アニマルウェルフェアやサステナブル意識の高まりは、ヴィーガンレザーの誕生を促した。リアルレザーに勝るとも劣らない質感や手触りのヴィーガンレザーは、ファッション業界をはじめ、広い分野で注目されている。ヴィーガンレザーの概要やメリット・デメリット、メンテナンス方法などを解説する。
ELEMINIST Editor
エレミニスト編集部
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ヴィーガンレザーとは、動物由来の原材料を使わずにつくられた人工的な皮革をさす。従来のリアルレザーが動物の皮革であることに対し、ヴィーガンレザーは石油由来、植物由来の原材料がもちいられている。
石油由来のヴィーガンレザーの原料はポリウレタン樹脂、塩化ビニル樹脂である。つまりプラスチック素材だ。プラスチックは利便性があるものの、サステナブルの観点で見ればエシカルな選択とは言いがたいかもしれない。
ただ、同じプラスチックでも再生プラスチック素材を利用したヴィーガンレザーがある。プラスチックの利便性を保ちながら環境負荷の軽減が可能だ。環境負荷を意識するのであれば、石油由来でもこのような素材を選択するとよいだろう。
いっぽう、植物由来のヴィーガンレザーは植物性樹脂からつくられている。植物性樹脂は生分解性を持っているため、廃棄時に土に還せる特徴がある。原料となる植物も多種多彩であり、独特のテクスチャーや手触りを楽しめる。
植物由来の素材のなかには、従来なら廃棄される部分を活用しているものがある。ファッションだけではなくフードロス問題の解消にも役立っているのである。なにげなく手に取ったヴィーガンレザーのバッグが遠い地域のフードロス問題解消に貢献していると考えると、少しばかりうれしい気分になるかもしれない。
また、ヴィーガンレザーはサステナブルやアニマルウェルフェア(動物福祉)を意識する人のほか、さまざまな理由で厳密なヴィーガニズムを実践するヴィーガンも使いやすい。
ヴィーガンのなかには動物性食品を摂取しないだけではなく、身につけるもの、日常生活で使うものでも動物性の素材を遠ざける人がいる。ヴィーガンレザーなら動物性の素材が使われる心配がないため、安心してファッションをはじめとしたレザーコンテンツを楽しめるだろう。
リアルレザー以外のレザーとして、フェイクレザーやエコレザーも有名だ。
いまのところ、フェイクレザーはヴィーガンレザーとの厳密な分類の定義がない。人によってはヴィーガンレザーもフェイクレザーと呼ぶ。今後ヴィーガンレザーがさらに広がるにつれ、分類の定義がなされる可能性はありそうだ。
エコレザーは使われている素材が異なる。リアルレザーの作成時に出た端切れを天然素材や樹脂と混ぜたものだ。エコレザーの「エコ」は「エコロジー(生態・環境)」を意味している。しかし、アニマルウェルフェアにフォーカスする人にとっては手に取りにくい素材だろう。
日本では2006年に「日本エコレザー基準」を設けた。エコレザーの製造過程で生じる環境負荷への配慮を求めた具体的な基準だ。(※) サステナブル意識を反映した結果のひとつであり、エコレザーを手に取る場合には基準を満たしているか確認したい項目である。
リアルレザーの製造工程では環境負荷が発生しやすい。製造工程のひとつ「なめし」はレザー製品のテクスチャーに関わる重要な工程だが、この作業の際に大量の水が使われる。
ウォーターフットプリントネットワークの計算によると、1kgの牛革をつくるために17,000Lの水が必要とのことだ。世界的な水不足のおそれがあるいまの時代、無関心ではいられない使用量ではないだろうか。
環境汚染の心配もある。なめし作業で出た排水には動物の毛や化学薬品が含まれており、河川を汚染する。
日本では業者の水質汚染対策によって大幅に改善している。しかし他国では必ずしもそうではない。なめしによる水質汚染のため、汚染した地区ごと閉鎖されたバングラデシュの例もあるほどだ。
アニマルウェルフェアが広く知られることにより、ファッションやライフコンテンツから動物の犠牲を減らしたいという考えが浸透しはじめた。
リアルレザーは動物の犠牲なくして製造できない。その犠牲を避けようと願う人の間でヴィーガンレザーが注目を集めるにいたったのである。
アニマルウェルフェアはファッショントレンドでとくに注目されている。ヴィーガンレザーへの関心だけではなく、リアルファーからエコファーへの転換を考えるファッショニスタも増えた。
今後、ヴィーガンレザーやエコファーの魅力が彼らによってブラッシュアップされ、グローバルなファッショントレンドを牽引する日がおとずれるかもしれない。
