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「回生ブレーキ」とは、列車が減速するときに失うエネルギーを電力に変えること。バルロナの地下鉄では、この回生ブレーキを列車の電力やEVステーションに活用。さらに減速時のエネルギーを活用することで、地下鉄の温度が1.8℃下がったという。
岡島真琴|Makoto Okajima
編集者・ライター・キュレーター
ドイツ在住。自分にも環境にも優しい暮らしを実践する友人たちの影響で、サステナブルとは何かを考え始める。編集者・ライター・キュレーターとして活動しつつ、リトルプレスSEA SONS PRE…
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バルセロナ交通局(TMB)が主導するプロジェクト「MetroCHARGE」。地下鉄の列車が減速するときに失う運動エネルギーを電力に変える「回生ブレーキ」の活用を進めている。
電車が停車するたびに、摩擦によって発生したエネルギーが電気に変換され、インバーターを通して地下鉄システム全体に供給。その3分の1が列車に電力を供給し、残りは駅の照明やエレベーターなどの施設、EV充電用ネットワークに電力を供給する。
ウィーン、フィラデルフィア、サンパウロなど、地下鉄に回生ブレーキを導入している都市もないわけではない。しかし、回生ブレーキをこれほど広範囲に利用している都市はバルセロナ以外にはなく、また電気自動車の充電インフラとして利用したのもバルセロナが初めてとなる。
TMBの地下鉄システム担当ディレクター、ジョルディ・ピカス氏によると、このプロジェクトによって、列車が使用するエネルギーの33%は回生ブレーキによるものになったという。これは地下鉄25駅分で使用する電力に相当する。
バルセロナの地下鉄は165の駅が125㎞の線路で結ばれているが、交通局はこれまでに3台のインバーターを設置し、さらに13台の設置を進めているところだ。すべての設置が完了すれば、回生ブレーキによって列車に必要な電力の41%を供給し、年間約3885トンの二酸化炭素排出量を削減できるとしている。
またピカス氏は、回生ブレーキを導入していない地下鉄システムでは、「使用されていないエネルギーが非常に多く、それが失われるだけでなく、発熱してトンネル内に広がり、温度を上昇させる」と言う。
実際、回生ブレーキを導入して以来、バルセロナの地下鉄の温度は1.8℃下がった。
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このプロジェクトには約780万ユーロ(約12.7億円)の費用がかかったが、エネルギー節約と充電ステーションからの収入により、4~5年で回収できると見込んでいるという。
もちろん大都市圏でインバーターや充電ステーションに最適な場所を見つけるなど、コスト以外の課題もある。「もっとも困難な挑戦は、充電器を設置する公共スペースへアクセスできるように、自治体と合意することだった」とピカス氏は言う。
こうしたシステムの導入を目指す都市は少なくない。バルセロナの担当者は、インドのニューデリーやオーストリアのウィーンから訪問を受けたり、メトロ・ベンチマーク・グループ(The Community of Metros Benchmarking Group)と呼ばれる45の交通システムからなる国際コンソーシアムの関係者とも情報を共有している。
大規模導入への課題は多いものの、世界各都市の地下鉄が発電所になる未来には、多くの市民がわくわくさせられるのではないだろうか。
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