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出生率は経済的・社会的に大きな影響があり、毎年注目されるファクターだ。近年の日本では出生率低下が問題視されているが、先進国をはじめとした世界ではどうなのだろうか。2022年上半期の日本の出産率・合計特殊出産率や世界の出生率について考えてみよう。
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日本の出生率の低下は大きな問題だ。いっぽう、世界ではどうなのだろうか。先進国ではやはり出生率の低下が問題になっているが、なかには少子化対策が成功のきざしを見せ、回復傾向にある国もある。
先進国の例としてG7(日本、アメリカ、カナダ、フランス、イギリス、ドイツ、イタリア)の各国を見てみよう。ここではOECD(経済協力開発機構)が公表している合計特殊出生率を参照する。
G7各国では日本と同様、戦後からの出生率低下がいちじるしい。とくにイタリアでは日本を下回る合計特殊出生率である。2020年には1.24をマークしており、同年の日本の1.33を下回っている。(※6)
いっぽう、一度は落ち込んだ出生率を少しずつ上昇傾向に向かわせているのがドイツだ。ドイツは2016年から5年連続で合計特殊出生率を上昇させた。2000年代後半から政府が本腰を入れた少子化対策が功を奏したと言われている。
また、少子化対策の成功例はフランスが有名だ。1990年に1.78まで落ち込んだ出生率の対策にいち早く乗り出し、2016年には1.89まで回復させている。翌2017年からは減少が続き、2020年には1.79まで落ち込んだが、2021年には再度1.80をマークした
同じG7でありながら、ドイツとフランスはなぜ合計特殊出生率を上昇に転じられたのだろうか。それには充実した社会制度が大きく影響している。
1:保育施設の拡充
2:各種手当の充実
3:育児に集中しやすい労働環境の整備
この3項目はドイツ、フランスともに見られる共通点である。いずれも子育て世帯にとって有利な制度であり、子どもを持つことへの不安を減少させやすくなる。
また、男女の労働環境で発生する不平等の是正に熱心であることも大きな理由だ。日本でも少しずつ是正が進んでいるが、いまだ「育児は女性が主体になるべき」のような旧態依然とした考えが根強い層もいる。
ドイツでは2000年代後半に「新しい家族政策(Partnerschaftlichkeit)」に取り組みはじめた。男女の平等なパートナーシップの確立とともに、両親と子どもが長い時間一緒にいられる時間を増やす目的である。育児への不安を解消しやすい政策だ。
フランスでも柔軟な就労環境の構築により、子どもが幼くても母親が働きやすい社会を実現した。近年では、女性の就労率が高い国ほど出生率が上昇するという考えかたも生まれており、フランスはそれを体現しているとも言える。
このような成功例には、日本をはじめ少子化に悩む国が参考にしたいエレメントが多い。各国の事情によってフレキシブルな対応が必要ではあるが、見習うべきモデルケースとして意識したいものである。
出生率が低下することにより、社会には思わぬ影響が出る。代表的な3つの影響を紹介する。
出生率の減少は将来的な生産年齢人口や労働人口の減少につながっている。2045年には15歳未満の割合が10.7%まで落ち込むと言われており、その数年後には社会経済の中心となる年代が驚くほど少なくなっていることが予想される。
社会経済をになう年代が少なければ少ないほど、国家の生産力や労働力も弱体化しかねない。すると経済成長がマイナスになり、消費や貯蓄などにも悪影響が出るだろう。
2022年現在の日本は国内総生産(GDP)で3位に位置し、豊かな国だと思われている。しかし今後は出生率の減少と生産力の低下が影響し、豊かさを感じられなくなる層が増加するかもしれない。
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