合成皮革は製品の基になる材料に不織布以外をもちいたものである。主に布地の編物や織物がベースになっている。
布地の上にポリウレタン樹脂を厚く塗り(または貼り合わせ)、表層を天然皮革に寄せたテクスチャーにする。手触りやにおいは天然皮革と異なっている。
雨・水・傷などに強く、手入れ不要のメリットがあるが、加水分解によって経年劣化でひび割れが起きやすいデメリットがある。
人工皮革はテクノロジーが深く関わっている。化学で天然皮革の構造を忠実に再現したものだ。
天然皮革のコラーゲン層にあたる部分にナイロンやポリエステル繊維を使い、ポリウレタン樹脂を染み込ませて不織布層を構成する。表面にポリウレタン樹脂で加工をほどこしているため、天然皮革と似たテクスチャーを持つ。
傷に強く、天然皮革とほぼ同様のデザインや加工が楽しめるメリットがある。デメリットは合成皮革と同様、加水分解によって経年劣化しやすい点があげられる。
天然由来のヴィーガンレザーはリアルレザーよりもコストパフォーマンスがよく、使う素材によってはすぐれた撥水性や独特のテクスチャーが楽しめる。メリット・デメリットは後述する。
収穫時に廃棄されるパイナップルの葉でつくられたヴィーガンレザー。丈夫で発色がよく、衣類や靴に向いている。
きのこの菌糸体でつくられたヴィーガンレザー。菌糸体はリアルレザーの構造体に近いため、比肩するほどの耐久性を持つ。約2週間で育てられる生育性にも注目。
サボテンの葉を粉末に加工してつくられたヴィーガンレザー。サボテンは少ない水で育てられるため、原料製造の段階から水の使用量をおさえられる。
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バナナの皮からつくられたヴィーガンレザー。数カ月で何年も使い込んだようなテクスチャーが生まれ、バナナの香りも楽しめる。
廃棄するりんごの皮や芯、搾りかすなどからつくられたヴィーガンレザー。軽量で撥水性・耐久性にすぐれている。
ワインの製造工程で出たぶどうの搾りかすでつくられたヴィーガンレザー。リアルレザーに近いテクスチャーと高い耐久性を持つ。2019年、イギリスの高級車・ベントレーのシートに使われた。
ヴィーガンレザーにはメリットとデメリットがある。代表的な項目を見てみよう。
ヴィーガンレザーの多くは撥水性がよく、汚れに強い。リアルレザーよりもメンテナンスが簡単なため、デイリーで気軽に使いやすい。リアルレザーよりもリーズナブルである点も多くの人にとって嬉しい一面だ。
廃棄される予定だった植物・果物を原料にしている種類もあり、前述した環境負荷の軽減とともにフードロス問題の解消に貢献できることもメリットだろう。
ヴィーガンレザーは経年劣化しやすい特徴がある。おおむね2~6年と言われており、リアルレザーよりも短い付き合いになりそうだ。とくにポリエステル樹脂が使われている場合、加水分解も起きやすく、劣化が加速する。
経年劣化しにくいヴィーガンレザーほど価格が高い傾向があり、ヴィーガンレザーにとって経年劣化がいかに難敵であるかがわかる。
経年劣化が悩ましいヴィーガンレザーだが、適切なメンテナンスや保管方法によっては長く付き合える。ヴィーガンレザーに適したメンテナンス方法と保管方法を紹介する。
メンテナンスで気を付けたいことは以下のとおりだ。
1. 表面の汚れは湿ったやわらかい布でぬぐい、乾いた布で水分ごと拭き取る
2. 落ちにくい汚れは少量の中性洗剤(食器用洗剤でOK)を湿った布にふくませてぬぐい、乾いた布で水分ごと拭き取る
3. 雨やこぼしたドリンクで濡れた場合には水分を拭き取り、乾いた布で拭き取る
一般的な合成皮革や人工皮革とほぼ同様のメンテナンスでかまわない。水分は加水分解を誘発するため、濡れた場合には早めに拭き取り、乾かすことが重要だ。ドライヤーの使用は避け、風通しがよい場所で乾燥させよう。
保管する前に表面を拭くと劣化を遅らせる効果がある。保管は日陰で風通しのよい場所が適切だ。直射日光が当たる・高温な場所は劣化を早めるため、できる限り避けた場所を選ぼう。
多くの業界がヴィーガンレザーに注目している。今後さまざまな商品がリリースされる可能性が高い。サステナブルやアニマルウェルフェアに貢献するだけではなく、ファッションやライフコンテンツのひとつとしても楽しめる。
デイリーで、あるいはラグジュアリーなタイミングで使うコンテンツにレザーのテクスチャーがほしいとき、ヴィーガンレザーはエシカルな選択肢として役立つだろう。
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