ホワイト物流とは? メリット・デメリット、取り組み事例を解説

走るトラック

Photo by Artem Balashevsky on Unsplash

近年、トラックドライバーの不足が大きな問題になっている。この対策として始まったのが「ホワイト物流」推進運動だ。物流に関係する企業のほか、国民も関わる運動である。この記事では、ホワイト物流とは何か、注目を浴びる背景、メリットとデメリット、実現への課題、取り組み事例を紹介する。

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2024.09.07
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ホワイト物流とは

ホワイト物流とは、「ホワイト物流」推進運動のことを指し、国民生活や産業活動に欠かせない物流を安定的に確保すると同時に、経済の成長を促す取り組みをいう。ホワイト物流における目的は次の2つである。

「ホワイト物流」推進運動の目的

1.トラック輸送の生産性向上・物流の効率化
2.女性や60代の運転者等も働きやすいより「ホワイト」な労働環境の実現

物流に関わるすべての人たちが、これらの目的に応じて行動することが求められる。具体的には、4者が次のような取り組みを行う。

ホワイト物流の具体的な取り組み内容

ホワイト物流は、次の4者がそれぞれ協力し合い、安定した物流を確保していくことが大切だ。そして荷主企業・荷着企業と物流事業者は、自主行動宣言を提出し、ホワイト物流に参加することが求められる。令和6年3月15日時点の賛同企業数は2665社に上る。(※1)

発荷主・着荷主企業に求められること
荷待ち時間の削減、荷役作業の負担軽減など、物流の改善に向けた取り組み

物流事業者に求められること
物流業務の効率化やドライバーの労働条件改善など、物流の改善に向けた取り組み

事業者団体に求められること
機関紙への記載や運動のに関する説明など、会員企業に対してホワイト物流の周知

国民に求められること
ドライバーが働きやすい環境の整備や物流効率化への理解、宅配便をできるだけ1回で受け取るなど、物流の現状を踏まえた上での協力

ホワイト物流が注目を浴びる背景

駐車するトラック

Photo by Marcin Jozwiak

ホワイト物流が注目を浴びる背景には、物流の抱える2つの事情がある。それぞれ確認していこう。(※1)

ドライバー不足

1つ目は、ドライバー不足である。トラックドライバーは平成7年の980千人をピークに、平成27年には797千人に減少している。さらに全産業全職種の平均年齢と比較すると、中小型トラックドライバーでプラス3.3歳、大型トラックドライバーでプラス5.3歳と高い。ドライバーの高齢化が進んでいる状況から、ドライバー不足は今後より深刻になると予想されている。

ドライバーの厳しい労働環境

もう1つは、ドライバー不足の原因と考えられている厳しい労働環境である。トラックの運転手の労働時間は、中小型トラックでプラス384時間、大型トラックでプラス432時間と、全産業平均の2100時間より2割長い。また、1運行当たりの平均拘束時間は12時間26分で、そのうち荷待ち・荷役の時間は合計3時間3分であり、長時間労働の要因の1つとなっている。そして、作業にかかる肉体的な負担の重さも、なり手不足を招いている原因だ。

こうした背景から、物流の効率化や労働環境の改善を目的とした「ホワイト物流」推進運動により、ドライバーを増やす取り組みが始まった。

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ホワイト物流のメリットとデメリット

次に、ホワイト物流のメリットとデメリットを見ていこう。

メリット

ホワイト物流のメリットは主に4つある。

1つ目は、生産性の向上である。これまでの業務手順を見直し、効率的なフローを実現することで、生産性を上げることができる。

2つ目は、二酸化炭素排出量の削減だ。物流の効率を上げることで、これまで無駄に排出していた二酸化炭素を削減できる。

3つ目は、事業規模の維持と成長である。事業継続に欠かせない物流を確保できる。また、効率化による成長が期待できる。

4つ目は、企業の社会的責任の履行である。事業活動において、ホワイト物流を実現することで、企業の役割を果たすことができる。

ホワイト物流のメリットは事業運営の本質的な要素を含んでおり、取り組むメリットは大きいといえるだろう。

デメリット・注意点

ホワイト物流には多くのメリットがある一方で、注意したい点もある。それは、物流事業者のコストの増加である。ドライバーの労働環境を整備するなかで、待遇を改善したり労働時間を短縮する場合もある。その結果、人件費が上がることも考えられる。

