「ガラスの天井」とは 意味をわかりやすく解説・男女格差の背景と日本の現状と課題・解決策は?

ガラスの窓辺に座る女性

Photo by Alexandre Chambon on Unsplash

「ガラスの天井」とは、組織のなかで性別や人種を理由に昇進が阻まれること。女性やマイノリティに影響する課題であり、SDGsにも関わっている。本記事では「ガラスの天井」の意味や、日本における男女格差の現状と課題を解説。「ガラスの天井」を解消するメリットや、行うべき解決策も紹介する。

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2023.06.13

「ガラスの天井」とは

濡れた窓ガラスに手を当てる女性

Photo by Keenan Constance on Unsplash

ガラスの天井」とは、組織において有能な人物であるにも関わらず、性別や人種など不当な理由によってキャリアアップが阻まれてしまう事態を指す。英語のglass ceiling(グラスシーリング)を訳したものだ。

社会における女性やマイノリティのキャリアアップについて、ガラスのように見えない壁によって塞いでしまう様子に例えた比喩的表現である。

歴史的な背景

「ガラスの天井」の言葉が最初に使用されたのは、1978年だといわれている。アメリカの企業コンサルタントであったマリリン・ローデン氏が、女性の願望に関わるパネルディスカッションで発言したことがきっかけだ。(※1)その後、1980年代後半よりアメリカで使われるようになった。

1991年には、アメリカ連邦政府労働省が公的に使用。女性の昇進を進めるための施策の一環として、1996年まで「ガラスの天井調査委員会」が設置され、課題の克服に向けた提言を行った。(※2)

また、2016年のアメリカ大統領選挙の際、ヒラリー・クリントン氏の敗北宣言でもこの言葉が使われた。「ガラスの天井」は、40年以上にも渡り広く使われているのだ。

「ガラスの天井」と「壊れたはしご」

壊れたはしご」とは、キャリアパスをはしごに例えた表現だ。女性が組織において登る「はしご」は最初から壊れていて、そもそもキャリアアップが難しい状態にあることを意味している。

「壊れたはしご」という言葉が使われ始めたのは、2019年頃のこと。Mackinsey&Companyが発表した「Women in the Workplace 2019」のレポートにある。(※3)それまで、女性のキャリアアップが難しいのは「ガラスの天井」の影響であるとされていた。

しかし「ガラスの天井」以前に、そもそも女性にとってのはしごは壊れているため、最初の1段目から踏み外してしまう。最初からキャリアアップが難しい道を歩まざるを得ないことも男女格差が生まれる原因だ、と考えられるようになったのだ。

「ガラスの天井」の具体例と、日本における現状は?

デスクで会議をする複数の人

Photo by Dylan Gillis on Unsplash

「ガラスの天井」は、日本の企業や経済分野にどう関わっているのだろうか。日本における具体例とともに現状を紹介する。

ビジネス分野にある「ガラスの天井」

日本では男女平等に関連する法律として、1986年に「男女雇用機会均等法」、2016年に「女性活躍推進法」が施行された。

「男女雇用機会均等法」は、性別などあらゆる理由による雇用の差別を禁じること、働く女性が尊重されることなどが定められている。「女性活躍推進法」は、男女の雇用平等についてさらに加速させた法律だ。仕事でキャリアアップしたい女性が、能力や個性を存分に発揮できる社会を目指すことを掲げている。

このように、法律のうえでは「男女の差別をなくす」という考えが明示されており、男女平等が保証されているのだ。

しかし、日本ではビジネスで活躍する女性が限られており、企業の幹部を占める割合が諸外国と比べて低い。長年続いてきた「男性は外で働く、女性は家庭を守る」といった慣習が根強く残っているのも事実である。組織内でもこの意識は残っており、とくに政治・経済の分野では、ガラスの天井が解消できていないケースも多い。

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政治分野でもある「ガラスの天井」

日本では女性の政治家が少なく、いままで女性の総理大臣が生まれたことはない。欧米では女性が国のリーダーとなり、政治を牽引するケースもあるが、日本ではそもそも女性議員が少ないのが現状だ。政治にも「ガラスの天井」があると言わざるを得ない。

ジェンダーギャップ指数とガラスの天井指数

「ガラスの天井」を表す指標としてよく使われるものに、ジェンダーギャップ指数と、ガラスの天井指数がある。

日本の「ジェンダーギャップ指数」は146か国中121位

2022年のジェンダーギャップ指数によると、日本ではとくに「経済」「政治」分野で男女格差が大きいことがわかった。

ジェンダーギャップ指数は1に近いほど男女の完全平等が保たれている状態であるが、日本の経済分野のジェンダーギャップ指数は「0.564」で、調査対象146か国のうち121位。政治分野については「0.061」で139位という結果になった。(※4)

経済分野のジェンダーギャップ指数を下げた要因として、日本において女性管理職が少ないことが考えられる。帝国データバンクが実施した「女性登用に対する企業の意識調査(2020年)」によると、管理職(課長相当職以上)に就く女性の割合は平均7.8%という結果であった。(※5)

小売や不動産、サービス業界では平均10%以上をマーク。一方で、建設や運輸・倉庫、製造などの業界は、平均を下回る結果となった。これらの職種は、力仕事であることや採用を試みるも長続きしない例が多いことなどを理由に、女性管理職比率が低くなっていると考えられる。また、小規模企業の女性管理職割合の平均は10.5%と、大・中企業よりも高い傾向が見られた。

