ISSBとは? 日本にどのような影響をおよぼすのか

上に額入りの眼鏡が本を開いている

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ISSBとは「International Sustainability Standards Board(国際サステナビリティ基準審議会)」の略称である。2021年11月にCOP26で発足したISSBとは、どのような組織なのだろうか。

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2024.08.09
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ISSB(国際サステナビリティ基準審議会)とは

ISSB(国際サステナビリティ基準審議会:International Sustainability Standards Board)は、企業が環境、社会、ガバナンス(ESG)といった非財務情報を開示する際の統一された国際基準を策定する機関。2021年11月にIFRS財団(国際会計基準の策定を担う民間の非営利組織)によって設立された(※1)。

ISSBは、ESG分野の標準化と報告要件の統一化を目指し、透明性の高い情報開示を促進している。これにより投資家の意思決定を支援し、企業価値の評価において国際的な比較可能性を向上させることが期待されている。ISSBは各地域に事務所を設置しており、他の基準設置団体とも連携しながら、グローバルな開示基準の策定を進めている。ISSBのガバナンス構造は、モニタリングボード、評議委員会、基準設定主体の3層構造であり、国際会計基準審議会(IASB)と並列関係にある。

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ISSBが設立された背景

本棚と石造

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2015年12月、フランスのパリで開催された第21回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP21)において、2020年以降の温室効果ガス排出削減等のための新たな国際枠組みとして「パリ協定」が採択された。以降、地球温暖化への取り組みが世界で加速している。

こうした時代の流れから、投資家にも脱炭素化への意識が広まり、企業のESGに着目して投資先を選択するESG投資が増加していった。ESG投資が注目されるきっかけになった「責任投資原則(PRI)」が発表された2006年には、世界全体のESG運用資産合計額は6.5兆ドルだったが、2021年には約121兆ドルに成長している。(※2)

ESG投資にあたり投資家からは企業の環境、社会、ガバナンスのパフォーマンスを評価するための透明で一貫した情報が求められる。しかし、情報開示基準が乱立し、国内外でばらつきがあることが課題となっていた。

ISSBは、ESG情報の開示の一貫性と比較可能性を確保するために発足した。これにより投資家の意思決定を支援し、国際的な比較を可能にすることが期待されている。

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ISSBの設立で何が変わったか

ISSBの設立によりどのような変化が生じたのだろうか。

CDSBとVRFが統合された

IFRS財団は、投資家の情報ニーズに応え、企業価値の評価や投資判断に必要なESGなどの非財務情報の開示基準を開発するためにISSBを発足した。これにより、これまで独自の非財務情報開示基準を作成していたCDSB(気候変動情報開示基準審議会)とVRF(価値報告財団)の2つの機関が統合された。(※3)

なお、気候関連開示基準のプロトタイプを作成するためにIFRS財団によって形成された「技術的準備ワーキング・グループ(TRWG)」は、CDSB、国際会計基準審議会(IASB)、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)、VRF、世界経済フォーラムの代表者で構成されている。このことからも、既存の基準や機関を統合し、人材やノウハウを活用することで、統一された質の高い国際基準の策定を目指していることがわかる。

非財務情報開示基準が統一された

ISSBが作成した非財務情報開示基準は、企業の気候変動への取り組みの情報開示を推奨する国際的な枠組みTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)の提言に基づき作成されている。TCFDは2017年の公表以来、多くの国や地域の企業に適用され、市場に広く浸透し、気候関連財務情報の開示を世界的に活発にした。

また、ISSBは気候変動開示基準委員会(CDSB)やサステナビリティ会計基準審議会(SASB)といった認知度の高い基準やガイダンスの原則を参考にして作成されている。既存のフレームワークや開示基準を踏襲、統合する形で、 サステナビリティ情報開示の国際基準の統一化がISSBによって進められたのだ。

ISSBの基準はG7やG20にも支持され、証券監督者国際機構(IOSCO)も世界各地の証券規制当局がISSB基準を採用することを承認。これまでESG情報の開示基準は目的により異なり複雑だったが、ISSBの誕生で主要な基準が統一され、企業はどの基準を参考にすべきか明確になった。

これにより企業の開示コストが軽減され、投資家に対して透明性の高い情報を提供できるようになった。また投資家も企業の情報を評価しやすくなり、双方にとって混乱が減少している。非財務情報開示基準の統一は、企業と投資家にとって大きなメリットとなっている。

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ISSBの設定基準「IFRSサステナビリティ開示基準」(S1・S2)とは

書類作成

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ISSBの設定基準であるIFRS S1とIFRS S2とは、何だろうか。

