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シェールガスは2000年代に入るまで掘削が難しかった天然資源である。技術革新が起こったことで採掘可能となり、現在石油の代替燃料として広く普及している。この記事では、シェールガスがもたらしたエネルギー業界の革命や、影響について詳しく解説する。
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シェールガスは、堆積岩の一種である頁岩(けつがん)に閉じ込められている天然ガスである。主成分はメタンで、従来の天然ガスと同様に燃料や化学原料として利用される。頁岩は地下深部で層を形成しており、このなかに微細な隙間が存在し、その間にガスが含まれている。従来の技術では採掘が困難であったが、2000年代以降の技術革新により採掘が実現可能となった。
アメリカでは、この技術革新を背景にシェールガスの生産が急拡大し、エネルギー供給の自給率向上や価格低下が進んだ。この結果、アメリカはエネルギー輸出国としての地位を確立しつつあり、世界のエネルギー市場に大きな影響を与えている。(※1)従来型の天然ガス採掘では手付かずだった資源にアクセスできるようになったことでエネルギー問題に貢献する一方、環境への負荷も懸念されている。
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シェールガスの採掘には、特殊な技術が用いられる。以下ではその代表的な方法を解説する。
水平掘削とは、地層に沿って横方向に掘削を進める技術である。従来は地層に対して垂直に掘るだけだったため接触面積が限られていたが、水平掘削により頁岩層への接触面が大幅に広がった。従来の方法では不可能だった、頁岩からの採掘が現実のものとなった。(※1、※2)
水圧破砕法では、高圧の水、砂、化学物質を岩層に注入して人工的にひび割れをつくり出す。このひび割れによってガスが岩層から解放され、回収が可能となる。さらに「マイクロサイズミック」と呼ばれる技術を用いることで、地層内の状況を詳細に分析し、効率的な掘削計画を立てられるようになった。(※1)
これらの技術革新により、シェールガスの採掘コストは大幅に低下した。また原油価格の高騰によって、それと連動する天然ガスの価格も上がり採掘コストに見合う価格になったのも革新につながった。(※1)
シェールガスの採掘過程では「マイクロサイズミック」と呼ばれる技術を用いて、岩盤の状況や亀裂の広がりをリアルタイムで観測する。効率的で安全な採掘計画が可能となり、無駄な採掘や環境負荷の軽減が期待される。(※1)
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シェールガスのメリットとデメリットについて、それぞれ説明する。
シェールガスの大きなメリットは、膨大な埋蔵量にある。非在来型天然ガスとして、従来のガス田では利用されなかった地層からガスを採掘できる。そのため供給量が増加し、エネルギー市場における価格安定に貢献している。また産出国の自給率向上にもつながり、輸入依存から脱却できる可能性を秘めている。エネルギー資源を多角化することは、地政学的リスクの軽減にもつながるだろう。(※3)
一方で、シェールガス採掘は環境への負担が大きい。採掘過程で多量の水と化学物質が使用されるため、水質汚染のリスクがある。また採掘中に発生するメタンガスは、温室効果が二酸化炭素よりも高く、地球温暖化を加速させる要因となる。設備の設置や維持にも高コストがかかり、環境規制が厳しい国では採掘が難しくなることもある。(※3)
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シェールガス革命は、エネルギー業界に大きな変革をもたらした出来事である。アメリカでシェールガスの採掘が進展したことで、エネルギー市場の構造が変わり、世界各国に影響を与えた。ここではシェールガス革命の概要と、それがもたらした影響について詳しく解説する。
シェールガス革命とは、シェール層と呼ばれる地層から採掘される天然ガスの生産が急増した現象を指す。2000年代初頭にアメリカで始まり、水圧破砕技術や水平掘削技術の進化によって実現された。従来の採掘技術では経済的に難しいとされていたシェール層のガスが効率的に抽出可能となったことで、アメリカはエネルギー資源の輸入国から輸出国へと転換した。(※1)これによりエネルギー市場では供給が増加し、天然ガスの価格が下落するという大きな変化が生じた。(※5)
アメリカではシェールガスの増産によりエネルギーの自給率が大幅に向上し、石油や天然ガスの輸入依存度が低下した。またエネルギー輸出国としての地位を確立し、エネルギー価格の安定化や市場競争を加速させた。一方、日本ではエネルギー輸入の多様化が進んだ。2017年から米国産シェールガスの輸入が始まり、価格変動のリスクを軽減する手段として注目された。福島第一原発事故以降、エネルギーの安定供給は日本にとって喫緊の課題であり、シェールガスがその解決策のひとつとなっている。(※3)
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シェールガスはその多用途性と安定供給能力から、さまざまな分野で利用されている。そのなかでも、発電用燃料としての活用や石油代替燃料としての可能性が注目されている。以下では、具体的な利用事例について解説する。
シェールガスは、火力発電の燃料として広く利用されている。シェールガス採掘先進国のアメリカでは、豊富なシェールガス資源を活用した発電施設の建設や従来施設の運用転換を行い、国内の電力供給の安定化に取り組んでいる。(※4)また天然ガスは石炭に比べて二酸化炭素の排出量が少ないため、環境負荷の低減にもつながる。(※5)アメリカではエネルギー転換が進み、再生可能エネルギーとの併用が進んでいる。
シェールガスは発電用途に留まらず、化学工業の原料や輸送燃料としても利用されている。米国では、エチレン製造に従来使用されていた原油精製過程の副産物であるナフサの代わりに、シェールガスに含まれるエタンを活用することで原料コストを大幅に削減できるようになった。この結果、製造された石油精製製品は高い国際競争力を持ち、サウジアラビアなど中東諸国と競争可能な水準に達している。さらに2012年にはシェールガス開発の影響で、石油化学工業全体の設備投資額は150億ドルに達し、生産能力は30%増加している。(※1)
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シェールガス革命はエネルギー供給の多様化や価格競争の促進をもたらし、世界のエネルギー市場に新たなサイクルを形成した。一方で地球温暖化への対応や脱炭素化が進むなか、再生可能エネルギーへの転換も進んでいる。今後は再生可能エネルギーや代替燃料と併用されるなかで、シェールガスが果たす役割も変化していくだろう。この転換期においてエネルギー資源の多様性を理解し、その活用方法をもう一度見直すことが重要だ。
※1 第1節 米国の「シェール革命」による変化|経済環境省
※2 シェールガスの環境影響について|日本経済エネルギー研究所
※3 シェールガスって何?地球温暖化とシェール革命の行方|Looopでんき
※4 シェールガス革命による天然ガス・石油需要への影響|日本経済エネルギー研究所
※5環境豆知識 シェールガス|国立環境研究所
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