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虐待のひとつである「ネグレクト」。日本ではとくに子どもへの育児放棄を指す言葉だ。ネグレクトの相談件数は年々増加しているが、その背景には何があるのだろうか。本記事では、ネグレクトの発生背景や種類、子どもに与える影響について解説。また、ネグレクトを受けた子どもへの支援も紹介する。
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「ネグレクト」とは、幼児・児童・高齢者・障害者などの社会的弱者に対し、その保護、世話、養育、介護などを怠り、放任する行為のことを指す言葉である。身体的・精神的・性的虐待とならぶ虐待のひとつであり、日本ではとくに子どもへの「育児放棄」を指すことが多いようだ(※1)。
虐待と聞くと身体的、または心理的なものをイメージするかもしれない。「身体的虐待」は、保護者が子どもに、殴る、蹴るなどの暴行をすることを指し、「心理的虐待」は、大声や脅しなどで恐怖に陥れる、無視や拒否的な態度をとるなど、子どもの心を死なせてしまうような虐待を指す(※2)。それに対してネグレクトは、身体面、医療面、教育面、情緒面で必要不可欠なものを与えないこと意味し、同じ虐待でも、身体的虐待、心理的虐待とは違いがある。
具体的には、家に閉じ込める、食事を与えない、ひどく不潔にする、自動車のなかに放置する、重い病気になっても病院に連れて行かないなどがネグレクトにあたる。
児童相談所における虐待相談対応件数とその推移によると、令和4年度中に、全国232か所の児童相談所が児童虐待相談として対応した件数は219,170 件(速報値)で、過去最多。そのうち、ネグレクトは35,556件と16.2%を占めている(※3)。
ネグレクトをはじめとする虐待が発生する要因はひとつではなく、複数の要因が複雑に絡み合っている。それを踏まえた上で、ここからはネグレクトに至る保護者の特徴や抱える課題について、よく見られるものの一部を紹介する。
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ネグレクトは、経済的ストレスと環境ストレスのある貧困家庭で発生することが多い傾向にあるといわれている。児童相談所への相談件数が増えているのには、経済的な格差が拡大し、貧困がじわじわと広がっていることが影響しているそうだ(※4)。
経済的に余裕がなく必要不可欠なものを与えられないほか、余裕がないことによる精神的ストレスがこどもに向けられてしまうケースもある。
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孤立化も、ネグレクトが発生する家庭の特徴のひとつだ。都市化現象で地域の希薄化が進んでいることや、一人親の家庭など、家族や親戚、友人や近隣の人など、周りに助けを求められる人がいない家庭が挙げられる。
サポートしてくれる人が近くにおらず、子育ての悩みを相談できない、吐き出せない、何か問題が発生しても解決できないといったストレスが虐待につながることもある。
「子どもを虐待する親自身、かつては被虐待児だった」といわれることがあるように、世代間連鎖もネグレクトをはじめとする虐待発生の背景のひとつ。
日本だけに限らず、貧困や暴力はどこの先進国でも同じように3世代遡っても同じような環境にあり、その環境を相続しているといわれている。どの国でも、虐待を受けた子どもが虐待をする親になる確率は高いとまでいわれているのだ(※5)。
ネグレクトには、4つの種類がある。それぞれについて詳しく見ていこう。
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「情緒的ネグレクト」とは、親が子どもの感情や心理的な欲求を無視し、親の都合のいいようにコントロールしようとすることを指す。
具体的には、泣いていても慰めない、考えや感情を認めないなどがあり、親やネグレクトを受けている本人、周囲の人も気づきにくいネグレクトといわれている(※6)。
子どもを一人で長期間放置したり、家に閉じ込めたり、成長に必要不可欠な食物を与えなかったりするのが、「身体的ネグレクト」である(※1)。
監護を行わないことで子どもが危険にさらされることも、身体的ネグレクトに含まれる。
「医療的ネグレクト」とは、病気にかかっても病院に連れて行かない、怪我をしても治療しない、予防接種を受けさせないことなどを指す。
