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無意識で持っている固定観念のなかには、ときとして差別や偏見を生み出すものがある。ジェンダーバイアスはそのひとつである。いまだ根強い差別や偏見に苦しむ人は多い。本記事では、ジェンダーバイアスの具体例や問題、解決に向けた取り組みなどを解説する。
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ジェンダーバイアスとは、社会的・文化的性差別、または性的偏見という意味だ。男女の役割について差別や偏見を生み出す無意識の固定観念である。
とくに女性の尊厳や権利を無視し、傷付ける言動につながる例が非常に多い。「女なのだから家事をするべき」「育児に専念するべき」などはジェンダーバイアスの典型的な例だろう。
また、男性でも同様に被害を受けるケースがある。「男なのだから外で働くべき」「男らしくふるまうべき」とされるのはやはりジェンダーバイアスだ。
ジェンダーバイアスはどちらの性にとっても不適切であり、個人や集団を傷付け、人権を侵害する差別にほかならない。ときとしてキャリアにも悪影響を与える。ことに女性は能力に応じた社会的進出を阻まれることも少なくない。これは決して許されないことであり、早急な解決が求められる問題だ。
ジェンダーギャップ指数とは各国の男女間における格差を数値化したものである。日本語にすると「男女平等格差指数」という意味になる。各国が自国の男女間格差(男女のギャップ)を認識し、解消の指針にするべき指数だ。
ジェンダーギャップ指数の算出には「教育」「経済」「健康」「政治」の4つのエレメントがもちいられる。各エレメントの内容は以下のとおりだ。
教育…識字率、初等・中等・高等教育就学率
経済…労働参加率、同一労働の賃金、勤労所得、管理職従事者、専門技術
健康…出生、寿命
政治…閣僚・国会議員・(直近50年における)行政府長在任年数
各エレメントで上記の内容を精査し、男女比を算出する。算出した数値が「1」で「完全平等」、「0」で「不完全平等」になる。
世界経済フォーラムは2006年から前述のジェンダーギャップ指数をもちい、世界各国を対象にしたランキングを発表している。2022年7月、146ヶ国をベンチマークした最新のランキング「グローバルジェンダーギャップレポート2022(Global Gender Gap Report 2022)」が発表された。(※1)
当レポートによると、世界でもっともジェンダーギャップ指数が少ない国はアイスランドであり、数値は「0.908」、完全平等である「1」に限りなく近い結果だ。続いてフィンランド(0.860)、ノルウェー(0.845)、ニュージーランド(0.841)、スウェーデン(0.822)が続く。(※2)
この5ヶ国の順位は2021年と同様だ。それ以前のランキングでは多少の入れ替わりがあるものの、トップ5、あるいはそれに類する順位を獲得し、つねにハイスコアをマークし続けている。
6位以降10位まではルワンダ(0.811)、ニカラグア(0.810)、ナミビア(0.807)、アイルランド(0.804)、ドイツ(0.801)がランクインしている。
ジェンダーギャップの解消はいまや先進国だけのものではなく、発展途上国でも有益で重要なグローバリズムとして意識されていることがわかる。
一方、2022年の日本のジェンダーギャップ指数は0.650、順位は116位だった。2020年は121位、2021年は120位であり、少しずつ上昇していることはたしかだが、決して誇れる順位とスコアではない。とくに先進国と呼ばれる立場からかんがみればG7参加国で最下位であり、群を抜いて低い結果だとわかる。
エレメントごとに見てみると、経済が0.564、政治が0.061、教育が1.000、健康が0.973(※3)。教育と健康のスコアは非常に高いものの、経済と政治においてはジェンダーギャップの深刻度を実感させられるスコアだった。
日本のジェンダーギャップがなかなか解消されない理由のひとつとして、男女の役割をわけ、活躍の場を限定する固定観念が払拭されないことが考えられる。まさにジェンダーバイアスが影響していると言えるだろう。
