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都市への人口集中にともなって発生するさまざまな問題を指す、「都市問題」。SDGsの17の目標の1つ「住み続けられるまちづくりを」にも大きく関係している問題である。本記事では、日本や世界の都市の現状について触れながら、都市問題の具体例や解決策について解説していく。
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都市問題とは、都市に人口が集中することによって発生する、さまざまな社会的・経済的・環境的な問題のことを指す。日本では、東京などの大都市で顕著に現れている問題だ。
SDGs(持続可能な開発目標)の目標11に「住み続けられるまちづくりを」とあるように、持続可能な世界を実現するためには、都市問題を解決することが必要不可欠である。
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まずは、日本の都市の現状と、どのような都市問題が起こっているのか、具体例を見ていこう。また、今後の課題についても説明していく。
現在の日本においては、東京、大阪、名古屋の3大都市圏で主に都市問題が懸念されている。これら3大都市圏の人口が占める割合は増加傾向にあり、とくに「東京圏」と呼ばれる、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県への人口流入が加速している(※1)。東京圏の人口は日本の総人口の約3割に達しており、これは諸外国に比べても極めて高い割合だ。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大により働き方が変化したこともあり、過去20年以上増加し続けていた東京の人口は、2020年5月をピークに一時減少した(※2)。しかし、2023年には新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大前を上回る水準となっている(※3)。
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都市に人口が集中することで、以下のような問題が発生している。
・過密化等による感染症リスクの増加
・自然災害リスクの増加
・交通混雑
・大気汚染、水質汚濁、悪臭などの都市公害
・事故や犯罪の多発
・ごみ問題
・インフラの不足、老朽化
・地方の過疎化
人口集中によって過密化することで、感染症が拡大しやすいなどのリスクがあるほか、地震や豪雨などの自然災害が起きた場合、被害も大きくなることが予想される。また、都市には多くの会社があることから、経済がストップし復旧まで時間がかかってしまうことも懸念されている(※4)。
通勤者の増加による公共交通機関の混雑や、自動車利用者増加による渋滞、また事故の多発なども問題のひとつだ。
人口が集中する都市部で問題が起こる一方で、人口流出による過疎化が問題になっている地方も多い。人口が減ることで、地域経済・産業の担い手が不足しているほか、コミュニティ維持やインフラ維持の困難も引き起こっている。
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前述した問題の解決に加えて、日本の都市問題の課題として挙げられるのが、高齢化問題である。
都市部へ人口が流出することで、地方の人口急減や超高齢化の進行に拍車がかかっている。少子高齢化の日本では、ゆくゆくは大都市圏でも同様に、人口減少と高齢化が進行していくとされている。
大都市圏で超高齢化が進行すれば、グローバル都市としての活力が失われるほか、介護問題や医療問題、社会保障問題も深刻化していくことが予想される。
日本では、2050年には高齢者の割合が36%を超えると見込まれており、これらの問題をどのようにして解決するかが日本の都市問題の重大な課題のひとつといえるだろう(※5)。
ここからは、世界の都市問題について見ていこう。都市化の現状とそれによって引き起こっている問題の具体例、今後の課題について言及する。
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世界でも都市への人口集中が問題視されている。 1927年に20億人程度だった世界人口は、2011年には70億人に達した。急激な人口増加に伴い世界全体の都市化の傾向も進み、2007年には都市に生活している人口が全体の半分を超え、2050年には人類全体の3分の2にあたる60億人以上が都市に住むことが予測されている。(※6)なかでもアジアと中東の都市問題はとても深刻だ。
