さに乗じて発生するケースが多く存在する。対称的でない力関係のもと、性被害に遭ってしまう子どもたちが少なくないのだ。子どもや社会的弱者が安全に過ごせる環境づくりが求められている。

教育や福祉分野での事件防止

性被害に遭う子どもたちのリスクを少しでも減らすために、日本版DBSが欠かせないと考えられている。

2020年6月には、マッチングサービスに登録していたベビーシッターが暴行やわいせつの疑いで逮捕された。4年4ヶ月にわたって、担当した子ども20人に性暴力を行っていた事実が明るみになり、性犯罪者を取り締まる制度の必要性に改めて焦点が当たった。子どもの支援を行うNPO団体や有識者からの声が上がり、ソーシャルアクションに発展。このことが、日本版DBSの創設を後押しした。

性犯罪の加害者の7〜8割は身近な人によるというデータがあり、閉鎖的な場所で過ごすことが多い子どもはとくに、近しい大人からの被害を受けやすい傾向にある。(※7)できるだけリスクを排除し、未然に事件を防ぐことが重要なのだ。

制度の不備と再犯リスクへの懸念

日本版DBSの法案が可決される以前は、教育現場や所管省庁単位での対策にとどまっていた。現状、事業者は、本人からの自己申告がない限り、雇用者の性犯罪歴を知るすべがない。採用時に危険因子を見抜くのには限界がある。

こども家庭庁の資料によると、小児わいせつ型の性犯罪で有罪確定した者で、それ以前に2回以上の性犯罪前科がある者の前科が同じ小児わいせつ型の性犯罪である者の割合は84.6%。刑事処分を受けても小児わいせつを繰り返す人が一定数いるということだ。(※8)このことからも、子どもたちが活動する場所に、性犯罪者を立ち入らせない仕組みの重要性が伺える。

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2024年に成立した日本版DBSの内容

カバンを背負い教材を持ち学校に通う子ども

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ここからは、2024年6月に成立した「日本版DBS」の内容を解説する。(※9)

対象となる事業者

対象の事業者は、支配性・継続性・閉鎖性の3つの要件を満たすものとされている。具体的には、幼稚園、小中学校、義務教育学校、高校、中等教育学校、特別支援学校、高等専門学校、専修学校など、学校教育法上の設置・認可対象となっている施設が対象だ。

また、認定こども園法、児童福祉法の対象となっている認定こども園、児童福祉施設、指定障害児通所支援事業なども義務の対象となる。

放課後児童クラブや一時預かり事業、認可外保育施設、民間教育事業(学習塾、スポーツクラブ)などは、認定制度の対象となる。事業者が日本版DBS制度への参加を申請し、国からの認定を受けることで性犯罪歴の照会が可能となる仕組みだ。認定事業者であることは、国を通じて公表されるほか、事業者が利用者に向けて公表することも可能。

対象業務は、教諭や保育士、施設長など多岐にわたり、派遣や委託、ボランティアであっても検討対象となる。

対象となる子どもの範囲

日本版DBSの子どもとは、「こども性暴力防止法」の児童を指す。原則18歳未満の人だが、18歳以上の人(高校3年生)が通う高校も対象事業者に含まれている。(※10)

公開対象になる情報

確認対象となる罪は「特定性犯罪」として扱われる。強制わいせつといった刑法犯罪のほか、痴漢や盗撮などの条例違反も含まれる。(※11)一方、下着の窃盗やストーカー規制法違反に関しては、性暴力とは性質が異なるという点を理由に対象外とされた。(※12)

また、性犯罪で逮捕された場合でも不起訴処分の場合は公開対象にならない。示談が成立している場合も、同様に対象外だ。

照会可能な性犯罪歴の期間

照会可能な期間に関しては、過去の性犯罪に関するデータに基づき、再犯に至るまでの期間を考慮して定められた。具体的には、以下の通りだ。(※13)

・拘禁刑(服役):刑の執行終了等から20年
・拘禁刑(執行猶予判決を受け、猶予期間満了):裁判確定日から10年
・罰金:刑の執行終了等から10年

新規だけでなく現職も照会対象

また、照会は、新規対象者にとどまらず、現職も対象。仮に性犯罪歴が確認された場合、子どもと接する業務から異なる部署へ転換するなどの対応が求められる。対策が難しい場合は、解雇も許容する。(※14)

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日本版DBSにおける照会方法

日本版DBSにおける照会申請は、対象事業者が行う。しかし、事務フローは、戸籍情報の提出などにおいて本人も関わることが前提となっている。

事業者がこども家庭庁に申請後、同庁が法務大臣に性犯罪歴を照会。該当する性犯罪歴がなければ、こども家庭庁が「犯罪事実確認書」を作成し、事業者に交付する。

性犯罪歴があった場合は、事業者ではなくまず本人に通知する。本人は2週間以内であれば訂正請求が可能。この間に内定辞退を行えば、申請自体が却下される。訂正請求を行わずに2週間が経過した場合、犯歴ありの犯罪事実確認書が事業者に交付される。(※15)