日本が属する東アジア・太平洋の地域は、ジェンダーギャップの解消に168年を要すると言われている。もともとジェンダーギャップの問題が根深い地域であることは間違いない。
しかし同じ東アジアでも確実に解消を進めている国が多数ある。実際、フィリピンは19位(0.783)、オーストラリアは43位(0.738)と健闘している。固定観念を理由に、日本だけがいつまでも後塵を拝するべきではない。
教育、健康のエレメントを見れば、日本は世界でもトップクラスの数値をマークしている。いわば質の高い教育によって優秀な人材を産み育てている一面もあるのだ。ジェンダーバイアスを理由にその人材を埋もれさせてしまうのはあまりに惜しい。早急なジェンダーギャップの解消が求められる。
ジェンダーバイアスの具体例を見てみよう。従来の固定観念が無意識のうちに差別や偏見を生み出しているものもある。無意識とはいえ、このような価値観や言動が誰かを傷付ける可能性を意識したい。
男性は黒や青、女性は赤やピンクといった、色による性別の分類がおこなわれている。近年ではレストルームに表示されるピクトグラムのカラーが「男性は青、女性は赤」である傾向が注目された。
色によるジェンダーバイアスに配慮し、近年、iOSでは男性は青の服、女性は紫の服を着た絵文字が使われるようになった。また、ニュートラルカラーのグレーも追加されている。
わかりやすい例として、男児の持ち物に星や車、女児の持ち物にハートやリボンが使われる傾向を目にしているのではないだろうか。星や車を好む女児、ハートやリボンを好む男児もいるはずだ。
ことさらに性別を強調する言葉をもちいる行為にも注意したい。例としては「女性起業家」「美容男子」「女子アナ」「料理男子」などが挙げられる。
これらは個人の社会的立場や趣味嗜好を「女だから・男だから珍しい、異端だ」と落とし込んでしまいかねないジェンダーバイアスである。口にした本人は称賛のつもりだったとしても、必ずしも相手がそう受け取らない可能性に気を付けるべきだろう。
「男性は外で働き、女性は家事と育児をになうべきである」という古い固定観念はあまりにも有名だ。グローバリズムに反する価値観であり、差別と偏見を助長する。
「男性はリーダー、女性はサポート」「女性は男性よりも生産性が低い」。信じられないような言い草だが、ジェンダーバイアスが問題視されるまでは常識のようにまかり通っていた説だ。
しかしひとたび世界を見てみれば女性がリーダーとして活躍している例は多い。近代政治の例ならイギリスで1979年にマーガレット・サッチャー氏が、2005年にはドイツでアンゲラ・メルケル氏が首相に就任したことが挙げられるだろう。いずれも長く在任し、大きな功績を残している。
企業においても性別にかかわらず、能力を発揮してCEOをはじめとした重職に就く女性は増加している。有名な政治家やビジネスパーソンではなくても、みずからの能力で実績と信頼を得ている女性も数多い。
性別が能力に違いをおよぼすという考えが見当違いであり、ジェンダーバイアスによる思い込みにすぎないことの証明ではないだろうか。
ジェンダーバイアスが引き起こす問題は深刻だ。男女の不平等は女性への差別を生み出しやすい。具体的な問題点を見てみよう。
性別での役割分担の強制がいまだ払拭できない企業では、結婚や出産を機に退職を選択せざるを得ない女性がいる。また、総合職は男性、一般職は女性といった傾向が根強ければ、キャリアプランに大きな男女差が出てしまう。
男女間の賃金格差も問題だ。OECD(経済協力開発機構)の調査によると、2021年、日本人女性の平均的な賃金は日本人男性の8割未満であることがわかった(※4)。G7のなかでは最下位の格差である。
ジェンダーバイアスによって女性を軽視することにより、女性への暴力や虐待が発生しかねない。人権にかかわる重大な問題であり、早急な是正が求められる。
日本をふくめ、世界ではジェンダーバイアス解決に向けた取り組みをおこなっている。そのいくつかを紹介する。
