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ラストワンマイルとは、元々は通信業界で使用されていた言葉だが、近年は物流や交通の分野でも使われている。物流、通信、交通それぞれにおけるラストワンマイルの意味と課題、さらに最新テクノロジーを活用した対策事例を紹介する。
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ラストワンマイルとは、元々は通信業界で使用されていた言葉で、最寄りの基地局からユーザーである家庭わを結ぶ最後の区間のこと。近年は、物流や交通においても使われており、サービス提供者と顧客をつなぐ最後の区間を指す。
ラストワンマイルを直訳すると「最後の1マイル」や「残りの1マイル」になるが、 実際の距離を意味するわけではない。
新しいテクノロジーや多様なライフスタイルが浸透するなかで、物流、通信、交通におけるラストワンマイルが社会問題となっている。
物流におけるラストワンマイルは、物流の最終拠点から家庭やユーザーまでの最後の区間を指す。
物流のラストワンマイル問題は、オンラインショッピングの普及による影響が大きい。オンラインショッピング事業者は、消費者へよりよい価値提供を目指し、注文当日もしくは翌日に商品が手元に届くサービスを展開。私たち消費者はそのメリットを大いに享受している。
しかし一方で、宅配物は増加しているのに、宅配業者の配送料金は見合っていないこと、さらに不在・再配達による負担増加、ドライバー不足など、さまざまな問題が起きている。
国土交通省の発表によると、2017年度の宅配便の取扱個数は42億5000万個。そのうち約2割が再配達になっており、これは労働力に換算すると年間約9万人分のドライバーに相当する。(※1)
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通信のラストワンマイルは、前述のように最寄りの基地局から家庭までの区間を指す。
2000年代にラストワンマイルへの光ファイバー網の整備が進み、多くの人が日々インターネットを利用して、SNSや動画を楽しめるようになった。
しかし、日本のインターネット通信量は年々増加。2017年頃から2020年頃までの約3年間で、通信量は約2倍になっている。(※2)さらに、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による在宅時間の増加で、通信量は大幅に増加している。
このため日本政府は、2021年9月にデジタル庁を新たに創設。デジタル需要の喚起と、その基盤となるインフラ整備をさらに強化するという。
交通のラストワンマイルは、最終目的地までのワンマイル程度の区間のことを言う。例えば、最寄りの駅やバス停から自宅までの区間が、ワンマイルに当てはまる。
とくに地方では、交通インフラの整備が不十分だ。しかも、人口減少や高齢化を背景に、公共交通機関の経営維持が難しいケースが多い。だが、人々の移動が制限されると生活の質が保てないことや、他の地域との格差が生まれることが考えられる。そのため地方では、住民と目的地を結ぶワンマイルの確保が課題だ。
日本では65歳以上の高齢者の割合が、2025年には約30%、2060年には約40%に達するという(※3)。そのため、高齢者の移動手段についても考えなければならない。
物流、通信、交通のラストワンマイルをめぐる社会問題が顕在化したことにより、対策への取り組みが増えている。それぞれの領域における、最新テクノロジーをうまく活用した事例を紹介しよう。
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「ロボネコヤマト」は、ヤマト運輸とDeNAが共同で開発した次世代宅配サービス。2017年から約1年間、神奈川県藤沢市の一部地域で実用実験が行われた。(※4)
これは、保管ボックスを設置した専用電気自動車を使用し、AIによる配送ルートの最適化を行うサービス。荷物を受け取る人は、事前に受け取り場所と時間を指定し、自動車が到着したら開錠して荷物を受け取る。時間は10分単位で指定でき、外出先や帰宅途中などに受け取ることも可能だ。
当初のプロジェクトでは、専任ドライバーによる有人運転を行ってきた。だが2018年4月には、自動運転車両を使用した無人運転での実証実験を行い成功している。
ロボネコヤマトの自動車はAIを搭載しており、渋滞予測や安全運転のノウハウを取り入れ、配送を効率化している。実現すれば、かなりの部分を自動化することができ、ドライバーの人材不足等の問題解決が期待できる。
またロボネコヤマトプロジェクトには、買物代行サービス「ロボネコストア」のサービスも組まれている。
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ロボネコヤマトと同様に実証実験の段階ではあるが、ロボットによるラストワンマイル問題の解決に向けた取り組みが進んでいる。
