リチウムイオン電池による環境負荷とは? 負荷低減の方法も解説

lithium ion battery

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小型で軽量、なおかつパワフルな特性をもつリチウムイオン電池。環境にやさしい電池として注目を集めているが、実際には製造時や廃棄などによる環境負荷が課題となっている。この記事ではリチウムイオン電池の環境負荷や、環境負荷を抑える方法についても解説する。

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2024.12.14

蓄電池に使用されるリチウムイオン電池とは

lithium ion battery

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リチウムイオン電池とは、正極と負極の間をリチウムイオンが行き来することによって充放電を行う電池のこと。一般的に使い切りのものを一次電池、繰り返し充放電ができるものを二次電池と呼ぶ。

リチウムイオン電池の用途にはさまざまなものがあるが、そのひとつが家庭用蓄電池だ。家庭用蓄電池は、電気を貯められるうえ、必要なときに電気機器などに電気を供給することも可能な設備である。繰り返し充放電ができるため、二次電池に該当する。

そのほかパソコンやスマートフォンのバッテリー、電気自動車、ハイブリッド自動車の車載用バッテリーなどにも使われている。これらの需要が増加していることから、今後さらなる需要が拡大すると考えられている。(※1、※2、※3)

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リチウムイオン電池の環境負荷とは

身近なものに使われ、省エネで環境にやさしいイメージがあるリチウムイオン電池だが、環境負荷が課題となっている。リチウムイオン電池の環境負荷について解説しよう。

製造プロセスでの環境負荷

リチウムやコバルトの採掘が与える影響

リチウムイオン電池のおもな原料であるリチウムは、露天掘削によって採掘されることがほとんどである。この採掘が環境に悪影響を与えることが問題となっている。露天掘削は、地表から直接掘り進んで採掘する際に大量の水が必要となる。乾燥地帯で採掘すれば、水不足を引き起こすことが考えられる。また土地を掘り返すことや土壌や地下水の汚染によって、生態系が破壊されるリスクや人間への健康被害も懸念される。(※4)

製造プロセスに伴うCO2排出

リチウムイオン電池は環境負荷が低いことから注目されているが、製造プロセスにおいては必ずしも環境負荷が低いとはいえない。リチウムイオン電池の製造プロセスにおいて、多くのCO2を排出してしまうからである。とくに電極の乾燥工程では多くのエネルギーを必要とすることから、CO2排出量も増える傾向にある。またエージング処理、検査工程の際にも充放電を行う必要があるため、結果的に電池の生産量が増えれば電力消費量も増えることになる。(※5)

廃棄とリサイクルにおける問題

リチウムイオン電池は、製造時だけでなく、製造後の廃棄・リサイクルの点でも問題が生じている。リチウムイオン電池の原料にはコバルトやニッケル、マンガンなどが使われており、適切に廃棄されなければこれらが土壌や水質を汚染することにつながってしまう。(※6)

またリチウムイオン電池のリサイクル率が低いのも課題である。2022年時点において、リチウムイオン電池の世界全体のリサイクル率はわずか5%程度とされている。(※7)

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リチウムイオン電池のメリット

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リチウムイオン電池の性能面や環境面におけるメリットを紹介しよう。

小型・軽量・パワフル

リチウムイオン電池は、ほかの鉛蓄電池やニッケル水素電池、ニッケルカドミウム電池などの二次電池にくらべ、小型で軽量な点がメリットだ。またリチウムイオン電池のエネルギー密度は155Wh/kgと高く、ニッケル水素電池の約2倍もあるのが特徴である。このエネルギー密度は高ければ高いほど、電池の性能が高いといえる。(※8、※9)

充電・放電の繰り返しに強く、長持ち

二次電池は通常、電気をつくるために化学反応を利用する。しかしリチウムイオン電池は化学反応を利用せず電気をつくるため、電極の劣化が少ない。このことにより、充電や放電の繰り返しに強いのもメリットといえる。

また使っていないときでも内部で少しずつ化学反応が起こり、電気が減っていく「自己放電」が起きないのもメリットだ。自己放電が起きないため電池が劣化しにくく、長持ちする。(※8、※10)

環境負荷が低い物質を使っている

リチウムイオン電池にはリチウム、炭素、マンガン、ニッケル、コバルトなどの物質が使われているが、これらの物質は比較的環境負荷が低いとされている。また充放電を繰り返すサイクル特性は500回以上といわれており、使い方によっては1000回以上も繰り返し使える。繰り返し使うことで電池廃棄の回数を減らせ、環境負荷を軽減できるのもメリットといえるだろう。(※9、※10)

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リチウムイオン電池の環境負荷を抑える方法

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リチウムイオン電池の環境負荷を抑えるためには、リサイクルがポイントとなる。ここでは、リサイクルの重要性やリサイクル技術の進展、リサイクル推進の課題について解説する。

リサイクルの重要性

リチウムイオン電池のリサイクルは、環境保護や資源の有効活用の観点から極めて重要といえる。おもな原料となるリチウムやレアメタルの採掘は、環境負荷が大きい。リサイクルし資源を再利用することで、新たな採掘を抑制でき、持続可能な資源管理が可能となる。(※4)

また廃棄された電池が適切に処理されないと、有害物質による土壌や水質汚染を引き起こす可能性がある。こうした環境汚染を防ぐためにも、リサイクルして有効に利活用することが必要だ。(※6)

リサイクル技術の進展

さまざまなメーカーで、リチウムイオン電池のリサイクル技術の研究・開発を行っている。たとえば高付加価値製品にリサイクルすることや、焼却処理をしない処理方法で資源を有効活用する技術などがある。(※11)

また大手化学メーカーである東レは、車載用の使用済みリチウムイオン電池から高収率でリチウムを回収できる新規ナノろ過(NF)膜をつくり出した。実用化に向けて研究・開発が進められている。(※12)

リサイクル推進の課題

リチウムイオン電池のリサイクル推進にはいくつか課題がある。そのひとつが回収率の低さだ。日本における使用済み電池の回収率は、約26%となっている。回収率が低い理由には、消費者のリサイクル意識が低いことや回収システムの不備などが挙げられる。(※13)

その他環境負荷を抑える方法

リチウムイオン電池の原料となる、リチウムの採掘時の環境負荷を抑える方法として、水資源管理の改善や、環境に配慮した新たな採掘技術の開発と導入が有効と考えられる。(※4)

また不要になった電池を処分するときには、住んでいる自治体のごみマニュアルなどを確認し、適切に処理すればリサイクルに貢献できる。(※14)

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リチウムイオン電池の適切な使用・廃棄・リサイクルで、環境負荷を最小限に

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リチウムイオン電池は小型で軽量・パワフルであり、環境負荷が低い物質を使っているというメリットがある。その一方で、製造プロセスにおいての環境負荷や、廃棄とリサイクルにおける課題もあるのが現状だ。今後、環境負荷を最小限にとどめるには、適切な使用や廃棄・リサイクルが不可欠といえる。

※掲載している情報は、2024年12月14日時点のものです。

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