2023年の人口密度の高い都市ランキングでは、1位マニラ、2位パテロス、3位マンダルヨンと上位3都市をフィリピンが占めるほか、バグダッド(イラク)、ムンバイ(インド)、ダッカ(バングラデシュ)、カローカン(フィリピン)、ブネイ・ブラク(イスラエル)と、上位10都市の大半をアジアと中東の都市が占めている。
また、世界の主な都市圏のランキングでも、ジャカルタ(インドネシア)、デリー(インド)、マニラ(フィリピン)、ソウル(韓国)、上海(中国)、ムンバイ(インド)など、上位20都市中13都市がアジアの都市だ。これらの都市はすべて、人口が1,000万人を越えるメガシティであり、メガシティの数も1990年には世界で10か所だったものが2017年には37か所まで増えた。世界的に見ても大都市への人口集中の傾向が強まっているのだ。(※6)
今後も人口の増加や、地方と都市部での貧富の差などの理由により、さらに大都市に人口が流入すると予測されている。
都市化によって世界の都市で現在起きている問題は、以下のようなものが挙げられる。
・スラム化およびその周辺地域の環境悪化
・インフラのアンバランスな需給
・行政や福祉サービスの不足
・物価や家賃の高止まり
・災害に対する脆弱性
・感染症や疫病の流行
・教育や就業の機会の喪失
都市に集まる人は、教育や仕事、農村部よりも高い賃金を求めて流入する人が少なくない。しかし、全員がその機会を得られるわけではなく、職に就けたとしても十分な収入を得られるわけではないため、家賃や物価の高い都市中心部から弾き出されてしまうことも少なくない。そのような人々が家賃の安い地区や、居住に適さない地域に集中することでスラム街が形成され、低賃金で過酷な労働にさらされるといったケースも多い。
そのほか、人口が急増することでインフラの整備が間に合わず、サービスを利用できない状況も生まれている。さらに、開発を急ぐばかりに無計画に建物を建てることで、自然災害が起きた際、甚大な被害を引き起こす可能性などが懸念されている。
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世界の都市問題において、貧困の格差や、大気汚染などの環境問題が課題として挙げられる。
スラム地域では、安全な住居がないことや、清潔な水が利用できない、基本的な公衆衛生が保たれていないなどの問題を抱えて生活している人が多い。これらは、SDGs目標11「住み続けられるまちづくりを」に反しており、大きな課題といえるだろう(※7)。
また、都市化による森林破壊によって二酸化炭素の吸収源である森林を減らし、地球温暖化を加速させていることや、都市部のビルや建物、交通が多くのエネルギーを消費し、大気汚染物質を排出しているなどの環境問題も課題だ。
多岐にわたる都市問題を解決するための対策や解決策には、どのようなものがあるのだろうか。政府の構想にも触れながら見ていこう。
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人口が増加傾向にある開発途上国においては、スラム地域で暮らす人々など、貧困層への福祉的視点も必要だ。スラム地域で暮らす人々が就労に必要な技術や知識を身につけるための、教育・就労支援もそのひとつ。そのほか、災害や感染症などのリスクを抑えるため、低価格な住居の建設や提供、トレーニングなど、包括的な支援が求められている。
例えば、1976年にアメリカで設立された、世界70ヵ国以上で住まいの問題に取り組む国際NGOハビタット・フォー・ヒューマニティは、フィリピン、マニラ近郊のケソン市に散在するスラムにおいて、政府の支援を得ながらスラムを区画整理し、住民全員が入居できる新たな集合住宅群を建設するプロジェクトを進めている。(※8)
昨今では、このようなスラム化した居住地区を行政や公共団体が主体となって再開発し、低家賃の公共住宅をスラム住民に提供する「スラム・クリアランス」事業が進められている。(※9)
「スマートシティ」とは、ICT(Information and Communication Technology)やIoT(Internet of Things)などの技術を活用して、都市計画、整備、管理運営を行う都市のこと。電気、ガス、水道などをインターネットにつなげることで、効率的な管理やサービスの向上を実現させるという。
ほかにも、家庭用エネルギー管理システムの導入やビッグデータの解析による災害予測や避難、インフラの復旧サポート、自動運転技術やドローンを使用した交通インフラの健全化などが、各国で開始されており、自然災害リスクや交通混雑などの問題解決につながることが期待されている。
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「コンパクトシティ」とは、言葉の通り“小さくまとまった都市”のこと。たとえば、公共交通機関や徒歩、自転車などで移動できる範囲に住宅や公共・福祉・商業施設、職場を集中させるなど、生活に必要な機能を集約し、都市の中心市街地を活性化することで、持続性を高める都市政策を指す。