日本全体として、「ガラスの天井」が存在していることは否定できず、とくに一部の業界や一定規模以上の企業ではまだまだ女性管理職が少なく、「ガラスの天井」によって女性のキャリアアップが阻まれているといえる。

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ガラスの天井指数

イギリスの経済週刊誌「エコノミスト」が発表している指標が「ガラスの天井指数」だ。高等教育進学率、労働参加率、賃金格差などをもとに、ガラスの天井がどのくらい存在するか数値化したものだ。2022年の指数をみると、日本は30か国中29位だ。

順位国名
1位アイスランド
2位スウェーデン
3位フィンランド
4位ノルウェー
5位ポルトガル
6位フランス
7位ベルギー
8位ニュージーランド
9位デンマーク
10位スロバキア

「ガラスの天井」を解消するメリット

オフィスでミーティングをする3人の女性

Photo by CoWomen on Unsplash

「ガラスの天井」の解消は、女性がのびのびと活躍する社会を実現するために不可欠である。しかし、このほかにもさまざまなメリットが存在する。ここでは、「ガラスの天井」を解消する利点について見ていきたい。

SDGsの取り組みになる

「ガラスの天井」の解消は、SDGs実現の取り組みの一環になる。SDGsには、目標5「ジェンダー平等を実現しよう」がある。このなかには、「ジェンダーによる差別をなくす」「児童婚をなくす」など、男女平等にまつわる詳細の目標が定められている。

また、近年企業にはESGへの配慮も求められるようになってきた。ESGとは環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)の頭文字からつくられた言葉。ESGへの配慮が欠けている企業は、投資家などからの評価が下がるとされ、長期的な成長に影響を及ぼすと考えられている。

「ガラスの天井」の解消を目指すことは、SDGs達成の取り組みや、企業の評価につながるといえる。

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労働力が確保できる

「ガラスの天井」を解消することは、労働力の確保を期待できるメリットもある。

近年、日本では少子高齢化が進んでいる。内閣府の調査によると、2065年には約2.6人に1人が65歳以上となると推計。15〜64歳の現役世代も、1995年にピークを迎えて以降減少し続けており、労働力不足が懸念されている。(※6)

「ガラスの天井」を解消できれば、ライフイベントの変化によって一度は仕事を離れた女性の社会参加が見込める。女性が活躍できる環境を整えることで、労働力の確保につながるといえるだろう。

仕事のパフォーマンスが高まる

「ガラスの天井」をなくすことは、仕事のパフォーマンスにもよい影響を発揮する。

McKinsey&Companyの調査によると、女性役員が多く在籍する企業のほうが、自己資本利益率やEBITマージン(利払前・税引前利益と売上の比率)が高いことがわかった。(※7)

「ガラスの天井」の解消は、女性が活躍できる場を広げることに加え、企業にとっても有益になりうる行動といえる。

「ガラスの天井」を解消するためにできること

ホワイトボードの前に立つ笑顔の女性

Photo by ThisisEngineering RAEng on Unsplash

「ガラスの天井」をなくすためには、具体的にどのような行動を起こせばよいのか。いま私たちができることを紹介する。

多様な働き方の浸透

「ガラスの天井」を解消するには、多様な働き方の整備とそれをすべての人にとって当たり前に浸透させることが必要だ。女性の働き方は、男性と比べてライフイベントに左右されやすい。そのため、育休・産休や時短勤務、リモートワーク、フレックス制度など多様な働き方の活用が求められる。

育休や産休などは、政府の法整備や後押しもあって制度が整いつつある。リモートワークやフレックス制度など柔軟な働き方も、コロナ禍を機に導入を進めている企業は増えてきた。

しかし、制度があっても活用できる環境が整っていなければ意味がない。多様な働き方を導入したうえで、選択の自由を設ける。たとえば、育休取得や時短勤務を選択する人が同じ職場にいれば、快く受け入れられる体制を整えるだろう。

組織内の人間がみな、多様な働き方に対して同じ意識を共有できれば、「ガラスの天井」を解消できるのではないだろうか。

男性の家事、育児、介護への積極的参加

「ガラスの天井」の解消には、男性の家事・育児・介護への参加を推進することも重要である。

以前に比べて、育児や家事に参加する男性は増えてきている。政府は男性の育休取得を後押しするべく、育児・介護休業法の改正を進め、「産後パパ育休」制度を施行した。男性の育休取得率を向上させるため、さまざまな取り組みがおこなわれている。

しかし、法や制度の整備が進んでいても、まだまだ男性の育休取得率は低い。厚生労働省の調査によると、2021年の育休取得率は男性が13.97%、女性が85.1%であった。(※8)女性のほうが圧倒的に、家事や育児、介護に費やしている時間が多いといえるだろう。

すでに試行された制度や法律を活かし、男性の積極的な家事・育児・介護の参加を進める必要がある。

「ガラスの天井」の解消でだれもが活躍できる社会へ

「ガラスの天井」とは、性別や人種などの理由で、女性をはじめとしたマイノリティのキャリアアップが阻まれてしまう事象を示す言葉である。女性などのマイノリティのキャリアアップを阻む原因には、「壊れたはしご」も大きく関係している。

「ガラスの天井」を解消することは、SDGsの目標達成や優秀な労働力の確保といったさまざまなメリットがある。だれもが大いに活躍できる社会の実現を目指して、多様な働き方を当たり前にする、男性の家事・育児・介護などへの参加を推進するなど、いまできることからチャレンジしていきたい。

※掲載している情報は、2023年6月13日時点のものです。

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