性差による不平等からの解放を目指すジェンダーフリー 世界と日本における理解の現状とは

岡の上でジャンプする人

いま、あらためて知りたいのが「ジェンダーフリー」という言葉の意味である。注目されたきっかけや問題点を、幅広く解説する。ジェンダーレスやジェンダーの平等など、性差にまつわる話題が注目されているからこそ、正しい知識を身につけよう。

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2021.05.31
BEAUTY
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ジェンダーフリーとは

ピースをつくった手を交差しながら掲げる男女

Photo by Priscilla Du Preez on Unsplash

ジェンダーフリーとは、「ジェンダーによる差別からの解放」を目指す考え方である。ジェンダーフリーについてより深く理解するためには、まず「ジェンダーとは何か?」という点について、詳しく知る必要があるだろう。

ジェンダーとは、「社会的・文化的性差」である。「普通の性別とはいったい何が違うのか?」と思う方もいるだろう。一般的に我々の目に留まりやすいのは、生物学上の性差である。しかし、性別によって生まれる差異は、それだけではない。

我々が生きる社会においては、文化的・歴史的・社会的にさまざまな性差が存在している。いわゆる「男らしさ」「女らしさ」と表現されるものが、ジェンダーに当てはまるだろう。ときにそれは、社会からの押し付けにより、差別的な行動・考え方につながっている。

・女性は家庭的であるべき
・男性は女性を守らなければならない
・男性がスカートを身につけるのはおかしい
・女性が男性的な振る舞いをするのは見苦しい

文化・歴史の中で生み出されてきたステレオタイプによって、不自由な行動を強いられている人は、まだまだ多い。こうした差別的思考に囚われず、「個々が自由に、平等かつ公平な行動・選択をできるようにしよう」というのが、ジェンダーフリーの基本的な考え方だ。

日本では、1990年代から徐々に認識されつつあったジェンダーフリー。注目されるきっかけになったのは、1995年、北京で開かれた世界女性会議である。女性の貧困やさまざまな格差の解消を目指すための、具体的な目標が採択された。ジェンダーフリーは、ジェンダー差別からの解放(フリー)を目指す、和製英語である。(※1)

ちなみに、ジェンダーフリーと間違えやすい言葉に「ジェンダーレス」があるが、両者は全く異なる意味を持つ。ジェンダーレスとは、男女の性差の境界線を失くそうという考え方で、ファッション業界においても近年注目されている。

一方でジェンダーフリーが目指すのは、「性差」そのものではなく「社会的性差をもとにして生まれるさまざまな不自由や差別」からの解放である。 

世界と日本におけるジェンダーフリーの現状

ジェンダーの平等はSDGsの一つでもあり、課題解決に向けて、世界中でさまざまな取り組みは行われている。とはいえ、日本における取り組みは、残念ながら進んでいるとは言えない状況だ。

2021年3月に発表された、世界経済フォーラムの「ジェンダーギャップ指数2021」によると、日本のジェンダーギャップ指数は、世界156カ国の120位。主要7か国中では、最下位となった。ジェンダーギャップ指数が高いということは、ジェンダーフリーへの取り組みが、まだまだ十分ではないという事実を示している。

日本において、ジェンダーギャップがとくに大きいと判断されているのは「政治」「経済」の分野である。一方で、「教育」「医療」分野においては、ジェンダーギャップはほとんどないと判断された。ジェンダーギャップ解消のためには、分野別の、より積極的な取り組みが求められる。

普及に向けた取り組み具体例

厚生労働省による女性活躍推進企業認定制度

厚生労働省は、女性の職業生活における活躍の推進に対して積極的に取り組み、一定の基準をクリアした企業に対して「えるぼし認定」「プラチナえるぼし認定」を行っている。

認定基準は、女性の働きやすさを判断するための「採用」「継続就業」「労働時間等の働き方」「管理職比率」「多様なキャリアコース」の5つである。令和2年9月末時点で、えるぼし認定を受けた企業は1,134社。プラチナえるぼし認定を受けているのは、3社であった。

認定制度をつくることによって、企業の取り組みを促進している。(※2)

日本アイ・ビー・エムによる女性の積極登用

日本アイ・ビー・エム株式会社は、「日経WOMAN」と「日経ウーマノミクス・プロジェクト」が行った、2020年版「女性が活躍する会社BEST100」において、総合1位を獲得した。

古くから女性の活躍を推進する社内制度を確立し、2021年末までに女性管理職の割合を13.7%から15.5%へ、女性課長級以上の割合を18.7%から21.0%まで上昇させることを目指している。(※3)

株式会社資生堂によるUNWomenと契約

2017年、株式会社資生堂は、日本企業として初となるUNWomen(ジェンダー平等と女性のエンパワーメントのための国連機関)と契約締結を行った。

UNWomenが推進する「HeForShe」キャンペーンの推進や、ジェンダー課題の解決方法を探るワークショップの開催などを実施。2019年度には、ワークショップにより、日本全国33校の高校生のジェンダー平等啓発活動を支援した。(※4)