クオータ制は、議員や役員の一定割合を女性にし、政治・経済分野で女性の躍進をうながす取り組みである。ノルウェーで発足され、現在はヨーロッパ諸国をはじめ、世界各国で取り入れられるようになった。
日本でもクオータ制への賛同が高まり、2020年までに国会議員や企業役員の30%を女性にするという目標が掲げられた。しかし実際には2022年7月時点で女性国会議員の割合が9.9%(※5)、全上場企業企業における女性役員の割合では2021年7月時点で7.5%(※6)にとどまっている。
2014年、UN Women(国連女性機関)はジェンダー平等を目指す男性へのアクションとして「HeForSheキャンペーン」を表明した。2016年には男性以外も参加できるようリニューアルされている。ジェンダーバイアス解決のための決意表明をはじめとした行動を目的とする。
SNSを経由した発信では「#HeForShe」のハッシュタグが使われることも多い。
ベクデル・テストは、映画、コミック、ゲームなどにおいて、作中のジェンダーバイアスをなくすために設定された。1980年代にアメリカの漫画家・アリソン・ベクデル氏が提唱した、男性偏重の作品であるか否かの判断基準のひとつである。
フィクション作品のなかに女性が2人以上登場・会話をし、かつ、会話内容が男性に関する以外の話題であることが重視される。場合によってはその女性たちに名前がつけられているかもテスト項目になる。
2019年、アメリカ・ニューヨーク州では男性トイレにおむつ交換台の設置が義務付けられた。アメリカ人男性の育児参加比率は年々上昇しているが、自宅以外でのおむつ替えで男性が困難な状況におちいるケースが多発。その問題解消をうけての義務化である。
これに先んじた2016年、オバマ大統領は連邦政府関連の建物内にあるトイレのすべてにおむつ交換台を設置する「ベビーズ法」に署名している。
2016年4月、日本政府は女性活躍推進法を施行した。女性が出産や育児を理由に離職せず、能力を発揮できる職場環境づくりを目的とした法である。迅速で重点的な取り組みが求められることから10年の時限立法とされている。
施行当初は常時雇用する労働者の数が301人以上の事業主が対象だったが、2022年4月に改正され、101人以上になった。
行動計画の策定や届出義務、女性の活躍推進情報の公表を義務とする内容であり、いままで準備をしていなかった企業には少なからずの行動が必要となる。そのため、厚生労働省では一般事業主に向けたモデルケースとして「一般事業主行動計画」を公表し、啓発と推進につとめている。(※7)ジェンダーギャップ指数が芳しくない日本として、なんとしても前進させるべき施策だろう。
無意識の差別や偏見につながるジェンダーバイアスは、人を傷付け、ときとして未来の選択肢を狭めてしまう。優秀な人材が埋もれてしまいかねない事実や、弱い立場にある女性が暴力や虐待の対象にされやすい問題もはらんでいる。
グローバリズムは確実にジェンダーバイアスの是正へ向かっている。日本をふくめ、いまだ理想的な是正におよばない国々でも、積極的な施策が求められるだろう。
※1 Global Gender Gap Report 2022|世界経済フォーラム
※2 Global Gender Gap Report 2022 INSIGHT REPORT JULY 2022(10ページ目)|世界経済フォーラム
※3 Global Gender Gap Report 2022 INSIGHT REPORT JULY 2022(15〜16ページ目)|世界経済フォーラム
※4 男女間賃金格差 (Gender wage gap)|OECD
※5 |環太平洋大学
https://data.ipu.org/women-ranking?month=7&year=2022
※6 諸外国における企業役員の女性登用について(2ページ目)|男女共同参画局
https://www.gender.go.jp/kaigi/senmon/keikaku_kanshi/siryo/pdf/ka15-2.pdf
P2
※7 一般事業主行動計画とは?|両立支援のひろば
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