これは、先進国で起きている、地方部の人口減少や高齢化の問題への対策になると考えられている。日本では、地方都市において主要駅を中心に据えたコンパクトシティ化が進められている。住みやすく持続可能な中・小規模の都市が地方にでき、経済的にもコミュニティ的にも発展することで、大都市圏への過度な人口流出を防ぐことが期待される。
農村部には高賃金で働くことのできる産業が少ないため、賃金を求めて都市部に移住する人が増えてしまう。そのため、農村でも十分に賃金を得られるような発展が必要とされている。また、農村部に住んでいる人々の生活を安定させるための政策なども必要だ。
日本でも、長崎県五島市や青森県田舎館村など、地域活性化のために取り組みを行い、成功している自治体もある。
直面している大都市圏の都市問題に対して、そこに住む私たちにできることは何があるのだろうか。解決に向けて少しでも貢献できることを紹介していこう。
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新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大をきっかけにリモートワークが普及し、大都市圏から地方都市に移住する人が増えたことが話題になった。
同居している家族がいる場合すぐに判断するのはむずかしいが、リモートワークが可能な人は、大都市圏から地方都市部または郊外に移住し、都市部集中を回避することもできることのひとつ。大都市圏よりも家賃が下がったり、広い家に住めたりする可能性もあり、都市問題解決への貢献のほか、自身にもメリットがあることも。
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自動車での移動が多い人は、公共交通機関の利用や自転車・徒歩による移動を心がけることもできることのひとつだ。
これらは渋滞などの交通混雑の回避や、自動車によるCO2排出量の削減につながっていく。
多くの人が住む大都市圏では、水やエネルギーの消費も莫大だ。一人ひとりが省エネや節水を心がけることで、都市機能やひいては地球環境の保護につながる。不要な電力を使っていないか、水を出しっぱなしにしていないかなど、いま一度限られた資源を大切に使うことを意識してみよう。
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近年、地震や豪雨などの自然災害が頻発しており、今後大きな地震も予想されているため、防災グッズや非常食を見直した人は多いかもしれない。備品の用意も大切だが、実際に災害があったときの動きや避難ルートなどを確認しておこう。大都市圏での災害は避難者も多く、混乱した人の動きによって二次災害が起こる可能性もある。1人でも多くの人が、有事にも落ち着いて行動することが求められる。
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人口が集中する都市部では、日々たくさんのごみが排出されている。
使い捨てのコップやカトラリーではなく、繰り返し使えるマイボトルやマイカトラリーを利用する、不要だがまだ使えるものはリサイクルするなど、少し意識して行動するだけで、人口が多い分、大きな変化につながるはずだ。
人口が増加し、快適で経済的な生活を求めて大都市圏への移住を望む人が増え続けることは、避けることができない事態である。それによって起こる都市問題の解決には、国や政府、自治体が主体となった大規模な取り組みが不可欠だ。
私たちひとりひとりができることは、問題を知り、社会の一員としてできることを積極的におこなうこと。ひとりひとりの行動が、持続可能でしなやかで強いまちの実現に少しでもつながっていくだろう。
※1 都市部への人口集中 令和2年版 情報通信白書|総務省
※2 コロナ禍の2年間の東京の人口動向とポストコロナのまちづくり | 三菱UFJリサーチ&コンサルティング
※3 コロナが人口動態に与えた影響~東京の人口動態をコロナ前後で徹底分析~ | 株式会社グローバル・リンク・マネジメントのプレスリリース
※4 都市に人口が集中すると、なぜ安心・安全に暮らせない人が増える? | 日本財団ジャーナル
※5 高齢化の状況(1ページ目)|内閣府
※6 世界で進行する都市化の傾向と都市開発戦略(その1)
※7 都市化問題とは|UN-HABITAT 国際連合人間居住計画(ハビタット)福岡本部(アジア太平洋担当)
※8 人々の変化で都市のスラム化を止める|三菱商事
※9 スラム・クリアランス|アートスケープ
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