朝日新聞社によるジェンダー平等宣言

朝日新聞社が2020年4月1日に行ったのが、「ジェンダー平等宣言」である。発信するコンテンツの多様性を重視し、さまざまな立場の人に配慮した情報発信を心がけることを明記。国際シンポジウムへの登壇者にも、性による偏りがないように配慮するよう決定している。

ジェンダーフリー賛成・推進派の意見

青空に浮かぶピンク色の風船

Photo by Brianna Santellan on Unsplash

ジェンダーフリーへの取り組みに賛成し、推進したのは、ジェンダー差別の存在を認識していた人たちだ。仕事や結婚、育児に介護など、ジェンダーによって「そうさせられている」と感じていた当事者にとって、ジェンダーフリーに向けたさまざまな取り組みは、喜ばしいものであった。

反対派の意見や、ジェンダーフリーの概念への誤解もあり、近年ではよりわかりやすく「ジェンダー平等」と言い換えられるケースも多い。どちらも根底にあるのは、「ジェンダーによる役割の押し付け」や「ジェンダーによる差別的な対応」への反発心だ。このような考えを持つ人々によって、ジェンダーフリー、ジェンダー平等への取り組みは支持されている。

ジェンダーフリーを否定する側の意見・理由とは

ジェンダーフリーを語る上で、無視できないのが否定派の意見である。ジェンダーフリーが叫ばれるようになった1990年代、「ジェンダーフリーは性差そのものを失くすための取り組みである」と誤解する人も多かった。もし性差がなくなれば、以下のような混乱が起きかねない。

・男女平等により、更衣室は男女同室
・子どもたちの修学旅行も男女同室・伝統文化の破壊(ひな祭りや子どもの日など)
・スポーツにおける男女別制度の廃止

これらは「行き過ぎたジェンダーフリー」として問題視されたポイントであり、ジェンダーフリーを否定する人々の心理的背景である。

ジェンダーが歴史・文化から生まれたものである以上、「ジェンダーがなくなると、これまで当たり前であった歴史・文化・習慣が壊れてしまうのでは……」と不安を感じる人も多かったと考えられる。

1990年代には、「女性は専業主婦として家庭を守り、男性が外でしっかりと働く」という固定概念も、まだまだ強く根付いていた。個々が社会的役割から解放されたときに、「家庭や社会が崩壊しかねない」という不安も強かったのだろう。

また、ジェンダーフリーが注目され始めたのは、LGBTQへの理解度も低かった時代である。「ジェンダーフリー教育が、性自認できない人間や同性愛者を増やすのでは」という差別的な意見もあった。ジェンダーレスが一般的になったいまでも、こうした考えを持つ人は少なくないのが現状だ。

・個々の存在意識を失いかねない
・男女の性差を意識しなくなれば、妊娠・出産の機会が減少する

本来であれば、ジェンダーフリーへの取り組みは「ジェンダーによる差別・社会からの押し付け」を失くすために行われるべきものであった。しかしさまざまな誤解や恐れから、ジェンダーそのものへの否定ととらえ、反発する人も多かったのが事実である。

このような、誤解による反発心を抑え、本来の意図をわかりやすく伝えるために使われ始めたのが、「ジェンダー平等」という言葉だ。近年では、ジェンダーフリーよりも見かける機会が増えている。

意味や目的を理解したうえでの行動を

日本の歴史の中で、誤解される場面も多かったジェンダーフリー。「男らしさ」「女らしさ」が失われることに対して、危機感を抱く人は少なくないが、そもそもジェンダーフリーは、「男らしさ」「女らしさ」を否定するものではない。

ジェンダーを社会から押し付けられ、差別的な扱いをされることこそが問題であり、ジェンダーフリー・ジェンダー平等が目指すのは、その課題の解決である。ジェンダー問題の本質を知り、課題の解決に向けて、一人ひとりが具体的な取り組みをしていこう。

※1 ジェンダーフリー
https://jinjibu.jp/keyword/detl/133/
第4回世界女性会議 北京宣言
https://www.gender.go.jp/international/int_standard/int_4th_beijing/index.html
※2 女性活躍推進企業認定「えるぼし・プラチナえるぼし認定」
https://shokuba.mhlw.go.jp/published/special_02.htm
※3 女性のさらなる活躍を支援
https://www.ibm.com/ibm/responsibility/jp-ja/inclusion/gender-diversity.htmlhttps://www.nikkeibp.co.jp/atcl/newsrelease/corp/20200507/
※4 UN Womenとの連携・ジェンダー平等の推進
https://corp.shiseido.com/jp/sustainability/diversebeauty/

※掲載している情報は、2021年5月31日時点のものです。

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