ホテル業界が抱える課題のひとつに、アメニティの大量廃棄がある。その問題に一石を投じるべく、「circuRE act(サキュレアクト)」と「KAMAKURA HOTEL」による共同企画が2024年8月1日より実施された。ホテルビジネスからみるアメニティの現状や今回のキャンペーン結果についてお届けする。
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フランスの海洋成分がベースのバスアメニティ。ハンド&フェイスソープはポンプ式を採用している。
ホテルに設置されている歯ブラシやひげ剃りなどのアメニティ。その多くがプラスチック製品であり、使い捨てとなっている現状をご存知だろうか。ちなみにプラスチックごみの廃棄量でいうと、日本はなんとアメリカに次いで世界ワースト2位! その量は一人あたり年間32kgにもなるという(※1)。
世界的にみてもプラスチックの生産量と廃棄量は、1950年以降増加の一途をたどっている。回収されたプラスチックごみのリサイクル率は9%に過ぎない。79%ものごみが埋立、あるいは自然投棄されており(※2)、そのなかでも深刻なのが海洋プラスチックごみだ。世界全体で毎年800万トンも流出しており、2050年には海にいる魚の重量を上回るという試算もあるほどだ(※3)。
増えすぎたプラスチックごみを減らし、プラスチック資源を循環利用しようという取り組みが世界中で加速しつつある。日本でも2022年4月より「プラスチック資源循環促進法(※4)」が施行された。とくに年間5トン以上の使い捨てプラスチックを提供する事業者に課せられたもので、特定プラスチック使用製品の削減が求められる。対象となる製品にヘアブラシ、クシ、ひげ剃り、歯ブラシ、シャワーキャップなどが含まれることから、ホテル業界にも大きなインパクトを与えた。
「ホテルのアメニティ廃棄を減らすにはどうすればいいのか?」。この課題解決にある実験を提案したのが、サキュレアクト代表の塩原祥子氏。きっかけは自社が開発した石けん「sea design soap(シーデザインソープ)」の発売だ。微細藻類(びさいそうるい)から抽出された「ソラルナオイル」を配合した石けんで、天然由来成分100%、海洋汚染につながる成分も一切含まれていないサステナブルなもの。
日頃から「team 530(チームゴーサンマル)」として、ビーチクリーン活動に取り組むほど海洋汚染問題にも積極的な塩原氏。新製品の発売に際し、何かプラスチックごみの削減につながるアクションが起こせないかと考えた。
そうして生まれたのが今回の共同企画。アメニティを未使用で返却した宿泊客に石けん「sea design soap」をプレゼントする。ホテルアメニティに関するアンケートをつけることで、ホテルが抱えるアメニティ問題解決への糸口を探るのが狙いだ。
「KAMAKURA HOTEL」は、ビーチクリーンの拠点として付き合いのある「8HOTEL CHIGASAKI」のグループホテル。宿泊客のメインは20〜30代と聞き、環境意識が高く協力的な人が多いと踏んだ。いったいどれくらいの人が協力してくれたのか。塩原氏と「KAMAKURA HOTEL」の支配人、小林麻紀氏に話を聞いた。
大きなのれんが目印。古都・鎌倉に熟知したコンシェルジュがいる宿。
濃紺地ののれんに白抜きのロゴ。古都・鎌倉らしい風情をたたえた「KAMAKURA HOTEL」は、鎌倉駅徒歩2分という好立地に構える。旅館とホテルが融合したようなつくりで、客室数15部屋と小規模ながら落ち着いた雰囲気。1泊3万円前後からという価格帯はミドルクラスのホテルといえる。売りは「SAUNACHELIN(サウナシュラン)」も受賞したというお茶がテーマのサウナ。宿泊客の多くがこのサウナや鎌倉観光を目的に訪れる。
アメニティの設置状況はというと、歯ブラシ、ひげ剃り、ヘアブラシ、綿棒、ボディータオルと、ミニボトルのシャンプー、コンディショナー、ボディーソープ。どれも客室に設置されている。「1泊のお客さまが多いので大半のものを廃棄しています。とくにシャンプー、トリートメント、ボディーソープの3点は内容量が33mlと1泊にしては十分すぎる量。まだ残っていても捨てることが多い」と小林氏。処理にあたる清掃スタッフからも、もったいないという声があがっていた。