また、業務の効率化などにより、新たな設備の投資やサービスの提供が必要になるケースも考えられる。そうした際のコストについても、必要経費として予定しておく必要がある。

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ホワイト物流実現への課題

ノートとえんぴつ

Photo by Jan Kahánek

ホワイト物流はメリットが多く、取り組む価値も大きい。しかし、実現には課題もある。主な2つのポイントを確認していこう。

調達コストの上昇

1つ目は、輸送コストの上昇である。前章で、物流事業者のコストの増加を注意点として取り上げた。これと同時に、物流を利用する側にもコストのかかる場合がある。もともと企業向けの貨物輸送のサービス料金は、近年上昇傾向にある。(※1)

ホワイト物流に取り組むことで、物流業者と利用者の双方にとって、適正なコストであることが望まれる。

事業者同士の協力

もう1つは、事業者同士の協力である。荷主企業は、物流の継続的で安定した確保に向けて、問題点や課題を理解する必要がある。また、物流事業者も、荷主企業の物流内容を把握した上で、生産性の向上に向けた提案を行うことが有効だ。どちらか一方の取り組みだけでは、ホワイト物流の実現は難しい。双方が協力して取り組むことが大切である。

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ホワイト物流実現への取り組み事例

会議室

Photo by Benjamin Child

最後に、ホワイト物流に参加している企業の取り組み事例を2つ紹介しよう。

拘束時間の削減[農産物/青森県]

青森県の十和田おいらせ農業協同組合(発荷主)は、主に野菜の販売、流通を行っている。野菜は、中長運送株式会社(運送事業者)を通じて、東京都所在の市場に運ばれる。課題と取り組み内容は、次の通りだ。

■課題
(1)荷役に時間がかかる
(2)手待ち時間が発生する

(1)については、複数の配送先があること、集荷先により荷物の区分や整理ができていないこと、丁寧な扱いが必要なことが原因だ。(2)は、市場の繁忙期は混雑しているため、手待ち時間が発生していることが理由である。

■取り組み内容
(1)荷積み時間を1~2時間早め、朝6~7時にする
(2)配送先ごとに積み荷を仕分けをする
(3)荷受け先を1運行で2カ所程度にする

上記の課題に対して取り組みを行ったことで、繁忙期の1日の拘束時間を2時間以上短縮できたほか、労働時間を短縮したことで、運行当日のうちに休息に入ることができた。

荷主と運送事業者は、対面による意見交換会を開催している。双方が効率化を実行することで改善できた好例である。(※2)

現場の意識改革[建築資材/愛知県]

セキスイハイム工業株式会社(発荷主)は、住宅ユニット・関連部材を、愛知県の豊橋センコー運輸(運送事業者)を通じてセキスイハイム中部株式会社(着荷主)に輸送している。課題と取り組み内容は、次の通りである。

■課題
(1)ドライバーの拘束時間の削減
(2)工務店やエリアごとの作業時間に差がある

■取り組み内容
(1)朝のミーティング時に、着荷主と輸送事業者がタイムスケジュールを共有する
(2)工事主任と輸送リーダーがドライバーの拘束時間の削減に向け、調整事項を検討する、ほか

上記の課題に対して取り組みを行ったことで、時間拘束削減への意識が高まった。また、発荷主と着荷主が取り組みを徹底するよう指導したことで、実施率を向上できた。

発荷主と着荷主、運送業者の3者が一堂に会して協議する場をつくっている。こうして現場の一体感を醸成できるように考慮したことなどが、結果に結びついたポイントだ。(※3)

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ホワイト物流の実現は4者の協力が必要

ダンボール箱

Photo by Mediamodifier

ホワイト物流は、昨今のドライバー不足を背景に、生産性の向上・物流の効率化、「ホワイト」な労働環境の実現を目的として生まれた。参加する事業者は、荷主企業や物流事業者であるが、事業者団体や私たち国民も無関係ではない。取り組みへの理解や宅配便の再配達防止などに努める必要がある。今後も安定した物流サービスを提供するためには、荷主企業、物流事業者、事業者団体、国民の4者による持続的な取り組みが不可欠なのだ。

※掲載している情報は、2024年9月7日時点のものです。

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