日本版DBS制度導入のメリット

ペンで紙に何かを書く手元

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日本版DBSは長年導入が望まれてきた制度だ。導入のメリットは多々あるが、以下では主なものを4つ挙げる。

子どもへの性犯罪の抑止力

まずは、日本版DBSの存在そのものが、子どもへの性犯罪の抑止になる点だ。日本版DBSは性犯罪の再犯を防ぐ仕組みであり、直接的に初犯を防ぐというわけではないが、抑止力として働くことで、初犯を含めた性犯罪の発生を減少させる可能性がある。

子どもや社会的弱者の保護

日本版DBSの制度化に伴い、従事者の研修や子どもとの定期的な面談など、初犯を防ぐための具体的な対策も求められる。これらの対策ももちろんだが、日本版DBSが制度化されることにより、社会全体で子どもや社会的弱者を守ろうという意識が醸成されるだろう。

教育や福祉分野への信頼向上

日本版DBS制度が導入されることで、性犯罪におけるリスクを一定排除できるようになる。保護者は間違いなく、いまより安心して子どもを現場に任せられるようになる。性犯罪歴のある雇用者が職場にいないということは、教育や福祉の分野で働く大人にとっても安心感につながるだろう。

質の高い教育環境の確保

SDGsの目標4に「質の高い教育をみんなに」がある。教育の提供はもちろん、大前提として環境を整えることが重要だ。そこには安全確保も含まれる。

日本版DBSの本質は子どもの安全を守ることにあり、決してSDGsの達成のための制度ではないが、取り組みの推進は結果としてSDGsの達成につながる。

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日本版DBSの課題

図書館の様子

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日本版DBSは新たな制度であり、導入にあたっては懸念や課題も残されている。運用後にも、適宜見直しが行われる予定だ。以下で、現時点での主な課題を紹介する。

情報の漏洩リスクがある

日本版DBSにおいて、対象事業者は情報を適正に管理する義務があるが、犯罪歴という個人情報が事業者にわたってしまうことに懸念も残されている。仮に情報が漏洩した場合、更生の妨げになってしまう。情報漏洩がないように、慎重な制度設計が求められている。

人権侵害のリスクがある

憲法で定められている職業選択の自由に反する恐れがある点も懸念事項だ。日本版DBSは、加害者側の職業選択の自由と子どもの安全を天秤にかける形で成り立っているとも言える。

イギリスでは制度の対象職種が広がっているが、最初は小規模から始まった。いま制度が当たり前のものとして浸透している背景には、安全を最優先とする国民の意識と理解があるからだ。(※16)日本でも人権侵害のリスクを考慮し、慎重に検討が進められている。

前科者しかわからない

日本版DBSの性犯罪歴の開示の対象は、前科者に限られている。不起訴処分、示談が成立しているケースは開示の対象にならない。初犯を見抜くすべもない。

そもそも、性犯罪において認知されるのは、ごく一部と考えられている。子どもが声を上げられずに発覚しない性犯罪は多い。さらに、発覚しても子どもへの影響から保護者が届け出ないケースもある。日本版DBSが対象とするのは、あくまで氷山の一角なのだ。日本版DBSだけに頼らず、ほかの取り組みも併せて推進する必要がある。

個人事業は対象外である

対象事業者の範囲にも懸念が残る。繰り返しになるが、対象事業者は支配性・継続性・閉鎖性の3つの要件を満たすもの。ここに、フリーランスの家庭教師やベビーシッター、習いごとを運営する個人事業主は含まれない。(※17)対象の事業者から対象外の事業者へ、性犯罪者が流れ込む可能性も懸念されている。

小規模事業者は認定取得の負担が大きい

小規模事業者の認定に関わる負担も懸念のひとつだ。民間事業者が認定を受けるためには、さまざまな要件を満たす必要がある。当然、資金的余裕がないことから、認定を諦めるケースが発生するだろう。認定を受けていない事業者に性犯罪歴のある人が集まってしまう可能性もはらんでいる。小規模事業者の負担軽減に関しては、制度の見直しや行政のサポートが求められている。

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日本版DBSは子どもの安全のために必要不可欠 今後の動きにも注目

慎重に議論が重ねられ、ようやくまとまった日本版DBS。しかし、課題も残されているのが現状。法律の施行までにはさらなる検討が重ねられ、詳細はガイドラインとしてまとめられる予定だ。さらに、施行後も定期的な見直しが続けられる方針。今後も引き続き注目したい。

また、日本版DBSは子どもの安全のための大きな一歩だが、決して完璧ではない。制度に甘んじず、個々の主体的な取り組みも必要だ。

※掲載している情報は、2024年12月20日時点のものです。

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