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「教育的ネグレクト」とは、子どもを保育園や幼稚園、小学校などに通わせず、必要な教育を受けさせないこと。
子どもの意思や事情で学校へ行かせないのではなく、子どもの意思に反して学校に行かせないことを指す。
ネグレクトは、子どもにさまざまな悪影響をおよぼす可能性がある。ここからは、どのような影響があるのか解説していく。
ネグレクトが子どもに与える影響のひとつが、身体的影響だ。
必要な食事が与えられないことによって栄養障害になってしまったり、愛情不足により成長ホルモンが抑えられて成長不全を引き起こしたり、身体的発達に悪影響をおよぼしてしまう。
そのほか、医療的ネグレクトにより、怪我をしたときや病気にかかったときに病院で適切な治療が受けられず、症状が悪化してしまうなどの悪影響もある(※7)。
ネグレクトは、子どもに知的発達面への影響も与えることが指摘されている。
教育的ネグレクトにより学校に行くことができない子どもは、言語発達に遅れが生じたり、同年代の子どもと比べて学力が低くなる場合があるのだ。
知的発達面への影響により、その後の進学や就職が困難になってしまうことが懸念されている(※7)。
ネグレクトによって適切な親子関係・対人関係が築かれなかったために、愛着障害や感情のコントロールに関する障害を発症することが多いといわれている。
それによって、大人になっても対人関係で困難を抱えるようになってしまうケースがあるのだ(※7)。
児童相談所における虐待相談対応件数が年々増加し、深刻化が進んでいるが、ネグレクトを受けた子どもへの支援はどのようなものがあるのだろうか。
民間や行政で行われている支援の一部を紹介しよう。
189(いちはやく)は、児童相談所による支援。街中や近所で子どもなどの様子を見て、「児童虐待かも……」と思った人がすぐに地域の児童相談所に電話で相談できる専用ダイアルである(※8)。
通告・相談は匿名で行うことも可能で、その内容に関する秘密は守られるため連絡しやすい。「勘違いかもしれない」とためらわずに連絡することで、子どもを救うことができるかもしれない。
親子のための相談LINEは、子育てや親子関係について悩んだときに、こども(18歳未満)とその保護者の方などが相談できる窓口である。
匿名(LINE上のアイコンとニックネーム)でも相談ができ、相談内容の秘密は守られるため、気軽に連絡しやすいのが特徴だ(※8)。
認定NPO法人 3keysは、生まれ育った環境によらず、すべての子どもたちの安心・安全な育ちや権利が保障されるためのセーフティネットを増やすために活動している。
頼れる大人がいない子どもたちが大人や支援団体と安心・安全につながることが できるよう、10代向け支援サービス検索・ 相談サイト「Mex(ミークス)」を運営。
そのほか、子どもたちが目的を持たなくてもゆっくりとくつろげる「ユースセンター」を運営し、安心して過ごせる居場所を提供している(※9)。
少子化が進み子どもの数が減っているにも関わらず、児童相談所における虐待相談対応件数が年々増加している。
「うちは大丈夫だから」「周りにはいないから」と、“関係ない”と思う人も多いだろう。しかし、ネグレクトをはじめとする虐待の背景には、地域コミュニティが希薄になったことによる家庭の孤立化が背景のひとつとして挙げられる。虐待のなかでもとくにネグレクトは周囲が気が付きにくいといわれており、“関係ない”と思っていることで、子どものSOSを見逃してしまうかもしれない。
周囲の人々に関心を持ち、違和感を感じたら専用ダイアルなどに相談してみて。
※1 ネグレクト|e-ヘルスネット(厚生労働省)
※2 子ども虐待とは | 子ども虐待について|オレンジリボン運動 - 子ども虐待防止
※3 令和4年度 児童相談所における児童虐待相談対応件数(速報値)(2〜4ページ目)|こども家庭庁
※4 なぜ親は子どもに虐待をしてしまうのか?背景にあるのは貧困と孤立|日本財団ジャーナル
※5 虐待はなぜ連鎖するのか?|NPO法人日本こども支援協会
※6 ネグレクトについて詳しく解説!|保育士くらぶ
※7 育児放棄・ネグレクトの判断基準、ネグレクトを見つけたときに周りの大人ができること【専門家監修】|LITALICO発達ナビ
※8 児童虐待防止対策|こども家庭庁
※9 苦しんでいる子どもたちを救うために|3keys
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