未使用品と思われるアメニティも廃棄するのかというと、すべてがそうではないと言う。「見た目がきれいであきらかに未使用品とわかるものは使用します。ただ、未使用品であっても例えばシャンプーのキャップ部分のシールが少しでも剥がれていたり、中の製品がきれいでも外箱に損傷があると破棄することになります」。ホテルビジネスからみると、おもてなしと衛生面というところがネックになっているようだ。
前職でホテルにアメニティを卸す部門もある会社に在籍していた経験もあるという塩原氏によると、環境省はプラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律として「特定プラスチック使用製品の使用の合理化」を求めており、宿泊業に対してはアメニティ(ヘアブラシ、かみそり、シャワーキャップなど)の有償化、製品の薄肉化や軽量化に取り組むことが求められている。
とくにビジネスホテルの動きは早く、アメニティの提供方法を客室からフロント付近に設置したアメニティバー(宿泊客が必要なアメニティを自分で選んで客室に持ち帰るバイキングシステム)に変更したところも多いとか。必要なものを必要な分だけ受け取るため、無駄な廃棄を減らせるメリットがある。
「私自身もホテルに宿泊する際、使用するものと使用しないものがありました。環境問題という観点からみるとバイキング方式は理にかなっている。ただ、ハイクラスのホテルになればなるほど難しいのではと感じます。お客さまによってはアメニティもホテルステイの魅力と捉える方もいらっしゃるので」と塩原氏。ホテルランクによるアメニティへの期待値の違いも考慮する必要がありそうだ。
企画の発起人、サキュレアクト株式会社 代表取締役の塩原祥子氏。微細藻類で環境負荷の少ないプロダクトを世に送り出す。
環境問題に取り組むプロジェクト「team 530」の活動を通して、海洋汚染問題にも力を入れる塩原氏。プラスチックは海洋汚染だけではなく、製造や焼却時に排出されるCO2による地球温暖化への影響も問題視されている。連日の猛暑、プラスチックの削減は地球に暮らす私たちにとって待ったなしの状態だ。
KAMAKURA HOTELの支配人、小林麻紀氏。「鎌倉らしい和のおもてなしを感じてもらいたい」と話す。
ホテル宿泊時に、私たち利用者ができることはあるだろうか? いつもホテルに泊まる際はアメニティは使用せず、返却するという塩原氏。小林氏も「フロントに返却していただけると、未使用感が伝わって安心です」と賛同した。トラベルグッズは持参し、極力アメニティは使わない。使わなかったものは部屋に放置せず、フロントに未使用品として返却するのがベストのようだ。
さらに塩原氏はホテルにいても自宅と同じように節電するという。「ホテルの経費を圧迫しているのは、光熱費と食費と人件費。宿泊客としてできることは協力した方がいい。それが国のエネルギーや雇用を守ることにもつながります」。ラグジュアリーなホテルならアメニティ代やCO2排出量経費として上乗せすることも今後は必要かもしれない。「何かしらの形で協力しなければならない時代が来るのでは」と私見を述べた。
客室に設置された無料のミネラルウォーターは、ペットボトルからアルミ缶へ。
ホテル側の取り組みはというと、すでに客室のミネラルウォーターは、ペットボトルからリサイクル効率の高いアルミ製に変更したという。他のグループホテルではアメニティバーを取り入れたところもある。食品ロスについても「朝食はおむすびとお味噌汁と香の物。宿泊人数に合わせて仕込みをしているのでロスが出ない設計になっています」と小林氏は胸を張る。
ホテルのアメニティ廃棄を減らそうと、「サキュレアクト」と「KAMAKURA HOTEL」がタッグを組んだ「サステナブルアクション キャンペーン」が、2024年8月1日より開催された。
内容は、歯ブラシ、ヘアブラシ、ひげ剃り、ボディータオル、シャンプー、コンディショナー、ボディーソープの中から、1人2点以上を未使用のままフロントに返却すると、サキュレアクトの石けん「sea design soap」と交換してくれるというもの。プラスチックごみ削減のための行動で、地球と肌にやさしい石けんがもらえるのはうれしい。私たちの「使う責任」を考えるきっかけにもなる。
今回のキャンペーンで興味深いのが、ホテルアメニティについてのアンケートもお願いしている点だ。内容は年代のほか、アメニティで不要だと思うものの回答も含まれる。ホテルにとって今後の参考になりそうだ。
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