IFRS S1|サステナビリティ全般に関する基準

IFRS S1は、サステナビリティ開示の包括的な基準書である。(※4)IFRS S1は、すべてのサステナビリティ領域を対象としており、気候以外の領域についても開示が求められている。IFRS S1は、TCFD提言の「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標・目標」の4つの柱を基にしている。また、リスクや機会の識別や指標の決定にはSASB基準の参照が求められる。

さらに報告企業とそのバリュー・チェーンが資源や関係に対して受ける影響をリスクおよび機会として捉え、投資家の意思決定に有用な情報の提供を目指している。

IFRS S2|気候関連情報開示基準

IFRS S2は、気候関連のリスクおよび機会に関する情報開示を求める基準書である。(※5)IFRS S2は、IFRS S1と同様にTCFD提言の4つの柱を基にしており、戦略における気候レジリエンスとしてシナリオ分析の開示、そして温室効果ガス(GHG)排出量のScope1、2、3ごとの開示を要求する。

IFRS S2は、IFRS S1の包括的な要求事項と連携して機能し、企業が気候関連のリスクや機会を適切に評価・報告するための具体的なガイドラインを提供している。

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ISSB設立による日本国内の動きと影響

都会の横断歩道

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ISSBの設立は、日本にどのような影響をおよぼしたのだろうか。

SSBJ(サステナビリティ基準委員会)の設立

SSBJ(サステナビリティ基準委員会:Sustainability Standards Board of Japan)は、2022年7月1日に設立された日本の組織だ(※6)。サステナビリティ開示基準の開発と、国際的な基準への貢献を目的としている。FASF(財務会計基準機構:Financial Accounting Standards Foundation)が主導し、国内外のサステナビリティ基準に対応するために設立された。

SSBJは、日本の資本市場を代表する専門家からなる委員会で、倫理規則に基づき高品質で国際的に整合性のある基準の開発を目指している。設立以来、国際的なサステナビリティ基準の草案への意見提出などが主な活動である。

SSBJに期待される役割とは

投資家の意思決定に有用な高品質なサステナビリティ開示基準を開発し、国際的な整合性を保つことがSSBJの主な役割だ。SSBJは市場関係者のニーズに応じ、経済環境の変化に適時対応し、過度の負担を避けながら透明性のある手続きを踏んで基準を策定している。

またIFRSサステナビリティ開示基準との整合性を図り、日本基準を国際的に比較可能で信頼性のあるものとすることも重要である。

日本ではISSB基準にほぼ沿った「SSBJ基準」が適用

SSBJは2024年3月にサステナビリティ開示基準の草案を公表した。(※6)SSBJ基準は、投資家の意思決定に有用な高品質な情報を提供し、国際的な整合性を保つことを目指している。SSBJ基準では、市場のニーズや経済環境の変化に適応しつつ、過度な負担を避けることを重視している。また、国際的な比較可能性を損なわないよう、日本基準をISSBによる「IFRSサステナビリティ基準」と整合させることも重視している。

気候関連開示基準は2023年前半に最終化、2023年前半には、ISSBの基準策定における優先アジェンダを決定するための市中協議を予定している。(※7)

金融庁が「SSBJ基準」に対応

金融庁はSSBJ基準を有価証券報告書でのサステナビリティ開示基準として検討し、2027年3月期から義務化する案が出ている。SSBJ基準義務化の対象は、東京証券取引所プライム市場上場企業である。まず時価総額3兆円以上の企業から適用を開始し、2028年3月期には1兆円以上の企業に広げることを検討している。(※8)これにより企業のサステナビリティ情報の開示が求められ、投資家との対話が促進される。

日本国内約4000の上場企業が開示対応の必要あり

金融庁は、日本国内約4000の上場企業に対するサステナビリティ開示基準の義務化を進めている。(※9)その背景には、投資家が企業のサステナビリティ情報を重視するようになり、透明性の高い情報開示が求められていることがある。これにより企業は持続可能な経営を推進し、国際的な信頼性を確保することが期待されている。

また国際基準に合わせた開示が求められるため、国内外の投資家との対話が促進される。

基準の統一により企業の透明化を目指す

光る地球儀

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ISSBは、国際的に統一されたサステナビリティ開示基準を策定する機関だ。企業のESG情報の開示を促進させ、投資家が持続可能性に関する情報を比較・評価する際に重要な役割を果たす。企業の環境に対する健全性や信頼性が重視されるようになった現代では、ISSBのような基準は不可欠であり、対応する企業はますます増えていくだろう。

※掲載している情報は、2024年8月9日時点のものです。

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