無人宅配ロボ「デリロ(DeliRo)」は、株式会社ZMPによる自動運転技術を応用した宅配ロボット。これまでに慶応大学、高輪ゲートウェイ駅などさまざまな施設等で実証実験が行われ、注目を集めている。
デリロは、日本郵政主催の自動配送ロボットの実証実験にも参画し、日本初となる公道走行も行った。一般に広く利用されるようになれば、宅配ドライバーやフードデリバリーなどの人材不足の解消につながると期待される。
通信速度が速く、通信のタイムラグが小さく、同時に多数が接続できる5G(第5世代移動通信システム)時代が、本格的に訪れようとしている。
だが、現状5Gは周波数の特性上障害物に弱く、長距離の伝送に不向きだ。加えて消費電力が高く、運用コストがかかるというデメリットがある。その負の側面を補うのが、LPWA(Low Power Wide Area、ロー・パワー・ワイド・エリア)だ。
LPWAとは、低い消費電力で長距離の通信ができる通信技術の総称。回線あたりの通信速度は低速なものの、大量接続が可能で、消費電力が低い。さらに、数kmから数十km程度の広域な通信が可能で、5G/4Gを安定供給できないエリアやIoT接続面での活用が期待されている。(※5)
NTT東日本は2021年1月、千葉県木更津市内の山間部で、LPWAを活用した実証実験を開始。小学生のランドセルに電源レスセンサーをつけ、このセンサーを受信するアンテナを学校や自宅、学童施設などに設置し、保護者が遠隔から子どもの通学状況を確認するといった取り組みが行われている。(※6)
高齢化が進む地域での移動手段の確保や、観光モビリティの開発など、地域が抱えるさまざまな交通の課題を解決に導くと期待されているのが、「グリーンスローモビリティ」だ。
グリーンスローモビリティとは、時速20km未満で公道を走る、4人乗り以上の電動モビリティのこと。(※7)
グリーンスローモビリティは、伊根の舟屋で有名な京都府伊根町や、瀬戸内海の西端に位置する大分県の姫島など、道が狭く車移動が難しいエリアなどで導入。地元住民や観光客にとって、ラストワンマイルの移動手段として活用されている。
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高齢者や足の不自由な方などは、最終目的地までのごく短い距離を歩くことが困難だ。そんな方たちの移動を楽しくスマートにするのが、パーソナルモビリティの「WHILL(ウィル)」。
WHILLは、段差や坂道などにも強く、小まわりがきく電動車いすで、免許不要で公道を走行できる。羽田空港にすでに導入されているほか、慶應義塾大学病院などで実証実験が行われている。2021年7月には、横浜のみなとみらい地区でWHILLのシェアリングサービスの実証実験が始まった。(※8)
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物流、通信、交通におけるラストワンマイルは、課題を抱えながらもテクノロジーの発達によって問題解決の糸口が見つかりつつある。
利便性を追い求めた結果、どこかにしわ寄せがいく構造ではなく、誰もが自由に選択できて平等性が保たれる持続可能な社会の実現が期待される。
参照
※1宅配便の再配達削減に向けて|国土交通省
https://www.mlit.go.jp/seisakutokatsu/freight/re_delivery_reduce.html
※2 デジタルインフラを巡る現状と課題|経済産業省
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/joho/conference/semicon_digital/0002/03.pdf
※3 日本の超高齢社会の特徴|長寿科学振興財団
https://www.tyojyu.or.jp/net/kenkou-tyoju/tyojyu-shakai/nihon.html
※4 DeNAとヤマト運輸が自動運転を活用した次世代物流サービスの開発に向けた「ロボネコヤマト」プロジェクトを始動 | ヤマト運輸株式会社
https://dena.com/jp/press/3102
https://dena.com/jp/press/3608
※5 第1部 特集 データ主導経済と社会変革|総務省
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h29/html/nc133220.html
※6 ICTによる安心・安全な地域づくりに向けた取り組み | NTT東日本
https://www.ntt-east.co.jp/release/detail/20210119_01.html
※7 グリーンスローモビリティについて|国土交通省
https://www.mlit.go.jp/common/001269030.pdf
※8横浜市でWHILLシェアリングの実証実験が開始 | WHILL株式会社
https://whill.inc/jp/news/30602
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